[主催者言]
横浜みなとみらいホールは、みなとみらい21地区にある横浜を代表する本格的クラシックコンサートホールです。1998年の開館以来、市民や国内外のアーティストからも「海の見えるコンサートホール」として親しまれてきました。
2021年1月からは長期休館し、大小ホールの天井耐震化と施設の長寿命化、バリアフリー対応等の大規模改修工事を進めてまいりました。その工事がようやく終わり、2022年10月29日(土)にリニューアルオープンいたします。
その記念コンサートの第一段として、同日に、神奈川フィルハーモニー管弦楽団が登場、R.シュトラウス「アルプス交響曲」等の演奏で幕開けいたします。タクトを振るのは2022年に音楽監督に就任した沼尻竜典。大編成オーケストラによる壮大な音楽がホールを祝祭感で満たします。この記念すべき大オーケストラの響きをご堪能下さい。
【日時】2022.10.29.(土)15:00~
【管弦楽】神奈川フィルハーモニー管弦楽団
【指揮】沼尻竜典
<Profile>
東京都出身。桐朋学園大学卒業後、ベルリン芸術大学に留学。指揮を小澤征爾、秋山和慶、尾高忠明、ハンス=マルティン・ラーベンシュタイン、作曲を三善晃、ピアノを徳丸聡子、藤井一興に師事。
ブザンソン国際指揮者コンクールでの優勝後、国内オーケストラの主要ポストを歴任。海外での活動も多く、ロンドン交響楽団、ミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ交響楽団、シドニー交響楽団、トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団、ベルリン・ドイツ交響楽団、ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団、デュッセルドルフ交響楽団、ダルムシュタット国立歌劇場管弦楽団、ワイマール国立歌劇場管弦楽団、オーデンセ交響楽団(デンマーク)、ハイファ交響楽団(イスラエル)、香港フィルハーモニー管弦楽団などを指揮している。2008年にはカナダの名門、モントリオール交響楽団を指揮して北米進出を果たした。2008 -2014年 大阪センチュリー交響楽団(現:日本センチュリー交響楽団)首席客演指揮者。2010年-2013年 群馬交響楽団首席指揮者兼芸術アドヴァイザー。2013年-2019年リューベック歌劇場音楽総監督及び首席客演指揮者。2022年4月より神奈川フィルの音楽監督に就任。これまで国内外数々のポストを歴任。オペラ公演、リューベック・フィルとのコンサートの双方において数々の名演を残した。ベルリン、ロンドン、パリ、モントリオール、シドニー等世界各国のオーケストラ、ケルン、ミュンヘン、ベルリン、バーゼル、シドニー等の歌劇場への客演を重ねている。芸術監督を務めるびわ湖ホールでは、ミヒャエル・ハンベの新演出による《ニーベルングの指輪》を上演、空前の成功を収めた。14年にはオペラ《竹取物語》を作曲・初演、国内外で再演されている。17年紫綬褒章受章。
【曲目】
①ヤン・ヴァンデルロースト『横浜音祭りファンファーレ』
(曲について)
横浜が日本の吹奏楽発祥の地であることにちなみ、横浜音祭りがスタートした2013年に開幕を記念し作られたのが「横浜音祭りファンファーレ」です。 作曲したのは、吹奏楽界の巨匠であるベルギーの作曲家ヤン・ヴァンデルロースト。
②三善晃『管弦楽のための交響詩『連祷富士』
(三善晃Profile)
東京府東京市杉並区(現:東京都杉並区)に生まれる。幼少より、自由学園においてピアノ演奏法、音楽基礎を学び都立高等学校高等科を経て東京大学文学部仏文科入学。在学中に、フランス政府給費学生としてパリ国立高等音楽院に留学、アンリ・シャロ、レイモン・ガロワ=モンブランに師事。1960年東大仏文科卒業。1963年東京芸術大学講師、1966年桐朋学園大学教授、1970年芸術祭優秀賞受賞。1974年から1995年まで桐朋学園大学長。1985年芸術選奨文部大臣賞受賞。1990年日本芸術院賞受賞、1996年東京文化会館長1999年芸術院会員に選出。2001年文化功労者に選出。2013年10月4日、心不全のため死去。80歳没。
③R.シュトラウス『アルプス交響曲』
(曲について)
この曲はR.シュトラウスが14歳の時のドイツアルプスの最高峰ツークシュピッツェ山(2962m)に向かった時の体験をもとに作曲されたと謂われます。交響曲と言っても一楽章構成で、楽章単位ではなく一種の標題音楽とみなせます。標題は次ぎの通り。
夜 Nacht
B mollの下降音階が順番に重なっていく不協和音(夜の動機)により開始される。金管楽器による山の動機が静かに登場する。何重にも分かれた弦楽器により音が厚くなっていく。
日の出 Sonnenaufgang
A dur の太陽の動機がffで出てくる。調性を変えながらメロディーは引き継がれたあと、ゲネラルパウゼとなる。
登り道 Der Anstieg
低音弦楽器による山登りの動機から始まる。流れるような旋律になった後、岩壁の動機が現れ、舞台裏でホルンを中心とした金管楽器のファンファーレが奏される。
森への立ち入り Eintritt in den Wald
弦楽器の 16分音符の中、トロンボーンとホルンによる旋律が奏され、それに山の動機が絡んでくる。
小川に沿っての歩み Wanderung neben dem Bache (ピッコロのパート譜に記載あり))
小川のせせらぎの音が聞こえるが、登りであるので山の動機も重ねられる。
滝 Am Wasserfall
岩壁の動機に、弦楽器と木管楽器・ハープ・チェレスタによる滝の流れが重ねられる。
幻影 Erscheinung
水の中にオーボエの旋律による幻影が見えてくる。最後にホルンの旋律が出てくる。
花咲く草原 Auf blumigen Wiesen
山登りの動機が静かに聞こえてきたあと、曲は快活になる。
山の牧場 Auf der Alm
カウベルによる牛の擬音が鳴る中、牛の鳴き声とアルプホルンを模したホルンの音が聞こえてくる。その後、ホルンの旋律とともに登山者は道に迷う。
林で道に迷う Durch Dickicht und Gestrüpp auf Irrwegen
山登りの動機と岩壁の動機が出てくる。そして山の動機が現れ、次へとつながる。
氷河 Auf dem Gletscher
明るくなり、山登りの動機が現れる。
危険な瞬間 Gefahrvolle Augenblicke
遠くから雷鳴(ティンパニのロール)が聞こえてくる。
頂上にて Auf dem Gipfel
和音が響いた後、トロンボーンが頂上の動機を鳴らし、オーボエが訥々と旋律を奏でる。そして幻影で出てきたホルンの旋律が再び現れる。山の動機と太陽の動機が一体となる。
見えるもの Vision
頂上の動機が和音の下から現れたあと、太陽の動機が管を追加してまた登場する。
霧が立ちのぼる Nebel steigen auf
ファゴットとヘッケルフォーンが不安げな旋律を奏でる。
しだいに日がかげる Die Sonne verdüstert sich allmählich
太陽の動機が短調で登場し、太陽が翳ってきていることを表している。
哀歌 Elegie
弦楽器により、登山者は悲しげな歌を口ずさむ。
嵐の前の静けさ Stille vor dem Sturm
遠くから雷(バスドラムとサスペンデッドシンバル)が聞こえてきて、だんだん暗くなってくる。ぽつぽつと降り出した雨(ヴァイオリン・フルート・オーボエ)は、次第に激しくなってくる。そして、風が吹き出してくる(ウィンドマシーン)。
雷雨と嵐、下山 Gewitter und Sturm, Abstieg
オルガンの和音とウィンドマシーンによる風の吹く中、登山者は下山する。これは山登りの動機を転回し、逆の順序で用いることで表されている。強烈な稲妻が光り、最後にはシュトラウス特注のサンダーマシーンにより落雷が起こる。その後はだんだん静かになってくる。
日没 Sonnenuntergang
太陽の動機が転回され、日没を表している。登山者は哀歌を口ずさむ。
終末 Ausklang
オルガンにより太陽の動機が奏され、山登りの動機も回想的に使われ、あたりは暗くなってくる。
夜 Nacht
冒頭部の夜の動機がまた現れ、山の動機とともに静かに終わる。
シュトラウスが14歳(15歳との説あり)の時に、ドイツ・アルプスのツークシュピッツェに向けて登山をしたときの体験が、この曲の元となっている。その後、1900年に交響詩『芸術家の悲劇』(未完)を経て、1902年には『アンチクリスト、アルプス交響曲』という名称でスケッチがされた。この題名にはフリードリヒ・ニーチェの『アンチクリスト』からの影響が見て取れるといわれている。この時には4楽章形式の交響曲の構想も書かれている。
1911年からガルミッシュ=パルテンキルヒェンの山荘で『アルプス交響曲』としてのスケッチを開始し、1914年から本格的な作曲に取り掛かった。1915年に完成した単一楽章の交響曲。1915年10月28日、ベルリン、フィルハーモニー楽堂でリヒャルト・シュトラウス指揮、シュターツカペレ・ドレスデンの演奏で初演された。
【演奏の模様】
①ヤン・ヴァンデルロースト『横浜音祭りファンファーレ』
舞台には、Trmp.7人、Trmb.3人、ワーグナーTub.2人が登場し、ファンファーレを吹き鳴らしました。タツタタタタタタタタタツタ-のリズムの繰り返しです。こけら落としのオープニングとしては、華やかさがやや足りなかったかな?
②三善晃『管弦楽のための交響詩『連祷富士』
演奏者が席に着き、楽器構成を見ると、三管編成弦楽五部14型(14-12-10-8-8)。パーカッションは、様々な楽器が並んでいます。一番奥なので、よく見えない小楽器も色々ありそう。
Timp.の誘いに鐘が呼応し、Vc一人が低い唸りを立てるとFag.が応じて、打がドンピシャンと決めました。パーカッション奏者の方を見ると、鉄琴が忙しくバチを上下し、ドンタドンタドンタタッタと強打、この間弦楽は、低音弦主のアンサンブルを奏で、管弦楽は、Timp.がダン、ダン、ダンと強く軽快にならして、喧騒の極みに進みました。ウッドブロックがたたかれ、ウインドマシーンは、ぐるぐる回され、掛け持ちするパーカッション奏者は、忙しく立ち回っていました。
こうした調子で、少し管弦楽が静まったと思うとまたすぐに喧騒のなかに突入、総じてその繰り返しでした。
タイトルを改めて見ると「連祷富士」とあります。WEBを調べると、
「英語では、リタニ(Litany(-ies))と言い、キリスト教 カトリックの「連祷(れんとう)」に当たる。現代のカトリック教会では『連願(れんがん)』で統一されている。聖公会の「嘆願」を含めることがある。ラテン語のリタニア Litania、ギリシャ語のλιτή (litê)(祈る人・嘆願)に相当する。海外の媒体では稀に、正教会の連祷も「リタニ」と呼ぶことがある。これらの祈祷形式に関連して作曲された音楽作品を指す場合も有る。」
と説明されていますが、富士山に関する曲ですから、喧騒だけでなく、静かに富士に語りかける祈りがもっとあっても良いような気がしました。
③R.シュトラウス『アルプス交響曲』
横浜みなとみらいホールのリニューアルオープンを飾るリヒャルト・シュトラウス作曲の《アルプス交響曲》。非常に大規模な編成の上、ワグナーテューバやヘッケルフォン、ウィンドマシーン、サンダーシートなど、普段聞きなれない特殊楽器が沢山登場することから演奏機会がすくない作品です。
特殊楽器やステージ外の楽器が用いられています。
木管 | 金管 | 打 | 弦 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
Fl. | 4(第3・第4はピッコロ持ち替え) | Hr. | 8(第5 - 第8はワーグナー・チューバ持ち替え) | Timp. | 2人(6個、第一:4個、第二2個) | Vn.1 | 最小18 |
Ob. | 3(第3はイングリッシュホルン持ち替え)、ヘッケルフォーン | Trp. | 4 | 他 | 大太鼓、小太鼓、シンバル、トライアングル、タムタム、ウィンドマシーン(風音器)、サンダーマシーン(雷音器)、カウベル(牧羊擬音)、グロッケンシュピール | Vn.2 | 同16 |
Cl. | B♭管2、E♭管、C管(バスクラリネット持ち替え) | Trb. | 4 | Va. | 同12 | ||
Fg. | 4(第4はコントラファゴット持ち替え) | Tub. | 2 | Vc. | 同10 | ||
他 | 他 | バンダ(Hr.12、Trp.2、Trb.2)場合によって、舞台上の奏者の転用も可だが客席からは見えないし特にホルンはユニゾンが多く費用の面で削る事が多い。 | Cb. | 同8 | |||
その他 | ハープ2または4 (普通は聞こえないので4が望ましいが、カラヤンのように第一ヴァイオリンの前に配置する例もある)、パイプオルガン, チェレスタ |
可能であればフルート2、オーボエ3、E♭クラリネット、クラリネット2を追加して全部で150人ぐらいの奏者が望ましい。スコア上ではサミュエルエアロフォーンの使用を推奨している。サミュエルエアロフォーン(Samuel's Aerophone)とは、1912年にベルギーのフルート奏者Bernhard Samuel によって発明された木管楽器のための送風装置で、フットペダルで空気を楽器内に送り込み、ロングトーンを長く続けるための補助に使用する。現在では優秀な楽器奏者が多く、循環呼吸が出来る楽員が多いので使わないことが多い。
このような様々な楽器の特徴を神奈フィル関係チーフプロデューサーの佐々木真二氏が以下のコラム「楽器を巡る」で紹介しています。
https://yokohama-minatomiraihall.jp/column/2022/06/359.html
演奏は、予想に違わず壮大なアルプスの威容が彷彿とさせられる神奈フィルの大活躍振りでした。演奏の流れは、シュトラウスが将に登山している最中の出来事が瞼にくっきりと浮かべられるもので、時には、シュトラウス節の流麗な調べを、神奈フィルが静かに響かせたと思うと、嵐等では様々な楽器を駆使して、演奏者が力一杯場面を表現しようとして、轟音を会場全体に轟かせたり、またそれらの大編成の多くの奏者を一まとめに束ねて、見事な手綱捌きをしたマイストロ沼尻の手腕は、大したものでした。
普段のオーケストラ演奏会では見られない、様々な楽器を鳴らす場面が見られ、また、最近とみに好きになりつつあるR.シュトラウスのそう簡単には聴けない曲を堪能出来て、大満足の演奏会でした。
ただすべて完璧だったかというとそうではなく、例えば、大編成にしては、立ち上がりから前半の弦楽アンサンブルなかんずくVn高音アンサンブルが、やや弱かったかなという気もしました。(後半はしっかりでした)
またFI.は、かなりの場面で立派に活躍したのですが、たまに出だしの高音が、例えれば、弱音器を付けた金管楽器の様な少し異質な音と言うか、金切り音みたいな上ずった音がしたことが気になりました。
アンサンブル自体も、前半は、シュトラウスのあの独特な色気のある響きの調和に於いて、弦楽と管とのバランスがいま一つしっくり、心に響いて来ない箇所があった。後半は、かなり良く感じました。特に嵐が過ぎ去り日が陰りはじめて、鳴らされる弦楽のピアニッシモアンサンブルと管・打の合いの手は、ほんとうに素晴らしかった。心が洗われるようでした。
全体的に「こけら落とし」に相応しい神奈フィルの演奏だったと思います。今日、順調に滑り出した「横浜みなとみらいホール」、今後も素晴らしい演奏会を企画して、関東のホールに「横浜あり」との名を高めて欲しいと期待します。確かアルゲリッチと海老さんの演奏会は、11月だったですね。楽しみにしています。
なおこの曲に関しては今年の8月にミューザ川崎で聴いており、その時の記録を参考まで文末に再掲しました。
また今日の演奏会は生配信も行われていて、一週間はアーカイヴ配信もある様です。
次のURLから入れます。
https://curtaincall.media/live/detail/85bb7680-4557-11ed-9a10-13df8a56494f
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2022-08-15 HUKKATS Roc 再掲
表記の演奏会は、サマーフェスタが終了したばかりのミューザ川崎で行われたものです。 8/11(木・祝)にサマーフェタのフィナーレコンサートを聴き終わり、8月はミューザ詣で もこれで終わりかと思っていたのですが、帰りがけに見たチラシに8/13(土)に表記の演奏会のことが書いてあり、エルガーとR.シュトラウスの『アルプス交響曲』をやるという事を知り、これは聴きに来なくちゃと思い、家に帰ってチケットのWEB手続きをしたのでした。ところが当日13日は台風8号が関東地方を直撃し。横浜は朝から断続的に大雨強風に襲われ、どうしようか迷ったのですが、聴きたい作曲家二人が揃った演奏会であることのみならず、特に『アルプス交響曲』は10月末に、三年間閉めていた『横浜みなとみらいホール』が再開記念演奏会のメイン演奏曲としていることもあり、是非前もって聴いておきたかったのです。最寄りの駅からミューザまでは雨にあたることなく行けるのですが、家から駅までの徒歩8分足らずの距離を歩いて行ったら、傘はお猪口になるしびしょ濡れになること必定、そこでこれは、お助けマン(womanかな?)の力を借りなくてはと思い、上さんに低姿勢で ❝駅までタクシーして貰えないですか?❞と訊きました。❝こんな台風の時行かなければ良いのに!❞とか何とか言いながらもそこは気立てのやさしいうちの上さん、❝転んだりしない様に気を付けてね。お土産を忘れないで!❞とくぎを刺されたのでした。しめしめこれならお土産を少し奮発すれば、帰りも迎えに来てくれるわいと計算高くほくそ笑む御仁なのでした。そういう訳でミューザには一滴も雨に濡れず着くことが出来ました。
【日時】2022.8.13.14:00~
【会場】ミユーザ川崎シンフォニーホール
【管弦楽】RSオーケストラ特別メンバー
【指揮】和田一樹
<Profile>
東京都中野区出身。 京華中学高等学校、尚美学園大学作曲専攻を経て、東京音楽大学音楽学部音楽学科指揮コース卒業。2015年、ルーマニアで開催された第6回ブカレスト国際指揮者コンクールにて準優勝、2017年にはヤシ・モルドヴァ・フィルハーモニー管弦楽団を指揮し、ヨーロッパデビューを果たす。
国内外のオーケストラを数多く指揮。メディアでの活躍も多く、フジテレビ系ドラマ『のだめカンタービレ』にて指揮指導、のだめオーケストラではオーケストラを指揮。
【曲目】
①エルガー『独創主題による(エニグマ)変奏曲』
②R.シュトラウス『アルプス交響曲』
【演奏の模様】
①エニグマ変奏曲
エルガーが1899年2月に作曲した全14曲の変奏から成る管弦楽曲です。同年6月に初演され大成功を収めた。
<楽器構成>
二管編成弦楽五部14型(14-13-12-8-7)
❛エニグマ❜とはギリシャ語で「謎かけ」を意味し、彼自身、次の様に述べています。
The Enigma I will not explain —— its ‘dark saying’ must be left unguessed, and I warn you that the apparent connexion between the Variations and the Theme is often of the slightest texture; further, through and over the whole set another and larger theme ‘goes’ but is not played ... So the principal Theme never appears [...].
何やら表に出て来ないエニグマもあるみたいですが、一つのエニグマは各変奏に付けられたイニシャルや略称などの該当人物であり、変奏表題の謎解きはすでにほぼ完了したと見なされています。 各変奏は、親しい友人たちへの真心のこもった肖像画となっており、この変奏曲は「作品中に描かれた友人たち」に献呈されているのです。
<変奏曲構成>
(割愛)
座席に座り壇上の奏者を一瞥すると女性が多く目に止まります。近年は弦楽器のみならず木管は勿論金管への進出、さらには打楽器群で女性を良く見かけます。今回は100人を超える奏者の半分弱は女性奏者の模様です。しかも若い人が多い。
各変奏曲ともいかにもエルガーらしさをたたえる曲ばかりですが、特に第九変奏「ニムロッド」は穏やかな旋律が際立ち、エルガー特有の威厳を備えた美しい曲ですね。この曲は英国のオリンピックでも演奏されたとのことです。
若い演奏者が多かったですが、皆さん基礎はかなりしっかりした人が多い様でよい演奏でした。
《20分の休憩》
②R.シュトラウス『アルプス交響曲』
休憩から戻ると舞台の楽器はかなり増強された模様。特に管楽器群や打・鍵盤楽器に多くの奏者が増えました。
<楽器構成>
四管編成弦楽五部14型(1Vn14-2Vn13-Va12-Vc9-Cb7)
増員は、Fl.2(内Picc.持替え1)、Ob.2、Cl.2、Trb.3、Hr.5、Trp2、Fg.2.、Tb.1、C.Fg.1、Hp.1 、Celst.1、Timp.1 etc.各奏者が増えました。
この曲はR.シュトラウスが14歳の時のドイツアルプスの最高峰ツークシュピッツェ山(2962m)に向かった時の体験をもとに作曲されたと謂われます。
交響曲と言っても、楽章単位ではなく一種の標題音楽としている・標題は次五の通りです。
夜 Nacht
日の出 Sonnenaufgang
登り道 Der Anstieg
森への立ち入り Eintritt in den Wald
小川に沿っての歩み Wanderung neben dem Bache
滝 Am Wasserfall
幻影 Erscheinung
花咲く草原 Auf blumigen Wiesen
山の牧場 Auf der Alm
林で道に迷う Durch Dickicht und Gestrüpp auf Irrwegen
氷河 Auf dem Gletscher
危険な瞬間 Gefahrvolle Augenblicke
頂上にて Auf dem Gipfel
見えるもの Vision0
霧が立ちのぼる Nebel steigen auf
しだいに日がかげる Die Sonne verdüstert sich allmählich
哀歌 Elegie
嵐の前の静けさ Stille vor dem Sturm
雷雨と嵐、下山 Gewitter und Sturm, Abstieg
日没 Sonnenuntergang
終末 Ausklang
夜 Nacht
夜明け前
アルプスと登山電車(スイス)
アルプスの氷河(ユウングフラウヨッホより)
雲海に浮かぶアルプス
もうこの曲はクラシックファンの山男(女)には堪らない曲でしょうね。本格登山などしたことがない自分でも山歩きをしたことはあり、その非日常性のすがすがしさには、本当に生き返る様なリフレッシュ感を味わったことがありました。
全部で22曲の標題の付けられた曲では、それぞれその場その場の登山の雰囲気を、素晴らしい旋律タッチで表現したR.シュトラウスの腕が冴えたものとなっています。
兎に角4管編成の大オーケストラは、ホルンが10挺も揃い、途中で5艇はバンダとして2梃のトロンボーンと共に、舞台の外で遠くからのアルプスの角笛のこだまを表現する演出をしたり、氷河の表現、頂上から下界を見る俯瞰的情景、それに何と言っても圧巻だったのは、遠くから鳴り響く雷のTimp.による表現、そして嵐の豪風・豪雨の激しい全アンサンブルの怒号、大編成ならではの迫力を堪能しました。
時々思うのはオーケストラは奏者一人一人がある程度のレベルに達していれば、アンサンブルは「小より大」、即ち「楽器は少よりか多」ではないかということです。❝細部のミス、皆んなで渡れば怖くない❞ かな?あまりいい例えではないですが。