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綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

オペラ/ヘンデル『シッラ』二日目鑑賞

音楽堂室内オペラ・プロジェクト第5弾


【演目】ヘンデル作曲『シッラ』全3幕上演時間約3時間(休憩2回含)・

【日時】2022.10/30(日)15:00~

【会場】 神奈川県立音楽堂
(ファビオ・ビオンディ、彌勒忠史によるプレトークあり)
【言語】イタリア語上演/日本語字幕付

【音楽監督】ファビオ・ビオンディ

【管弦楽】エウローパ・ガランテ

【指揮】ファビオ・ビオンディ(ヴァイオリン)


【出演】

〇ソニア・プリナ(コントラルト/ローマの執政官シッラ)
〇ヒラリー・サマーズ(コントラルト/ローマの騎士クラウディオ)
〇スンヘ・イム(ソプラノ/シッラの妻メテッラ)
〇ヴィヴィカ・ジュノー(メゾソプラノ/ローマの護民官レピド)
〇ロベルタ・インヴェルニッツィ(ソプラノ/レピドの妻フラヴィア)
〇フランチェスカ・ロンバルディ・マッズーリ(ソプラノ/シッラの副官の娘チェリア)
〇ミヒャエル・ボルス(バス/神)
ほか

七人の主演歌手

【演出】彌勒忠史
【美術】tamako
【衣裳】友好まり子
【照明】稲葉直人(ASG)
【台本・字幕翻訳】本谷麻子

【舞台監督】大澤裕(ザ・スタッフ)

 

【概要、ビオンディの推測】

 今回上演されるヘンデルのオペラ『シッラ』が作曲されたのは1713年。ドイツ生まれのヘンデルは1710年に英国に渡り、1711年にバロック・オペラ『リナルド』を発表して名声を博し、以後英国を拠点に『メサイア』に代表されるオラトリオや『水上の音楽』などを発表する。「『シッラ』はヘンデルのロンドン時代の、いわゆる彼の成功の時期に作られたもののひとつ」とビオンディは話す。

 台本は当時人気のイタリア・オペラの台本作家、ジャコモ・ロッシによるもの。しかし作曲の経緯は不明。初演はロンドン・ヘイマーケットの女王劇場のプライベートコンサートと伝わりはすれど、その真偽は定かではない。結局確たる上演の記録がないままオペラそのものは埋もれつつも、しかし『シッラ』の音楽自体がその後のヘンデルの他の作品で使われていたことなどから、静かにその存在は伝えられてきたという「謎の作品」でもあるのだ。

 ではなぜ「謎の作品」となったのか。物語の舞台は古代ローマ。主人公シッラは紀元前1世紀の古代ローマで120年振りに独裁官に就任し、暴君として伝えられたルキウス・コルネリウス・スッラとされる(実在したスッラについては塩野七生『勝者の混迷──ローマ人の物語 III/新潮社』に記述がある)。オペラはこの人物の傍若無人っぷりを揶揄しつつ、最後は改心させるという筋書きで、「この人物像に当時実在した貴族を連想させる何かがあり、公に上演されることがなかったのではないか」とビオンディは推測する。

【主催者言】

古楽界のリーダー、ファビオ・ビオンディ率いる世界的アンサンブル「エウローパ・グランテ」らによるオペラ「シッラ」が、日本のクリエイターとの協働で初めて完全な舞台版として世界初演される日まであと3日。コロナウイルス対策の政府の要請をきっかけに、公演中止となったのだ。第一人者として世界の檜舞台で古の名作オペラの復刻上演の実績をつんできたビオンディだからこそ実現できるレパートリー。日本の楽壇、いや、世界でまだ誰も見たことのないエウローパ・ガランテの完全舞台版。

2017年の計画発足以来3年。演出の彌勒忠史は、2019年春にイタリアに飛んでビオンディと打ち合わせ「全面的にあなたを信頼する」との力強い言葉を得て、オペラ界で活躍する気鋭のクリエイターたちでチームを組み、神奈川県立音楽堂とともに着々と準備を重ねていた。しのびよるコロナ禍を危ぶみつつ、この世界初演を実現しようと、世界トップクラスの歌手たちが各国から来日していた。2公演のチケットはほぼ完売。韓国などアジア近隣国からも購入の問い合わせが入っており、2020年を象徴するはずのプロジェクトだった。実現すれば、日本の音楽演奏史のマイルストーンになるはずの舞台。中止とともに、音楽堂に寄せられた全国のファン、専門家からのメッセージはたったひとつだった。「かならず、近いうちに日本公演を実現させてください」。 

世界で人の交流が途絶えたいま、プロジェクトの価値は今、ますます輝きを増している。国際都市横浜から神奈川県立音楽堂が、時代、国籍を超えた協働で創り上げ、発信する。古い歴史のかなたから、数百年を超えてよみがえる幻の名作オペラを未来につなぐプロジェクト。「失われた夢」を再構築し、新しい希望に変える。

「あきらめない。」――果たせなかった夢。コロナを超えて、再び人々がひとつになる。

今度こそ言おう。世界初の舞台作品が、目の前に、コロナ禍を超えて現れると。

それが音楽を通じた、地域と人々の新しい架け橋になると。

2020年の春、出演者、スタッフは「かならずもう一度ここで会おう」と誓い合って別れ、横浜を飛び立った。そのメンバーが2022年10月、再び横浜に集結する。

「2020年版」をベースに、苦難の数年を経て、演出、彌勒忠史の新しいアイデアが音楽堂に実現する。

    2020年3月『シッラ』で使われることのなかった舞台セット。2022年10月の公演での活躍をじっと待っている。

 

【粗筋】

<第一幕>

 ローマの執政官シッラが民衆派の政敵を撃退して凱旋門のある広場に凱旋してきた。

 妻のメテッラと護民官レピドに迎えられ祝辞を受けた後、シッラはローマに独裁政治を宣言し、何人たりとも自分の意に従うように言い放つ。その専横ぶりに、メテッラもレピドも失望するが、夫を愛する妻メテッラはなんとか夫を軟化させようと考えをめぐらす。

 レピドの妻フラヴィアは、その前夜、ローマが怪物によって灰燼に帰す悪夢を見ておののいており、レピドが彼女を落ち着かせようとしても、稲妻が凱旋門を破壊すると予言する。

 シッラの副官カトゥルスの娘チェリアと、民衆派の騎士でありシッラの反対派であるクラウディオは互いに想い合っているが、チェリアは父が仕えているシッラの反対派を愛することは出来ないと悩んでいる。そのクラウディオは大胆にも、面と向かってシッラの独裁を非難する。チェリアはクラウディオをかばおうとするが、シッラは怒り狂う。さらにシッラはチェリアの「面倒を見る」と称してチェリアを連れ去ってしまう。

 

<第二幕>

 神殿に人々が加護を求め集まり、フラヴィアも祈っている。その様を見てフラヴィアの美しさに欲望を覚えたシッラは彼女に言い寄るが、きっぱりと断られる。失望したシッラが夜眠りにつくと、神が現れ、ローマを恐怖で支配するよう告げる。眠りから覚めたシッラはすぐに、神殿で祈りを捧げる人々を皆殺しにする。この不敬で残忍な行為をレピドに咎められたシッラは、自分は何でも好きなようにできると傲慢に言い、レピドの妻フラヴィアを自分に譲るよう命令する。

 さらにシッラは、妻メテッラの目の前でチェリアに言い寄り、激しく非難される。チェリアはついにシッラに愛想を尽かし、クラウディオへの愛を告白する。いよいよクラウディオは打倒シッラの思いを強くする。

 シッラはその夜レピドの家に現れ、また再びフラヴィアを誘惑しようとするが、レピドに阻まれたため、夫妻を無理やり連行する。フラヴィアを自分のものにするためである。また、クラウディオとチェリアの恋人達のもとにも現れ、クラウディオを投獄し、チェリアを監禁する。そして臣下のスカブロにクラウディオとレピドの暗殺を命じる。しかしスカブロは、メテッラに説得されて、レピドとクラウディオを牢から助け出す。

 

<第三幕>

 メテッラに救われたレピドは打倒シッラを提案するが、貞淑な妻メテッラは、夫に失望しつつもなお、夫を殺す策には同意しない。まだ夫シッラの改心に一縷の望みを持っているのである。シッラはローマを離れシチリアへの任務を与えられる。出発前にもう一度チェリアを誘惑するが失敗し、クラウディオは死んだとチェリアに知らせ絶望させる。一方でフラヴィアにも言い寄るが、またも拒絶される。レピドも死んだと嘘をつくが、クラウディオ、レピドの二人とも現れ、二組は互いに喜び合う。

 シッラのもとに反乱の知らせが届く。シッラは気乗りしないながらもメテッラと別れを惜しみつつ出帆する。が、不安は的中し、船は激しい嵐により沈没してしまう。メテッラがシッラを救出に向かい、連れ帰る。

 一方ローマでは、レピドとクラウディオが、自由を求めて鬨の声をあげている。そこに雲の中から栄光に輝く軍神マルスが姿を現わす。皆が跪いているところに、メテッラとシッラが到着する。シッラも膝をつき自らの権力を放棄し、妻と一緒に引退を宣言する

 

【感想】

結論を先にいいますと、私が日本国内で見たオペラとしては、近年にない出色の出来栄えのオペラでした。 

(1)歌手陣がとてもハイレベルで、充実していたこと。特に妻役や恋人女性役のソプラノ等が素晴らしいアリアを歌ったこと。             

(2)管弦楽が、現代オケの響きとはかなり異なる古楽の神髄に迫るアンサンブルを響かせていたこと。

(3)ヘンデルのオペラとしては、権力と愛憎という俗っぽくはあるけれども非常に分かり易い物語を選んだこと。 

(4)戦いの殺戮の場面は、赤い照明で舞台を照らす抽象的な表現により残虐性は減殺され、また主たる登場人物には、誰も死者が出ないという結果にハッピーエンドの明るさがあったこと(独裁者シッラさえどこか憎めない愛嬌が出ていました)。        

(5)演奏会形式よりもリアル感が段違いのセミステージより更に本格的オペラに近い、バロックオペラとしては、最適と思える方式をとったこと。

(6)演出は、プログラムノートによれば、歌舞伎にインスパイアされたとある様に、出演者の衣装は、振袖の様な和服に、女性役ならば、レースの薄衣を肩から後ろに床を引きずるくらいのロングトレーン風にした和洋折衷のもの、男性役は、将に歌舞伎役者を思わせるコスチュームでしたが、全然違和感がなく、豪快感と時代感と役柄感が十分表現出来ていたこと。

(7)舞台装置も簡潔かつ効果的、効率的な物で、鳥居の様な方形の設備は、ある時には凱旋門を、ある時には屏風の役割を果たし、しかも、その方形内には、色々な映像が映るようにし、またオケピットの左には、小さな張り出し舞台を設え、比較的狭い音楽堂のステージを補助的に補う様にして使い効果を上げていたこと。

(8)フィナーレでは、三組のカップルが華々しい6重唱で最後を飾り、天井から降りた舞台左右の大きな布に絡まるエアリアルシルクダンスは、フィナーレに一段と華やかさを加えこと。

 これだけ多くの長所をリストアップ出来ることは、めったに無いことです。

客席は総立ちになり、カーテンコールと出演者総揃いの挨拶が何回も何回も続きました。

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 このオペラ団を率いるファビオ・ビオンディという人はただ者ではなさそうですね。今回限りでなく、また来日して他のバロックオペラを是非上演してほしいものです。

 

 尚、今日の上演には、NHKが入っていて収録していました。来年の1/15日(日)大安の日に放送予定と聞きました。