【日時】2024.2.28.17:00〜
【会場】東京文化会館大ホール
【演目】リヒャルト・ワーグナー『タンホイザー』全三幕 日本語字幕付原語(ドイツ語)上演
【管弦楽】読売日本交響楽団
【指揮】アクセル・コーバー
【合唱】二期会合唱団
【合唱指揮】 三澤洋史
【演出】キース・ウォーナー
【演出補】 カタリーナ・カステニング
【装置】 ボリス・クドルチカ
【衣装】 カスパー・グラーナー
【照明】 ジョン・ビショップ
【振付】 カール・アルフレッド・シュライナー
【映像】 ミコワイ・モレンダ
【音楽アシスタント】 石坂 宏
【演出助手】 彌六
【舞台監督】 幸泉浩司
【公演監督】 佐々木典子
【公演監督補】 大野徹也
【キャスト】
今回の上演は、ダブルキャストが、四日間の上演日を交互に歌います。
四人の小姓(全日)
【概要】
中世の吟遊詩人で騎士のタンホイザー。彼は禁断のヴェーヌスベルクという異世界で、女神ヴェーヌスと官能の日々を過ごしていた。ある日急に思い立って、ヴェーヌスが止めるのも聞かず、タンホイザーは現世に戻ることにする。
友人のヴォルフラムたちはタンホイザーの帰還を喜ぶ。ちょうどヴァルトブルク城で歌合戦が開催されるというので彼も参加することに。友人たちは清純な愛を歌っているので、タンホイザーも様子を見ているが、徐々に高揚して官能の愛について語ってしまい、禁断のヴェーヌスベルクにいたことが明るみになり罪人扱いされてしまう。恋人エリーザベトのとりなしで、タンホイザーはローマへ巡礼の旅に出ることになる。
教皇はタンホイザーを赦免してくれず、彼は自暴自棄になってローマから戻ってくる。再びヴェーヌスのもとに帰ろうとするタンホイザーに、ヴォルフラムがエリーザベトの名を叫ぶ。我に返ったタンホイザーの元にエリーザベトの亡骸が運ばれてくる。彼女の自己犠牲によってタンホイザーの魂は救済される。タンホイザーもエリーザベトの亡骸にすがって息絶える。神を称える合唱で幕が降りる。
【粗筋】
<第1幕>
中世のドイツ。騎士タンホイザーは、禁断の地ヴェーヌスベルクで愛欲の女神ヴェーヌスの虜となっていた。やがてこの歓楽の日々にも飽き、引き止めようとする女神の誘惑を振り切って人間世界に戻る。通りかかった巡礼一行の歌声に心を動かされタンホイザーは贖罪を誓う。そこで狩りに向かうかつての仲間に出会い、「エリーザベトのもとにとどまれ」の一言でヴァルトブルク城へ共に帰って行く。
<第2幕>
ヴァルトブルク城、歌の殿堂の大広間でタンホイザーはエリーザベトとの再会を喜び、歌合戦に参加することとなる。領主ヘルマンからの歌合戦の課題は「愛の本質」を明らかにすること。かつての同僚ヴォルフラムは愛を清らかな"奇跡の泉"にたとえ、他の騎士たちも精神的な愛を讃える歌を歌う。タンホイザーはこれに反論し、愛の本質は官能の愛であると〈ヴェーヌス賛歌〉を歌い上げたため、ヴェーヌスベルクにいたことが人々に露見してしまう。騎士たちはタンホイザーを殺そうとするが、エリーザベトは「信仰の勇気が、この人にも与えられますように」と願う。このとりなしによって領主ヘルマンは、タンホイザーにローマ法王のもとへ贖罪の巡礼に出るよう命じるのだった。
【第3幕】
エリーザベトはタンホイザーの救済を祈っているが、ローマからの巡礼の中に彼の姿はない。エリーザベトは自らの命と引き換えにタンホイザーの救済を聖母に願う。そこに現れたタンホイザーは、ローマで自分だけ許しを与えられなかった様子を語る。自暴自棄になったタンホイザーはヴェーヌスベルクへの誘惑に今一度身を任せようとするが、エリーザベトの死によってその魂は救済される。「エリーザベトよ、わがために祈れ」と叫んで息絶えるタンホイザーに、神の恩寵をたたえる合唱が響く。
尚この演目のオペラは、昨年1月に新国劇オペラで見ているので、その時の記録を文末に再掲して置きます。その時のタイトルロールは、ワーグナー・ヘルデン・テノール歌手のステファン・グールド氏で素晴らしい歌い手でしたが、残念ながらこの公演の8ヶ月後に亡くなられ、この公演が最後のタンホイザーになってしまったことは残念です。
【上演の模様】
ドイツの騎士歌人たちは、ミンネジンガー(ミンネゼンガー)と総称されます。ミンネとは「愛」の意、まさに「愛のうた人」とよばれるのにふさわしい存在でした。ドイツでは、フランスより約半世紀おくれて13世紀から14世紀初頭が最盛期でした。皆川達夫さんによれば「タンホイザー」の主人公は、物語は虚構であっても、実在の人物であったらしい。
さて結論を先に記しますと、思っていた何倍も聴き応え観応えのある素晴らしいオペラでした。
①先ずタートルロールのヘルマンの歌い振りは、流石、数々の欧米大劇場で場数を踏んで来ただけあって、聴いていて耳に非常に親和性のある歌声でした。しかもヘルデンテノールと言ってもカウフマンの様な硬質な強いテノールではなく、どちらかというとアラーニャ寄りの柔らかさを有した声質でした。第一幕でヴェーヌスの慰留を振り切って、人間界に帰還したいと言って歌うワーグナー節を、(転調旋律も含め)何回も何回も繰り返すアリアや、第二幕の歌合戦では、同様な類似モチーフの入った歌で他の歌い手を遣り込める際の歌い振り、それから第三幕でローマまで巡礼した時のことをヴァルターに歌い語り出した次のアリアで、教皇から贖罪の恩寵を受けられなかった事、その時「永遠に地獄から救われない」と断罪されたこと、倒れ伏したローマ広場で聞こえた遠くからの讃美歌の欺瞞性などをタンホイザー役のヘルマンは熱の籠った力を入れた素晴らしいテノールで歌ったのでした。
❝ヴェーヌスベルクにいた者よ・・・いまこそお前には、永遠の呪いがくだった!
我が手の中にある杖に、二度と緑が芽吹くことがない如く、お前は地獄の灼熱から、
決して救われることはないであろう・・・!』私はこの断罪に気が遠くなり、全ての意識が消え失せた・・・そして再び目覚めたときは、誰もいない広場を、夜のとばりが覆っていた。遠くから聞こえてくるのは嬉しげな讃美歌・・・。その聖歌に、私は吐き気を催したのだ。恩寵の空手形を切るウソ偽りの響きに、私は、氷のように冷たく心を切り刻まれ、嫌悪感のあまり、足取りも荒く立ち去ったのだ。❞
②第二の主役と言っても良いエリーザベト、その各処の役どころを十分に力強さを発揮して歌った渡邊仁美さんは、大健闘振りでした。
例えば第二幕第4場での歌合戦で、タンホイザーが❝「愛とは何か」という事は、ヴェーヌスの山に行って愛の女神を抱きしめたものでないと分からない❞と歌ったからサー大変、皆がタンホイザーを汚らわしいと呪いの言葉と剣で追い詰めた時、一人エリーザベトが割り込んで止めさせようと歌う次のアリアを渡邊さんはしみじみと歌った箇所が大変良く出来ていたと思いました。前半の興奮した様子で高いソプラノを張り上げる処も声が十分出ていて良かったのですが、むしろ静かな心理的描写を歌う方が迫真に迫った歌い振りをする歌手だと思いました。
❝おさがりなさい!あなたがたは、この人を裁くことはできません!残酷な者たちよ!剣を捨ててこの乙女の言うことをよく聞いてください!私の口から神意を読み取ってください・・・!おそろしい強い魔力に哀れな人が捉えられました。でも、どうして?どうして、この世で罪を償っても、この人に救いが与えられないの?清い信仰をお持ちのはずのあなたがたが、何故真意を見失うの?あなた方は、この罪びとから希望を奪おうとしています。ですが一体この人が、あなた方に何をしたというの?この私を見てください。・・・この人によって、突然、乙女の花を引きちぎられた私を・・・心底深く愛していた人から、面白半分のように、心を引き裂かれた私・・・。
私はこの人とこの命のために祈ります・・・悔い改めの道を歩むように、と!
かつて救い主が自分のためにも苦しまれたことを信ずる気持ちをこの人が再び取り戻しますように、と!❞
③その他、歌合戦や第三幕でエリーザベトに気を使って歌うまたタンホイザーの独白に対して歌うヴォルフラム役の大沼さんの活躍が印象的でした。
細部については感心する箇所、素晴らしいと思った箇所多数なのですが、以上に留めます。
最後にこのオペラではやはりワーグナーの天才的な曲作りと曲の構成力が他の作曲家、例えば最近ですとマーラーの交響曲を聴く機会が多かったのですが、それはそれで大変優れた交響曲なのですが、例えば録音でマーラーを聴き続いてワーグナーのこのオペラの前奏曲を聴いたら、如何にワーグナーの曲が多くの点で優れているかが明白になるでしょう。何かマーラーが霞んでしまうというか、マーラーの曲が退屈に聞こえてしまう程です。
合唱も流石プロの二期会歌手の皆さんの集合ですから素晴らしいものが有りました。特にアカペラで歌った、男声合唱や女声の二部合唱は秀越な出来だと思いました。合唱はオケ指揮者とは別に合唱指揮者がしっかり指導されているのだと思います。
また、今回のキース・ウォーナーの演出は色彩的にも立体的にも大変見やすい舞台演出であったのが、自分の好みに合っていたというか、いい演出だと思いました。バレエダンサーのお妖艶な踊りも場面場面の雰囲気を盛り上げていました。
全幕が終わるまで休憩を含み4時間弱、今回は開演時間が少し早いようですが、恐らく帰宅の時間が遅くなり過ぎないように配慮したのだと思います。通常の勤め人だと少し時間休でも採らないと間に合わない開演時間ですが、遅れて入場した人はそれ程いなかったみたい。尤も階によっては空席が多く見えたところもあった様です。それでも最終幕が降ろされると大きな歓声と拍手が怒涛の様に沸き起こり、歌手陣、指揮・管弦楽団員、踊り手たちを何回もカーテンコールで挨拶を求め盛り上がっていました。
今回はダブルキャストの上演なので、別キャストの回をもう一回見ることにしました。
////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////オペラ速報/新国立劇場オペラ『タンホイザー』初日
久し振りでワーグナーのオペラを聴きました。それがものすごく聴きごたえ見ごたえがある上演だったのです。
(1)先ずタイトルロールのステファン・グールドのテノールは、前評判通り素晴らしいものでした。
(2)愛欲の女神役エグレ・シドラウスカイテのソプラノがこれまた素晴らしい。グールドに歌い負けていません。安定感のある清烈な歌声を、張り上げていました。
(3)エリザベト役ザビーナ・ツヴィクラの歌声もすんなりと腑に落ちました。またヴォルフラム役は、急遽代役として、デイヴィッド・スタウトが歌いましたが、これまた渋い歌と演技で魅力を発揮、こうしてみると、外人部隊はすべてつわ者揃い、よくもドイツ以外のあちこちからこの強力メンバーを集められたものと感心しました。大野総監督に脱帽です。
(4)合唱団が、男声も女声も幾ばくの不一致もなく、揃った歌声で舞台を盛り上げ、特にアカペラが場面表現に多くの寄与をしていました。
(5)日本人歌手も大健闘、妻屋方伯がいつも以上の歌い、で貫禄を示し、歌合戦参加のヴァルター役鈴木さん、ハインリッヒ役今尾さんは、真っ直ぐな愛の解釈を堂々と歌い上げていました。ラインマル役の後藤さんは、不実な愛の解釈に腹を立てて、剣をぬいてタンホイザーに迫り怒り心頭の歌は、勢いがあってよかった。牧童の澄んだ歌声も良し。
(6)それから何と言っても、このオペラに組み込まれている、ワーグナー節の数々の調べ、これを今日のオーケストラ東響は、アレホ・ペレスの指揮一下、忠実に表現出来ていたと思います。
(7)ハンス=ペーター・レーマン演出は、舞台装置も簡素ながら、簡潔・直裁、曲と歌を良く引き立てていました。かなり長い序曲演奏下のダンサーの踊りは、その他の場面も含め雰囲気を効果的に盛り上げていました。
【日時】2022.1.28(土)15:00~
【会場】NNTTオペラパレス
【演目】リヒャルト・ワーグナー『タンホーザー』
全3幕<ドイツ語上演/日本語字幕付き>
上演時間4時間5分(1幕75分/休憩25分/2幕65分/休憩25分/3幕55分)
(公演期間:1/28~2/11全四日間)
【管弦楽】東京交響楽団
【指揮】アレホ・ペレス
【合唱】新国立合唱団
【合唱指揮】三澤洋史
【演 出】ハンス=ペーター・レーマン
【美術・衣裳】オラフ・ツォンベック
【照 明】立田雄士
【振 付】メメット・バルカン
【再演演出】澤田康子
【舞台監督】髙橋尚史
【バレエ】東京シティ・バレエ団
(NNTT H.P.より)