HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

大野・都響+ゲルシュタイン(Pf.)を聴く

 

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【日時】2025.4.7.(月)19:00〜

【会場】東京文化会館

【管弦楽】東京都交響楽団

【指揮】大野和士

【独奏】キリル・ゲルシュタイン(Pf.)

  

  〈Profile〉

     旧ソ連生まれ、ベルリンを拠点に活動するアメリカ人ピアニスト。ロシアと中央ヨーロッパの伝統を融合させる創造力と飽くなき好奇心をもち、ソロ、室内楽、協奏曲で世界的に活躍している。近年は3つのレジデンシーを持ち、バイエルン放送響(ギルバート、ハーディング、マナコルダ、八嶋恵利奈と共演)、ロンドンのウィグモア・ホール(3部構成のコンサート・シリーズ「ブゾーニとその世界」)、エクサンプロヴァンス音楽祭の2023 年アーティスト・イン・フォーカス(室内楽アカデミー、HK グルーバーの夕べ、ロンドン響とのラフマニノフのピアノ協奏曲第3番)に出演。これまでにウィーン・フィル、ロイヤル・コンセルトヘボウ管、チェコ・フィル、ロンドン・フィル、ニューヨーク・フィル、シカゴ響、クリーヴランド管などと共演している。
2020 年にドイツ・グラモフォンから発売された『トーマス・アデス:ピアノ協奏曲』(ボストン響との世界初演の録音)はグラモフォン賞を受賞、グラミー賞にもノミネートされた。最新録音として、キリル・ペトレンコ指揮ベルリン・フィルとの『ラフマニノフへのオマージュ』を2023 年6月にリリース。

 

【曲目】

①ベルク『管弦楽のための3つの小品 op.6』

(曲について)

 独学時代のアルバン・ベルク(1885~1935)は、歌曲の創作でこそ抜群の適性を発揮していたが、器楽曲ではシンプルな変奏曲ぐらいしか、ある程度の長さをもつ作品が書けなかった。1904年からアルノルト・シェーンベルク(1874~1951)の徹底した指導を受けたことで、ピアノ・ソナタ op. 1(1907~08)や弦楽四重奏曲 op. 3(1910)が生み出され、ベルクは一人前の作曲家として歩み出していく。
 ところが次なる一手として書かれた、初の管弦楽付き声楽曲である《アルテンベルク歌曲曲集》op. 4(1912)では、マーラーの交響曲第10番第1楽章に登場する不協和音を発展させたような、12の半音階すべてが同時に鳴り響く和音が登場するなどの過激な進歩をみせ、初演では警察が呼ばれて演奏が中断するほどの大混乱に。シェーンベルクも良い顔をしなかったことにショックを受けたベルクは一時、師と仲違いしてしまう。その一件があったからこそ、管弦楽を使った2つめの楽曲《管弦楽のための3つの小品(Drei Orchesterstücke)》op. 6を「我が師で我が友のアルノルト・シェーンベルクに、限りない感謝と愛を込めて」という献辞とともに捧げたのだろう。
 作品タイトルは明らかにシェーンベルクの《管弦楽のための5つの小品(Fünf Orchesterstücke)》op. 16(1909/1922改訂/1949再改訂)を意識したものだが、最も影響を受けたのはベルクが偏愛したマーラーの交響曲第9番第1楽章であることは、主題がバラバラにされた状態から徐々に提示されていったり、ポリフォニック(多声音楽的)な書法が徹底されていたりすることからも窺い知ることができる。

 

②ブラームス『ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 op.83』

(曲について)

 ヨハネス・ブラームス(1833~97)の残した2曲のピアノ協奏曲は、いずれも高度な技巧が要求されるピアノ独奏と雄弁な管弦楽とがシンフォニックに結びついた大規模な作品である。このうち第1番ニ短調はまだ彼が若かった1854年から58年にかけて書かれたもので、青年期特有の情熱を吐露した疾風怒濤的な作風を示しているのが特徴的だ。その背景には、彼を世に紹介してくれた恩人ローベルト・シューマン(1810~56)の自殺未遂と精神病院での死という衝撃があったと考えられている。
 そうした悲劇的な第1番に対し、はるか後の1881年に完成された本日の第2番は、悠揚迫らぬ堂々とした重厚な作風を示している点で、いかにも円熟期の所産らしい作品といえるだろう。際立った特徴として挙げられるのは、協奏曲の書法を4楽章構成の交響曲風のスタイルに結びつけている点で、しばしば“ピアノ独奏付きの交響曲”と呼ばれているのはそのためである。楽章構成ばかりでなく、楽章間の主題の動機的関連性など全体の緊密な論理性の点でも、この協奏曲にはまさに交響曲を思わせるものがある。その一方、例えば独奏とオーケストラの中の楽器との絡みでは室内楽的な箇所も随所に見受けられる。
 もちろん協奏曲らしい独奏の技巧上の難しさも追求されており、実際にこの作品は古今のピアノ協奏曲の中でも独奏者にとって屈指の難曲となっている。ブラームス自身がピアノの名手であったことがその背景にあるが、しかしそうした技巧の難度の高さが、あくまで先述のような作品全体のシンフォニックな緊密な構築性のうちに有機的に組みこまれていて、19世紀のヴィルトゥオーゾ協奏曲に見られるような華麗な名技の誇示につながっていないところが、いかにもブラームスらしい。このように、協奏曲でありながらその範疇を超えた広がりを持つこの作品は、ブラームスの大胆な発想とそれを裏付ける円熟期らしい確かな書法とを如実に示した傑作であるといえるだろう。
 一説によると、作品の最初の着想は1878年のイタリア旅行中といわれている。しかしそうだとしても、この時は本格的な作曲に取り掛かることはなく、他の重要な作品の創作に力が注がれる。その後1881年にブラームスは再度のイタリア旅行を行って、フィレンツェでイタリアの古い芸術に触れるなど、充実した時を過ごした。そのことが彼の心にピアノ協奏曲への創作意欲を呼び起こしたのだろうか、旅行から戻ってから集中的に作品に取り組んで、その後かなり短期間のうちに作品を完成させる。この協奏曲にはどこか南国的な明るさを感じさせる楽想が多く現われるが、それはイタリア旅行での経験が影響しているのかもしれない。
 初演は1881年11月9日ブダペストにおいてブラームス自身の独奏によって行われた。この時の指揮者はアレクサンダー・エルケルだったが、初演に先立ってマイニンゲンでやはりブラームスの独奏で試演がなされ、ここの宮廷楽団の指揮者ハンス・フォン・ビューロー(1830~94)が指揮をとっている。ビューローとマイニンゲンの楽団は翌年、ベルリン、キール、ハンブルクでの演奏旅行にあたってブラームスの独奏でこの曲を取り上げ、作品を知らしめるのに大きく貢献している。

 

 

【演奏の模様】

①ベルク『管弦楽のための3つの小品 』

 

〇楽器編成:フルート4(第1~4はピッコロ持替)、オーボエ4(第4はイングリッシュホルン持替)、クラリネット4(第3は小クラリネット持替)、バスクラリネット、ファゴット3、コントラファゴット、ホルン 6、トランペット4、トロンボーン4、テューバ、ティンパニ2組、大太鼓、小太鼓、テナードラム、シンバル、タムタム、トライアングル、シロフォン、ハンマー、グロッケンシュピール、 ハープ2、チェレスタ、四管編成 弦楽五部16 型(16-15-12-10-8)


  舞台には、処狭しと楽器群と奏者が、並んでいました。

 

 

〇全三曲構成

第1曲「前奏曲」

第2曲「輪舞」

第3曲「行進曲」

第1曲「前奏曲」の冒頭では、弱く叩かれるタムタムの1打から始まって徐々に重ねられる楽器が増えていき、まもなくファゴットの高音によってまだ形にならない主題が散り散りの状態で提示されはじめる。ホルンとクラリネットの強奏によって、前奏部分が締めくくられると、今度はファゴットから第1ヴァイオリンに受け継がれていく音色旋律(音色の変化を要素とする旋律)が登場するが、これこそが第1曲の実質的な主題である。
 この旋律を変奏しながら繰り返し、様々な楽器へと受け渡し続けていくことでクライマックスを形成。シンバルの一撃による頂点を経て、また主題が散り散りになっていき、最後はタムタムの1打に戻ってくる。
 第2曲「輪舞」は、ホルンの和音の直後、ファゴットとトランペットが旋律の断片を提示するのだが、実はこれは第1曲と同じ音型から派生したもの。続いてオーボエ、そしてファゴットとチェロ、チェロとヴィオラ……という風に楽器が受け継がれていくなかで、前曲とは違う旋律へと変形・発展していく。
 曲中、何度かワルツのような舞曲へと姿を変えるのだが、性格はマーラーが交響曲で用いることが多かった田舎臭いレントラーに近い。時おり独奏ヴァイオリンが伴われることで「死の舞踏」の情景も想起させられる。
 第3曲「行進曲」はチェロの反復フレーズが先導していくが、やはりこれも第1曲・第2曲の基礎となった音型で、これまで同様に徐々に変形していく。しばらく進むと軍楽隊を思わせるリズムが打楽器や弦楽器の中低音域に現れはじめ、いよいよ行進曲に転じる……かと思いきや中座。その後も、統率のとれていない軍隊の様に、なかなか一体感は得られない。
 ハープの低音と共にヴィオラ独奏で第1曲の原型に近いモティーフが提示されると再始動。徐々に軍隊の体をなしていく。暴力性が頂点に達したところで、マーラーの交響曲第6番《悲劇的》第4楽章を思わせる巨大な木製ハンマーが打ち鳴らされて、再び崩壊。少しずつ散り散りになっていき、最後は穏やかに終わると思いきや、また動き出そうとしたところで、とどめの一発をお見舞いされる。

 

 この曲は、一昨年11月に来日公演したキリル・ペトレンコ/ベルリンフィルが演奏した曲の一つです。その時の演奏を聴いた記録を文末に(抜粋再掲1)しておきましたが、今回、大野・都響の演奏を聴いた感想も、その時と似たり寄ったりでした。即ち、聴いていて曲の良さが余り分からなかったということ。只その時受けた感と大きくて異なる点は、何れの場合も、指揮者も奏者も全力を尽くして演奏している事は一目で分かるのですが、そのアンサンブルの音圧が格段に違った、例えればベルリンフィルの演奏が巨大台風並みなのに対し、今回は春の嵐くらいでしょうか?今回の都響の三管編成16型に対しベルリンフィルも拡大された三管編成16型でほぼ同じ規模だったのですが。

 もう一点は、その音群の統合的性が、ベルリンフィルの演奏は、雑然の中に整然ありといった風でしたが、今回はそれがなく、音が雑然と垂れ流されていた箇所も多々あった様に思われました。何れにせよ相変わらず、ベルクのこの曲は???のままに終わりました。

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②ブラームス『ピアノ協奏曲第2番 』

    今回の演奏会の目玉は、何と言っても、ゲルシュタイン(Pf. )のブラームスです。この曲は、録音は勿論のこと、演奏会でもこれまでよく聴いた曲です。直近のものとしては、昨年11月に、来日したラトル・バイエルン放送交響楽団 とチョ・ソンジンとの共演を聴きに行きました。その時の記録を参考まで、文末に(抜粋再掲2)しておきます。 

 またゲルシュタインは都響との相性がいいのか、2022年にも共演していて、その時はラフマニノフ『ピアノ協奏曲第3番 ニ短調 Op. 30]』を弾きました。(指揮は、アラン・ギルバート)今回とは違う曲だったのですが、その時のゲルシュタインの演奏のポイントは、将に今回の演奏と相通ずるところがあるので、文末に(抜粋再掲3)しておきます。

 

〇楽器編成:独奏ピアノ、フルート2(ピッコロ持ち替え1)、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2(第2楽章まで)、ティンパニ1対(第2楽章まで)、弦五部

〇全四楽章構成

第1楽章Allegro non troppo 

第2楽章Allegro a passionato

第3楽章Andante

第4楽章Allegretto Grazioso

 

    第1楽章 アレグロ・ノン・トロッポ 第1主題を先取りするホルン独奏とそれに応えるピアノ独奏との対話というユニークな導入で開始され、ピアノのカデンツァを経て、改めて協奏的ソナタ形式の主部に入る。確固とした構成のうちにダイナミックな発展を織り成す壮大な楽章。
 第2楽章 アレグロ・アパッシオナート スケルツォに相当する楽章(ニ短調)だが、情熱的な第1主題と哀愁に満ちた第2主題を持つソナタ形式で書かれている点がユニークで、展開部の途中に民俗舞曲風のトリオ(ニ長調)が挟まれる形をとる。
 第3楽章 アンダンテ チェロ独奏が加わる情感溢れる変ロ長調の緩徐楽章。室内楽的なテクスチュアが生かされ、ピアノ独奏にもデリケートな響きが求められている。主要主題はのちに歌曲《わがまどろみはいよいよ浅く》op.105-2に用いられた。一方、中間部のクラリネットの旋律は1878年の歌曲《死への憧れ》op.86-6の引用で、この美しい楽章の背後に死への憧憬といったロマン主義的なイメージがあることを窺わせている。
 第4楽章 アレグレット・グラツィオーソ ハンガリー風(ロマ風)の主題を中心としたロンド・ソナタ形式の明るいフィナーレ。軽妙でありながらこの大作を締めくくるにふさわしい充実した内容を持っている

 

  今回のゲルシュタインの演奏スタイルは、(抜粋再掲3)の時とほぼ変わらず、背筋を伸ばして姿勢良く、手を鍵盤近くに比較的平行に揃え、指を平らかににして、鍵盤上を行き来していました。時々指揮者の方とオケの方を見ながら余裕ある様子で弾いていました。概してゲルシュタインの演奏は、以前もそうでしたが、片筋張らないそれでいて打鍵はしっかし、強い箇所は強く、弱き表現の箇所は鍵盤をなぞる様にして弾いていました。全体的にオケの音をしっかりと聞き取りながらアンサンブルの一刻一刻変化する状況を良く把握しながら弾いている様子で、決して出ずっ張ることなく、また引っ込み思案にも陥らず、これぞ将に「適時適切」な演奏でした。ベテランピアニストでも中々この様な弾き方は出来る人は少ないでしょう。 

 個別の演奏内容としては、先ず第1楽章冒頭のHrn.とゲルシュタインの掛け合いが、素晴らしいブラームスのピアノの世界へ誘う予感をさせました。続くFl.の調べが弦楽奏を惹起させ、ゲルシュタインは少し強く、ダラダラダラン、ダラダラダランと続き、早くもPf.はカデンツア的ソロ演奏を始めました。ここまで聴いただけで、今日のゲルシュタインの調子には、一抹の不安も無かろうという予感がしました。暫くPf.が弾いた後、管弦楽が如何にもブラームスらしいブラ節のアンサンブルで応えました。暫しPf.は休止、管弦楽奏が間奏して再度Pf.の出番となりました。テンポといい両者のバランスといい良く均衡がとれています。こうした均衡のとれた協奏は、次の2楽章のスケルツオでも、さらに次の次の緩徐楽章でも、ひいては最終楽章の最後の最後まで崩れることはなく、大野・都響の呼吸とゲルシュタインの呼吸を、ピッタリ一致させたのには、勿論指揮者の功績があるのでしょうけれど、大野さんはほとんどピアニストの方を見ず、ピアニストに何らかの合図も送ることはしませんでした。(上記した様に、ピアニストはしばしばオーケスラと指揮者の方を見て演奏をしていましたが。)

 ジャンジャンジャンジャララジャンというテーマ奏をかなり強く表現する箇所もゲルシュタインは、決して気色張らず、強くはあるが比較的ソフトなタッチで弾いていたのには少し驚きました。第一楽章では、Hrn.との掛け合いが何回かあり、上手く決まっていました。 一楽章の最後も、ゲルシュタインの力奏は、決して筋肉質なマッスルな(例えばマツーエフの様な)打鍵ではなく、柔らかさを失なわないもので、こうした演奏はかなりの域に達しないと出来ないことだと思います。

 第2楽章は短調のスケルツオで開始(他の楽章は三つとも変ロ長調です)、ゲルシュタインはジャララジャジャジャ-ンと速いテンポの調べで開始、やや民族調の調べです。Vn.アンサンブルが洒落た旋律を一弾きするとPf.も同旋律で掛け合い、クネクネクネクネと弱奏で美し調べが、それが暫く経つと再度冒頭の速い調べが繰り返されるのでした。中間部も結構激しい場面なのですが、ゲルシュタインの演奏には荒々しさはなく、あくまで洗練された強奏といった感じなのですが、、オケとの協奏の箇所でもオケに飲まれることは一度も有りませんでした。続いてテンポと曲想が変わり、弦楽がバッハ的なフーガ風な調べに転じました。ゲルシュタインは弱奏でそれに応じると、ここでもHrn.の合いの手が入り、Pf.と弦楽奏はジッラジャラジャラジャ・・・の変奏を強い音を立てて奏でたのです。強いと言っても弦楽アンサンブルは通常見られる強奏ボーイング、しかしゲルシュタインの強奏は実に洗練された強い音を出すのですねー。しかも感情的にならず平常心でといった感じで弾いていました。       

 3楽章の聴き処は、やはりイントロでのVc.首席奏者の素晴らしいゆったりした低音旋律ソロと、弦楽アンサンブルの掛け合いでしょう。Vc.奏者はプログラムトップページの団員名簿にある伊東さんかな?暫くしてゲルシュタインはその前雰囲気を引き継ぐ様な、心で演奏する調べを紡ぎ出し始めました。この変化の有るPf.パッセッジをゲルシュタインは、長短、強弱織り交ぜながら全体的には弱奏中心で弾きました。Vc.のソロ演奏はその後後半に入った処から最後の場面にも顔を出します。木管とPf.は弱奏でそれに寄り添っていました。                       

 アタッカで入った最終楽章の第4楽章、モーツァルトの調べを想起させる様な明るい軽快な調べです。ゲルシュタインも遺書弱奏で貴かいなテーマを奏していましたが、前半終了近くや最終場面では、今回一番の強い打鍵で弾いていました。合いの手を入れる弦楽奏は、映画音楽になりそうな洒脱な調べも時々奏でていました。    

 最終場面では、Pf.が速いテンポでキラキラキラキラとした弱奏で下行音を出し、相当速いテンポの高音域奏を繰り出すのですが、最終局面とは思えない抑制したというか繊細なタッチで弱音演奏をしていました。流石に最後の最後の最後、弦楽が総出で強奏アンサンブルを奏し、管楽器群も全力吹奏をし出すと、ゲルシュタインは高音域から中央鍵盤間を猛スピードで行き来し低音域から上行スケールを二回繰り返すと、ピアノと管弦楽の協奏は一気にゴール目掛けて走り抜け、ジャッジャーンと終演のテープを切るのでした。


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/////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////// 2023.11. 22 .HUKKATS Roc.(抜粋再掲1)

ベルリンフィル来日公演

キリル・ペトレンコ/ベルリンフィル来日公演Aプロを聴く(11/21)

 

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【日時】2023.11.21.(火)19:00~

【会場】ミューザ川崎シンフォニーホール

【管弦楽】ベルリンフィルハーモニー管弦楽団

【指揮】キリル・ペトレンコ

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 〈Profile〉 

キリル・ペトレンコ(指揮)
Kirill Petrenko, conductor
2019年シーズンよりベルリン・フィル首席指揮者・芸術監督を務める。シベリアのオムスク出身。地元で音楽を学び始め、のちにウィーンで研鑽を積む。オペラ指揮者としてのキャリアはマイニンゲン歌劇場とベルリン・コーミッシェ・オーパーの時代に始まり、2013-20年バイエルン州立歌劇場音楽総監督を務めた。ウィーン、ロイヤル・オペラ、パリ、メトロポリタン、バイロイトなどの名歌劇場や、ウィーン・フィル、コンセルトヘボウ管、シカゴ響、イスラエル・フィルなど世界を率いるオーケストラに度々客演。ベルリン・フィルとは2006年のデビュー以来、同フィルの中核をなす古典派やロマン派、スーク、コルンゴルドなどの知られざる作品、ロシア音楽など様々なプログラムに力を入れている

【曲目】Aプログラム

①モーツァルト:交響曲第29番 イ長調 K.201

(曲について)

《割愛》

 

 

②ベルク:オーケストラのための3つの小品 Op.6

楽器編成:拡大された四管編成

木管楽器

Fl.(4)(Picc.4持ち替え)Ob.(4)A管Cl.(4) B管Bas-Cl.(1) Fg.(3) Cont-Fg(1)

金管楽器

F管Hrn.(6) F管Trmp.(4) Trmb.(3) Bas-Trmb.(1)

Tub.(1)

打楽器

Timp.(2) 大太鼓 小太鼓 シンバル(大太鼓取付)

タムタム(大 小) テノールドラム トライアングル

グロッケンシュピール シロフォン チェレスタ

大ハンマー(非金属音)

弦楽器 弦楽五部16型(16-14-12-10 -8) Hrp.

 

〇曲構成 題名通り3つの楽章からなります。

演奏時間約20分

第1楽章 前奏曲(Präludium)

第2楽章 輪舞(Reigen)。

第3楽章 行進曲(Marsch)

 

【演奏の模様】

②ベルク:オーケストラのための3つの小品 Op.6

 この音楽を聴いてやはり近・現代音楽の響きを感じました。シェーンベルクの弟子だったと言いますが、シエーンベルクの曲自体をほとんど知りません。プログラムノートに依れば、マーラーの影響があり、❝マーラー風のフレーズも聴こえる❞と有りましたが、聞いていて分からずじまい。確かに大編成のオーケストラ陣容でしたので、それ等の楽器の出音を耳で追い目で確かめる「観るオーケストラ」の楽しみはあり、全体としては「音の饗宴」が続きました。でも本音を言うと、こうした類いの曲は苦手です。演奏する人達は演奏しがいがあるだろうなー、弾いていて「音の饗宴」に酔いしれるだろうなーと思うことはあるのですが、自分は酔えませんでした。

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サー・サイモン・ラトル指揮 バイエルン放送交響楽団

【日時】2024.11.26.19:00~

【会場】サントリーホール

【管弦楽】バイエルン放送交響楽団 

【指揮】サー・サイモン・ラトル(バイエルン放送交響楽団 首席指揮者)Sir Simon Rattle, Chief conductor

〈Profile〉

       《割愛》

 

【独奏】

チョ・ソンジン(ピアノ)

(Profile)

 1994年ソウル生まれ。6歳でピアノを始め、11歳で初めてリサイタルを行 う。2009年浜松国際ピアノコンクール最年少優勝。2011年チャイコフスキー 国際コンクール第3位入賞。2012-15年にパリ音楽院でミシェル・ベロフに学 ぶ。2015年第17回ショパン国際ピアノコンクール優勝。翌年にドイツ・グラモ フォンと専属契約締結。2023年サムスン湖巖賞受賞。これまでベルリン・ フィル、ウィーン・フィル等世界有数の楽団と多数共演。指揮者ではネルソン ス、ラトル等と定期的に共演を重ねている。今シーズンはモーツァルテウム管 とのザルツブルク音楽祭へのデビューや、BBCプロムス、カーネギーホー ルへの再出演など多くの公演を予定する。圧倒的な才能と生来の音楽性を 持ち、同世代の最も優れた才能を持つひとりとして名を成している。



【曲目】

①ブラームス:ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 Op. 83

(曲について)  

 ヨハネス・ブラームス (1833-97)の残した2曲のピアノ協奏曲は、どちらも 高度な技巧が要求されるピアノ独奏と雄弁な管弦楽とが緊密に結び付いた 大作だが、若い時の第1番が青年期特有の情熱を吐露した疾風怒濤的な曲 であるのに対し、1881年に完成された本日の第2番はいかにも円熟期の所 産らしく、堂々とした重厚な作風を示している。一方でそうした重厚さの中にし ばしば南国的な明るさが窺われるのは、作品の最初の構想がなされた1878 年のイタリア旅行が関係しているともいわれる。

 特徴的なのは協奏曲でありながら交響曲風の4楽章構成をとっている点 で、そのためしばしば“ピアノ独奏付きの交響曲”とも呼ばれている。楽章構成 ばかりでなく、楽章間の動機的関連性や全体の綿密な論理性の点でも交響 曲を思わせるものがある。その一方、第3楽章におけるチェロ独奏を導入した 室内楽風の書法も注目される。もちろん協奏曲らしく独奏の名技性も追求さ れており、実際ピアノの技巧面でこの作品は古今のピアノ協奏曲における屈 指の難曲として知られている。

 

②ブラームス『交響曲第2番ニ長調 Op.73』

(曲について)

 

      《割愛》

 

 

【演奏の模様】

 今回は早々とチケット売り切れ、当日の席の入りも超満員、空席を見付けるのが難しい程の大盛況でした。海外の欧米人と思しき人達も見かけましたが、それ以上に韓国からの聴衆が多く見受けられました。自分の席は一階後方でしたが、左隣の若い女性二人が韓国語で喋っていました。何と言っても韓国のホ-プとも言えるピアニストの出演ですから、多くの同朋人が駆けつけるのも、むべなるかなと思いました。

 

①ブラームス『ピアノ協奏曲第2番』

〇楽器編成:独奏ピアノ、フルート2(ピッコロ持ち替え1)、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2(第2楽章まで)、ティンパニ1対(第2楽章まで)、弦五部

 

〇全四楽章構成

第1楽章Allegro non troppo

第2楽章Allegro appassionato

第3楽章Andante

第4楽章Allegretto grazioso-un poco piu presto

約50分(各凡そ18分、9分、14分、9分)

今回の演奏会の前々日にミューザで、ラトル・バイエルン響下、ソンジン弾くベトコン2番を聴きました。その時の(演奏の模様)に記しました。その一部を抜粋しますと

❝今回のベトコン2の演奏では、もっともっと強打健で迫力ある力を漲らせた演奏が必要な箇所も複数あるからでした。第1楽章のカデンツァ部など。例えば働き盛りのアルゲリッチの演奏他(Beethoven - Piano Concerto no.2 Bb op.19 - Argerich M.,Mahler CO,Abbado C. - June 2000 - Ferrara これが完全な演奏とは必ずしも思いませんが。)の様な荒々しさも残る強い演奏❞

更には❝自分として言いたいことは、速いパッセジをもう少し歯切れ良く耳に届いたらいいナーと妄想しただけなのです。❞ と。

 今回のブラームスのピアノコンチェルトを聴いて、以上前回記した疑問点はすべて解決・クリアされていた事には少なからず、驚きましました。

 このブラームスの2番という曲自体が、相当の力仕事を要し、しかも高度な技術力も必要とする曲だったのです。これまでピアニストの生演奏としては殆ど1番を演奏するケースが多く、今年は5月にルイージ指揮N響をバックにしてブッフビンダーが弾いたのを聴きました。この2番を演奏するピアニストはそう多くはなく、生で聴いたのは最近では一昨年の河村尚子さんが「サントリー音楽賞受賞コンサート」で弾いたのを聴きました。河村さんの男勝りの強い打鍵、腕力には驚きました。こうしたブラームスの超難曲とも言える2番を、今回、ソンジンはいとも(見た様子では)簡単に弾きこなしてしまったのでした。曲を演奏する半分以上のケースで腰を浮かして腕を振り下げる様子が見られ、彼が一昨日のベトコンの時よりも如何に力の限りキーを叩いていたかが分かります。殆ど大打撃・ハンマーを受けたクラビアは演奏後は(勿論ピアノ線の調弦ずれという)ダメージを相当受けたのではなかろうか?と思いました。それ程彼の力強い演奏を見て、聞いて、一昨日の疑念は完全に消え去りました。それは、手加減なくオーケストラの演奏曲としての曲作りに邁進したラトル指揮下のバイエルン放送響の激しいアンサンブルにも互角に対峙したこのピアニストの精神力の強さがあって、この様な手に汗握る素晴らしい演奏が可能になったのだろうなと、只々、敬服するのみでした。 

 又弱奏演奏でも、一昨日に負けない位甘美なブラームス特有の旋律を、十二分に美しく心に響く演奏をしていました。例えば第三楽章のAndante。首席Vc.奏者の調ベに続くPf.演奏はとても素晴らしいものでした。ソンジンは強弱交えて丹念に旋律を紡いで行きました。音も非常にクリアです。同楽章終盤での弦楽アンサンブルに合わせたゆっくりした箇所では、気持ちを込めて弾いていたし、それに続くVcソロに合の手を入れるPf.のコロコロという、珠を転がす様な音、こうした場面は天上の花園が相応しいのでしょう。速いパッセジでの音一つ一つも十分に粒ぞろいで、クリアに聞えました。

以上の様に、今回のピアノ演奏は、誰にもつけ入るスキのない「見事な演奏」と言うありふれた言葉では表現しきれない程の物でした。

 演奏後何回も拍手歓声に舞台の呼び戻されたピアニストは、アンコール演奏を始めました。

《アンコール曲》

 シューマン『幻想小曲集作品12-3〈なぜ〉』


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 今日のゲルシュタインはもともとジャズ音楽出身のピアニストらしいのです。ジャズ出身のピアニストは日本人では小曽根さんがいますね。期待と興味半々の気持ちで聞き始めました。その演奏は、第一楽章の最初では力をセーブして運転していたのか、指は速く動いているのですが、オーケストラとの関係に於いていま一つの感を受けていたのです。(今回もピアニストの指使いが良く見える座席でした。ゲルシュタインは指を立てないで、むしろ鍵盤上に平行近くに手を置き、指も平行的に移動させて打鍵していました。)次第に実力を発揮、上記の判断基準、に当て嵌めても最高クラスの満足度を感じてその演奏を聴き終わりました。強靱な力を持った両手で繰り出す動きは、速いパッセッジではまるで機械ミシンの様に上下に指が動き出し、しかもその変化は自由自在、この曲を何百、何千回となく弾いていて目をつむっても弾ける野でしょう(実際には目はつむりませんでしたが)、しょっちゅう指揮者の方を向いたり鍵盤から目を話したりしても、機械の正確さで指が動き廻り止まらないと言った感触でした。特に圧巻の演奏は、ピアノソロに加えオケ演奏でも、各楽章の幾つかの箇所に多く見られました。