HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

キリル・ペトレンコ/ベルリンフィル来日公演Aプロを聴く(11/21)

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【日時】2023.11.21.(火)19:00~

【会場】ミューザ川崎シンフォニーホール

【管弦楽】ベルリンフィルハーモニー管弦楽団

【指揮】キリル・ペトレンコ

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 〈Profile〉 

キリル・ペトレンコ(指揮)
Kirill Petrenko, conductor
2019年シーズンよりベルリン・フィル首席指揮者・芸術監督を務める。シベリアのオムスク出身。地元で音楽を学び始め、のちにウィーンで研鑽を積む。オペラ指揮者としてのキャリアはマイニンゲン歌劇場とベルリン・コーミッシェ・オーパーの時代に始まり、2013-20年バイエルン州立歌劇場音楽総監督を務めた。ウィーン、ロイヤル・オペラ、パリ、メトロポリタン、バイロイトなどの名歌劇場や、ウィーン・フィル、コンセルトヘボウ管、シカゴ響、イスラエル・フィルなど世界を率いるオーケストラに度々客演。ベルリン・フィルとは2006年のデビュー以来、同フィルの中核をなす古典派やロマン派、スーク、コルンゴルドなどの知られざる作品、ロシア音楽など様々なプログラムに力を入れている

【曲目】Aプログラム

①モーツァルト:交響曲第29番 イ長調 K.201

(曲について)

1773年から翌年にかけてモーツァルトは、9曲の交響曲を書き上げた。そのうちの5曲までがイタリア風序曲の形式で作曲されているのに対し、残りの4曲はウィーン風の4楽章の構成がとられるようになった。

 この第29番は社交的娯楽的要素の強いイタリア様式を脱却し、後の交響曲へのたしかな成熟を予測させる表現力を備えた作品である。モーツァルトが10代で作曲した交響曲中、第25番ト短調K.183(173dB)とこの曲はとりわけ人気が高い。

 なお、この曲は1774年の4月6日にザルツブルクで完成された。

 

②ベルク:オーケストラのための3つの小品 Op.6

(アルバン・ベルクについて)

オーストリア作曲家(1885~1935)。シェーンベルクに師事し無調音楽を経て十二音技法による作品を残した。十二音技法の中に調性を織り込んだ作風で知られる。ベルクはウィーンで富裕な商家の子供として生まれた。幼い時から音楽や文学に興味を抱き早熟な少年時代を送る。15歳の時、父が没した頃から独学で作曲を試みるようになる。この時の現存する多数の歌曲は1980年まで封印されていた。

1903年にはギムナジウム卒業試験に失敗して自殺を図るなど10代後半の私生活は波瀾に彩られたものだった。

1904年、ベルクの兄が弟の作品をシェーンベルクのもとに持ち込み、シェーンベルクや同門のヴェーベルンとの交友が始まる。ベルクはギムナジウム卒業後、公務員となるが作曲活動に打ち込むためわずか2年で辞職し、ウィーン国立音楽院へ。1907年、「4つの歌曲」Op.2などの曲で本格的な作曲家デビューを飾る。1911年、声楽を学んでいたヘレーネ・ナホフスキーと結婚。ヘレーネの母アンナはオーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ1世の愛人として知られ、ヘレーネは皇帝の庶子とも言われていた。ベルクの作曲家人生は、1933年ナチス・ドイツ政権発足によって暗転する。師シェーンベルクと共に(ベルクはユダヤ人ではないが)ベルクの音楽も「退廃音楽」のレッテルが貼られ、ドイツでの演奏が不可能になる。1935年、ベルクとしては異例の速筆でヴァイオリン協奏曲(「ある天使の想い出に」)を書き上げる。しかし、協奏曲完成の直前に虫刺されが原因で腫瘍ができ、これが悪化、手術を受けるも敗血症を併発しこの年の12月24日に50年の生涯を閉じた。

ベルクの名声を高めてのは数々の優れた作品の他に、「アルバン・ベルク四重奏団」の活動がある。活動時期は1970年~2008年、1980年代から世界的四重奏団との名声を得た。

 

(曲について)

ベルクが作曲した唯一の管弦楽曲で、1914年9月8日から1915年夏にかけて作曲された。本来は師であるアルノルト・シェーンベルクの誕生日(1914年9月16日)に完成し献呈するつもりで、前年から構想していたが、3つの楽章のうち第1楽章と第3楽章のみ誕生日に間に合い、第2楽章が完成されたのは同年の末頃であった。スコアの浄書は翌1915年の夏までかかり、8月にようやく献辞が添えられたスコアがシェーンベルクの許に届けられた。

性格的小品による組曲を書くという考えはシェーンベルクのアドバイスによるもので、濃密かつ大胆な書式にはグスタフ・マーラーの作品(特に交響曲第6番や『死んだ鼓手』)やシェーンベルクの『5つの管弦楽曲』の影響が指摘される。また、シェーンベルクが使用した主声部(H)と副声部(N)の表示も取り入れている。

ベルクは本作の作曲中の1914年5月、ゲオルク・ビュヒナー戯曲ヴォイツェック』の上演を観ており、そこで見た場面の音楽化を思い付き、これが本作の劇的な作風に大きく影響している。実際、第2楽章の終結部は後のオペラヴォツェック』の第1幕の終わり方に酷似し、第3楽章の80小節から83小節のトロンボーンモティーフもそのまま出ている。また終結部に近い半音階の平行和音の上昇形は『ヴォツェック』第3幕の池のほとりの場面に酷似している。

 

 

③ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 Op.98

(曲について)

 第3交響曲完成の翌年1884年から1885年にかけてヨハネス・ブラームスが作曲した最後の交響曲。第2楽章でフリギア旋法を用い、終楽章にはバロック時代の変奏曲形式であるシャコンヌ[1]を用いるなど、擬古的な手法を多用している。このことから、発表当初から晦渋さや技法が複雑すぎることなどが批判的に指摘されたが、現在では、古い様式に独創性とロマン性を盛り込んだ、円熟した作品としての評価がなされており、4曲の交響曲の中でも、ブラームスらしさという点では筆頭に挙げられる曲である。同主長調で明るく終わる第1番とは対照的に、短調で始まり短調で終わる構成となっているが、これは弦楽四重奏曲第1番第2番シェーンベルク管弦楽に編曲しているピアノ四重奏曲第1番など、ブラームスの室内楽曲では以前から見られる構成である。ブラームス自身は「自作で一番好きな曲」「最高傑作」と述べている。演奏時間約40分。

 

【演奏の模様】

①モーツァルト:交響曲第29番 イ長調 K.201

 

 モーツァルトの交響曲は、ベートーヴェン、シューベルト、メンデルスゾーン、シューマン、ブラームスと比べて随分多く有りますね。40曲とも50曲とも謂われます。尤もハイドンの交響曲は100を越しますけれど。余り多いと演奏会で巡り会えるのは、有名な交響曲(例えば名称付)が多いです。知らない曲が随分有ります。この曲も何回か録音で聴いた事がある程度でした。

 今回のAプロに選曲された理由にはきっと深い訳があるのでしょう。

楽器編成 Ob.(2) Hrn.(2) 弦楽五部10型 

楽曲構成 全4楽章。演奏時間は約25分。第3楽章のみソナタ形式で書かれていない。

第一楽章 Allegro moderato

第二楽章 Andante

第三楽章 Menuet

第四楽章 Allegroconspirito

 サントリーホールでの初日(11/20)にレーガーのモーツァルト変奏曲を聴いた時、主題奏とレーガー流の変奏部分の対比は面白かったのですが、やはりモーツァルトの曲その物を聴きたいという欲求にも駆られました。そのモーツァルトの正真正銘の響きを今日聴くことが出来て、将に感動も倍加した訳です。ペトレンコ・ベルリンフィルの演奏は、一楽章の1Vn.の柔らかいアンサンブルや二楽章でのHrn.と⇒Ob.の美しい響き三楽章でのHrm.とOb.のファンファーレ斉奏など、最上の材料で和菓子パティシエが造り上げた極上の生菓子の如く、姿も味わいもこの上無きものでした。勿論ペトレンコとオケ奏者の共同作品です。

 若い時から聴き慣れたモーツァルトらしい色んな響きを堪能出来ました。特に弱音系が良かったなー。

 

(参考)

1.アレグロ・モデラートの第1主題は,「ド→ド」という主音のオクターブ下降+同音反復の繰り返しで始まります。はじめはひっそりと始まり,各声部が主題に対して次第に立体的に絡んで奥行きのある表情を出していきます。管楽器が加わってフォルテになる部分ではカノン風になるなど,密度の高い書法で書かれています。こういう密度の高さはモーツァルトのこれまでの曲にはみられなかったものです。

第2主題の方は淡々とした表情を持っていますが,ここでもフーガ的な動きが見られます。この楽章は全体にアポロ的な落ち着いたたたずまいを見せるていますが,時折,訴えかけるような表情も見られます。この第2楽章にもそういう魅力があります。この第2主題の後にもう一つ副主題が出てきます。こちらも美しさが湧き上がってくるような魅力を持っています。この主題が次々と出てくる「多主題性」は,モーツァルトの特徴となっています。

展開部は短いものですが,第1主題のオクターブ動機がフーガ風に扱われたり,第2主題に関連のある動機が次々と転調されるなど,充実した内容となっています。再現部が型通り行われた後,充実したコーダになります。ここでは第1主題がフーガのストレッタ風に処理され,堂々と結ばれます。

2.弱音器付きのヴァイオリンによる静謐さを持った主題ではじまりまるしっとりとしたアンダンテ楽章です。複付点リズムが特徴的です。晩年の緩徐楽章にも匹敵する室内楽的緊密さで書かれている。ここでも主旋律に他楽器が対位法的に絡み合い,豊かな歌を作っています。第2主題も弦楽器だけによる優雅なメロディです。その後,細やかな音の動きを伴った副主題に受け継がれます。この主題はさらにオーボエが引き継ぎます。3連符の小結尾の後,展開部に入ります。

展開部でもこの3連符が多様されます。調性がいくつか変化した後,原調に戻り再現部になります。ここでは第1主題が少し主題が拡張されています。また第2主題がホルンで反復されるのも呈示部と違う点です。コーダでは初めて弱音器が取り外されます。鶴の一声のようなオーボエに続いて,瑞々しい弦楽器の響きが出てきて,爽やかに楽章は締めくくられます。

3.複合3部形式からなるリズミッカルなメヌエット楽章です。付点音符が散りばめられた楽しさがありますが,舞曲的というよりはシンフォニックです。弦楽器を中心に進められた後,各節の終わりでは,オーボエとホルンのユニゾンによるファンファーレが入ります。トリオはしっとりとした流麗さを持っています。管楽器がずーっと音を伸ばしているのも印象的です。再度,最初のメヌエットに戻って終わりますが,曲の最後,管楽器のファンファーレでフッと終わっているのにもとぼけた味があります。

4.快活さのうちに緊密な構成を示したアレグロ・コン・スピリートの楽章です。ホルンの力強い響きも聞かれるのでちょっと狩の雰囲気も漂います。第1楽章の第1主題と呼応するかのようにオクターブ下降音型で始まります。その後,堰を切ったように駆け上っていくのが爽快です。第2主題は対照的に旋律的なものに変わります。第2ヴァイオリンが演奏する上に,第1ヴァイオリンが装飾をくっつけて行きます。

展開部は第1主題の動機のみで構成されて執拗に繰り返されます。その繰り返しが心地よい緊張感を作っていきます。再現部の後,第1主題の素材によるコーダで力強く全曲が結ばれます。

 


②ベルク:オーケストラのための3つの小品 Op.6

楽器編成 拡大された四管編成

木管楽器

Fl.(4)(Picc.4持ち替え)Ob.(4)A管Cl.(4) B管Bas-Cl.(1) Fg.(3) Cont-Fg(1)

金管楽器

F管Hrn.(6) F管Trmp.(4) Trmb.(3) Bas-Trmb.(1)

Tub.(1)

打楽器

Timp.(2) 大太鼓 小太鼓 シンバル(大太鼓取付)

タムタム(大 小) テノールドラム トライアングル

グロッケンシュピール シロフォン チェレスタ

大ハンマー(非金属音)

弦楽器 弦楽五部16型(16-14-12-10 -8) Hrp.(2) 

曲構成 題名通り3つの楽章からなります。

演奏時間約20分

第1楽章 前奏曲(Präludium)

第2楽章 輪舞(Reigen)。

第3楽章 行進曲(Marsch)

この音楽を聴いてやはり近・現代音楽の響きを感じました。シェーンベルクの弟子だったと言いますが、シエーンベルクの曲自体をほとんど知りません。プログラムノートに依れば、マーラーの影響があり、❝マーラー風のフレーズも聴こえる❞と有りましたが、聞いていて分からずじまい。確かに大編成のオーケストラ陣容でしたので、それ等の楽器の出音を耳で追い目で確かめる「観るオーケストラ」の楽しみはあり、全体としては「音の饗宴」が続きました。でも本音を言うと、こうした類いの曲は苦手です。演奏する人達は演奏しがいがあるだろうなー、弾いていて「音の饗宴」に酔いしれるだろうなーと思うことはあるのですが、自分は酔えませんでした。

 

 

(参考)

1.Langsam(遅く) - Ein wenig bewegter(少し動きを増して) - Tempo der Korrespond Stelle(同一部のテンポで)。4/4拍子。打楽器のみの合奏で始まり、中間部は次第に高潮するが、終わりはまた打楽器だけの合奏に戻る。

2.Leicht, beschwingt(明るく軽やかに) - langsame Walzertempo(ゆっくりとしたワルツのテンポで) - a tempo。2/2拍子 - 3/4拍子。緩徐楽章の趣を持つ。両端部分では第1楽章終盤の動機が用いられ、中間部はパロディがかったワルツとなる

3.Mäßiges Marschtempo(Tempo I)(中庸な行進曲のテンポで) - Flottes Marschtempo (Tempo II) (きびきびとした行進曲のテンポで)- Allegro energico(Tempo III)。4/4拍子。最長の時間をかける楽章で、マーラーの交響曲第6番や『ヴォツェック』の行進曲との類似が顕著である。行進曲の三連符や符点リズムに乗って数々の動機が複雑に絡み合う。


③ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 Op.98

楽器編成 二管編成 弦楽五部14型 

Picc.(2番フルート持ち替え) Fl.(2)

Ob.(2) Cl.(2) Fg.(2) Cont-Fg.(1) Hrn.(4) Trmp.(2)  Hrn.(4) Trmp.(2) Trmb.(3) ティンパニ(3)Tria.(1)

楽曲構成 全四楽章構成 

演奏時間 40分程

第一楽章 Allegro non troppo(15分)

第二楽章 Andante moderato(11分)

第三楽章 Allegro giocoso(6分)

第四楽章 Allegro energico e passionate(11分)

 今日の一番のお目当てはブラームスでした。先週11/12(日)にウィーンフィルのブラームス交響曲第1番を聴いたばかりですが、今日は第4番でした。1番は先の演奏会記録(HUKKATS Roc.)にも書きましたが、随分と若い時代から聞いて来てその素晴らしさをかなり理解しているつもりです。それに対し4番を聴く機会は1番よりかなり後の年代だったので、それを咀嚼し、自分の心に、自分の腑に落とす理解度が、1番程では無かったのです。しかし4番も聞けば聞く程その良さが心に滲みて来て、今では甲乙付け難いお気に入りになってしまいました。

 ペトレンコ・ベルリンフィルの今日の演奏は、第一楽章の美しい旋律をホール一杯に満たし、うっとりと夢見心地にさせた後は、次の楽章になればなるほど熱が籠って来て、それぞれのパートの奏者は、自分の持ち分の中で全体との協調を崩さないぎりぎりの線まで自己主張し、それが全体のパワーを増大させていたと思う。それは個々の演奏技術の確固たる基盤の上に成り立つもので、指揮者が無いものをいくら求めても出ないその真逆のケースがこのオーケストラの世界に冠たる所以でしょう。最終楽章の中盤での木管たちの掛け合い、Fl.(トップ男性 パユではありません)のソロ音からOb.⇒Cl.⇒Ob.やHrn.(2)からドールソロ音そして再度Fl.(トップ)の独奏へと遷移する箇所は管部門の大きな見せ場だったと思いました。皆素晴らしい音を出していた。全員特上のテクニックを身に着けているのでしょうね、きっと。特にドール氏を筆頭とするHrn.部隊は、この曲ではずらりと並んだ4名が楽器を少し持ち上げて水平にして一列状態を誇張して吹く姿は、見た目にも壮観で、前曲のベルクの時など6台並んだ金ピカの楽器を水平横一列に整列して、吹き終わり時は一人づつ元の位置に楽器を下げる様子は一種の将棋倒し効果があって壮観そのものでした。勿論弦楽部隊も大活躍、第二楽章では、コンマス(というか女性だったのでコンミス)のソロ音がとても美しく、先日のサントリーの時の樫本さんに負けず劣らぬ素晴らしい音色で弾いていました。Va⇒Vc+Vaのアンサンブルの掛け合いに、コンミスと管の掛け合い、さらにはそこにFl.やHrn.の合いの手が入る箇所など、またその後の弦楽アンサンブルの低音旋律の滔々とした流れ等、この様な響きは聴いたことないと思う程の熱の入れ様でした。

 勿論曲最後の盛り上がり、即ち弦部門と管部門が交互に強奏音を掛け合った後、暫し静かに推移して、再度弦楽部隊の獅子奮迅の力演がペトレンコの指揮捌きとTimpのテンポ刻みにより速度を増して、ジャジャンジャン、ジャジャンジャン、ジャジャンジャンを繰り返し、遂にはジャーンジャーンと終焉する迫力たる也、類を見ないのではと思う程のものでした。

 すぐにタクトを降ろしたペトレンコ、すかさず会場は大怒号と拍手で満たされました。皆高い料金を払って聞きに来て良かったと謂わんばかりの聴衆の熱狂ぶりでした。

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(参考)

1.短調。2/2拍子ソナタ形式ヴァイオリン休符を挟んで切れ切れに歌う第1主題によって開始される。この主題は3度下降の連続、その後6度上昇の連続という動機から成り立ち、哀切な表情を湛えている(最初の8音は三度の下降分散和音に還元できる)。それがロ短調へ推移してロマンチックな緊張感を帯びていくと、突如、管楽器の三連音を含む古色味のある楽句によって断ち切られる。この楽句がこののち、第1主題と並んで重要な動機となり、続いて歌われるチェロホルンによるロ短調の印象的な旋律も(これを第2主題と見る解釈もあるが、ここでは経過句とする)すぐこの三連音の動機へと移行する。木管と弦が緊張を解くように掛け合うと、木管がやはり三連音を使ったなめらかな第2主題をロ長調で出し、小結尾は三連音の動機で凱歌をあげる。提示部は、4つの交響曲中ただひとつ繰り返されない。そのためか展開部は第1主題が原型のままで始まる。展開部で最初に扱われるのは第1主題だが、やがて三連音動機も加わる。遠いティンパニ・ロールの轟をともなって、木管によって寂しげに第1主題冒頭が再現されるが、第1主題9音目から提示部と同じ姿に戻り、そのあとはロ短調への転調もなく、ホ短調からホ長調へと型どおり進む。しかし小結尾では三連音の動機を繰り返しながら再び悲劇的な高まりを強め、第1主題のカノン風強奏を迎えてコーダにはいる。コーダはほぼ第1主題提示部の強奏変奏の形で、そのまま悲劇的に終結する。終止は、サブドミナント(IV)からトニカ(I)に移行するプラガル終止(アーメン終止・変格終止)を採用している

 

2,ホ長調。6/8拍子。展開部を欠いたソナタ形式。ホルン、そして木管が鐘の音を模したような動機を吹く。これは、ホ音を中心とするフリギア旋法である。弦がピチカートを刻む上に、この動機に基づく第1主題が木管で奏される。これも聴き手に古びた印象を与える。ヴァイオリンが第1主題を変奏すると、三連音の動機でいったん盛り上がり、静まったところでチェロがロ長調の第2主題を歌う。単純明快な旋律だが、弦の各パートが対位法的に絡み、非常に美しい。再現部はより劇的に変化し、第2主題の再現は、8声部(第1・第2ヴァイオリンとヴィオラがディヴィジする)に分かれた弦楽合奏による重厚なものとなる。最後にフリギア旋法によるホルン主題が還ってきて締めくくられる。

 

3ハ長調。2/4拍子。ソナタ形式。過去3曲の交響曲の第3楽章で、ブラームスは間奏曲風の比較的穏やかな音楽を用いてきたが、第4番では初めてスケルツォ的な楽章とした(ただし、3拍子系が多い通常のスケルツォと異なり、2/4拍子である)。

冒頭、第1主題が豪快に奏される。一連の動機が次々に示され、快活だがせわしない印象もある。ヴァイオリンによる第2主題はト長調、やや落ち着いた表情のもの。展開部では第1主題を扱い、トライアングルが活躍する。ホルンが嬰ハ長調でこの主題を変奏し、穏やかになるが、突如、第1主題の途中から回帰して再現部となる。コーダでは、ティンパニ(全交響曲中この曲のこの楽章と第4楽章では3台使用、通常は2台)の連打の中を各楽器が第1主題の動機を掛け合い、大きな振幅で最高潮に達する。

 

4.ホ短調。3/4拍子。バスの不変主題の上に、自由に和音と旋律を重ねるシャコンヌ(一種の変奏曲)。管楽器で提示されるこのシャコンヌ主題は8小節で、先に述べたとおり、バッハのカンタータから着想されたといわれる。楽章全体はこの主題と30の変奏及びコーダからなる。解釈上いくつかの区分けが考えられるが、ここでは、30の変奏をソナタ形式に当てはめた解釈によって記述する。

aシャコンヌ主題 主音から出発して属音まで6つ上昇、オクターブ下降して主音に戻るという、E-F♯-G-A-A♯-B↑-B↓-Eの8つの音符からなる(上記のバッハの主題とは、A♯以外一致する)。注目すべきことに、シャコンヌ(またはパッサカリア)の通例とは異なり、旋律主題がバスではなく高音域に置かれている。IV度の和音に始まり、和声進行は定型通りではなく、属和音も5度音が下方変位させてあり、最後の和音は長調となるピカルディー終止。

b提示部-第1-15変奏

・第1主題相当部-第1-9変奏

・経過部-第10-11変奏

・第2主題相当部-第12-15変奏 

ここでは3/2拍子に変わり、テンポが半分に遅くなる。第12変奏で印象的なフルート・ソロが聴かれる。第13変奏でホ長調に転調し、第14変奏と第15変奏では、管楽器によるサラバンド風の慰めるような歩みとなる。

c展開部-第16-23変奏 

第16変奏で冒頭のシャコンヌ主題が再現し(和声付けは異なる)、ここから後半部にはいる。第23変奏で再びシャコンヌ主題の形がはっきり現れてくる。

d再現部-第24-30変奏 

第24変奏から第26変奏までは、第1変奏から第3変奏までの再現で、より劇的。最後の2つの変奏(第29及び第30変奏)では下降3度音程の連続によって、第1楽章第1主題が暗示される。ブラームス自身によるピアノ4手(2台ではなく1台)連弾編曲版のみTempoIが置かれ、冒頭のテンポに戻される。

e.コーダ ピウ・アレグロに速度を速め、さらに緊張を高めて劇的に終結する。