HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

都響976回定期演奏会(尾高+ヴィニツカヤ)を聴く

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【日時】2023.5.29.(月)19:00~

【会場】サントリーホール

【管弦楽】東京都交響楽団

【指揮】尾高 忠明

【独奏】アンナ・ヴイニツカヤ(Pf.)

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Profile〉

 2007年、エリザベート王妃国際音楽コンクール優勝。翌年、ランランなどが過去に受賞したバーンスタイン賞を受賞。
イスラエル・フィル、ミュンヘン・フィル、ベルリン放響、ベルリン・ドイツ響、バンベルク響、ロイヤル・フィル、バーミンガム市響などの著名オーケストラと、また、フェドセーエフ、インバル,デュトワ、ネルソンス、インキネン、サラステ、カンブルラン、リットン、ウルバンスキ、フィッシャー、ギルバート、キリル・ペトレンコなどの巨匠たちと共演。19年9月、ベルリン・フィル定期演奏会に登場。驚愕の名演奏を披露した。21年9月には同楽団パリ公演で、キリル・ペトレンコの指揮にて再共演を果たす。
 09年よりハンブルク音楽演劇大学でピアノ科の教授を務めている。
 初来日は07年。以降、毎年のように来日。これまでにN響、都響、大フィル、新日本フィル、神奈川フィル、九響などと共演。

 

【曲 目】
①ラフマニノフ(レスピーギ編曲):絵画的練習曲集より《海とかもめ》op.39-2

 

(曲について)

ロシア生まれの作曲家セルゲイ・ラフマニノフ(1873~1943)には、《絵画的練習曲》と題されたピアノ曲集が、op.33とop.39の2つある。このうちop.39は全9曲からなり、1916年12月12日(ロシア旧暦11月29日)にペトログラード(現サンクトペテルブルク)において、作曲者自身のピアノで初演された。なお、この曲集は、ラフマニノフが革命を逃れてロシアを出国する前に最後に完成した作品となった。本日演奏されるop.39-2が作曲された時期は不明だが、この曲集の多くの曲には1916年9月または10月の日付があるので、おそらくそのころに書かれたと思われる。
 イタリアの作曲家オットリーノ・レスピーギ(1879~1936)による管弦楽編曲は、ボストン交響楽団の指揮者だったセルゲイ・クーセヴィツキー(1874~1951)の依頼で行われた。ムソルグスキーの組曲《展覧会の絵》のラヴェルによる編曲(1922)で大きな成功を収めていた彼は、さらにロシアのピアノ曲を管弦楽化したいと考え、ラフマニノフの作品を選んだのだ。
 クーセヴィツキーは、ラフマニノフ自身に数曲を選ぶように依頼し、リムスキー=コルサコフに学んだ管弦楽法の名手としても知られるレスピーギに編曲を依頼した。ラフマニノフはこの申し出を喜び、1930年1月、《絵画的練習曲》op.33から1曲、op.39から4曲の計5曲を選び、直接レスピーギに伝えた。また、彼はレスピーギに、各曲のイメージについての簡単な説明を書き送った。op.39-2についての《海とかもめ》というプログラムはこのときに明かされたものだ。それ以上の具体的な内容についてラフマニノフは何も語っていないが、規則的な3拍子の左手が「海」、3拍子のリズムや小節線にとらわれず自由に飛翔する右手の旋律が「かもめ」を表していると考えるのが妥当だろう。なお、ラフマニノフは、作曲の際に絵や詩などをインスピレーションの源にすることがときどきあったようだが、通常、それを明かすことはなかったので、これはまれな例だ。
 レスピーギは誠実に仕事を行い、ラフマニノフも原曲に忠実な彼の編曲に満足し、感謝を表した。

 

②ラフマニノフ『パガニーニの主題による狂詩曲 op.43』

曲について)

 セルゲイ・ラフマニノフ(1873~1943)は、ピョートル・チャイコフスキー(1840~93)に連なるロシア・ロマン的な作風を求めた作曲家だった。一方で大ピアニストとしても活躍した彼は、そうした作風を名技的なヴィルトゥオーゾ性と結び付けたピアノ曲の名作を多数生み出している。
 ピアノと管弦楽のための《パガニーニの主題による狂詩曲》もそうしたラフマニノフのピアノ作品の特質がはっきり現れた作品で、技巧的なピアニズムがロシア風の叙情を湛えたロマン派的書法のうちに生かされている。作曲は1934年で、主にスイスの別荘で書き進められた。
 20世紀も半ば近いこの時代は音楽様式もロマン派の時代から脱却し、様々な流れが生み出されていた。ロシア革命後はアメリカを本拠としていたラフマニノフも当然そうした新しい音楽に触れる機会は多かったはずだが、この《狂詩曲》にみられるとおり、彼はどこまでもロマン的な作風を固守した。時代の流れに抗してまで19世紀ロシアの伝統を守ろうとしたその姿勢は、時代錯誤と片付けられない決然としたものが感じられる。
 ピアノの技巧性とともに管弦楽の雄弁さも生かしたこの作品は、“狂詩曲”の題にふさわしく気分の変化が激しいが、構成上は明快な変奏曲形式(序奏、主題と24の変奏、およびコーダ)をとる。主題は、多くの作曲家がやはり変奏曲の主題として用いたニコロ・パガニーニ(1782~1840)の《無伴奏ヴァイオリンのための24のカプリス》第24番の有名な主題である。(寺西基之)

 

③エルガー:交響曲第2番 変ホ長調 op.63

(曲について)

まれにしか、本当にまれにしか来ない、汝、歓びの精霊よ!」という英国ロマン派の詩人パーシー・ビッシュ・シェリー(1792~1822)の詩の一節を楽譜の冒頭に掲げ、「ヴェニス、ティンタジェル 1910~11」と(楽想の始まりと作品完成の)地名と作曲年が記された、エドワード・エルガー(1857~1934)の交響曲第2番。この曲は、公には1910年5月に崩御した「故エドワード7世国王陛下の想い出」に捧げられている。英国王エドワード7世(在位1901~10)は行進曲《威風堂々》第1番のトリオに歌詞を付けて《希望と栄光の国》に編曲することを勧め、エルガーをナイトに叙した大恩ある君主であった。全編に溢れるノスタルジックな空気から、この曲を「エドワード時代」という短くも輝かしい時代への挽歌と見ることは間違いではない。
 しかし公的な説明とは別に、この曲にはエルガーのミューズであったアリス・ステュワート=ウォートリー(1862~1936)という佳人への密かな思いが込められている。アリスは「オフィーリア」で有名なラファエル前派の画家ジョン・エヴァレット・ミレー(1829~96)の娘で、保守党議員の男爵の妻であった。才色兼備のアリスはエルガーの音楽の理解者であり、エルガーは彼女を「ウィンドフラワー(アネモネ)」の愛称で呼んでいた。愛妻家のエルガーがアリスとの関係で道を外れることはなかったが、交響曲第2番の随所に現れる、やるせない憧れの感情は『トリスタンとイゾルデ』に通じるものがある。作品を完成したティンタジェルはイングランド南西部コーンウォール地方の村。ステュワート=ウォートリー夫妻の出身地であると同時に、アーサー王伝説の舞台でもあった。この伝説の柱の一つはアーサー王、ギネヴィア王妃、騎士ランスロットの間の苦しい三角関係である。そのように考えると、冒頭のシェリーの詩の一節も意味深長に聞こえる。交響曲第2番には《エニグマ変奏曲》(1899)以上に多くの謎が封じ込められていると言えよう。

(等松春夫)

 

 

【演奏の模様】

今日の演奏は、ラフマニノフとエルガーです、珍しい組合せと言えるでしょうか。指揮者の尾高さんは英国歴が長く、エルガーを得意とする指揮者、一方、ピアノ独奏者のアンナ・ヴィニツカヤはラフマニノフの有名な、ピアノコンチェルトも言える「狂詩曲」を弾きます。又最初の演奏はラフマニノフのピアノ曲を原型としたレスピーギ編曲の管弦楽曲です。

 

①ラフマニノフ(レスピーギ編曲):絵画的練習曲集より《海とかもめ》

 楽器構成は三管編成弦楽五部14型(14-12-12-6-6)

10分位のそう長くない曲でしたが、レスピーギ編曲とは言え、ラフマニノフの原曲の彼らしい個性的調べがそこかしこに滲み出ていていい曲だと思いました。

 プログラムノートによれば、この曲の編曲が終わって、クーセヴィッキーが初演した時ラフマニノフは、どうやら楽譜の出版時に誤りが多かったことがきっかけで気分を害し、クーセヴィツキーの指揮で行われた初演には出席しなかったそうです。

   管弦楽曲は余り演奏されない様でピアノ曲の方が良く知られています。
 曲は3部形式で書かれていて、原曲の主部は、左手がアルペッジョ、右手が旋律を弾く、ショパンの夜想曲風の音楽で、レスピーギの編曲は、アルペッジョを第2ヴァイオリンやヴィオラ、旋律を第1ヴァイオリンやクラリネットなどのオーケストレーションに仕上げています。グレゴリオ聖歌《怒りの日》の「ドシドラ」という音型、編曲でも使われ、この音型を含む旋律をクラリネットとヴィオラなどで表現。
 中間部は雰囲気が一転し、それまで沈黙していたテューバやコントラバスを含む低音楽器の重々しい響きでスタート。原曲ではここで、両手で9音に及ぶ厚い和音が鳴り、この曲で初めてのfが記されている。編曲では、この和音にほとんどすべての管楽器が当てられ、これに重なってタムタムが鳴ると、音楽は大きな波のようにうねりはじめて高揚感がでました。この辺りが副題の海のうねりと、同時に高音部演奏でカモメが海の上を飛んでいる状況を表そうとしたのかも知れません。
 最後のクラリネットの上行音型に重ねて、金管とタムタム、そして全13パートに分割された弦楽があたかもフーガに疑似した様に重なっていくオーケストレーションが面白くかつ綺麗な風景を連想させるものでした。

 

②ラフマニノフ『パガニーニの主題による狂詩曲 』

楽器編成は協奏曲シフトで二管編成弦楽五部。若干の楽器の減・追加が有り。

この曲は昨年9月に、ヴァイグレ指揮読売響をバックにパヴェル・コレスニコフ(Pavel Kolesnikov)という若手ピアニストが弾いたのを聴きました。

2022.9.24.(土)14.00~

【会場】東京藝術劇場コンサートホール

【管弦楽】読売日本交響楽団

【指揮】セバスティアン・ヴァイグレ   

【独奏】パヴェル・コレスニコフ(Pavel Kolesnikov)ピアノ演奏     

その時記した各変奏曲の特徴を以下に再掲します。

 

パガニーニ『24の奇想曲』第24曲の主題提示部分。この主題を用いて当楽曲を作曲した。
主題と24の変奏から成る。一般の変奏曲と異なり、第1変奏のあと、第2変奏の前に主題を置いている。

主題は、パガニーニのヴァイオリン曲『24の奇想曲』第24番「主題と変奏」の「主題」を用いている。すなわち、パガニーニと同じ主題を使って別の変奏を試みているのである。イ短調。

序奏:Allegro vivace イ短調 2/4
主題の部分の動機が3回繰り返される。
〇第1変奏:Allegro vivace イ短調 2/4
オーケストラによって主題が間欠的に演奏される。主題:L'istesso tempo イ短調 2/4
ピアノが主題を間欠的に演奏する中、ヴァイオリンが主題を演奏する。第1変奏が主題を間欠的に演奏しているため、この主題が、あたかもこの第1変奏の変奏であるかのように聞こえる

〇第2変奏:L'istesso tempo イ短調 2/4
ピアノとオーケストラが役割を交代する。後半になって変奏曲らしい装飾が十分に聞かれるようになる。

〇第3変奏:L'istesso tempo イ短調 2/4
オーケストラが細かく動く中、ピアノがゆったりとオブリガードを演奏する。

〇第4変奏:Più vivo イ短調 2/4
いくらか急にテンポを増す。動機を2つのパートが素早く掛け合いを行う。
・第5変奏:Tempo precedente イ短調 2/4
歯切れの良いリズムになる。

〇第6変奏:L'istesso tempo イ短調 2/4
同一のテンポながら、オーケストラの動きが止まり、ピアノもひとフレーズごとに動きが緩やかになる。                  

〇第7変奏:Meno mosso, a tempo  mederato イ短調 2/4
いよいよテンポが遅くなり、グレゴリオ聖歌の『レクイエム』の「怒りの日」のテーマをピアノが演奏する。ラフマニノフが生涯にわたってこだわり続けたこのテーマは、この曲にあっては前述のパガニーニの伝説に登場する悪魔を示していると言われる。

〇第8変奏:Tempo I イ短調 2/4
最初のテンポに戻り、下から突き上げるようなリズムがあがってくる。

〇第9変奏:L'istesso tempo イ短調 2/4
逆付点リズムのような3連符の鋭いリズムで「怒りの日」を変奏する。

〇第10変奏:Poco marcato イ短調 4/4
「怒りの日」の変奏。クライマックスで3/4拍子と4/4拍子が交代する変拍子となる。静まって次の変奏を迎える。

第11変奏:Moderato イ短調 3/4
ヴァイオリンとヴィオラが静かに同音を細かく反復する(トレモロ)中、ピアノが動機を幻想的に繰り返す。後半は拍子を失い、カデンツァ的に演奏される。そのピアノをハープのグリッサンドが飾る。

〇第12変奏:Tempo di minuetto ニ短調 3/4
はじめてイ短調以外の調で奏される。「メヌエットのテンポ」とはいうもののあまりメヌエットらしさはない。後半のホルンのオブリガードが印象的。

〇第13変奏:Allegro ニ短調 3/4
3拍子に変えられはするものの、主題がヴァイオリンなどにより比較的はっきりと現れる。

〇第14変奏:L'istesso tempo ヘ長調 3/4
初めて長調が現れる。主題は鋭く角張って変奏される。

〇第15変奏:Più vivo scherzando ヘ長調 3/4
前半はピアノだけで演奏される。ピアニスティック(ピアノ技巧的)な演奏が聞かれる。

〇第16変奏:Allegretto 変ロ短調 2/4
一転して陰鬱に動機を繰り返す。

〇第17変奏:Allegretto 変ロ短調 4/4(12/8)
ピアノが低音でもぞもぞと動く中、オーケストラが動機のあとの部分を繰り返す。

〇第18変奏:Andante cantabile 変ニ長調 3/4
主題は別として、この曲の中で特に有名な部分である。しばしば単独で演奏される。パガニーニの主題の反行形(上下を反対にした形)[註 1]を、最初はピアノが独奏で演奏し、オーケストラが受け継ぐ。

〇第19変奏:A tempo vivace イ短調 4/4
最初の調に戻り、夢が覚めたような印象を与える。ピアノがすばしこく上下へ動き回る。手の大きいラフマニノフならではの奇抜な演奏手法である。

〇第20変奏:Un poco più vivo イ短調 4/4
ヴァイオリンがもぞもぞも動き回る中、ピアノが歯切れ良く鋭い音を出す。

〇第21変奏:Un poco più vivo イ短調 4/4
ピアノが低音を蠢きながらときどきおどかすように高音に現れる。

〇第22変奏:Un poco più vivo (Alla breve) イ短調 (4/4)
ピアノが重く鋭く和音を刻む。最後はピアノのカデンツァとなって、動機を繰り返す。

〇第23変奏:L'istesso tempo イ短調 2/4
主題が明確に現れた後で、ピアノとオーケストラの掛け合いとなり、最後にはカデンツァ風となる。

〇第24変奏:A tempo un poco meno mosso イ短調〜イ長調
ピアノが弱奏ですばやく動き回る。10度を超える難しい跳躍をスケルツァンド風に演奏する。金管楽器が「怒りの日」を短く奏した後、トゥッティ で盛り上がるが、最後はピアノが主題の断片を極めて弱く演奏して曲を閉じる。

 

 その時の 演奏者コレスニコフは、ロシアの30歳前半のピアニストで、国際コンクールで優勝している位ですから、基礎はしっかりしていていい演奏でした。しかし変奏が進んで、西欧風のリズムと色彩が強い箇所になると、荒々しさはあってもややその曲の表現が未だし、といった感じを受けました。それに比し今回のヴィニツカヤは、成熟した手練れの指使いで、リズムもジャズ風のアクセントを強調して弾いたり、何よりも先ず、その打鍵の一つ一つがしっかりとしていた。オケの全奏箇所も多かったけれども、全然オケに負けず、音の聞えない処はほとんどなかったと言って良いと思います。

 今回はいつもは取らない一階の鍵盤と指使いが良く見える席でした(通常二階の鍵盤の見える席です。)彼女の演奏は指を割りと立てて弾いていて、指一本一本が太くはないけれどその骨格が頑丈に見え、フォルテは勿論、ピアニッシモでもしっかりと鍵盤を押している風でした。軽快な変奏箇所や手がクロスするパッセッジも多かったのですが、そうした時は素早く軽やかに、動かしている手(手の平+指)は非常に柔らかい感じを受けました。旋律の区切りに来ると、最後の音を打ってその反動で瞬時に手を引っ込める仕草が多かった。

 全体としてオケに合わせる演奏というよりも、オケを牽引しているのではとさえ思われる力強い演奏でした。

 欲を言えば、例の第18変奏は割りと控え目な演奏でしたが、もっと派手で華やかな弾き方を聴きたかった様な気もします。

 尚この曲では、あちこちの作曲家が自分の曲に取り入れている、グレゴリオ聖歌の《怒りの日》の旋律が、第7変奏、第10変奏他で出てきました。その辺りのヴィニツカヤの演奏は、それ程暗くもなく激しすぎることもなく、気負わずむしろさらっとした弾き方をしていた様に思う。いずれにせよ、欧州の空気を一杯ピアノに反映して演奏人生を重ねて来た彼女の演奏は、冒頭の若手ロシアンピアニストの演奏とは自ずから大差のあるのものでした。

 演奏終了後、会場からの絶大な拍手と声援に応えて、アンコール演奏がありました。

 

《ソロアンコール曲》 ラフマニノフ『絵画的練習曲集Op.33》より第2番ハ長調

 

 この曲は、タイトルからして分かる様に、

①の管弦楽曲の基となったピアノ曲Op.39のセットとも言える練習曲集『音の絵』Op.33(第1~第9)から第2番目の独奏ピアノ曲です。

 軽快で速いテンポの曲で、低音域から高音跳躍音を鳴らしながら次第に高音域に進行し、煌めく美しさのある短い曲でした。

 

 尚、上記の〈Profile〉にある様に彼女は、ベルリンフィルと何回か共演し、2019年にはフィッシャー指揮で共演していて、プロコフィエフの協奏曲第2番を弾いているのを、ベルリンフィル・デジタルコンサートホールで見ました。やはり一打一打の打鍵がしっかりしていて、とても強く指の動きも軽やか、男性顔負けの豪快な演奏をしていました。

ベルリンフィルとヴィニツカヤ

プロコフィエフピアノ協奏曲2番を弾く

ここで《20分の休憩》です。


後半の演奏曲は、
③エルガー『交響曲第2番 』です。結構長い曲で一時間近くかかったのでは?と思います。

楽器構成は、管・弦・打とも増えて、基本三管編成、弦楽五部16型か(16-14-12-8-8?)今日最大数。左翼にVn.などの弦楽器が右翼の弦楽器の倍は有ると思われる程の大所帯で集まっていました。

次の四楽章構成です。

第1楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ・エ・ノビルメンテ 

第2楽章 ラルゲット 

第3楽章 ロンド/プレスト 

第4楽章 モデラート・エ・マエストーソ

 

 最初からいきなり、弦楽アンサンブルの全奏と金管が鳴り響く、美しい大きな調べで開始。Timp.は弦を囃し立て、Vn.は綺麗に音を揃え、Cb.はボンボンと底音を効かせています。第一楽章では弦の連続的なアンサンブルに様々な管楽器の合いの手が入ったりして耳触りは良いのですが、演奏者としてはかなり複雑で難しそうです。全体的にはVn.アンサンブル主流の楽章でした。部分の旋律は綺麗な処も多いのですが統一感からするとやや雑多感が残る楽章でした。

 第二楽章はとても綺麗な旋律が多くて、前半のVn..アンサンブルと金管とのゆったりしたボールのやり取りの箇所、その後Timp.の強打を合の手として鳴り響く金管の音、全弦の緩やかな上行アンサンブルの箇所など、魅力的な響きを感じて聴いていました。 またこの楽章の後半でも、Fl.(2)の調べが響く中、Cb.のpizzicatoが下支えをし、Vn.群が合の手を入れそして静まる箇所、そして弦の緩やかな美しい調べが次第に弱くなり二回目の静まり、同様にして三回目の静まりに至る長い緩やかな流れは、非常に心地良いものに感じた。

 三楽章はスケルツオ的な非常に速いテンポの調べで、最初から最後までおどけた感じで溢れていました。

 最終楽章ではスタートのHr.のアンサンブルが良く纏まり、金管主導で暫く進みましたが、弦が力を盛り返し、Vn.アンサンブル(左翼にはVn.の他Va.が混じっていたかも知れない?)他のユニーゾーンの音が分厚く響きズッシリ感が有りました。

 この楽章の最後の全弦楽アンサンブルにTrmb. Hrn. Fl.などが管が入り、堂々とした迫力ある響きが暫く鳴ってから静まったので、終わりかと思うとさにあらず、再度Vn.アンサンブルのピアニッシモが美しく響き出し、Hp.が盛んに合わせて静かに流れるVn.アンサンブルの消え入る様な調べが、Timp.の合図とともに少し盛り返したかと思うと、今度は本当に終焉を迎えました。

 Vn.アンサンブルの美しさだけでなく、この楽章では確か中頃にVcアンサンブルの渋い響きが何回も繰り返され、それをVn.アンサンブルが受け継ぐ箇所もとても良かった。

 実際に聴いた感じはこの位にして各楽章の特徴をプログラムノートが詳細に記しているのでそれを以下に引用しておきます。

1.ソナタ形式による重層的でラプソディックな楽章。わずか1小節の序奏に続いて、躍動的な第1主題がトゥッティで提示される。主題の2小節めに現れる、1オクターヴ半にわたって下行する音形が「歓びの精霊」を示すモットー・テーマであり、さまざまに形を変えながら全曲にわたって登場する。
 しばらくエルガー特有の「高貴な(ノビルメンテ)」行進曲調の音楽が続いた後、ハープのアルペッジョを伴った抒情的な第2主題を第1ヴァイオリンが歌い始めるが、調性は揺れ動いて定まらない。まもなくチェロに現れる不安を喚起するような旋律(第3主題に相当する)はエルガーが「庭隅に渦巻く瘴気のようなもの」と表現しており、第3楽章ロンドの中心的素材となる。お天気雨のように刻々と変化する気分が描かれ、「属和音→主和音」という定石の終止形はほとんど現れない。
 展開部では常套的な盛り上げを避け、弱音器を付けた弦楽による静謐な響きが特徴。やがて動きを増し、金管のfffの咆哮とともに再現部へ突入する。モットー・テーマが輝かしく登場するコーダでようやく「属和音→主和音」の終止形が姿を見せ、楽章を鮮やかに閉じる。
 

2.葬送行進曲調の楽章。「提示部~展開部~再現部~展開部~コーダ」という、展開部が2度出現する変則的なソナタ形式。弦楽による柔らかな序奏に続き、トランペットを中心とした管楽器が悲痛な第1主題を奏する。第1ヴァイオリンによる慰めに満ちた旋律が第2主題。展開部ではホルンを中心に息の長いモティーフで勢いを増し、「ノビルメンテ・エ・センプリーチェ(高貴に、素朴に)」と記されたffに至る。
 再現部の第1主題は悲嘆に暮れるオーボエのオブリガートを伴い、やがてトゥッティのオーケストラが滂沱と涙を流すさまは、ブルックナーの交響曲第7番アダージョ楽章のクライマックスを想起させる。コーダでは第1ヴァイオリンが「歓びの精霊」のモットー・テーマを侘しげに回想し、消え入るように終わる。
 

3.焦燥に満ちたスケルツォ楽章。スケルツォ主部は、飛び跳ねるような音形のA、弦が情熱的にうねるB、第1&2ヴァイオリンによるきっぱりとしたCの3素材による「A-B-A-C-A」のロンド形式。トリオ(中間部)では木管の爽やかなフレーズに弦が優しく応答する。スケルツォ主部の再現部で、第1楽章に現れた「庭隅に渦巻く瘴気」の旋律がタンブリンやティンパニの連打を伴って荒れ狂うさまは、魔性のものの跳梁を思わせる。エルガーはこの部分を「生きながら埋葬される恐怖」と語っている。


4.ソナタ形式。嵐が過ぎた後の平安の音楽であるが、随所に複雑な想念が姿を見せる。チェロと低音管楽器による穏やかな第1主題で始まり、やがて付点リズムによる決然とした第2主題が弦楽を中心に奏でられる。この第2主題をエルガーは「ハンス・リヒターの主題」と呼んだ(ハンス・リヒター〔1843~1916〕はエルガーの《エニグマ変奏曲》や交響曲第1番の初演を成功に導いた大指揮者)。提示部を閉じる主題には再び「ノビルメンテ(高貴な)」と記されており、厳かな行進曲調。
 展開部は第2主題による激しいフガートで始まり、最初の頂点でトランペットがつんざくようなH(ロ)音を奏でる。原譜では1小節のみであるが、初演の際に奏者が独断で1小節分長く吹き、その効果が気に入ったエルガーは、2小節分でのトランペット演奏も認めた。ブラームス風の2オクターヴ下行するモティーフが展開部を閉じると、再び楽章冒頭の穏やかな空気が戻り、再現部に入る。再現部後半では先ほどのノビルメンテ主題が大きな頂点を築く。
 コーダでは第1主題に導かれてモットー・テーマが木管に一瞬姿を見せる。「歓びの精霊」が宙空に消え入るさまは、雄大な日没と残照を思わせる。なお、エルガーが指揮者エイドリアン・ボールト(1889〜1983)に語った言葉に基づき、コーダに任意でオルガンの低音が加えられることがある

 演奏が終わると、暫く(5~6秒)マエストロ尾高は、タクトを降ろさずそのままの状態を保ち、余韻を確かめている様子でしたが、その後会場は大きな拍手と歓声にまみれました。袖に退出、戻った尾高さんはおもむろに語り始め、❝都響さんには最近呼んでもらえず久し振りに指揮を執りました。でも昨日も他の楽団(=恐らくat浜松)で演奏しましたが。こちら(のオーケストラ)の方がずっと良かった。❞といった趣旨のことをユーモラスに語って、聴衆を沸かせていました。何回もカーテンコールがかかり、団員が退場した後もソロカーテンコールでステージに戻って何か喋っていました。熱心なファンが大きな声でブラボーを叫んでいた。