◉第2039回 N響定期公演 Aプログラム
当初予定していたウラディーミル・フェドセーエフが来日出来ず、ファンホ・メナが代わりの指揮をしました。
【日時】2025.6.7.(土)18:00〜
【会場】NHKホール
【管弦楽】NHK交響楽団
【指揮】ファンホ・メナ
〈Profile〉
スペインとフランスをまたいで位置し、独自の文化を育むバスク地方。その中心都市のひとつ、スペイン側のビトリア・ガステイスに生まれる。地元の音楽院で学んだ後、マドリード王立音楽院でエンリケ・ガルシア・アセンシオに指揮を師事。卒業後ドイツに渡り、セルジュ・チェリビダッケから8年間にわたり薫陶を受けた。1999年、バスク地方を代表するオーケストラ、ビルバオ交響楽団の首席指揮者兼芸術監督に就任。以後ジェノヴァのカルロ・フェリーチェ劇場およびノルウェーのベルゲン・フィルハーモニー管弦楽団の首席客演指揮者、マンチェスターのBBCフィルハーモニックのチーフ・コンダクター、シンシナティ5月音楽合唱祭のプリンシパル・コンダクターを歴任する。またベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団、バイエルン放送交響楽団、シカゴ交響楽団、ニューヨーク・フィルハーモニック、クリーヴランド管弦楽団、ロサンゼルス・フィルハーモニック、フィラデルフィア管弦楽団など世界各地の著名オーケストラにも客演を重ねている。N響の舞台にはこれまで、2017年1月、2021年1月に登場。3度目の共演となる2025年6月、メナはAプログラムでラフマニノフとチャイコフスキーを組み合わせたロシア・プログラムを、Bプログラムでブルックナー《交響曲第6番》などを指揮する。
2016年5月にベルリン・フィルにデヴューしています。
【独奏】ユリアンナ・アヴデーエワ
〈Profile〉
ユリアンナ・アヴデーエワは1985年モスクワ生まれ、早期の音楽教育で有名なモスクワ市立グネーシン音楽学校で学び、2003年からはチューリヒ芸術大学でコンスタンティン・シチェルバコフに師事した。
2006年にジュネーヴ国際音楽コンクールピアノ部門で1位なしの2位となって注目を浴び、さらに2010年ワルシャワのショパン国際ピアノコンクールで優勝して一躍その名声を高めた。以後は世界各地でのリサイタル、多くのオーケストラとの協奏曲の共演、ザルツブルクやルツェルンをはじめとするさまざまな音楽祭への出演など、世界のピアノ界の最前線を行くピアニストのひとりとしてめざましい活躍ぶりを示しており、フォルテピアノ奏者としても活動している。作品全体をしっかり見据えながら細部の表情を綿密に彫琢(ちょうたく)して濃(こま)やかな情感を織り込んでいく演奏は高く評価されている。
N響とは2014年以来の久々の共演。曲はラフマニノフの《パガニーニの主題による狂詩曲》で、彼女らしい確かな造形のうちに、この作品の持つロマン的な情感と演奏技巧の鮮やかさの両面を表し出してくれるに違いない。N響とは2014年以来の久々の共演です。
【曲目】
①リムスキー・コルサコフ/歌劇「5月の夜」序曲
(曲について)
『五月の夜』(ごがつのよる、ロシア語: Майская ночь)は、ニコライ・リムスキー=コルサコフが作曲し、1880年に上演された3幕からなるロシア語のオペラ。初期の『プスコフの娘』(1872年)以来、リムスキー=コルサコフが書いた2番目のオペラである。
ニコライ・ゴーゴリの『ディカーニカ近郷夜話』に収める物語「五月の夜、または水死女」を元にして、リムスキー=コルサコフ本人がリブレットを書いた。
1880年1月9日(グレゴリオ暦1月21日)にサンクトペテルブルクのマリインスキー劇場で、ナプラヴニクの指揮によって上演された。村長をフョードル・ストラヴィンスキー、カレニクをイヴァン・メルニコフが演じた。
作品の中にはサンクトペテルブルク音楽院のリムスキー=コルサコフの同僚であったアレクサンドル・ルベツ(Александр Иванович Рубец)が1872年に出版したウクライナ民謡集から採られた8曲のウクライナ民謡が使われている。
②ラフマニノフ/パガニーニの主題による狂詩曲 作品43
(曲について)
タイトルは「狂詩曲(ラプソディ)」となっているが、事実上は主題があって、それの二十四の変奏曲から成る変奏曲集だと言える。主題として使われるのは、パガニーニ (1782-1840)の〈カプリス〉で、24の変奏曲から成る。その中で第 18番変奏曲が最も有名である。
③チャイコフスキー/交響曲 第6番 ロ短調 作品74「悲愴」
(曲について)
チャイコフスキー最後の大作であり、その独創的な終楽章をはじめ、彼が切り開いた独自の境地が示され、19世紀後半の代表的交響曲のひとつとして高く評価されている。この『悲愴』と言う副題は、少なくとも曲が完成した9月には作曲者自身がこの題名を命名していたことが分かっている。また初演のプログラムに副題は掲載されていないが、チャイコフスキーがユルゲンソンに初演の2日後の10月18日(グレゴリオ暦では10月30日)に送った手紙で「悲愴交響曲(Simphonie Pathétique)」という副題をつけて出版することを指示している。
【演奏の模様】
①リムスキー・コルサコフ/歌劇「5月の夜」序曲
初めて聞いた曲ででぃた。今回は予習する時間的余裕がなく、ぶっつけ本番で聴きました。このオペラは勿論何も知りませんが、プログラムノートにある様に、あちこちで聞こえた「下方変位音形」の手法は、一般的に、聞いて耳受けが良い印象があると謂われ、次曲の「悲愴」でも使われていて、この作曲家もチャイコフスキー程ではないですが、バレエ音楽にも精通していたと推論出来ます。自分としてはこうした旋律とオーケストレーションは好きな部類です。メナ・N響の演奏は、ソフトでありながら力強くもあり聞いていて心地良く腹にストンと落ちるものが有りました。今回のフェドーセ―エフの代役とは言え、経歴を見ると世界中で活躍してきたこの指揮者は、N響とも三回目の共演ということでかなり互いに気心が知れた仲なのでしょう。 また欧州演奏会を経て、一段と一回り成長した感じの演奏をしたN響でした。特にHrn.他の管と弦楽章の掛け合いが嚙み合った魅力を感じましたし、単純だけれど素朴な旋律の繰り返しにも好感の持てる曲と演奏でした。
②ラフマニノフ/パガニーニの主題による狂詩曲 作品43
この曲に関しては、昨年の5月に アンナ・ヴェニツカヤの演奏を聴きました。その時の記録を参考まで、文末に(抜粋再掲)しておきます。
次の序奏と21の変奏曲から成ります。
◉主題 パガニーニのヴァイオリン曲『24の奇想曲』第24番「主題と変奏」の「主題」を用いている。すなわち、パガニーニと同じ主題を使って別の変奏を試みている。イ短調。
〇序奏:Allegro vivace イ短調 2/4
主題の部分の動機が3回繰り返される。
〇第1変奏:Allegro vivace イ短調 2/4
オーケストラによって主題が間欠的に演奏される。主題:L'istesso tempo イ短調 2/4
ピアノが主題を間欠的に演奏する中、ヴァイオリンが主題を演奏する。第1変奏が主題を間欠的に演奏しているため、この主題が、あたかもこの第1変奏の変奏であるかのように聞こえる
〇第2変奏:L'istesso tempo イ短調 2/4
ピアノとオーケストラが役割を交代する。後半になって変奏曲らしい装飾が十分に聞かれるようになる。
〇第3変奏:L'istesso tempo イ短調 2/4
オーケストラが細かく動く中、ピアノがゆったりとオブリガードを演奏する。
〇第4変奏:Più vivo イ短調 2/4
いくらか急にテンポを増す。動機を2つのパートが素早く掛け合いを行う。
・第5変奏:Tempo precedente イ短調 2/4
歯切れの良いリズムになる。
〇第6変奏:L'istesso tempo イ短調 2/4
同一のテンポながら、オーケストラの動きが止まり、ピアノもひとフレーズごとに動きが緩やかになる。
〇第7変奏:Meno mosso, a tempo mederato イ短調 2/4
いよいよテンポが遅くなり、グレゴリオ聖歌の『レクイエム』の「怒りの日」のテーマをピアノが演奏する。ラフマニノフが生涯にわたってこだわり続けたこのテーマは、この曲にあっては前述のパガニーニの伝説に登場する悪魔を示していると言われる。
〇第8変奏:Tempo I イ短調 2/4
最初のテンポに戻り、下から突き上げるようなリズムがあがってくる。
〇第9変奏:L'istesso tempo イ短調 2/4
逆付点リズムのような3連符の鋭いリズムで「怒りの日」を変奏する。
〇第10変奏:Poco marcato イ短調 4/4
「怒りの日」の変奏。クライマックスで3/4拍子と4/4拍子が交代する変拍子となる。静まって次の変奏を迎える。
〇第11変奏:Moderato イ短調 3/4
ヴァイオリンとヴィオラが静かに同音を細かく反復する(トレモロ)中、ピアノが動機を幻想的に繰り返す。後半は拍子を失い、カデンツァ的に演奏される。そのピアノをハープのグリッサンドが飾る。
〇第12変奏:Tempo di minuetto ニ短調 3/4
はじめてイ短調以外の調で奏される。「メヌエットのテンポ」とはいうもののあまりメヌエットらしさはない。後半のホルンのオブリガードが印象的。
〇第13変奏:Allegro ニ短調 3/4
3拍子に変えられはするものの、主題がヴァイオリンなどにより比較的はっきりと現れる。
〇第14変奏:L'istesso tempo ヘ長調 3/4
初めて長調が現れる。主題は鋭く角張って変奏される。
〇第15変奏:Più vivo scherzando ヘ長調 3/4
前半はピアノだけで演奏される。ピアニスティック(ピアノ技巧的)な演奏が聞かれる。
〇第16変奏:Allegretto 変ロ短調 2/4
一転して陰鬱に動機を繰り返す。
〇第17変奏:Allegretto 変ロ短調 4/4(12/8)
ピアノが低音でもぞもぞと動く中、オーケストラが動機のあとの部分を繰り返す。
〇第18変奏:Andante cantabile 変ニ長調 3/4
主題は別として、この曲の中で特に有名な部分である。しばしば単独で演奏される。パガニーニの主題の反行形(上下を反対にした形)を、最初はピアノが独奏で演奏し、オーケストラが受け継ぐ。
〇第19変奏:A tempo vivace イ短調 4/4
最初の調に戻り、夢が覚めたような印象を与える。ピアノがすばしこく上下へ動き回る。手の大きいラフマニノフならではの奇抜な演奏手法である。
〇第20変奏:Un poco più vivo イ短調 4/4
ヴァイオリンがもぞもぞも動き回る中、ピアノが歯切れ良く鋭い音を出す。
〇第21変奏:Un poco più vivo イ短調 4/4
ピアノが低音を蠢きながらときどきおどかすように高音に現れる。
〇第22変奏:Un poco più vivo (Alla breve) イ短調 (4/4)
ピアノが重く鋭く和音を刻む。最後はピアノのカデンツァとなって、動機を繰り返す。
〇第23変奏:L'istesso tempo イ短調 2/4
主題が明確に現れた後で、ピアノとオーケストラの掛け合いとなり、最後にはカデンツァ風となる。
〇第24変奏:A tempo un poco meno mosso イ短調〜イ長調
ピアノが弱奏ですばやく動き回る。10度を超える難しい跳躍をスケルツァンド風に演奏する。金管楽器が「怒りの日」を短く奏した後、トゥッティ で盛り上がるが、最後はピアノが主題の断片を極めて弱く演奏して曲を閉じる。
(抜粋再掲)にも記載した様に、この曲は序奏と24の変奏曲からなり、最終24変奏に近づくにつれ、テンポも速いし指使いも難しそうな、一見で(一聴で)超絶技巧を要すると思われる変奏が多くなって行きました。中にはジャズっぽいではないか?と思われる変奏曲もあり、純粋にパガニーニの曲だけでなく、多くの欧米の音楽の影響もラフマニノフは受けている感じがします。ラフマさんが亡命しなければ到達し得なかった高みなのかも知れません。 ヴイニツカヤの時もそうでしたが、今回のアヴデーエワも同様に、男勝りのパワフルな力演を見せ(と言ってもマツ-エフ程ではないですが)技術的にもほぼミスがなく完璧にちかい演奏には舌を巻きました。流石ショパンコンクールの覇者の貫録を感じました。それにしても第18変奏のあのとろける様な優美な調べはいったい何なのでしょう?パガニーニの主題の反行形にこの様な美しい旋律が潜んでいた等嘘みたいな話、それに気付いたラフマニノフも天才の一人だったのでしょう。
③チャイコフスキー/交響曲 第6番 ロ短調 作品74「悲愴」
〇楽器編成:二管編成(Fl3,Ob2,Cl2,Fg2 Hrn4 Trmp2,Trmb3 Tub1) 打(Timp1,大太鼓,シンバル,銅鑼)弦楽五部16型(16-14-12-10-8)
〇全四楽章構成
第1楽章.Adagio - Allegro non troppo - Andante - Moderato mosso - Andante - Moderato assai - Allegro vivo - Andante come prima - Andante mosso
第2楽章Allegro con grazia
第3楽章Allegro molto vivace
第4楽章Finale. Adagio lamentoso - Andante - Andante non tanto
この曲は、あちこちでちょくちょく演奏されますし、自分としても相当好きな曲なので、これまでいろいろと実演を聴いています。しかしこれまで自分の心にかなりの圧力でプレスされた演奏は、2020年11月に来日公演したゲルギエフ・ウィーンフィルの物凄い演奏でした。この時はまだコロナ禍の時代で、よくぞ来日して呉れたものだと誰もが思ったことでしょう(それ以上に現下の戦禍の時代には絶対来日出来ないのかも知れません)。文末にその時の記録を参考まで(抜粋引用2)して置きました。
本作の初演後、従姉妹のアンナ・ペトローヴナ・メルクリングを家まで送る道中、アンナ・ペトローヴナに対して「新作の交響曲が何を表現しているか分かったか」と尋ね、彼女が「あなたは自分の人生を描いたのではないか」と答えたところ「図星だよ」と言ってチャイコフスキーは喜んだと記しているそうです。さらにアンナ・ペトローヴナに対して「第1楽章は幼年時代と音楽への漠然とした欲求、第2楽章は青春時代と上流社会の楽しい生活、第3楽章は生活との闘いと名声の獲得、最終楽章は〈De profundis(深淵より)〉さ。人はこれで全てを終える。でも僕にとってはこれはまだ先のことだ。僕は身のうちに多くのエネルギー、多くの創造力を感じている。(中略)僕にはもっと良いものを創造できるのがわかる」と話したとも謂われます。この時点でもチャイコフスキーは、旺盛な制作意欲に燃えていたと考えられますが、それにしても、四楽章の寂しさ、溢れんばかりの深い暗さは、一体何なのでしょう?この曲の初演から僅か9日目に作曲者は突然亡くなってしまうとは?これまた単なる偶然だったのでしょうか?しかも個人的には、以前からの疑問が頭を持ちあげるのです。以下(抜粋再掲2)の赤字部分にも示す様に、第3楽章で終結したとしても、十分曲としての完結性と終了感は保たれるのに(3楽章構成の交響曲は少ないけれど有りましたから、卑近の例を挙げれば、6月5日に小泉・都響で聴いたモツ31番<パリ>など)、わざわざ4楽章目を付けたして、最後の最後はまるでこと切れる様に静かに終焉を迎えるのは、単なる偶然と思えない、やはりここに何か不気味な超人間的現象さえ感じられる気がしてなりません。何れにせよ今回のファンホ・メナ/N響は、そうした事をあれこれ思い起こさせる演奏会でした。
/////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////2023.5.30.HUKKATS Roc.(抜粋再掲)
【日時】2023.5.29.(月)19:00~
【会場】サントリーホール
【管弦楽】東京都交響楽団
【指揮】尾高 忠明
【独奏】アンナ・ヴイニツカヤ(Pf.)
〈Profile〉
2007年、エリザベート王妃国際音楽コンクール優勝。翌年、ランランなどが過去に受賞したバーンスタイン賞を受賞。
イスラエル・フィル、ミュンヘン・フィル、ベルリン放響、ベルリン・ドイツ響、バンベルク響、ロイヤル・フィル、バーミンガム市響などの著名オーケストラと、また、フェドセーエフ、インバル,デュトワ、ネルソンス、インキネン、サラステ、カンブルラン、リットン、ウルバンスキ、フィッシャー、ギルバート、キリル・ペトレンコなどの巨匠たちと共演。19年9月、ベルリン・フィル定期演奏会に登場。驚愕の名演奏を披露した。21年9月には同楽団パリ公演で、キリル・ペトレンコの指揮にて再共演を果たす。
09年よりハンブルク音楽演劇大学でピアノ科の教授を務めている。
初来日は07年。以降、毎年のように来日。これまでにN響、都響、大フィル、新日本フィル、神奈川フィル、九響などと共演。
【曲 目】
①ラフマニノフ(レスピーギ編曲):絵画的練習曲集より《海とかもめ》op.39-2
(曲について)
《割愛》
②ラフマニノフ『パガニーニの主題による狂詩曲 op.43』
(曲について)
セルゲイ・ラフマニノフ(1873~1943)は、ピョートル・チャイコフスキー(1840~93)に連なるロシア・ロマン的な作風を求めた作曲家だった。一方で大ピアニストとしても活躍した彼は、そうした作風を名技的なヴィルトゥオーゾ性と結び付けたピアノ曲の名作を多数生み出している。
ピアノと管弦楽のための《パガニーニの主題による狂詩曲》もそうしたラフマニノフのピアノ作品の特質がはっきり現れた作品で、技巧的なピアニズムがロシア風の叙情を湛えたロマン派的書法のうちに生かされている。作曲は1934年で、主にスイスの別荘で書き進められた。
20世紀も半ば近いこの時代は音楽様式もロマン派の時代から脱却し、様々な流れが生み出されていた。ロシア革命後はアメリカを本拠としていたラフマニノフも当然そうした新しい音楽に触れる機会は多かったはずだが、この《狂詩曲》にみられるとおり、彼はどこまでもロマン的な作風を固守した。時代の流れに抗してまで19世紀ロシアの伝統を守ろうとしたその姿勢は、時代錯誤と片付けられない決然としたものが感じられる。
ピアノの技巧性とともに管弦楽の雄弁さも生かしたこの作品は、“狂詩曲”の題にふさわしく気分の変化が激しいが、構成上は明快な変奏曲形式(序奏、主題と24の変奏、およびコーダ)をとる。主題は、多くの作曲家がやはり変奏曲の主題として用いたニコロ・パガニーニ(1782~1840)の《無伴奏ヴァイオリンのための24のカプリス》第24番の有名な主題である。
③エルガー:交響曲第2番 変ホ長調 op.63
(曲について)
《割愛》
【演奏の模様】
今日の演奏は、ラフマニノフとエルガーです、珍しい組合せと言えるでしょうか。指揮者の尾高さんは英国歴が長く、エルガーを得意とする指揮者、一方、ピアノ独奏者のアンナ・ヴィニツカヤはラフマニノフの有名な、ピアノコンチェルトも言える「狂詩曲」を弾きます。又最初の演奏はラフマニノフのピアノ曲を原型としたレスピーギ編曲の管弦楽曲です。
①ラフマニノフ(レスピーギ編曲):絵画的練習曲集より《海とかもめ》
楽器構成は三管編成弦楽五部14型(14-12-12-6-6)
②ラフマニノフ『パガニーニの主題による狂詩曲 』
楽器編成は協奏曲シフトで二管編成弦楽五部。若干の楽器の減・追加が有り。
この曲は昨年9月に、ヴァイグレ指揮読売響をバックにパヴェル・コレスニコフ(Pavel Kolesnikov)という若手ピアニストが弾いたのを聴きました。
2022.9.24.(土)14.00~
【会場】東京藝術劇場コンサートホール
【管弦楽】読売日本交響楽団
【指揮】セバスティアン・ヴァイグレ
【独奏】パヴェル・コレスニコフ(Pavel Kolesnikov)ピアノ演奏
《割愛》
パガニーニ『24の奇想曲』第24曲の主題提示部分。この主題を用いて当楽曲を作曲した。
主題と24の変奏から成る。一般の変奏曲と異なり、第1変奏のあと、第2変奏の前に主題を置いている。
主題は、パガニーニのヴァイオリン曲『24の奇想曲』第24番「主題と変奏」の「主題」を用いている。すなわち、パガニーニと同じ主題を使って別の変奏を試みているのである。イ短調。
その時の 演奏者コレスニコフは、ロシアの30歳前半のピアニストで、国際コンクールで優勝している位ですから、基礎はしっかりしていていい演奏でした。しかし変奏が進んで、西欧風のリズムと色彩が強い箇所になると、荒々しさはあってもややその曲の表現が未だし、といった感じを受けました。それに比し今回のヴィニツカヤは、成熟した手練れの指使いで、リズムもジャズ風のアクセントを強調して弾いたり、何よりも先ず、その打鍵の一つ一つがしっかりとしていた。オケの全奏箇所も多かったけれども、全然オケに負けず、音の聞えない処はほとんどなかったと言って良いと思います。
今回はいつもは取らない一階の鍵盤と指使いが良く見える席でした(通常二階の鍵盤の見える席です。)彼女の演奏は指を割りと立てて弾いていて、指一本一本が太くはないけれどその骨格が頑丈に見え、フォルテは勿論、ピアニッシモでもしっかりと鍵盤を押している風でした。軽快な変奏箇所や手がクロスするパッセッジも多かったのですが、そうした時は素早く軽やかに、動かしている手(手の平+指)は非常に柔らかい感じを受けました。旋律の区切りに来ると、最後の音を打ってその反動で瞬時に手を引っ込める仕草が多かった。
全体としてオケに合わせる演奏というよりも、オケを牽引しているのではとさえ思われる力強い演奏でした。
欲を言えば、例の第18変奏は割りと控え目な演奏でしたが、もっと派手で華やかな弾き方を聴きたかった様な気もします。
尚この曲では、あちこちの作曲家が自分の曲に取り入れている、グレゴリオ聖歌の《怒りの日》の旋律が、第7変奏、第10変奏他で出てきました。その辺りのヴィニツカヤの演奏は、それ程暗くもなく激しすぎることもなく、気負わずむしろさらっとした弾き方をしていた様に思う。いずれにせよ、欧州の空気を一杯ピアノに反映して演奏人生を重ねて来た彼女の演奏は、冒頭の若手ロシアンピアニストの演奏とは自ずから大差のあるのものでした。
演奏終了後、会場からの絶大な拍手と声援に応えて、アンコール演奏がありました。
《ソロアンコール曲》 ラフマニノフ『絵画的練習曲集Op.33》より第2番ハ長調
この曲は、タイトルからして分かる様に、
①の管弦楽曲の基となったピアノ曲Op.39のセットとも言える練習曲集『音の絵』Op.33(第1~第9)から第2番目の独奏ピアノ曲です。
軽快で速いテンポの曲で、低音域から高音跳躍音を鳴らしながら次第に高音域に進行し、煌めく美しさのある短い曲でした。
尚、上記の〈Profile〉にある様に彼女は、ベルリンフィルと何回か共演し、2019年にはフィッシャー指揮で共演していて、プロコフィエフの協奏曲第2番を弾いているのを、ベルリンフィル・デジタルコンサートホールで見ました。やはり一打一打の打鍵がしっかりしていて、とても強く指の動きも軽やか、男性顔負けの豪快な演奏をしていました。
ここで《20分の休憩》です。
後半の演奏曲は、
③エルガー『交響曲第2番 』です。結構長い曲で一時間近くかかったのでは?と思います。
楽器構成は、管・弦・打とも増えて、基本三管編成、弦楽五部16型か(16-14-12-8-8?)今日最大数。左翼にVn.などの弦楽器が右翼の弦楽器の倍は有ると思われる程の大所帯で集まっていました。
次の四楽章構成です。
第1楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ・エ・ノビルメンテ
第2楽章 ラルゲット
第3楽章 ロンド/プレスト
第4楽章 モデラート・エ・マエストーソ
最初からいきなり、・・・・以下割愛。
////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////2020-11-08 HUKKATS.Roc.(抜粋再掲2)
《速報1》『ウィーンフィルハーモニー管弦楽団来日公演(2020.11.8.atミューザ川崎』を聴きました
ウィーンフィルミューザ公演
待ちに待ったウィーンフィルの公演が、サントリーホールに先駆けて、ミューザ川崎で行なわれました。指揮のゲルギエフは、今や世界的な伝説的大指揮者とも言えるでしょう。15年振りの来日です。この指揮者とウィーンフィルの組み合わせで生演奏を聴けることは、、コロナ禍の世界状況にあって夢の様な大事件です。音楽を愛する人々だけでなく、コロナに苦しめられているすべての人々に夢と希望を与えることでしょう。世界的な大ニュースです。
演奏会の概要は以下の通りです。
【日 時 】
2020年11月8日(日) 17:00開演
【会 場 】
ミューザ川崎シンフォニーホール
【演 奏】
ウィーンフィルハーモニー管弦楽団
【指 揮】
ワレリー・ゲルギエフ
*ゲルギエフは生まれ(1953年)はモスクワですが、長くレニングラード(サンクトペテルブルグ)との関わり合いが深いものがあります。20歳台前半でマリエンスキー劇場の指揮者となり、現在まで同劇場の総裁を務めロシアのオペラ等の発展に大きな貢献をしてきました。ロンドン交響楽団をはじめウィーンフィル他多数の世界的交響楽団を指揮し、今や世界的指揮者とされています。プロコフィエフの曲を得意とする。
【独 奏】
デニス・マツーエフ
*マツーエフは1975年イルクーツク生まれ、イルクーツク音楽院、モスクワ音楽院で学んだピアニスト。1998年、第11回チャイコフスキーコンクールで優勝以降、リサイタルや著名指揮者やオーケストラとの競演を重ねています。ゲルギエフとの共演は2017年12月来日公演の際、ラフマニノフのコンチェルトを一番から4番までをマリインスキー歌劇場管弦楽団をバックに演奏し話題となりました。その他音楽祭や芸術祭への参加も多い。
【楽器構成(曲で入れ替え有)】
基本、拡張された2管編成。
木管楽器:フルート3(1人はピッコロ持ち替)、オーボエ2、コーラングレ、クラリネット2(第2奏者は小クラリネットを兼ねる)、バス・クラリネット、テナー・サクソフォーン、ファゴット2、コントラファゴット
金管楽器:コルネット、トランペット3、ホルン4、トロンボーン3、チューバ
打楽器:ティンパニ、トライアングル、ウッド・ブロック、マラカス、タンブリン、小太鼓、シンバル、大太鼓、鐘、
(1名のティンパニ奏者と5名の打楽器奏者)
鍵盤楽器:オルガン、ピアノ、チェレスタ
撥弦楽器:ハープ2、
擦弦楽器:独奏ヴィオラ・ダモーレ(もしくはヴィオラ)、弦楽5部 基本10型
弦楽器の人数は特に指定されていないが、コントラバス(8)が5声に分割される部分がある。
【演奏曲目】
①プロコフィエフ:バレエ音楽『ロメオとジュリ エット:作品64 』
(第2組曲より)
1.モンタギュー家とキャ ピュレット家、
2.少女ジュリエット、
(5.仮面、第1組曲)
7.ジュリエットの墓の前のロメオ
②プロコフィエフ『ピアノ協奏曲第2番ト短調 作品16』
③チャイコフスキー『交響曲第6番口短調作品74「悲愴」』
【演奏速報】
今回はプロコフィエフの曲が中心でしたが、これはゲルギエフが最も得意とするところです。
①『ロミオとジュリエット』
《詳細割愛》
②『ピアノ協奏曲第2番』
この曲は、かなり難しく高度のテクニックを要しますが、直木賞受賞作品『蜜蜂と遠雷』の中で、主人公の永伝亜夜が、コンクール本選で弾いた曲と言った方が、すぐ分かると思います。
マツーエフは初めて聴きますが、がっしりした体躯の中年(失礼)のピアニストでした。その演奏するコンチェルトは一言で言えば「素晴らしい」かった。テクニックも音楽性も特に弱音演奏が綺麗に響いていました。
《以下割愛》
③チャイコフスキー『悲愴』
この曲をゲルギエフの指揮、ウィーンフィルの演奏で、生で聴けるなんて夢みたいです。もう死んでもいいとまでは言いませんが、溢れる満足感、あとは何も要らないという気持ちになりました(聴き終わった後空腹感から何か食べたいとも思いましたけれど)。
ウィーンフィルの『悲愴』は、録音ですとカラヤンなどの指揮のものを聴いているのですが、今回の生演奏は、それらと比較にならないほど遙かに凄かった。やはり名指揮者による名管弦の生演奏は違いますね。
まず、指揮者のゲルギエフが凄い。”炎の指揮者”とも呼ばれる(日本にも同様に呼ばれている人がいましたっけね)ゲルギエフ、いつだったかNHKテレビで放送していたのですが、第二次大戦中にショスタコーヴィチが作曲した交響曲第7番『レニングラード』を指揮していました。その熱情的な指揮に触発されたオーケストラのアンサンブルは、また聴いてみたい、生で聴いてみたい、と思わすものでした。
曲は概ね[急-舞-舞-緩]という珍しいテンポの四楽章構成です(勿論、急に緩有り、緩に急有りですが)。
1楽章が一番長く(約20分)、ファゴットの音と続く弦の出だしは、不気味な憂鬱感に満ちたものですが、1楽章前半終わり近くのゆったりした切ないメロディは綺麗ないい調べですね。最後のpppをバスクラリネットがほんとに聞こえない位の消える音で、締めくくりました。ゲルギエフは、そのかすかな音をたぐり寄せる様に、指揮の手を楽器に向けて指揮していました。
①の曲からここまでは、ゲルギエフは、録画でみるのとは打って変わってかなり冷静沈着に全体的に力まずウイーンフィルの奏者の出音を確認する様にタクトを振っていました。
中盤の突然、突き上げるかの様なパンチのある強列な音、全パートの強奏が続き、アンサンブルの響きの何と迫力と一体性があるのでしょう。それが終わると最後はゆったりとした主題に戻って静かに終了しました。
続く第2楽章と3楽章は短い楽章です。
③ー2の民族音楽的調べの舞曲風な流麗なメロディを、ゲルギエフは少し早いテンポで引っ張り、オケも力強さの中に優雅さを失わない流石の演奏でした。静かに終了しました。
③ー3は速いテンポのスケルツォから発展するマーチ風のメロディから構成。軽快なリズムで全力演奏する弦のアンサンブルは最後まで続き、次第に盛り上がって、普通だったら全曲の終わりかと思える程の完璧な終了でした(ダメ押しにティンパニがダダダダンと終了宣言)。何とせわしない楽章なのでしょう。チャイコフスキーの命を削って乗り移らせたみたいな手に汗握る楽章です。それにしてもウィーンフィルの演奏は何とアンサンブルの音の響きが重厚なのでしょう。こんなすごいアンサンブルを聴くのは久し振りです。 ピッコロやテューバやシンバルの音がアクセントでピリッと聞こえました。
第3楽章の終わり方から見ると次の最終楽章はどうも付け足しの楽章と思えてなりません。もし3楽章と4楽章を入れ替えて演奏したらどんな印象になるのでしょうか?
いや前言を取り消します。この考えは間違っています。付け足しどころか第4章は冒頭から分厚い重量感のあるアンサンブルでいかにもチャイコフスキーらしいメロディの連続です。第5番の4楽章の脱兎の如き速いテンポの迫力あるシンフォニーの響きとは異なり、こうしたゆったりした響きを作り出せるとは、チャイコフスキーはやはりすごい人です。名楽章中の名楽章でしょう。ゲルギエフはここまで次第に力が入って来た指揮をここでは全霊を込めた感じで身振り手振りを大きく振ってオケを引張っています。
タムタムの音からブラスの響きで一旦静まった弦アンサンブルが再び異なるメロディで静かに鳴らしそっと全曲を終えました。指揮者は相当疲れている筈ですが、ゲルギエフは微塵も外に出しません。聴いている方も疲れました。万雷の拍手に迎えられる指揮者とオケの団員、会場に響く拍手は鳴りやみません。いつも『悲愴』を聴いて思うことは、暗い雰囲気の箇所も多いですが、素敵でロマンティックとさえ言えるメロディがふんだんにあるこのシンフォニーを映画音楽、特に悲恋などの恋愛映画にもっと使われないものかと思うのです。調べると、SF映画「ソイレント グリーン」ぐらいしか見当たりません(あとは彼の生涯のエピソードを綴った映画位か?)
こんな妄想はさて置き、兎に角今日の演奏は、素晴らしいの一言に尽きました。
鳴りやまない拍手に、やおら指揮台にたったゲルギエフはアンコール曲を振り始めました。チャイコフスキー・バレー組曲『眠りの森の美女作品66a』から第4曲「パノラマ」でした。
通常よりも随分遅いテンポですが、pかppの極細音でオケはゆったりとしっとりと演奏しました。ゲルギエフはときどき左手を裏返し、感情をこめて指揮している。そのオケの統率は見事と言う他無いです。
以上、コロナとの闘いという一種の戦時下で今日の演奏は、乾き切った心に干天の慈雨の如き潤いをもたらして呉れました。有難う、ゲルギエフ、ウィーンフィル、関係者の皆さん!!