◯東京交響楽団第724回定期演奏会
【日時】2024年9月21日(土) 18:00開演
【会場】サントリーホール
【管弦楽】東京交響楽団
【指揮】秋山和慶
<Profile>
1941年東京生まれ。青山学院初等部、青山学院中等部、桐朋女子高等学校音楽科、桐朋学園大学音楽学部卒業。
指揮法を齋藤秀雄、ピアノを井口秋子、ホルンを千葉馨、打楽器を岩城宏之に師事。「齋藤メソッド」(指揮法)の継承者であり、小澤征爾、山本直純らと共に齋藤秀雄の門下生。齋藤の下で厳しい指導を受ける。
1984年には、恩師・斎藤秀雄を偲んで小澤征爾と共に「斎藤秀雄メモリアルコンサート」を開催。このコンサートがサイトウ・キネン・オーケストラの発足につながる。
1969年に洗足学園大学(現:洗足学園音楽大学)音楽学部客員教授、1989年に同大学専任教授 兼 附属指揮研究所長に就任。2011年に洗足学園音楽大学特別教授 兼 芸術監督[17]に就任。斎藤メソッドの後進指導にもあたっている。
1964年に東京交響楽団を指揮してデビュー。 大阪フィルハーモニー交響楽団指揮者、カナダのトロント交響楽団副指揮者を経て、1972年から1985年までヴァンクーヴァー交響楽団音楽監督(現桂冠指揮者)。1973年から1978年までアメリカ交響楽団音楽監督、1985年から1993年までシラキュース交響楽団音楽監督(現名誉指揮者)を務める。
クリーヴランド管弦楽団、ニューヨーク・フィルハーモニック、シカゴ交響楽団、フィラデルフィア管弦楽団、ボストン交響楽団、ロサンジェルス・フィルハーモニック、サンフランシスコ交響楽団、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団、ケルン放送交響楽団、ハンブルク北ドイツ放送交響楽団、スイス・ロマンド管弦楽団、チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団など、アメリカ、カナダ、ヨーロッパなどのオーケストラに多数客演。
東京交響楽団桂冠指揮者、ヴァンクーヴァー交響楽団桂冠指揮者、広島交響楽団終身名誉指揮者。日本指揮者協会会長(第5代)。Osaka Shion Wind Orchestra芸術顧問。洗足学園音楽大学 芸術監督・特別教授。
【独奏】竹澤恭子(Vn.)
<Profile>
3才よりヴァイオリンを始め、山村昌一、小林健次、ドロシー・ディレイ、川崎雅夫に師事。73~76年、才能教育研究会海外派遣団の一員として演奏旅行を行う。82年、日本音楽コンクールヴァイオリン部門第一位、84年、アスペン協奏曲コンクール優勝。85年桐朋女子高校音楽科卒業後、ジュリアード音楽院入学。86年、世界最難関のインディアナポリス国際ヴァイオリンコンクールで優勝。
1988年秋、ニューヨークのカーネギーホールと、東京のサントリーホールでの同時デビューリサイタルという快挙を成し遂げたヴァイオリニスト竹澤恭子は若手ホープとして一躍世界の注目を集めた。
その後の演奏活動はめざましく、89年メータ指揮/NYフィル定期にデビュー。フィラデルフィア管、ゲヴァントハウス管、BBC響、バイエルン放送響、93年は読響、新日本フィル、ハンブルグ響、トロント響と共演。94年には、フィラデルフィア管、セントルイス響との共演も決まっている。ニューヨーク・タイムズから「恐るべき才能。国際舞台に躍りでてきた新たな大器」と評された。現在は東京音楽大学でも指導しており、日本人のヴァイオリニストとしては十指に入る名ヴァイオリニストとも謂われる。今後益々の活躍が期待される。
【曲目】
①ベルク『ヴァイオリン協奏曲〈ある天使の思い出に〉』
(曲について)
②ブルックナー『交響曲第4番 変ホ長調 WAB 104《ロマンティック》』
(曲について)
1874年1月2日に作曲を開始し、同年11月22日に書き上げられた。(第1稿、または1874年稿)。
その後、1877年10月12日のヴィルヘルム・タッペルト宛の手紙でこの交響曲の全面的見直しの考えを述べている。1878年1月18日からその改訂作業に着手し、特に第3楽章は全く新しい音楽に置き換えた。この改訂作業は1878年11月に完成した(1878年稿)。この1878年稿の第4楽章は、"Volksfest"(「国民の祭典」「民衆の祭り」等と訳される)と呼ばれることがある。
引き続き1880年、第4楽章を大幅に修正した。この時点で完成されたものを第2稿、または1878/1880年稿と称している。
【演奏の模様】
①ベルク『ヴァイオリン協奏曲〈ある天使の思い出に〉』
〇楽器編成:独奏ヴァイオリン Fl.(2 Picc.1持ち替え) Ob.(2) Cl(2) Bas-Cl(1) Fg(2) Cont-Fg(1) Hrn(4) Trmp.(2) Trmb(2) Bs-Tub.(1)Timp.他 打楽器 Hrp.
二管編成弦楽五部12型
〇演奏時間はおおよそ25~30分。「アンダンテ」と「アレグロ」の2つの楽章で構成されている。各楽章はさらに2つの部分に分けられる。第1楽章は現世におけるマノンの音楽的肖像で、第2楽章はマノンの闘病生活と死による浄化(昇天)が表現されている。
さてベルクの12音技法の曲と聞いただけで、自分の肌には馴染めないかも知れないと思い、大野和士氏の12音調とこの曲の解説(2019年に指揮した模様)録画や二、三の録画演奏を聴いて予習しました。しかしロマンティックな響きを湛えていると大野さんは説明するのですが、やはり何かつまらなく、例えれば演歌カラオケボックスにまぎれたロック音楽を聴くと言った違和感を感じました。
ところが今回の演奏会で竹澤さんの弾くベルクは全く違った音楽に聞えたのです。何が違うか自分でも説明が困難、摩訶不思議?そのスタートからして竹澤さんの響きは違っていた(勿論ソリストが違えば100人十色100通り響きが異なるのは当たり前かも知れませんが。)Hrn.と打の微かな音がする中、竹澤さんは静かにゆっくりとスタートし丹念に音を紡ぎ出していると言った感じ。この丁寧な演奏スタイルは、秋山さんの指揮スタイルに通じるところが有るのかな?などと一瞬思ったりしているうちにソロヴァイオリンは高音域に至りスムーズな出音、とても気持ちがいい調べです。低音域での変化模様もOK、事前に感じた詰まらないと言った印象は微塵も感じませんでした。これだったら大野監督が言う「ロマンティック」な音楽と言ってもおかしくない。隠さずはっきり記しますと、昔から(10年以上も前から)自分は竹澤さんのファンなのです。余り聞きに行かない(行けない)ファンなのですが。そもそも演奏会自体が余り多くないかも知れないし(自分が知らないだけなのかも知りませんが)記録を調べますと、直近の演奏を聴いたのはもうかれこれ二年前でした。その時も今回の秋山さんとの組み合わせでした(オケは東京ニューシティ管弦楽団)。その時の記録の抜粋を文末に再掲して置きます。
今回聴いたベルクのコンチェルト、竹澤さんの手にかかると魔法の様に違って聞こえた、と思ったのは単に「慾目」なのでしょうか?「判官びいき」「あばたもえくぼ」とは考えたくないですが、多少はそれが関係しているのかな?
演奏が終わると会場からは大きな拍手、1階中央ではスタンディングで拍手している男の人もいました。何回も何回も退出を繰り返した後、竹澤さんはアンコール演奏を弾き始めました。秋山指揮者と椅子を譲ろうとする女性1Vn.奏者との光景に会場からは和やかな笑い声も出ました。
《アンコール演奏曲》J.S.バッハ『無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番』より第3楽章アンダンテ
強弱とテンポをわずかに変幻自在に効かせて、静かに心で弾く演奏は、これまで聴いたことないバッハ無伴奏曲の新たな表現でした。素晴らしいの一言に尽きます。
やはり学生時代の日本音楽コンクール優勝者は、その後の精進も半端でないものが有ったのですね。会場からは再び大きな拍手喝采と歓声が鳴り響きました。
②ブルックナー『交響曲第4番《ロマンティック》』
〇楽器編成:木管二管、金管四管編成(Hrn.4)弦楽五部16型(16-14-10-10-8)
〇全四楽章構成
第1楽章Bewegt, nicht zu schnell(17-21分程)
第2楽章Andante quasi Allegretto(14-18分〃)
第3楽章Scherzo. Bewegt – Trio. Nicht zu schnell. Keinesfalls schleppend. – Scherzo=(10-11分〃)(初稿:12-14分〃)
第4楽章Finale. Bewegt, doch nicht zu schnell(19-23分〃)
この4番の交響曲はブルックナーの10弱の交響曲の中で、大雑把に言うと、ベートーヴェンのピアノソナタに例えれば、「悲愴「葬送」「月光」「田園」辺りの中期前後の作品に相当すると言えるかも知れません。気楽に接しられて耽美感に浸れる名曲。それだけ世上、人口に膾炙した旋律を含むからなのかも知れない。勿論中々正確には口ずさむことは出来ませんが、何んとなくそれらの旋律の調べは頭に入っていてハミング出来る様な錯覚にとらわれます。
秋山さんがタクトを動かし、冒頭からHrn.が静かにしかし決然と、テーマである三音を鳴らし、弱いトレモロの弦楽奏は次第に強まって行ったのでした。Hrn.(Top)の音に合わせ、Fl.(2)+Ob.もテーマ奏の高音を張り上げ、自分の頭では、将にゆっくりと日が登る様なイメージが連想されました。弦のトレモロが強奏されると金管群が一斉に大きな音を立て始めます。弦楽も含め2(四分音符)+2拍三連符のテンポのブルックナーリズムでのユニークなテンポで、旋律がクレッシェンドすると全楽全強奏で盛り上がりました。しかし放縦した大音響でなく、指揮者はかなり抑制したGentlyな盛り上がりを演じていました。あたかもGentlemanである指揮者の如く。強奏中の全金管群の斉奏は見事に溶け合っていたし、後の楽章でも奏されるHrn.のこのテーマ音を含め、Hrn.群、特にHrn.トップの安定した管捌きも見事だったと言って良いでしょう。そして又この管弦楽団もVn.アンサンブルの統一性が良く、この1楽章の前後半の少しづつせり上がるVn.アンサンブルの弱奏、特にppでの演奏はとても美しかったし、又その少し後に再度Hrn.がテーマを鳴らした箇所も楽器が良く響いていました。そしてすぐ全楽全強奏になだれ込みましたが、全体として力みは無く、先に記した様な抑制的なVn.トレモロ上の全金管斉奏も全管が揃って、華々しくはないが美しい響きを醸し出していました。
この楽章では様々な楽器に類似のテンポや旋律を、次から次とフーガ風に繰り出させる手法は、やはりブルックナーのオルガニストの経験がものを言っているのでしょう。あの分厚いオルガンのフーガ展開、将に彼は交響曲でそれを再現しようとしていたのかも知れません。
この楽章のフィナーレでの強奏オーケストラの中で、Hrn.奏者が大音でテーマ奏を二回鳴らした響きはとても堂々としたいい響きでした。今回はこれら第一楽章の演奏を聴いてこの後の楽章も安心して聴けると確信しました。
この楽章のフィナーレでの強奏オーケストラの中で、Hrn.奏者が大音でテーマ奏を二回鳴らした響きはとても堂々としたいい響きでした。今回はこれら第一楽章の演奏を聴いてこの後の楽章も安心して聴けると確信しました。
第2楽章の冒頭でのVc.やVa.中心のシックなテーマ奏は、低音弦がやや元気が無い様にも見受けられました。抑制し過ぎでしょうか?美しいですが迫力が無かった。しかし、この楽章後半で木管などと弦楽が掛け合う箇所(Cb.pizzi奏.→Va.+Ob.→Vn.奏Fl.→Ob.Hrn.→Vn.pizzi.奏そして最後にVa.アンサンブル)の他弦pizzi奏下でのVa.の演奏や、この掛け合いの直前でのVa.+Vc.中心のテーマ奏はシックで力強く美しいものでありました。
第3楽章はウキウキ生きいきとしたHrn.のファンファーレからTrmp.奏へと波及し。如何にも楽しそうな活気ある楽章でこれはこれで4番の曲の中でも好きな箇所です。スケルツォですから全楽章の中でもくだけた正装を脱いだ普段着のくだけた感じがいいですね。
またこの楽章後半の盛り上がりは相当な迫力が有り、秋山さんは第1楽章での抑制的な指揮指導をかな繰り脱いで、積極的に打って出た様に見受けられました。フィナーレの全楽全強奏の迫力は相当大きく、他の楽団の例に漏れない凄く拍力有るものでした。東響の奏者の皆さんもこことばかり必死に楽譜と指揮者に食らい付いていた感じでした。
尚この楽章前後半で次第に駆り立てられるテンポと音量が増す中での、Hrn.とTrmp.の掛け合いがとても面白かった。互いに競争して挑発している様でした。
最終楽章はVc.の弱く低いトレモロ中心の弦楽弱奏上でHrn,がゆっくりテーマをゆっくりと鳴らし、次第にHrn.と弦楽の掛け合いに移行、弦楽奏は脱兎の如く駆けだして強奏に至るも次の瞬間、Timp.の強打と金管群のファンファーレが突如分け入り、テーマ奏を変えてしまった箇所はやはりドラマティックで、この変化は「ブルックナー変化」とでも名付けられて然るべき劇的なものだと思いました。兎に角この楽章は一番長大で、何回か迫力ある高揚と鎮静を繰り返し最後に真の最終場面を迎えるのでした。
前半の高揚後のVc.やVaのしっとりとした旋律奏と、それに加わるVn.奏の滑らかな柔らかさは、全オケ咆哮に囲まれた弱者が、楽園に憩いと休息を求めて集まるが如き印象深い箇所でした。そうした美しい憩いの場が有ることが、不敗戦車の進軍の如き硬派ブルックナー交響曲の救いの場となっているのでしょう。
秋山さんがタクトを降ろすと、満員の会場(チケット完売の模様)からは、怒涛の様な聴衆の反応が沸き起こりました。これは4番の演奏のみならず、秋山氏の60年指揮記念に向けた讃辞の意味も込められていたことでしょう。
今回は秋山さんが指揮者活動を初めて60年になる記念演奏会、それを祝って大きな花束が贈呈されました。
その後鳴りやまぬソロカーテンコールの拍手の求めに、再度登壇し拍手に応えていました。
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『東京ニューシティ管弦楽団 第146回定期演奏会』
【日時】2022.3.5.14:00~
【会場】東京芸術劇場コンサートホール【管弦楽】東京ニューシティ管弦楽団
【指揮】秋山和慶
【独奏】竹澤恭子(Vn)
【曲目】
①リスト/交響詩「レ・プレリュード」
②ブラームス/ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
③バルトーク/管弦楽のための協奏曲
【曲目解説(プログラム・ノート)】
①最初の曲交響詩「レ・プレリュード」(割愛)
②ヨハネス・ブラームス(Johannes Brahms/1833年~1897年)のヴァイオリン協奏曲は、
1878年に作曲。ベートーヴェンとメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲と共に、「三大ヴァイオリン協奏曲」とも呼ばれています。またチャイコフスキーも加えて「四大ヴァイオリン協奏曲」と呼ばれることもあります。この頃の「ヴァイオリン協奏曲」と言えば、ヴァイオリンの華やかな印象を持ちますがブラームスのこの作品は一味違います。 オーケストラとヴァイオリンが一つになり、交響曲のような雰囲気です。
穏やかな優美な音楽だけでなく、重厚なサウンドがどっしりと鳴り響くのです。 ただ、そうは言ってもヴァイオリニストにとってはテクニック的にもとても大変で、難曲には変わりありません。9度や10度の音程の重音の多用など、左手がある程度大きくないと演奏困難で、演奏者にとっては難曲として知られています。ドイツ舞曲の3楽章が特に有名。演奏者に依っては40分もの大曲ですが、人気の高いヴァイオリン曲です。
第1楽章: まずオーケストラが大らかでゆったりした第1主題を提示。 さらに様々なメロディを絡ませて進行し、緊張がクライマックスに達するときに、真打登場という感じで独奏ヴァイオリンが入ってきます。 この部分のカッコよさ。 20分以上を要するこの楽章は、交響曲の1楽章といっても違和感のないシンフォニックなスケールの大きさを持っています。
第2楽章: まるでオーボエ協奏曲のようなオーボエソロが優美な旋律を歌い、さらに独奏ヴァイオリンがしっとりとした情緒を深めます。 感傷的な時期にぴったりの哀愁を備えたアダージョ楽章です。
第3楽章: ハンガリー・ジプシー風の主題を持った躍動感溢れる楽章です。 独奏ヴァイオリンは技巧を要求され、ブラームスのアレグロの指示に対して、ヨアヒムがノン・トロッポ(速すぎないで)を後で加え、「そうでないと演奏が難しい」との書き込みをしています。
③バルトーク『管弦楽のための協奏曲』 (割愛)
【演奏の模様】
開演10分前くらいにホールに入りましたが、全体を見回すと半分程度の入りでしょうか?最近に無い少ない観客です。これが開演直前までには、5~6割程度まで増えましたが、満杯な席は1階前面ブロック位で、あとは左翼、右翼も空席が目立ち二階は正面以外はがらがらといった感じでした。
①リスト『交響詩/レ・プレリュード』
《割愛》
②ブラームス『ヴァイオリン協奏曲』
この曲は一昨年、新日フィル演奏で、同じく竹澤さんが弾くのを聞いたことがあります。その時の記録を参考まで文末に再掲(抜粋)しました。今回はオーケストラこそ違いますが、竹沢さんは自分の演奏スタイルを不動なものにしていると思われます。
舞台に現れた竹澤さんは、あたかもタイトルロールを歌うオペラ(でも似た衣装がありましたね)プリマドンナの様な衣装(金銀ラメの入ったというか、絞りで作った様な細かい金銀の斑入りの黒っぽい厚生地ワンショルダージャガードドレス)を纏い登場、管弦楽が鳴り始めました。しばし序曲の演奏の後、やおらヴァイオリンを肩にした竹澤さんが弾き始めました。冒頭第二節はいかにもドイツ的響きの芬々としたズッシリと重い、それでいて軽快とさえ思えるリズム感のあるパッセージです。 何回も弓の根元をヴァイオリンの弦にたたきつける様に打ち下ろした重音は荒々しい力強さを発揮、この最初のパッセッジを聴いただけで、二年前と比べてさらに円熟さを増し一層力強くなったと理解しました。特に高音が研ぎ澄まされ、安定感のある繊細で力の籠った高音旋律がホールの空間を練り歩くさまは、低音の重く響く重音旋律と対比すると、天空をうねり動くオーロラの如く重力から解き放たれた自由の円舞かと錯覚する程でした。演奏初めから終わりまで高音の素晴らしさは筆舌に尽くしがたいものが有りました、ただ一ヶ所の弘法の筆の誤りを除いては。 秋山指揮東ニューシティは、二管+弦楽10-10-8-6-6 でよくソリストを支え、規模の割にはアンサンブルの音も控えめだが要所、要所はしっかりと抑え、二楽章のObソロなどではしっかりと自分たちの存在感を示しました。秋山さんはたびたび聴く指揮者で、昨年末のMUZAジルベスタ・コンや、年初のニューイア・コンでも聴いていますが、実直で手堅い演奏指導をしていると今回も思いました。
確かに非常に難しい曲だと思います。何せ低音部から高音部まであらゆる個所に重音演奏が入って来て超絶技巧の連続、ブラームスはピアニストなのに良くこのようなヴァイオリンの細かいテクニックを駆使した曲を作ったものだと感心します。これも名ヴァイオリニスト、ヨアヒムの協力あってのことでしょう。竹澤さんは広いレパートリーを持たれていますが、彼女のブラームスはわが国では当代きっての一流のものと言えるでしょう。ブラームスのスペシャリストと言っても過言ではありません。
終演後何回か舞台に現れて挨拶を繰り返し、指揮者と管弦楽団に向かってApplauseの様子で、特にオーボエ奏者を讃える仕草をしていました。
鳴りやまぬ拍手に答えてソロアンコールが有りました。
バッハ『無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番 イ短調 BWV 1003 – I. Grave』
BWV1003の四曲の内の第一曲目です。聴いているだけでとんでもなく難しそうな曲だと分かります。重音の響きがバッハの曲では心に染み入りますが、旋律を鳴らしていると同時に一人で伴奏も低音で響かせている将に超人的なテクニックを竹澤さんは披露して呉れました。
《15分の休憩》
休憩後舞台に楽団の理事長(?)が登場、ウクライナの人々の今回の受難に応援の意を込めて、歌手(?)と共にオケがウクライナ国歌を演奏する旨宣言、観客に起立を求めましました。音楽界としては初めての公共公演での意思表示だと思います。気が利いた計らいです。
民間支援団関係者から募金のお願い、ツイッターでの支援#の拡散のお願いがありました。
こうした管弦楽団の柔軟性は来季からの楽団名称変更(パシフィックフィルハーモニア東京)においてもいい結果に結びつくことでしょう。
さて後半はバルトークです。
③バルトーク『管弦楽のための協奏曲』
《割愛》
////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////(抜粋再掲)2020-10-08
『新日フィル+竹澤恭子演奏会(2020.10.8.19h~at サントリーホール)』を聴いてきました。
今日の陽気は雨模様で、11月の様な裏寒い日になりました。これも台風の影響でしょうか?街路樹も少しずつ色づいてきた様です。
今回の演奏会は、新日フィルの定期演奏会で、サントリーホールシリーズの一環として行われたもので、当初、新日フィル総監督上岡指揮で海外のヴァイオリニストを招聘して行う予定だったものが、コロナの影響により指揮が熊倉優、ヴァイオリン独奏が竹澤恭子に代わったものです。熊倉さんは、まだ二十歳代の若手指揮者、桐朋関係の指揮者である梅田俊明、下野竜也両氏に師事した様です。竹澤さんは、確かパリ在住だったと思いますが、かなり前から故郷の日本に戻られて、国内で演奏活動をされていたのでしょう。勿論、中止や延期になった演奏会もあるでしょうが。幸い今日のコンサートは行われ、新日フィルの方針により、近くの座席の接触を避ける配置を、これまで通りコロナシフトで行うということだったので安心して、聴きに行くことが出来ました。
竹澤さんの演奏は、昨年11月に川口リリアホールで、初めて聴きました(その時の記録を参考まで文末に再掲します)。その際のプログラムには、クララ・シューマンやショーソン、クライスラーなど、よりどりみどりの曲目だったのですが、ブラームスの『ヴァイオリンソナタ第1番』も入っていました。今日は、ブラームスのコンチェルトを弾くというので、とても楽しみにしていたのです。それに、新日フィルは、チャイコフスキーのシンフォニー第4番をやるというので、これもまた聴きたい曲だったのでした。
台風の雨にも負けず、風にもまけず、サントリーホールまで足を運びました。定刻より、少し早くついて入場手続きをしたのですが、かなり閑散としている感じ。でも開始のベルが鳴った時に、客席を見渡すと市松模様は満席ではないですが、あちこち模様が崩れて虫喰い状態が少し有ったものの、かなり観客は入っている様に思われました。台風の影響もあり、皆さん出足が遅かったのでしょう。
さて演奏会のプログラムは以下の通りです。
◎サントリーホールシリーズ、ジェイド『新日フィル625回定期演奏会』
【日時】2020.10.8.(木)19:00~
【管弦楽団】熊倉優 指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団
器楽構成は基本2管編成、弦楽五部は基本10型の変形
【独奏者】ヴァイオリン、竹澤恭子
【演奏曲目】
①ブラームス『ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.77 』
②チャイコフスキー:『交響曲第4番 へ短調 op.36 』
③Vnアンコール:バッハ『無伴奏ヴァイオリンパルティータ2番サラバンド』
【演奏の模様】
①この曲は、ベートーヴェン、メンデルスゾーンのコンチェルトと合わせて、世界三大ヴァイオリン協奏曲と呼ばれることも有り、これにチャイコフスキーのコンチェルトを加えて四大ヴァイオリン協奏曲と言う人もいます。
曲構成は、1-1Allegro non troppo 1-2Adagio 1-3Allegro giocoso,ma non troppo vivace - Poco più presto の三つの楽章から成り。40分程に及ぶ大曲です。
(1-1)
スタートのオケの第一声がとてもいいアンサンブルで、少し長めのオケの前奏が続きました。熊倉さんは小振りの腕振り、タクトの振りで管弦を率いている。ブラ-ムスらしいメロディのテーマが流れると、ヴァイオリンも同じメロディで強く荒々しくスタート、竹澤さんは険しい表情で弾き始めました。繰り返されるテーマを独奏者は体をかがめ或いはくねらせ、弱い音の重音演奏から弦の根元での強奏で感情をぶつけるが如く、緩急強弱自由自在に音を操り出します。時には苦しそうな表情をし、その表情を見ながら聴いているとまさに入魂の演奏。しかも(音が)表情豊かで綺麗な調べを紡ぎ出しています。中間でオケが独奏者を休めるが如く少し長く演奏する様にブラームスは曲を書いている。最後の短いカデンツアも重音から非常に速いパッセjjiまで難なく仕上げるところはさすがと思いました。この曲の大半がこの第一楽章に費やされました。
(1-2)
冒頭、ファゴットの音でスタート引き続きオーボエが冴え冴えとテーマを奏で結構長く独奏、続いてヴァイオリンが同じテーマを弾き始めます。ゆったりとした美しいメロディがホールを包み、竹澤さんはほとんど目をつぶってあたかも魂から音を振り絞っている様子です。兎に角音が綺麗、特に高音が。
指揮者は時々足を前に踏み込み、気持ち良さそうな様子でオケを抑制しながらタクトを振り静かに伴奏を率いている。最後はオーボエ、クラリネット他の音も添えて、そのままゆったりとしたテンポのまま静かに弾き終わりました。
(1-3)
冒頭からヴァイオリンによるジャジャジャジャーンと力強い演奏、オケもそれに合わせて弾き始め、管弦アンサンブルがかなり大きな音を立てテーマを繰返しています。速いパッセージが多く、竹澤さんは時々指揮者の方を見ながら、短いカデンツア的表現から重音演奏の後は、非常に速い演奏で弾き切りました。
聴き終わって、やはり期待していた通り、いやそれ以上の素晴らしい演奏でした。
達人の作曲家による達人のための音楽を達人が見事に演奏したと言えるでしょう。これまで若い演奏者を多く聴いて来て、皆すごいテクニックを有し、見事な演奏をするので感心しましたが、でもそうしたものとは一味も二味も違いました。今回の曲の表現は、一朝一夕では到達できるものではないでしょう。優れた才能の上に長年の努力の結果だと思います。
大満足でした。今度ベートーヴェンのソナタを弾くらしいのでまた聴きに行きたいと思います。
尚、鳴りやまぬ拍手に再度登壇した奏者は、ヴァイオリンの音を慎重に調整した後、アンコールとして③バッハのサラバンドを弾きました。これまでいろいろ聴いたパルティータとは一味違った演奏でした。これも良かった。