
【日時】2026.4.3日3[金] 19:00〜
【会場】東京文化会館 小ホール
【出演】
アレクサンダー・マロフェーエフ(Pf.)
〈Profile〉
2014年にわずか13歳で、権威ある「若い音楽家のためのチャイコフスキー国際コンクール」で優勝。すぐに批評家から「若きロシアの天才」(コッリエーレ・デッラ・セーラ紙)と称賛され、以来、同世代で最も注目すべきピアニストの一人として地位を確立した。
また、当代最も著名な指揮者の何人かとは定期的に共演しており、例えばリッカルド・シャイー、チョン・ミョンフン、スザンナ・マルッキ、ヤニック・ネゼ=セガン、アラン・アルティノグリュ、リオネル・ブランギエ、ウラディーミル・フェドセーエフ、キリル・カラビッツ、ハンヌ・リントゥ、ヴァシリー・ペトレンコ、アンドリス・ポーガ、ファビオ・ルイージ、マイケル・ティルソン・トーマス、ユライ・ヴァルチュハ、山田和樹等が挙げられる。
近年のシーズンは、主要なコンサート・ホールでコンサートやリサイタルを行なっており、例えばウィーン楽友協会、アムステルダム・コンセルトヘボウ、ミラノ・スカラ座、フィラルモニ・ド・パリ、シャンゼリゼ劇場、フランクフルトのアルテ・オーパー、ヴィースバーデンのクアハウス、ボリショイ劇場やマリインスキー劇場、クイーンズランド・パフォーミング・アーツ・センター、ソウルのロッテ・コンサート・ホール、東京文化会館、上海東方芸術センター、中国国家大劇院、オマーンのロイヤル・オペラ・ハウス・マスカット等が挙げられる。
国際音楽祭や著名なピアノ・シリーズにもしばしば客演しており、ラ・ロック=ダンテロン国際ピアノ・フェスティバル、ナントのラ・フォル・ジュルネ、ブレシア・ベルガモ国際ピアノ・フェスティバル、アムステルダムのマスター・ピアニスト・シリーズ、ラインガウ音楽祭、ヴェルビエ音楽祭、タングルウッド音楽祭、米国ボストンのセレブリティ・シリーズ等が挙げられる。
25/26年シーズンの主な出演には、オランダ・フィルハーモニー管弦楽団、カリーナ・カネラキス指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、ペトル・ポペルカ指揮ウィーン交響楽団との共演、ヨーロッパとアメリカでソロ・リサイタルの他、ヴァイオリニストのマリア・ドゥエニャスとのコンサート・ツアー等がある。25年6月には、教皇レオ14世の招待により、バチカンで開催された「希望のハーモニー」コンサートに出演する6人のピアニストの一人に選ばれた。
ソニー・クラシカルの専属アーティスト。同レーベルからのデビューアルバムは、26年初頭にリリース。
01年モスクワ生まれ。現在はベルリン在住
【曲目】
①シューベルト:3つのピアノ曲(即興曲)D946
(曲について)
シューベルトが亡くなる半年前に書いた作品で、晩年の澄み切った歌心と、突如訪れる闇が混在し た楽想を有している。「第 1 番 変ホ短調」は、疾走感のあるタランテラ風のリズムで始まる。注目は 中間部で、焦燥を醸す短調から一転して、天国的な長調の旋律が現れる。「第 2 番 変ホ長調」は、本 曲集の中でもっとも愛されている曲。冒頭の主題は非常に穏やかだが、途中に 2 回挿入されるエピソ ードでは、心の奥底にある不安や焦りが吐露される。「第 3 番 ハ長調」は、シンコペーションのリズ ムが特徴的な、明るく快活なフィナーレ的存在となっている。
②グリーグ『組曲《ホルベアの時代より》Op.40 』
(曲について)
グリーグは 1884 年、同郷(ベルゲン生まれ)の劇作家ルズヴィ・ホルベア(デンマークの文学者1684-1754)の生誕 200 年記念祭のために、まずピアノ独奏版(本曲)を作曲し、翌 85 年に弦楽合奏用に編曲した。副 題に「古い様式による組曲」とある通り、ホルベアが生きたバロック時代のフランス風組曲の形式を 援用している。全 5 曲の舞曲の古典的なリズムと様式を基調としながら、グリーグらしい叙情性と快 活な曲想が展開される。特に、第 1 曲「前奏曲」の爽快感や、第 4 曲「アリア」の哀愁漂う旋律が聴 きどころ。
③シベリウス『5つの小品集《樹木の組曲》Op.75 』
(曲について)
フィンランドの交響曲の大家シベリウスによる、大自然の樹木をテーマにしたピアノ組曲。「ピヒ ラヤの花咲くとき」「孤独な松の木」「ポプラ」「白樺の木」「樅の木」の 5 曲からなるが、超絶技 巧を楽しむというより、「音の余白」や「北欧の冷たく澄んだ空気感」を味わう作品と言える。
④スクリャ-ビン『ワルツ変イ長調Op.38 』
(曲について)
スクリャービン中期の秀作で、この頃から独自の「神秘主義」へと傾倒していった。「ワルツ」と 銘打たれているが、優雅な音楽はここにはなく、拍節感は意図的にぼかされ、音符は浮遊する。スクリャービン特有の和音が続き、まるで夢遊病のように、あるいは法悦に向かって螺旋階段を上るかの ように音楽は高揚していく。
⑤A.ルリエ『5つの前奏曲断章 Op.1』
(曲について)
アルトゥール・ルリエはロシア・アヴァンギャルドの作曲家。本作は、若書き(作品 1)ながら、 すでに調性は曖昧で、謎めいたメランコリックな響きが支配的。スクリャービンの神秘主義の影響を 受けつつ、さらに前衛的な世界へ踏み出そうとする「危うい美しさ」に満ちている。
⑥ラフマニノフ『ピアノ・ソナタ 第2番 変ロ短調 op.36(1931年改訂版)』
(曲について)
ラフマニノフは 2 曲のピアノ・ソナタを書いたが、この第 2 番は 1913 年に作曲され、1931 年に改 訂された(作曲者自身が約 110 小節をカットした)。
【演奏の模様】
先ず全体を聴いた印象は、二十歳半ばの年齢で、これだけの完成度の高い演奏が出来るピアニストは、日本も含めそう多くは無いと思われるという事です。勿論今回のプログラムを聴いた限りですが。ベートーヴェンや、シューマンやブラームスやショパンをどの様に弾くかは聞かないと何とも言えませんけれど。
近年多くの若手ピアニストの演奏を聴いて来ましたが、マロフェーエフが紡ぐ微弱なカゲロウの様な透きとおる はかな気の調べには、他に類を見ない抜群の表現力があり、それらは確とした技術に裏打ちされていると思われました。その弱奏の一つとして、例えば②グリーグ『組曲《ホルベアの時代より》Op.40』のIV. Airに於ける第二パッセッジの心で紡ぐ様なしんみりした演奏、この辺りになると、①の立ち上がりのやや緊張感が取れたのか音が澄んできました。また③シベリウスの第2曲「Ⅱ孤独な松の木」や第3曲の「Ⅲポプラ」における微弱奏の澄んだ音の美しさEtc. 『弱音の貴公子』と呼びたい位です。ただ残念だったのは、①シューベルトの『三つのピアノ曲』です。これは自分としてもお気に入りの曲で、その第2曲『三つのピアノ曲』D946No.2の弱奏部の演奏は残念ながら、心を打たれませんでした。(自分のお気に入りの演奏は例えばブレンデル、ポール・ルイスなど)心の吐露の感が今一つでした。シューベルトの死がまじかに迫った心情の表現は難しいですが。お若いからシューベルトはこれからじっくり精進することでしょう。
マロフェーエフに感心したのは、弱奏曲が秀越な演奏が多かったばかりでなく、強靱な強打鍵を要する曲も難なく弾き熟しその力強い演奏を披露したことです。最終曲の⑥ラフマニノフ『ピアノ・ソナタ 第2番 変ロ短調 op.36(1931年改訂版)』の演奏でした。今回はラフマニノフが米国亡命した後の1931年に1913年の自作原典を改訂した版が演奏されました。マロフェーエフはモスクワ音楽院の先輩であり世界に冠たるピアニストであるラフマニノフを尊崇しているに違いありません。この日一番の渾身の力を込めて弾いていた感がしました。
①シューベルト:3つのピアノ曲(即興曲)D946
第1番 変ホ短調
第2番 変ホ長調
第3番 ハ長調
②グリーグ『組曲《ホルベアの時代より》Op. 』
I. Prelude
II. Sarabande
III. Gavotte
IV. Air
V. Rigaudon
③シベリウス『5つの小品集《樹木の組曲》Op.75 』
シベリウス:5つの小品集《樹木の組曲》op.75
Ⅰ.ピヒラヤの花咲くとき
Ⅱ.孤独な松の木
Ⅲ.ポプラ
Ⅳ.白樺の木
Ⅴ.樅の木
④スクリャ-ビン『ワルツ変イ長調Op.38 』
⑤A.ルリエ『5つの前奏曲断章 Op.1』
Ⅰ.Prelude. Lento
II .Prelude. Calme, pas vite
Ⅲ.Prelude. Tendre, pensif
IV.Prelude. Affabile
V.Prelude. Modéré
⑥ラフマニノフ『ピアノ・ソナタ 第2番 変ロ短調 op.36(1931年改訂版)』
〇全三楽章構成
第 1 楽章 Allegro agitato - Meno mosso
冒頭から巨大なエネルギーが放出される。下降する強烈な和音が滝のように鍵盤を駆け下 りていくが、このテーマが全曲を支配する。「鐘」の音を模したような重厚な低音も耳に残る。
第2楽章 Non allegro - Lento
美しくも哀愁に満ちた緩徐楽章。ラフマニノフらしい叙情的なメロディが複雑な内声部を伴 って歌われる。
第 3 楽章 L'istesso tempo - Allegro molto
徐々にヴィルトゥオジティを増していくが、特に改訂版ではテクスチャ が整理され、打鍵の切れ味や和声の移り変わりがよりクリアになった。楽章終盤に輝かしい変ロ長調 へ転じ、圧倒的なカタルシスをもたらしながら終了する。



本演奏が終わり会場からは大きな拍手と歓声が鳴り響きました。鳴りやまぬ拍手にマロフェーエフは、アンコール曲を三曲演奏し、観客の声援に応えました。
《アンコール曲》
①ヘンデル『組曲第1番(第2巻) 変ロ長調 HWV 434 より IV. Menuet』
②チャイコフスキー(M.プレトニョフ編)『組曲《くるみ割り人形》 op.71 より 第4曲 間奏曲(アンダンテ)』
③スクリャービン『左手のための2つの小品 op.9』