HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

サントリーホール『Chamber Music Garden』第二日目

 今年も毎年恒例のサントリーホール主催の『Chamber Music Garden(CMG)』が始まりました。初日(6/1)は聴きに行けなかったので、初日と同じ演奏家、堤さんと小山さんとの共演の第二日目を(日中なので気分が載らなかったのですが)聴きに行きました。


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 サントリーホール ・チェンバーミュージック・ガーデン2024

プレシャス 1 pm Vol. Ⅰ ベートーヴェン:チェロ作品

 

【日時】2024年6月4日(火) 13:00~14:00

【会場】サントリーホール ブルーローズ(小ホール)

【出演】ピアノ:小山実稚恵 チェロ:堤剛

サントリH ホームページより



【曲目】ベートーヴェン


①チェロ・ソナタ第4番 ハ長調 作品102-1

(曲について)

 第4番と第5番の2つのチェロソナタは、共に1815年の春から夏にかけて、1か月の間隔をおいて立て続けに作曲された。第3番が作曲されて7年を経ていた。2つの作品は、チェリストのヨーゼフ・リンケのために書かれたもので、リンケのチェロとマリ・フォン・エルーディ伯爵夫人の演奏するピアノを想定して作られた。初演も2人によって行なわれたといわれているが、初演に関する記録は残されていない。のちに2つの作品は、2回目の出版の際に伯爵夫人に献呈された。

第4番の自筆譜には「ピアノとチェロのための自由なソナタ」と記されており、一部では「幻想ソナタ」と呼ばれている。また、5曲のチェロソナタにおいてベートーヴェンの中期を代表する第3番の華麗さとは反対に、内省的な深みが加わり、瞑想性と幻想性などが、第3番とは異なった美の世界を作り上げている。小規模ながらも、内在する世界は広大である。


②チェロ・ソナタ第5番 ニ長調 作102-2

(曲について)

 ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンのチェロソナタ第5番(チェロソナタだいごばん)作品102-2は、1815年の作。第4番作品102-1と連作であり、非常に簡潔な小品である。

 第5番の曲は、第3番の雄大な規模と異なり、室内楽の範囲にありながらピアノソナタ第31番と同様にバッハのフーガ技法を取り入れている。ベートーヴェンのチェロソナタ5曲で唯一緩徐楽章を使用している。作曲者最後のチェロ作品として後のロマン派音楽につながる自由な創意が認められる。第2楽章と第3楽章は切れ目なく演奏される。


③モーツァルトの『魔笛』より<恋人か女房か>による12の変奏曲 ヘ長調 作品66

(曲について)

 主題はモーツァルトのオペラ『魔笛』のパパゲーノのアリア「恋人か女房か」で、ピアノのみの第1変奏以下12の変奏が続くそのチェロ変奏版。曲が進むにつれて性格的変奏の色合いを強めていく。全体に軽妙さが支配するが、それだけに短調のシリアスで緩やかな第10、11変奏曲が気分の転換をもたらす。

 

 

【演奏の模樣】

 演奏曲の順序が若干変わったようです。当初の発表は、上記丸数字の曲順でしたが、実際は以下のアラビア大文字の順に演奏されました。

Ⅰ. ベートーヴェン『チェロ・ソナタ第4番』

 配布されたプログラムノートには、次の記述がありました。

 ❝ベートーヴェンは後期に向かうにつれて古典派様式を離れ、内省的な幻想性を重んじる独自な作風を求めるようになる。 第4番 ハ長調(1815年)には後期への過渡期のベートーヴェンに特有のカンタービレ重視の傾向が端的に示されている。構成も自由で、単一楽章とも2楽章構成とも見なし得る。2楽章構成と考えた場合、第1楽章は瞑想的な序奏の後、力強い急速なソナタ形式の主部が続く。第2楽章は幻想味を湛えた緩徐部分に始まり、前の楽章の序奏の回想を挟んで、ロンド・ソナタ風の自由な形式による軽妙な主部が発展する。     第1楽章は瞑想的な序奏の後、力強い急速なソナタ形式の主部が続く。第2楽章は幻想味を湛えた緩徐部分に始まり、前の楽章の序奏の回想を挟んで、ロンド・ソナタ風の自由な形式による軽妙な主部が発展する。❞

とありますが、実際の演奏を聴いてみると、次の様にもう少し細分化した区切りが、感じ取られました。

Ⅰ-1 冒頭Vc.が先行し、Pf.が弱奏で合いの手を入れ、更にVc.→Pf.と全体的にSlowなテンポで進行した箇所、最後は、Vc.がPizzicatoを二回鳴らして了とした区切り。

Ⅰ-2 とても速いパッセージ。Pf.はフォルテで入り、Vc.とPf.は、強いタッチの斉奏が目立った箇所、全体的にPf.主導の印象が強かったです。主題を中心に変奏も含め強奏を二回繰り返しました。

Ⅰ-3 Vc.が極低音域を再度Slowなテンボで演奏、上行Pf.の音が綺麗、両者は緩やかなダラダラ道をゆったりと景色を楽しみながら遊歩している感じ。

Ⅰ-4 急にタ-ラララッタ、ターラララッタ、と二回鳴り響く合図とともに、今度はPf.先行で結構速いテンポのパッセッジを両者は鳴らしそして掛け合い、何時しか両者は猛テンポで進行しました。これを繰り返して一気に終了。

Ⅰ-5  4の時と同様な 前哨音をVc.の単音の上にPf.が鳴らし、コロコロと弱音の鍵盤高音部で続けると、それを合図としたのか Vc.がジャジャラジャジャラとVc.の音を鳴らし始め、相当な力奏。両者は最後一息の空白の後、ジャジャジャラ、ジャジャジャララと一気に駆け抜けました。

 

 以上五つの区切りが聞き取れましたが、それぞれ一つの楽章と看做すには、楽章の長さが短すぎるし、形式的にも整っていないので、五楽章構成と言う訳にはいきません。五つの構成要件から成る単一楽章と見做した方が、リーズナブルかなと思いました。全体的にVcに対し、Pf.の方が、Vividな演奏だったのは、小山さんの演奏技術云々よりは、この曲自体の持つ特質ではなかろうかと思いました。因みに上記(曲について)にも記した通り、自筆譜には「ピアノとチェロのための自由なソナタ」と記されていたそうです。ふつうチェロソナタであれば、チェロ主導の音が溢れ、ピアノはあくまで従のはずです。ベートーヴェンは、もともとピアノが得意で、作曲する時はどうしてもピアノ中心になってしまったのかも知れません。

 

Ⅲ.チェロ・ソナタ第5番

全三楽章構成

第1楽章 Allegro con brio

第2楽章 Adagio con molto sentimento

第3楽章 Allegro

 第3番の雄大な規模と異なり、室内楽の範囲にありながらピアノソナタ第31番と同様にバッハのフーガ技法を取り入れている。ベートーヴェンのチェロソナタ5曲で唯一緩徐楽章を使用している。作曲者最後のチェロ作品として後のロマン派音楽につながる自由な創意が認められる。第2楽章と第3楽章は切れ目なく演奏される。


②モーツァルトの『魔笛』より「恋人か女房か」による12の変奏曲

 聴き慣れたモーツァルト節が、堤さん小山さんの指からほとばしり出しました。ベートーヴェンの編曲の上手さはさることながら、変奏曲に値する尤も効果的な原曲選定の慧眼には感服します。

これとは別にやはり魔笛から別なテーマで7つの変奏曲も作っています。モーツァルト以外にも例えばヘンデルの「ユダス・マカベウス」からの変奏曲や他の多くの作曲家の曲を編曲、また自作の曲の変奏曲を「変奏曲集」として纏めたりしているのです。要するに彼は編曲、変奏曲を高く評価しています。編曲に対するベートーヴェンのプライドの高さを実によく表しているのが、彼がライプツィヒの出版社、ブライトコップフ&ヘルテル社に宛てた手紙でそれは次の様な物です。

❝・・・編曲作品に関しましては、私はあなたがまさにそれ[ベートーヴェンの弟のカールが、ブライトコップフ&ヘルテル社に編曲の提供を提案したこと]をきっぱり拒否なさったことを、心から嬉しく思います。それもクラヴィーアのためのものを弦楽器に――それらはあらゆる点で互いに全く相反する楽器ですが――移したいという世間の異常な熱狂は、終しまいになって構いません。私は断固として主張致しますが、自分自身で自作品をクラヴィーアから他の楽器に移し変えることが出来るのはモーツァルトのみであり、ハイドンもまた同様です――そして自分をこの二人の偉大な人物に加えようというのではございません。私のクラヴィーア・ソナタについても同じことを申し上げます。[編曲するときにはオリジナルの]かなりの部分がすっかり省略されたり変えられたりせねばなりませんし、[その結果として省略、変更に応じて]それに付け加えねばならぬのです。そしてこの点に厄介な障害があります。これを克服するためには自分自身巨匠であるか、少なくとも巨匠に匹敵する巧みさと創造力がなくてはいけません❞

 今回の12の変奏曲の多くにはテーマの原形が多く残されているので、テーマ自体の心地良い響きが各変奏曲には有ります。堤、小山両氏ともその響きを楽しみながら、聴く者の心境になりながら弾いているといった風でした。(この変奏曲は、その心地良さから作業用のバックグランド曲として録音されたものも流通もしている様です)プログラムノートにある様に確かに短調の変奏曲はそれまでの変奏曲とかなり風合いが変わっていますが、プログラムノートの記載の様な❝短調のシリアスで穏やかな変奏が気分の変化をもたらすのが効果的❞との印象は全く受けませんでした。ただ暗くて他の変奏曲に異物が挟まれた印象が強かった。

 

Ⅲ.チェロ・ソナタ第5番

全三楽章構成

第1楽章 Allegro con brio

第2楽章 Adagio con molto sentimento

第3楽章 Allegro

 ❝第3番の雄大な規模と異なり、室内楽の範囲にありながらピアノソナタ第31番と同様にバッハのフーガ技法を取り入れている。ベートーヴェンのチェロソナタ5曲で唯一緩徐楽章を使用している。作曲者最後のチェロ作品として後のロマン派音楽につながる自由な創意が認められる。第2楽章と第3楽章は切れ目なく演奏される。❞等の説明が資料には書いてあります。

 確かにこの曲の演奏を聴いてみると第二楽章はVc.が地味ではあるけれど、心地良い旋律を悠々と弾き出し、Pf.は高音部でVc.旋律に寄り添っています。小山さんの弾き振りはこの5番で一層決然としたところが、第一楽章からでており、しっかりとした指使いでやや大き目な音を出していました。堤さんは、非常に味のある深い音で心地良さそうに弾いています。今日一番のいい響きに感じました。

 又次の第三楽章は、冒頭のVc.の弾む様なリズムにカノンで応じるPf.。リズムと旋律は将にバッハのどこかで聴いた事のあるフーガの展開に進みました。両者の掛け合いと重奏にも、将に様々な進行形のフーガの技法が使われていた様に思います。次第に力の入るPf.とVc.、一旦それが止むと再度フーガの展開、半音階進行が特徴的な響きを醸し出します。両者はその手を休めず最後のフーガの一節を弾き切りました。演奏が終わると満員の小ホールは拍手の渦に飲み込まれました。

 演奏を聴き終わって、演奏前の堤さんの挨拶の中にあった、❝小山さんとの演奏は、技量は(リサイタルやオーケストラとの共演などで)証明済みだが、アンサンブルもこの上無く見事で(堤さんも)大変弾きやすい❞と語っていた話通りの、お二人の息の合ったアンサンブルに対して、聴衆は感動してエールを送ったのだと感じました。

 尚、アンコール演奏があり、

<アンコール曲> 三善晃作曲『母と子のための音楽』より、第3,4,5曲でした。

 初めて聴いた曲ですが、何れも短い曲です。ゆっくりとしたお洒落な旋律はフランス印象派を思い起こす様な気がして、第3、第5曲は如何にも西洋音楽的。しかし第2曲のVc.の響きには、どこか民族音楽的響きが混じっている、誰の曲かなと思って聴いていました。帰りに掲示版を見て日本の音楽家だと知って少し驚きでした。今まで三善晃と言う作曲家の名は知っていましたが殆どその曲は知らなかった。今後時間的に余裕がある時に調べたり聞いてみたい気にもなりました。