HUKKATS hyoro Roc

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『ブレハッチピアノリサイタル』at ミューザ川崎

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ラファウ・ブレハッチリサイタル

【日時】2021.10.26.(火) 19:00 ~
【会場】ミューザ川崎シンフォニーホール

【演奏】ラファウ・ブレハッチ(ポーランド)

【Profile】

ポーランドのクヤヴィ・ポモージェ県にあるナクウォ・ナド・ノテチョン(人口約2万人)にて、敬虔なクリスチャンの家庭に生まれる。両親とも音楽家ではないが、ブレハッチは幼い時から教会のオルガンを弾くようになり、教会牧師の勧めで4歳からオルガンを、5歳からピアノを始めた。クヤヴィ・ポモージェ県の県都ブィドゴシュチュ(ビドゴシチ)にあるルービンシュタイン音楽学校を卒業後、フェリクス・ノヴォヴィエイスキ音楽大学(ポーランド語版)に学び、カタジーナ・ポポヴァ=ズィドロン教授に師事した。

青少年のためのポーランド・ショパンコンクール第2位(1999年)、アルトゥール・ルービンシュタイン国際青少年ピアノ・コンクール第2位(2002年)などを経て、2003年の第5回浜松国際ピアノコンクールで初めて国際コンクールに参加した。浜松国際コンクールでは、1位該当なしの2位に入賞する。コンクール参加時点まで、ブレハッチの自宅のピアノはアップライトであったため、これを知ったワルシャワ市が日本出発前の2か月間、彼にグランドピアノを貸与したという逸話が残っている。2位入賞の獲得賞金で、彼は初めて自分のグランドピアノを買うことができた。浜松コンクールの翌年、2004年に第4回モロッコ国際ピアノコンクールで優勝する。

2005年10月、ラファウ・ブレハッチは第15回ショパン国際ピアノコンクールで優勝した。彼は同時に、マズルカ賞(ポーランド放送)・ポロネーズ賞(ポーランド・ショパン協会)・コンチェルト賞(ワルシャワ管弦楽団)・ソナタ賞(クリスティアン・ツィマーマン)も併せて総なめにした。同コンクールで「2位なし」の審査結果が出たのは史上初の出来事であった。ポーランド人の優勝者は、1975年の第9回コンクールを制したツィマーマン以来6回目(30年ぶり)となる。

一見したところショパンに雰囲気がよく似ていると指摘される。ブレハッチがショパンになんとなく似ていることは2005年のショパンコンクールでも話題になった。

【曲目】
①J.S.バッハ『パルティータ第2番 ハ短調 BWV826』
②ベートーヴェン『ピアノ・ソナタ第5番 ハ短調 op.10-1』
③ベートーヴェン『創作主題による32の変奏曲 ハ短調 WoO.80』
④フランク(バウワー編曲)『前奏曲、フーガと変奏曲 ロ短調 op.18』
⑤ショパン『ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 op.58』

 ここでベートーヴェンの変奏曲は余り聴き慣れない名前の曲なので、若干解説します。

【曲目解説】

③ベートーヴェン『創作主題による32の変奏曲 ハ短調 WoO.80』

ベートーヴェンが1806年に作曲したピアノ独奏のための作品。作曲者36歳の中期に属する作品で、古典的な作曲法と巧みな変奏技法とが一体となった変奏曲で、作品番号はなく、死後の整理の際にWoO.80と付番されている。しかし1807年に当地の産業美術出版社から出されていることから、実験的な作品と考えていたのかと推測されている。曲構成は次の通り。

(1)主題(Allegretto )

右手は4分の3拍子で音階を基に半音ずつ上昇する音形。特徴あるのは左手の和声部。

ハ短調主和音、ドミナントのト長調主和音、下属調ヘ長調またはヘ長調の主和音、半音高いFis音をまじえた下属調和音が順番に登場し、和声進行が強調されて終わる。

シャコンヌに近い低音の扱い方で、作曲者が古典的な語法を導入する意思があらわれている。最低音はC-H-B-A-As-Gと明瞭に半音階を描いている。わずか8小節の短い主題ながら、低音の存在感が陰鬱な効果を出している。

(2)変奏

  • 第1変奏:右手の16分音符による同音連打。32の数の通り右手左手交互の練習も兼ねている。   
  • 第2変奏:左手による第1変奏の繰り返し。
  • 第3変奏:両手の16分音符による展開。

 

【演奏の模様】

①J.S.バッハ:パルティータ第2番 ハ短調 BWV826

会場は、7~8割りの入りでしょうか?先日の石田さん達のカルテットの時は、ほぼ満席に近い大入りだったのですが。我が国に於けるブレハッチの知名度が知る人ぞ知るで、いま一つだからでしょうか?

 定刻になりステージ上の天井灯が、暗くなり登壇したブレハッチは、30代中頃の筈ですが、20代では?と思う位に見えます。出て来る時も挨拶もきびきびとした動きで若者らしい。先ずバッハからスタートです。

①-1. シンフォニア (Sinfonia)

 聴き慣れたメロディが響き始めました。音色も強弱もテンポもこれまで聴いてきて頭にあるものの範疇内のほぼ完璧な演奏。勿論、グールドの様なノン・レガート奏法とは違いますが。欲を言えば平坦感が若干強いのでは?さらなる起伏が欲しい。

①-2. アルマンド (Allemande)

 ゆっくりした綺麗な調べが、大小様々な流れをつくって深みや早瀬をゆったりと流下し、Bach(小川)がきらきらとバッハ特有の多色の煌めきを放っている。ブレハッチの流れはやや単色に近いか?

①-3.クーラント (Courante)               

 歯切れの良い速いテンポの演奏で良かった。強弱の起伏も明確。

①-4. サラバンド (Sarabande)

 上記3に少し類似したメロディだが、ゆっくりと丹念に弾いていました。

①-5. ロンドー (Rondeaux)

    軽快な速いテンポで、相変わらず音は澄んでいて綺麗。処により指使いをさらに強く表現する箇所もあって良いのでは?

①-6. カプリッチョ (Capriccio)

 このあたりの響きは、バッハ特有の和声法とフーガの技法が混然一体となった一部抹香臭い(宗教味を帯びた)感までするのですが、ブレハッチはここを消臭ろ過した奇麗な空気を発散しているが如き調べを立てていました。

 総じてさすが、ショパンコンクールの覇者と思わす素晴らしい演奏でしたが、バッハの曲としてはやや物足りなさが残りました。バッハの壮大な建築物がやや小振りになってしまったかなといった 感じ。

 演奏が終わると、挨拶もそこそこにサーッと袖に戻るブレハッチでした。

 

②ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第5番 ハ短調 op.10-1

 初期のソナタの1番から4番まではウィーン風の四楽章構成で作曲されましたが、この5番のソナタは初めての三楽章構成で書かれたソナタです。よく録音で聴いているのですが、1~4番(これはバレンボエムが来日した時弾く筈だったのを、弾かなかったソナタです)と比べると個人的にはベートーヴェンの上り坂の勢いと独創性がやや弱まっているかなという気がしていました。

②-1(Allegro molto e con brio )

②-2(Adagio molto)

②-3(FinalePrestissimo

ブレハッチは一楽章から目の見張るような素晴らしい音楽性を発揮した演奏を開始、特に二楽章のゆっくりした演奏は、表現が素晴らしく、珠玉の音の球が転がり出でる様な将に心で弾いている感がしました。

聴き終わった感想は、「この曲、こんなに良い曲だったのか!やはり録音とは違うな」という事でした。

③ベートーヴェン:創作主題による32の変奏曲 ハ短調 WoO.80

最近、ベートーヴェンの『ディアベリ変奏曲』を聴いたばかり(10/19『内田光子リサイタル』)なのですが、それと比べたら長さは1/3位でしょうか、短いですが、曲の纏まりとしては、一つの一貫した完成曲として前者よりいいのではないかと思われる程でした。左手右手の動きが速いし活発で、確かに指の練習曲としても有用でしょうが、それ以上にピアノ曲作品として素晴らしいと思いました。それ程ブレハッチの演奏が光っていた。

 

④フランク(バウワー編曲):前奏曲、フーガと変奏曲 ロ短調 op.18

 フランクのヴァイオリンソナタならいざ知らず、ピアノ曲にこの様に、聴きごたえがあるいい曲があるとは 恥ずかしながら、知りませんでした。教会オルガニスト時代に作曲したオルガン曲のピアノ編曲版の様です。フランク独特の古典派とは一味も二味も違う洗練されたモダンな香りのする曲でした。ブレハッチの演奏は、特に前奏曲でのゆっくりした美しいメロディ、繰り返し起伏のある表現、フーガでのパイプオルガンを想起させる厚みのある音と、中音域のあたかもパイプー本かの様な音のフーガを見事に表現していました。かなり短い曲でした。

 

⑤ショパン:ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 op.58

 いよいよ今日最後の曲、ショパンです。この曲を聴く直前の自分の気持ちとして、最近のショパンコンクールの盛り上がりの影響もあって、❝イヨー!大統領!待ってました!❞と声をかけたい程でした。

 冒頭から力強いパッセージを、ブレハッチは比較的大きい手で鍵盤をなぞり始めました。続く第二パッセッジの清らかなメロディは、本当に心に浸みるおしゃれなショパンの芳香の様に香しい。繰り返し部も力を入れる処とフッと息を抜く処の加減の絶妙さ、将にこういうショパンを聴きたかったのですよ。二楽章冒頭のコロコロ感も軽やかに、三楽章のかなりゆっくりしたテンポの旋律を、ブレハッチは丹念に音を確かめる様に紡ぎ、最後までペースを崩さず保ちました。

 第四楽章は冒頭の強打鍵から有名な主旋律を力強く弾き始めたブレハッチは、強打の中にもフワッと弱音を絡ませ、とは言っても主旋律の強さは失わず、一気に駆け抜け弾き終えました。

 全体としてメリハリの良く効いたソナタ演奏でした。さすがショパンコンクールの覇者です。

 明後日は、いよいよキーシンの演奏があります。そこでもショパンが演奏されるので楽しみです。後日、今年のショパンコンクール日本人入賞者が帰国して演奏会をするでしょうから、それを聴いた時、ブレハッチやキーシン、内田光子の演奏とどうしても比べてしまうでしょう。その時どう感じるか、それも今後の楽しみの一つです。

 

尚、アンコール演奏が有りました。

ショパン『プレリュード第7番』&
    『ワルツ第7番』

 

これはもう文句なしの優勝者演奏!!