【日時】2023年11月04日(土)14:00〜
【会場】東京オペラシティタケミツホール
【出演】松田理奈(Vn.)清水和音(Pf.)
〈Profile〉
《松田 理奈/Lina Matsuda》
東京芸術大学音楽学部附属音楽高等学校卒業後、桐朋学園大学ソリスト・ディプロマコースにて研鑽を積み、2006年ドイツ・ニュルンベルク音楽大学に編入。2007年に同大学、2010年には同大学院をそれぞれ首席にて卒業。1999年に初ソロリサイタルを開催した後、2001年第10回日本モーツァルト音楽コンクールヴァイオリン部門第1位、同コンクール史最年少優勝。2002年にはトッパンホールにて「16才のイザイ弾き」というテーマでソロリサイタル開催。2004年、第73回日本音楽コンクール第1位。併せてレウカディア賞、鷲見賞、黒柳賞受賞。2007年、サラサーテ国際コンクールにてディプロマ入賞。第12回ホテルオークラ音楽賞、秋吉台音楽アカデミー賞受賞、2013年新日鉄住金音楽賞受賞。
これまでにNHK交響楽団、東京交響楽団、東京都交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団、神奈川フィルハーモニー管弦楽団、札幌交響楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団、NHK交響楽団室内オーケストラ、ヤナーチェクフィルハーモニー室内管弦楽団、ベトナム交響楽団など数々のオーケストラや著名指揮者と共演。
2006年ビクターエンタテインメントよりデビューアルバム『ドルチェ・リナ~モーツァルト2つのヴァイオリン・ソナタ他』をリリース。全国ツアーを各地完売で沸かせた後、2008年巨匠パーヴェル・ギリロフと録音した『カルメン』、2010年には紀尾井ホールにて清水和音とのリサイタルをライブ収録した『ラヴェル・ライブ』をリリースした。同年収録のイザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ全曲集は、「レコード芸術」誌上にて特選盤に選ばれた。
〈Profile〉
《清水和音/Kazune Shimizu》
東京生まれ。1965年、桐朋学園の「子供のための音楽教室」に入室。1978年、桐朋女子高校音楽科在学中、17歳の時に第47回日本音楽コンクール第3位入賞。同校卒業後1980年にジュネーヴ音楽院に留学、ルイ・ヒルトブランに師事。1981年のロン=ティボー国際コンクールピアノ部門で優勝すると共にリサイタル賞をも受賞。1982年にデビューリサイタルを開く。1983年、第9回日本ショパン協会賞受賞。
ドビュッシー以降の近現代の音楽はほとんど録音しておらず、バロック音楽から国民楽派までの世代の作曲家を得意としている(実演では近現代も取り上げている)。なかでもベートーヴェンとショパンに対して深い関心を寄せる。ベートーヴェンのハンマークラヴィーアの演奏はCD録音も残されている。
デビュー直後からショパン演奏はライフワークのように関わっており、現在もショパンを中心とした選曲で、EXTONからCDリリースを行っている。レーベルの意向は「完全な全集」であることを強調している。演奏活動の一方で、東京音楽大学の教授を務め、後進の指導にもあたっている。
【曲目】
①モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ 第27番 ト長調 KV379
(曲について)
1781年の4月7日頃にウィーンで作曲されたソナタで、弟子のアウエルンハンマーに献呈したヴァイオリンソナタの1曲である。モーツァルトは父レオポルトに宛てた手紙(4月8日付)の中で、「昨日、11時から12時の間にヴァイオリンの助奏を持つソナタを作曲しました。とても疲れているため、ブルネッティのために助奏声部だけを書いて、ピアノ・パートは暗記しておきました」とこのヴァイオリンソナタ(K.379)に関する記述が書かれている。
のちにこのソナタは、ブルネッティのヴァイオリンとモーツァルトのピアノによって、4月8日にルドルフ・ヨーゼフ・コロレード伯爵邸のコンサートで初演された。
②J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番BWV1004
(曲について)
257小節に及ぶ長大な「シャコンヌ」を終曲にもつこのパルティータ第2番はこの曲集の頂点の一つを形成するもので、最も著名な作品である。全5曲。
Allemanda
Corrente
Sarabanda
Giga
Ciaccona
シャコンヌの名称どおり変奏曲の形式を持つが、ニ長調の中間部を有する三部形式とも取れる。音楽的な構成としては、冒頭の8小節に現れる低音の下行テトラコードをシャコンヌ主題とし、種々の変形を受けながらこの主題が32回現われ、そのたびに上声を連続的に変奏する壮大な作品となっている。
エディソン・デニソフは全曲に管弦楽伴奏を施し、ヴァイオリン協奏曲に編曲している。シャコンヌについては、ヨハネス・ブラームスによる左手の練習のためのピアノ版、フェルッチョ・ブゾーニによる両手のためのピアノ版、レオポルド・ストコフスキーや斎藤秀雄による管弦楽版など様々に編曲されている。
③ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第9番〈クロイツェル〉
(曲について)
ベートーヴェンの作曲したヴァイオリンソナタの中では、第5番『春』と並んで知名度が高く、ヴァイオリニストのロドルフ・クロイツェル(クレゼール)に捧げられたために『クロイツェル』の愛称で親しまれているが、ベートーヴェン自身のつけた題は『ほとんど協奏曲のように、相競って演奏されるヴァイオリン助奏つきのピアノソナタ』である。
ベートーヴェンは生涯で10曲のヴァイオリンソナタを書いたが、特にこのクロイツェルは規模が大きく、王者の風格をそなえており、ヴァイオリンソナタの最高傑作であるとされる。ベートーヴェン以前の古典派のヴァイオリンソナタは、あくまでも「ヴァイオリン助奏つきのピアノソナタ」であり、ピアノが主である曲が多いが、この曲はベートーヴェン自身がつけた題の通り、ヴァイオリンとピアノが対等であることが特徴的である。技術的にも高度なテクニックが要求される。
ロシアの文豪レフ・トルストイによる小説『クロイツェル・ソナタ』は、この曲に触発されて執筆された作品である。嫉妬心にかられ妻を殺してしまった夫の悲劇が描かれている。ヤナーチェクはこの小説に刺激を受けて、弦楽四重奏曲第1番『クロイツェル・ソナタ』を作曲している。
【演奏の模様】
今回の演奏会は、新聞紙上でも何回も何回も広告が掲載されていました。松田さんの演奏会は、文末の(抜粋再掲1)に示した一作年の演奏を聴いた事があります。しかしその時の印象が自分としては余りいいものではなく、新聞紙上に連日の様に広告を打つ演奏会には行かないことにしているので、パスしようと思っていたのですが、ひょんなことでチケットを得たので、聴きに行きました。
①モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ 第27番
この曲は以前、漆原啓子さんの演奏を聴いた事があるので、その時の記録を参考まで文末に(抜粋再掲2)しておきます。
今回は全二楽章構成、演奏時間はすべての反復記号を実施すれば約24分。
第1楽章 Adagio- Allegro
第2楽章 主題と変奏(Andantino・cantabile)
第一楽章は、清水さんのピアノ演奏でアルペジョからスタート、ピアノの音は最初からとてもいい、やや速やめのテンポでしょうか?松田さんは暫しピアノの序奏を待ってから、同様な旋律を重音を交え少し荒々しいタッチで弾き始めました。
高音部の響きがややくぐもって聞こえます。Pf.伴奏はその旋律といい和声といいモーツァルトはVn.のそれとどちらを優先して書いたのかと思われる程素晴らしいピアノの調べ。暫くはPf.先行でそれを追う様に松田さんがVn.を弾き、重音を含むけだるさも感じる旋律は余裕を持って響かせ、合いの手を入れる清水さんの伴奏は重々しく、高音部のソロ音になるとさらに美しい伴奏音を響かせ、続く松田さんは、静かに旋律をPf.伴奏音に載せますが、少ししっくり感が味わえない。寸時の休止の後、高音域にも足を踏み入れるメロディを奏でるのですが、どうも聞いていて心に響いて来ません。続くPf.のソロ的伴奏は、リズムといい旋律の強弱変化といい、絶妙なバランスで弾いている。後追いでまた入るVn.に音を潜めて寄り添う伴奏Pf.。
そして急激にテンポを速めるPf.の導入。ここからのAllegroは、二楽章として扱うケースもありますが、今回は一楽章の後半と看做している様です。
この辺りから、松田さんの演奏は音は綺麗なのですが、どうも心の底から曲を咀嚼嚥下して吐き出している感じがせず、清水さんの演奏の方が引き立ってしまった様に感じました。最後は極僅かPf.に後れを取った箇所もありました。
第二楽章のカノン的箇所からの演奏も、松田さんの演奏は、技術的にも完成度が高く、美しい旋律で奏でているのですが、やはり心からの発露がされていない、表現が表面的である感は拭えなかったですね。それにPizzicatoの音が悪い、もう少し綺麗な音をPizzicatoで出せないのでしょうか?
総じてやや不満の残るヴァイオリンの演奏でした。ピアノの清水さんは完璧無比、素晴らしかった。
②J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番BWV1004
「パルティータ第2番」は、バッハの6曲の「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」の中で、最も有名な作品です。「ブランデンブルク協奏曲」など、バッハの重要な器楽曲が量産されたケーテン時代の作品で、ヴァイオリンという楽器に、可能なあらゆる和音を要求したのはもちろん、ほとんど不可能に見える対位法も臆することなく演奏させています。ヴァイオリン音楽の記念碑的存在とも言えます。
パルティータとは組曲のことで「パルティータ第2番」は、5つの舞曲からなります。最後のシャコンヌは、257小節にもおよぶ荘重雄大な部分で、短い部分を何度も何度も繰り返して、その各々の繰り返しの上に変奏を構築しているのです。
この曲は昨年9月に来日公演したアリーナ・イブラギモヴァが演奏したのを聴いたので、その時の記録を文末に参考まで(抜粋再掲3)しておきます。
Ⅰ アルマンド
Ⅱ クーラント
Ⅲ サラバンド
Ⅳ ジーグ
Ⅴ シャコンヌ
もうこれはいけません。①の時の実感をさらに悪い方向に印象付けられた演奏でした。細部はさて置き(というか、とても高度なテクニックとその調べの妙なる点では各処で素晴らしさを見せつけられましたが)、全体の演奏が、これまで聴いたバッハの演奏からは程遠いものでした。はっきり申し上げて、バッハのパルティータはこの様なものでは有りません。心の底から人間の苦悩、喜び、叫びを絞り出す様な演奏、従って聴く者の心の琴線に触れる魂の交歓を必要とするのです。大変失礼ですが、その耳当たりの良い調べに(いつもの寝不足も加わってか)演奏後半から睡魔に急襲され、Ⅳジーグ辺りまでは聞いた気もするのですが、気が付いたら全曲終了になっていました。従って一番重要と思われる Ⅴシャコンヌの演奏は全く記憶に御座いません。お恥ずかしい。最後までしっかりと聴き終えなければどうのこうの言っても説得力が無いですよ。「終わりよければすべて良し」という言葉がある位ですから。
ここで《20分の休憩》です。
後半は、ベートーヴェンの超有名曲<クロイツェル ソナタ>です。
③ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ<クロイツェル>
全三楽章構成。
第1楽章 Adagio・sostenute・Prest
第2楽章Andante con variazioni
第3楽章Prest
曲の導入はずっしりとした重音で開始、強⇒弱変化もOK、Pf.が寄り添って控え目に発音しています。冒頭から力強さを感じる松田さんの演奏。テンポが速まりさらに力強い一撃の重音をたてPf.との掛け合いも息がぴったり合っていい感じで進行しました。前半の演奏と比べると見違えるような、別人の様な演奏。滑らかな弓法と演奏の姿を見ていると、いかにも自信満ちた様子で弾いています。Pf.とVn.の斉奏部分も見事な一致具合。互いの合いの手も絶妙さを増して、この様な状態は、2楽章、3楽章に進むにつれ益々上り調子と言った様子でした。これにはもうびっくりして、どうしてこんな演奏が出来るのに前半の沈滞ムードは何だったのだろうか?ソロ演奏、特に歌を歌う歌手が、スタート時にまだエンジンがかからなくて、尻上がりに調子が出るといったパターンがありますが、それと同じだったのだろうか?聴きながら考えていました。恐らくこれはその曲の嚥下・咀嚼度の違いではなかろうかとも思いました。松田さんはこの<クロイツェル>は小さな時から数ぞえ切れない程の演奏経験があるのではなかろうか?それに比しモーツァルトのK373やバッハのパルティータはその演奏回数がはるかに少なく経験が豊富でない曲だったのではなかろうか?という猜疑心に駆られました。いやいやそうではないでしょう。矢張りスタート時にはエンジンが全開にならなかったのでしょう、等といろいろ妄想してしまいました。兎に角今日の演奏会は、この<クロイツェル>を聴いただけでも大満足でした。矢張り❝終わりよければすべて良し❞だったのですね。
演奏後は大きな拍手と歓声に迎えられた松田さんは、何回か袖と舞台を往復した後アンコール演奏をして呉れました。
<アンコール演奏曲>クライスラー『前奏曲とアレグロ』
この演奏が又輪をかけて素晴らしいものでした。熱演その物、観客はさらに大きな拍手を長く続け、今日の好演を讃えていました。
尚ついでながら、演奏が終わって会場からロビーの出口近くに差し掛かった時、元総理の小泉純一郎さんがすれ違い様にチケット売り場方向に歩いて行かれるのを見ました。クラシックファンなのですね。嬉しそうな若々しい表情をされていました。
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『ドイツ三大B名曲コンサート』を聴いて来ました。
表記の「三大B」とは、ここではブラームス、ブルッフ、ベートーヴェンを指し、それぞれの代表的曲の一つを演奏するものです。連休最後の祝日でしたが、主催者に電話で訊いたら、「蔓延防止対策実施中の神奈川県の指導に従って、座席数減などのコロナ対策を施して予定通り実施します」とのことでした。チケットは3月に購入していたものの、もしかしたら中止か延期になるかも知れないと思っていたので、予定通りということを聞いて、後は個人の責任でコロナに対する万全の注意をする他ないと考え、聴きに行くことにしました。
プログラムの概要は次の通りです。
【日時】2021.5.5.15:00~
【会場】テアトロ・ジューリオ・ショウワ(神奈川県川崎市)
【管弦楽】東京交響楽団
【指揮】大友直人
【独奏】松田理奈(Vn)
【曲 目】
①ブラームス『ハイドンの主題による変奏曲Op.56a』
②ブルッフ『ヴァイオリン協奏曲第1番ト短調0p.26』
③ベートーヴェン『交響曲第7番イ長調Op.92』
【演奏の模様】
①ブラームス『ハイドンの主題による変奏曲Op.56a』
《割愛》
②ブルッフ『ヴァイオリン協奏曲第1番ト短調0p.26』
ブルッフ没後100年が経ち、今やこの曲はクラッシック界に珠玉の宝石の様に燦然と輝く存在です。ブラームス没後120数年、ブルッフは、ブラームスより時代が一昔もふた昔も後の作曲家の様に見えますが、実際は、5歳しか若くなかったのです。ほぼ同時代を生きた音楽家と言って良い。ブラームスが64歳で亡くなったのに対し、ブルッフが82歳と長命だったためでした。
〇第1楽章 (前奏曲)Vorspiel:Allegro moderato ト短調。
比較的短い楽章。Timpのトレモロと木管に続き,独奏ヴァイオリンのカデンツァが開始。ヴァイオリンの最低音Gから高音まで一気に上昇する。続いて力強く第1主題をヴァイオリンが重音を交え演奏。対照的に第二主題は優美に展開、第1,2主題を力強く展開部で盛り上がり、再現部は省略された構成で、序奏のカデンツァ風の部分を再現した後、中継ぎの調べが続く。ほぼ全体が独奏ヴァイオリンが支配。アッタカで第2楽章と直接つながれる。
〇第2楽章 Adagio 変ホ長調。
展開部を欠いたソナタ形式。最も長い楽章で曲の中心を成す。第1楽章同様ほぼ独奏ヴァイオリンが活躍。ブルッフ特有の美しい旋律が溢れる。ヴァイオリンの歌う第一主題に始まり、第二主題は独奏のパッセージを背景に木管楽器のアンサンブル。再現部は変形されて変ト長調の第一主題再現で開始、第二主題がクライマックスを演じ、最後は静かに終了。
・第3楽章 (終曲)Allegro enerugico ト長調、
ソナタ形式。オケが主題を想起させる導入をはかり、ヴァイオリン独奏の重音奏法による熱烈な主題が現出。第2主題をオケが雄大に展開し、抒情性のすぐれた例となっている。
この曲は何回聴いても素晴らしいと誰もが認める名曲だと思います。ここ数年、神尾さん、レーピンなどなど多く演奏会で演奏されるのを聴きました。古今東西幾多のVn名手が競ってその見事な曲姿を目に見えるが如き形に表そうとしたことでしょう。名だたるヴァイオリニストの生演奏又は録音を聴いても感動しない時は無いといってもいい位です。今日の独奏演奏の松田里奈さんは、一度『堀正文 70th Anniversary Concert(2019年5月19日)』で、クライスラーを演奏したのを聞いたことがありますが、力強い演奏だった記憶があります。今日の独奏も期待していました。改めて松田さんのプロフィールを見ると、藝高から桐朋音大に進みその後ドイツにも留学されて大学院を修了している様です。日本音楽コンクール第1位の実績も有り、まだ40歳にはなっておられないですが、我が国の中堅ヴァイオリニストと言って良いと思います。
流石テクニックも表現力も音も素晴らしいものがあります。演奏を俯瞰してみると完璧と言っても良い演奏だったのですけれど、、失礼ですがやや小じんまりした印象を受けました。もっと音に厚みのある弩迫力の演奏部分があってもいいのかなという感じがしました。今度機会があったら、ブラームスも聴いてみたい。
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(2022.2.13.HUKKATS Roc.抜粋再掲2)
『漆原啓子&秋葉敬浩Duo Recital』
今日は、(自分の)天気予報が外れてしまい、冷たい雨の日になってしまいました。家にぬくぬくと籠っていた方が賢いのでしょうが、演奏会の予定がありました。表記のリサイタルは座席数30席程のソーシャル・ディスタンスをとった横浜・東戸塚のプライベート・ホールでの演奏会なので、コロナ感染リスクはかなり低いとみて聴きに行くことにしたのです。
【日時】2022.2.13.(日)14:30~
【会場】Sala MASAKA(横浜・JR東戸塚駅前)
【出演】漆原啓子(Vn) 秋葉敬浩(Pf)
【曲目】 ①モーツァルト『Vnソナタトト長調KV379(373a)』
②ババジャニアン『Vnソナタ変ロ短調
③ラヴェル『ツィガーヌ』
④プロコフィエフ『Vnソナタ第2番ニ長調Op.94bis』
【演奏の模様】
開演ぎりぎりに会場に入ると一階に15人程度、2階に5~6人。合わせて20人程の観客がいました。ピアノの大きさから考えるとそれ程床面積は広くないと思いますが、実際より大きめに見えます。これは2階両サイドの高窓からの自然光と照明のお陰で、ホール全体が明るくて清潔に見えるからでしょうか。
どうも近くにある大きなクリニックの医師が建てて運営している模様。道理でホールには最近あちこちのクリニック等で見かける空気清浄機が設置されていました。今日の選曲は、以前全曲演奏しアルバム化したソナタ集からモーツァルトの成熟期のヴァイオリンソナタと、今年デヴュー40周年の漆原啓子さんが、デヴュー直前のヴィニャフスキーコンクールで優勝した時の演奏曲等を弾きました。演奏を聴いた後で気が付いたのですが、普通のVnソナタを弾く時は,❝Pf伴奏で❞というのが多いですが、今回の演奏会はVnが主であっても、Pfが相当のウエイトで活躍しピアノソロの箇所も多いので、PfがVnと対等である「Duo演奏」と称したのでしょう。
①モーツァルト『Vnソナタト長調KV379(373a)』
①-1 Adagio
ピアノのアルペジョの後、Vnが比較的低音でスタート、休止中はピアノの音が間隙を埋め、ピアノは伴奏というよりVn と対話している様です。Pfの合いの手が多かった。漆原さんは、第一音のみ重音で、またその後は短い重音でメロディを滔々とかなりゆったりと弾きました。
①-2 Allegro
一楽章からアッタカ的に切れ目なくスタート。かなり速いテンポで途中からテンポを上げ、有名な短調のメロディがピアノ、Vnと受け継がれ次第に激しさを増していきました。ここまで高音でなくほとんど中音域、低音域のシックなVnの調べがホールを満たし魅力十分の演奏。
①-3 Andantino cantabile – Allegretto
冒頭パッフェルベルのカノンの影響と思われる旋律が流れます。このカノン旋律は当時から現代まで人気のあるものです。ワーナーのオペラで有名なニュルンベルク出身のヨハン・パッフェルベル(1653-1706)がいつ作曲したかは不明で、その後写譜で受け継がれてきたものですが、現存する最古の写譜は1800年代のものといいます。モーツアルト時代(1756-1791)に神聖ローマ帝国内でパッフェルベルのカノンが普及していて、モーツァルトが参酌している可能性は十分あります(パッフェルベルはウィーンに行って作曲したこともあるので、ウィーンでも良く知られていた旋律なのでしょう) 。途中からテーマの速い小刻みの変奏が走り、ピアノはかなり強く合の手を入れるました。そしてカノンの変奏的な旋律を、漆原さんはかなり力を込めて弾いていました。最後はVnのピッツィカートが続き、その間ピアノが主となって旋律を響かせました。ピアニストであったモーツアルトらしい旋律構成です。秋葉さんのピアノはっがしりした大きい体格からこれまた大きい手でしっかりとした音を紡ぎ出していましたが、この小さ目の木壁のホールでは、VnよりPfの音の方が反響が強いのか、所々Pfの音が大きすぎる気がしました。
以下、②ババジャニアン『Vnソナタ変ロ短調』③ラヴェル『ツィガーヌ』④プロコーフィエフ『Vnソナタ第2番ニ長調Op.94bis』に関しては割愛します。
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(2022.9.9 HUKKATS Roc.抜粋再掲3)
アリーナ・イブラギモヴァ『無伴奏ヴァイオリンリサイタル』
【日時】2022.9.8.19:00~
【会場】銀座王子ホール
【演奏】アリーナ・イブラギモヴァ(Vn.)
【Profile】
バロック音楽から委嘱新作までピリオド楽器とモダン楽器の両方で演奏するアリーナ・イブラギモヴァは、2015年BBCプロムスでバッハ無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータの2夜にわたる全曲演奏を行い、英ガーディアン紙は、この公演を「イブラギモヴァの演奏の臨場感と誠実さには、演奏家と聴衆の間に存在するいかなる距離感をも打ち破る興味深い能力が備わっている」と評価、彼女の名声をさらに高めた。21/22シーズンのハイライトは、ロイヤル・コンセルトヘボウ管、ロンドン響等との再演の他、マーラー・チェンバー・オーケストラにデビューする。これまでに、バイエルン放送交響楽団、ボストン交響楽団、ヨーロッパ室内管、エイジ・オブ・エンライトメント管等と共演、共演した指揮者には、ベルナルト・ハイティンク、サー・ジョン・エリオット・ガーディナー、ダニエル・ハーディング等がいる。室内楽でパートナーを組むセドリック・ティベルギアンとは、ウィグモア・ホール、ムジークフェライン等の他、ザルツブルク、オールドバラなどの音楽祭に出演。ロシア生まれ、メニューイン・スクールと王立音楽院で研鑽を積む。10年のロイヤル・フィルハーモニック協会のヤング・アーティスト賞、ボルレッティ=ブイトーニ・アワードを受賞。16年、大英帝国勲章MBEを授与される。ハイペリオン・レーベルで多数録音を行っており、19年にウラディミール・ユロフスキ指揮ロシア国立交響楽団とショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番&第2番を録音。最新の録音は、パガニーニの「24のカプリース」とメンデルスゾーンの「ヴァイオリン・ソナタ集」。使用楽器は、ゲオルク・フォン・オペルから貸与されたアンセルモ・ベローシィオ(c.1775年製)。
【曲目】
①ベリオ『 セクエンツァ Ⅷ』
②J.S.バッハ『無伴奏ヴァイオリン・パルティータ 第2番 ニ短調 BWV1004』
③ビーバー『ロザリオのソナタよりパッサカリア ト短調』
④バルトーク『無伴奏ヴァイオリン・ソナタ Sz117』
【演奏の模様】
イヴラギモヴァの演奏は、最近では、9月3日に都響をバックに、ブラームスの協奏曲を弾いたのを聞きました。その時の記録を参考まで、文末に(抜粋)掲載します。
今回は無伴奏の古楽と近・現代の曲の演奏なので、彼女の最も得意とするところでしょう。
①ベリオ『 セクエンツァ Ⅷ』
《割愛》
②J.S.バッハ『無伴奏ヴァイオリン・パルティータ 第2番 ニ短調 BWV1004』
待っていました!これぞ彼女の真骨頂の演奏。バッハの無伴奏パルティータ。弦はガット弦でしょうか?イブラギモヴァの弾き放つ低い太い調べが、腹の底にズッシリ響いて来ます。結構速いテンポ。小節の最後の区切りは綺麗に揃った重音の和音が心地良く聞こえます。テーマが何回か繰り返された。
ここでバッハの無伴奏パルティータに関して若干の説明をしておきます。無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ全三曲は、バッハの無伴奏ヴァイオリン曲全六曲のうちの半分を占めます。三曲のパルティータに加え三曲のソナタで全六曲となるのです。パルティータとソナタは交互に配置されて、堂々たる大建築物のようなスケールの音楽であるとも言えるでしょう。
パルティータは舞曲による多楽章構成で、4楽章構成であるソナタとは、異なる世界を展開します。がっちりとした構造のソナタに対し、パルティータは自由に飛翔する浮遊物。大寺院建築物に例えれば、前者は寺院を支える太い石柱等の骨組み、後者はステンドグラスから太陽が寺院内部に漂わせる透過光の煌めき。バッハは、ソナタを厳として同じパターンで作曲したのに対し、パルティータは三曲とも全く違う形式で作曲しました。 ここで演奏された第二番のパルティータは、ヴァイオリンに最も演奏の可能性を広げるニ短調で書かれ、全6曲の作品の中でクライマックスとも言える「シャコンヌ」をメインに、圧倒的なスケールで繰り広げていきます。パルティータとしては、この曲が最もオーソドックスな造りであると言えるでしょう。
イブラギモヴァはややうつむき加減の態勢から力を込めて弓を上下しながら、この大好きなバッハの素晴らしい調べを堪能させて呉れました。
このパルティータはまずアルマンド、次にクーラント、そしてサラバンド、ジーグと、 4つの舞曲が続き、それから長大な第五曲目シャコンヌに到ります。シャコンヌのテーマ提示後はそれに続く30の変奏が延々と続きます。それまでの四舞曲をのみこみ、うねり、Sturm und Drangを経て、聴衆を希望や運命、永遠をも予感させる別次元にいざないます。その後この曲の後半、それまでニ短調で貫かれてきた無伴奏曲は、初めて長調に転じるのです。これ等を聴いて誰しも畏敬の念を禁じ得ないでしょう。イブラギモヴァの演奏は、将に人知を超えた大いなる存在を気付かせ、天の琴線に触れたとも思える演奏でした。
シャコンヌは言うに及ばず、サラバンドの丹念な演奏も印象的でした。
一方で同時に感じたことは、往年のハイフェッツの演奏録音などを聴くと、音質に随分潤いがあるのですが、それに比してやや乾いた音質かなとも思いました。これはガット弦であるためでしょうか?
《以下割愛》
③ビーバー『ロザリオのソナタよりパッサカリア ト短調』
④バルトーク『無伴奏ヴァイオリン・ソナタ Sz117』