HUKKATS hyoro Roc

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堀米ゆず子&ヴァレリー・アファナシエフ 《奇跡のデュオ》

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【日時】2022年12月10日(土)13:30~

 

【出演】堀米ゆず子(Vn.)ヴァレリー・アファナシエフ(Pf.)


【曲目】

①J.S.バッハ『無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番 ハ長調 BWV1005』


②『3つのピアノ曲より 第2番 変ホ長調 D946-2』


③シューベルト『ヴァイオリンとピアノのためのソナタ イ長調 D574』


④ブラームス『ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第1番 ト長調 op.78』

 

【Profile】

〈堀米ゆず子〉

東京都生まれ。 5歳よりヴァイオリンを始める。久保田良作、江藤俊哉に師事。

子供のための音楽教室、桐朋女子高等学校音楽科を経て、桐朋学園大学音楽学部を卒業。

1980年、日本人として初めてエリザベート王妃国際音楽コンクールで優勝。以後ベルギーを本拠として国際的な活動を行っている。1981年、芸術選奨新人賞受賞。

使用楽器は、1741年、クレモナにて製造された「ヨゼフ・グァルネリ・デル・ジェス」。

現在、ベルギー、ブリュッセルに在住。ブリュッセル王立音楽院客員教授。

 

〈ヴァレリー・アファナシエフ(Pf.)〉

 1947年モスクワ生まれ。モスクワ音楽院でヤーコブ・ザークとエミール・ギレリスに師事。1968年のバッハ国際音楽コンクール(ライプツィヒ)、1972年のエリザベート王妃国際音楽コンクール(ブリュッセル)で優勝を飾る。特に、エリザベート・コンクール優勝時の演奏は、まるでクリスタルのような美しい音色を響かせていた、と伝説のように語り継がれている。1973年モスクワ音楽院を卒業後、レニングラード・フィルなどとの共演、ソ連国内のツアーを行ったが、1974年にベルギーへ亡命した。以後、ヨーロッパ、アメリカ各地でリサイタルを行うほか、ベルリン・フィルをはじめとした著名なオーケストラと共演を重ねてきた。1983年にヴァイオリニストのギドン・クレーメルの共演者として初来日。1987年の第3回《東京の夏》音楽祭のソロ・リサイタルでは、熱狂的な成功を収める。また、1994年の第10回《東京の夏》音楽祭では、ピアニストであるアファナシエフが作曲者ムソルグスキーと対話しながら演奏する音楽劇『展覧会の絵』を自作自演で上演して、反響を呼ぶ。この楽劇は、2009年にも再演され、前回の内容とは違う魅力を披露し評判となった。2001年来日公演の模様は、NHK教育テレビ「芸術劇場」で放映され幅広い熱烈なファンを摑む。また、2003年の来日公演では、ベートーヴェン:最後の3つのソナタを演奏。サントリーホールでの演奏会の模様がライヴ録音され、2004年に若林工房から発売。タワーレコードのクラシカルチャートで、第1位を獲得した。  
 これまでにドイツ・グラモフォン、DENON(コロムビア)、ECM、若林工房などから40枚以上のCDをリリース。1992年「ブラームス:後期ピアノ作品集」DENON、収録曲(3つの間奏曲 作品117、6つのピアノ曲 作品118、4つのピアノ曲 作品119)がレコード・アカデミー賞(器楽曲部門)を受賞。一躍、高名なピアニストとして名声を得る。来日のたび、新録音のリリースのたびに、その独自の音楽性が論議を呼び、音楽界に大きな刺激をもたらしている。  ピアノ演奏にとどまらず、『失跡』、『バビロン没落』、『ルートヴィヒ二世』などの小説を発表する文学者の顔を持っている。フランス、ドイツ、ロシアでの出版に加えて、日本でも2001年、エッセイ集『音楽と文学の間〜ドッペルゲンガーの鏡像』、2009年、詩集『乾いた沈黙』、2011年、現代思想集『天空の沈黙 音楽とは何か』、2012年エッセイ集『ピアニストのノート』、2014年には、短編集『妙なるテンポ』が出版された。また2014年6月16日東京・銀座にて、吉本ばななと対談し、大きな話題となった。ナボコフ、ボルヘス、ベケット、カフカ、ジョイスなどを愛読し、ヴィトゲンシュタイン、道教思想、インド哲学に傾倒していることでも知られている。  2008年3月には、アファナシエフのドキュメンタリー番組「漂泊のピアニスト アファナシエフ もののあはれを弾く」がNHKハイビジョン特集で放送された。また、大好評により2012年7月、2013年1月にもNHK BSプレミアムにより再放送された。
 現在は、ブリュッセルを拠点に活動。現代におけるカリスマ的ピアニストとして注目を集め続けている。

 

【演奏の模様】

①J.S.バッハ『無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番 ハ長調 BWV1005』

①-1Adajio

①-2Fuga

①-3Largo

①-4Allegro assai

    この曲は、一つのヴァイオリンが、旋律と伴奏を同時に弾くホモフォニー曲の代表的なものです。旋律と伴奏を同時に弾くことは、ピアノ演奏ならば当たり前のことです。左右の手を使えるのですから。ヴァイオリンでも、両手が使えればいいのですが。片手で弦を押さえないと音の高さが調節出来ない。(将来両手で弓を持ち、音の調節は、足か何んかで、キーボードか何かを操作して弦を押さえ(ることの出来るメカニズムを有したヴァイオリンと言っていいのかな?)、多重音を出す新しいヴァイオリンが発明されないとは限りませんけれど)。重音演奏も同類の技術を要する演奏形態です。そんな伴奏パートのせいで複数の弦を絶妙にあやつる高度な技術がヴァイオリン奏者には求められる。そういう意味でこのバッハの曲は熟練した奏者でも相当なハイ・テクニックを必要とします。

堀米さんは、重音でスタート、最初からすぐに難しいだろうな思えるホモフォニーの響きを立てています。しかもかなりの力強いボーイングを続けてる。しかもさらに難しいのは、「複数の弦を鳴らしながら、音量バランスをとり、主旋律の邪魔しない様に、うまく補助出来るよう和音を鳴らすことです。そのために、弓の角度や重さのかけ方を微妙に調節している感じです。

①-2Fuga

 ここでは、聴き慣れた旋律がコラールから用いられています。Fugaの方が弾き易いのかも知れません。次第にせり上がる響き、随分と分厚い響きでした。高音の旋律から急な低音域での重音演奏と変化も見事な演奏

①-3では、プログラムノートによれば、バッハ得意の❝ため息のモチーフ❞が多く使われています。中音域でのゆっくりとした旋律でスタート、重音演奏だらけの楽章で堀米さんは呼吸を整えて弾いている様子、切れ目ない展開を経て静かに終了しました。

①-4

相当速いテンポで演奏が開始、音を弱く出し⇒Pに弱まりさらに⇒ppから⇒pへと変化、時として荒々しく力強く猛スピードで進行、付点リズムも軽快に堀米さんは益々調子を上げて弾いている感じがしました。

 弾き終わると大きな拍手、これだけの難曲を見事に弾きこなす力強い演奏は相当年期が入らないと出来ない事なのでしょう。その後のヴァイオリン演奏を含め一番感銘を受けた演奏でした。

 

ここで舞台中央にピアノが移動され、その作業の間小休止です。

 

 ②シューベルト『3つのピアノ曲より 第2番 変ホ長調 D946-2』

 アファナシエフによるピアノソロ演奏です。シューベルトの死の年の作品です。最初の第一声(音)からとても柔らかい音には驚きました。こんな慈愛に満ちた音は聴いた事がありません。どちらかというとゆっくりとしたペースで弾いている。鍵盤を見ると、大きな手の太い指で鍵盤に平行にして打鍵し弾いている。少し強くバンバンバンと打鍵した時頭が前後に少し振れます。シューベルトのソナタは良く聴く機会がありますが、この曲を聴いたのは初めて、こんなに素晴らしい曲があったのかと新発見した気分でした。それはきっとアファナシエフの演奏が素晴らしいものだったからでしょう。心で演奏している感じ。少し激しいfのパッセッジを弾き終えると、右手を大きく上に振る仕草をし、かと思うと微弱な柔らかいとても綺麗な、ピアノの音ってこんな音が出るのだ、と関心する程の音を立てていました。さすが伝説のピアニスト、ギレリスの愛弟子だったことのあるピアニストだけあります。その生演奏を聴けるだけでも、今日の演奏会のタイトル❝奇跡の演奏❞そのものでした。

《20分の休憩》

 

③シューベルト『ヴァイオリンとピアノのためのソナタ イ長調 D574』

4つの楽章からなります。

Ⅰ.Allegro moderato

Ⅱ.Presto

Ⅲ.Andantino
Ⅳ.Allegro vivace

 この曲の演奏は、堀米さんの演奏は少し弱く聞こえ、アファナシエフのすばらしいピアノの音だけが目立ちました。これは①の高度な技術のバッハの曲演奏で、かなり疲れたからかなとも思いましたが、曲の成り立ちを調べると、どうもシューベルト自体が作曲に際し、「ヴァイオリンソナタ」において従来のPf.がVnの従になる力関係をこの曲では、変えようとした 野心作との見方もあったのでさも有りなんという気がしました。ここでもアファナシエフの素晴らしい発音をじっくり味わいました。

 

④ブラームス『ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第1番 ト長調 op.78』

ブラームスの三つあるソナタの最初の曲で、この曲の第二楽章を、重病床にあったシューマンの息子を見舞う言葉と共に最愛のクララ未亡人に送っています。

 如何にブラームスがクララに愛着の念を抱いていたかが伺い知れるエピソードですが、矢張り偉いのはクララ、残りの人生を恋焦がれるブラームスを嫌うことなく但し❝二夫にまみえず❞の姿勢を一生通した彼女は立派!

さてこの曲は三楽章構成で

Ⅰ.Vivace ma non troppo

Ⅱ.Adagio

Ⅲ.Allegro molto moderato

この曲の第三楽章冒頭で、自らの歌曲「雨の歌 Regenlied」作品59-3の主題を用いているため「雨の歌」という副題が付けられています。

④-Ⅰ.

Pf.が低く入りすぐにVn.も低い音で参加、くねくねくねと上行するVn.Pf.の主題の演奏、とても綺麗な音を立てています。堀米さんのVn.演奏も③シューベルトの時よりは音が鳴っていたと思います。

 Vn.のpizzicato演奏下、Pf.は旋律を強く打鍵、相当大きな音を立てている。アファナシエフの演奏は一個一個の音が美しく旋律表現も柔らかくシューベルト演奏にはうってつけではないかと思った。Vn.も大健闘、音が伸びやかでした。

④-Ⅱ

Pf.が伴奏的な旋律を大きな音を立てて暫く前奏した後、Vn.が入ります、少し音を響かせて上に上がり、又響かせては下に下がる音で

かなり情念が籠った感じのする強い表現を両者ともしている。

Vn.の重音が続き再度、少し音を響かせて上に上がり、又響かせては下に下がる音を立て、堀米さんは、さらにその変奏をさらには重音演奏で滔々と音を響かせて最後はPf.共々静かに音を収めるのでした。

④-Ⅲ

短調のVn.の調べが、Pf.の伴奏で響き渡り、所謂「雨の歌」の旋律で、Vn.はもの悲し気に歌います。同時にPf.もポポーンポポーンとフォローしている。

 実はこの演奏会の前々日に『ブラームス・ヴァイオリンソナタ全曲演奏会』があり聴きに行きました(記録は未完遂)。そこで演奏されたVn.とPf.の関係と今回の演奏をどうしても比較したくなります。今回はこの曲でもやはりアファナシエフのピアノ演奏が目立ってしまっています。これは座席のせいではないと思う。鍵盤が良く見える二階の斜め前席ですから、ピアノの音は大きく開いた響板に反射し斜め前より真正面に大きく響くでしょうしVn.の音は楽器を中心にが逆円錐状に上に広がるでしょうから、ピアノの音がヴァイオリンよりも卓越して聞こえたのは、矢張り演奏が原因だと思います。アファナシエフはVn.奏者の方は一向気にしていない様子で自分の演奏に没入している感じ、一方、堀米さんの方はやや疲れを見せた演奏で音がやや小さく(③のシューベルトの時程ではないですが)聞こえました。音の美しさはピアノが優っていました。これは前回聴いた時と大違いだった点です。

 以上予定の曲の演奏が終わり、もうおしまいだろうと席を立ちかけました。何故なら②の曲の演奏終了時から、アファナシエは袖に下がって舞台に戻る時、ピアノの処まで行かず、舞台に少し出たところで声援(に代わる拍手)に答えていたからです。本演奏の時もゆっくりゆっくりピアノまで歩いていましたから、相当歩くのがつらいみたい。アルゲリッチの時も同様な登壇でしたが、彼女はアファナシエフより6歳も年上ですからね。アファナシエフは体の具合が悪いのかな?もしそうだとするとこれが日本での演奏の見納めかも知れない等と考えながら席を立ったら、堀米さんに同伴されてアファナシエフが再登壇、ピアノに座りました。堀米さんが余り大きな声でなくアンコール曲を演奏する旨発表、二人は演奏を始めました。

《アンコール演奏》

ブラームス作曲ハイフェッツ編『冥想曲Op.105』

でした。美しく甘い旋律ですが、ブラームスの強さも秘めたとてもいい曲の演奏でした。