HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

『クァルテット・インテグラ』受賞記念リサイタル

 表記のリサイタルの正式名称は、「サントリーホール室内楽アカデミー特別公演ミュンヘン国際音楽コンクール第2位&聴衆賞記念クァルテット・インテグラ リサイタル」と、仰々しい名が付けられています。要するに、このクァルテットは、「サントリーホール室内楽アカデミー」出身で、「ミュンヘン国際音楽コンクールで、第2位&聴衆賞を取った記念の特別公演だということを意味しています(何が特別か分かりませんが)。このクァルテットは確か、一昨年10月、ブダペストで開かれたバルトーク国際コンクールで優勝したのでしたね。ミュンヘン国際コンクールでは、既に「葵トリオ」が2018年に優勝しています。我が国の若手室内楽演奏のレベルも国際的になってきていることは、喜ばしいことです。

 

【日時】2023.1.6.(金)19:00~

【会場】サントリーホール・ブルーローズ

【出演】

ヴァイオリン:三澤響果
ヴァイオリン:菊野凜太郎
ヴィオラ:山本一輝
チェロ:築地杏里

【曲目】

①ハイドン『弦楽四重奏曲第74番 ト短調 Hob. III:74<騎手>』

(曲について)

1793年に作曲されたの6曲の弦楽四重奏曲のうち最終曲。6曲は2つの曲集に分けられて出版されれ、この曲は「第二アポーニー四重奏曲集(3曲)」に入った。

第74番の愛称である『騎士』 (Reiterqartett) は、第4楽章の冒頭第1主題が馬のギャロップ駆け足)を想起させることに由来する。また『騎手』とも呼ばれる。

晩年のハイドンをロンドンに招いたザロモンの勧めで書かれたか?第1楽章冒頭のユニゾンからして創意工夫と躍動感に富み、聴き手を魅了してやまない。ハイドン存命中から人気曲で、第2楽章の調べは、作曲者自身または第三者により『ピアノのためのアダージョ ホ長調』に編曲されたほど。アッポニー伯爵に献呈された6曲の弦楽四重奏曲のひとつである。演奏時間15~16分

 

②ラヴェル『弦楽四重奏曲 ヘ長調』

(曲について)

生前に未出版だった遺作のヴァイオリン・ソナタ1897年)から数えると、ラヴェル2作目の室内楽である。しばしば録音や演奏で組み合わされることの多いドビュッシーの「弦楽四重奏曲 ト短調」作品10(1893年完成、1894年発表)からはちょうど10年後の作品であり、先輩のその作品からラヴェルは啓発を受けていた。

ドビュッシーはラヴェルのこの作品に熱狂的な賛辞を送って、ラヴェルに終楽章を改訂せぬように説得し、次のように進言した。

  「音楽の神々の名とわが名にかけて、あなたの四重奏曲を一音符たりともいじってはいけません。」

しかしながらラヴェルは、出版にあたって作品全体を改訂して、より構築感が高まるようにした。

弦楽四重奏曲はこの時代には難しいとされたジャンルであり、作曲家が成熟期を迎えるまでにこれを手懸けることは、まず滅多にないほどである。だが、当時まだ27歳のラヴェルはその作曲に挑んで、この楽種の傑作を示したのであった。


③バルトーク『弦楽四重奏曲第6番』

(曲について)

 1939年に作曲されたバルトーク最後の弦楽四重奏曲各楽章の冒頭はいずれもメスト(悲しげに)と記された共通の主題で開始され、作品全体の統一が図られてもいる。また、この主題は楽章を追うごとに拡大し、第4楽章ではついに楽章全体を覆う。こうした構成は、この当時のヨーロッパを覆っていた戦争へ向かう不可避な雰囲気を象徴している。一方で弦楽四重奏曲第4番第5番でなされた5楽章で構成される回文構造は採用されず、4楽章形式が採られており、古典的な印象を与えている。約30分。

 

 

【演奏の模様】

 

①ハイドン/74番

第1楽章Allegro

第2楽章Largo assai

第3楽章Menuet:Allegretto

第4楽章Finale:Allegro con brio

 1楽章がスタート、Vc.のpizzicato、Vc.から順にカノン的な旋律移動、その後重奏を先導する1Vn.も卒無くまずまずと言った感じ。初期に現れるギャロップを想起させる旋律は、後に、「騎手」というネーミングのもととなりました。Vc.のpizzicatoは、心地よい響きです。この楽章は不可無し。
 2楽章は冒頭からかなりslowなテンポですが、アンサンブルの溶け具合は良好、相変わらず三澤さんの1Vn.牽引は続きます。1Vn.の低音域からのせり上がりも良好。Vn.のトレモロが響きました。
 3楽章は、録音で聴いた時は、それ程冴えた曲の印象はなかったのですが、今日生演奏で聴いた感じは、とても素晴らしく聞こえました。何故なんだろう?それだけ、このクァルテットの軽快な演奏が良かったからかも知れない。
 最終楽章は、まさに競馬でも見ているかのような、スピード溢れる演奏でした。音を出している奏者は宛も馬に跨がる騎手の様に、いやそれどころか疾走する競走馬そのものの様に、頭を振り体を揺すりながら強弱織り交ぜた演奏でした。あれは、競馬場のコースを走る馬たちが、目の前を通過する時は、足音が大きくて聞こえ、楕円形のコースの向こう側を走る時は、小さく聞こえる様まで、ハイドンは曲で表したのかと感心する程。1Vn.が三カ所で立てる高音のキーキー音は、イナ鳴きにまで聞こえてきます。先入感があると恐ろしいものですね、その様に聞こえてしまいます。
 最後まで聴くと、この曲は、やはり、ハイドンらしさに満ちみちていました。インテグラの演奏は忠実にハイドンの曲を表現出来ていたと思いますが、欲を言えば疾走風景がさらに迫力ある表現だったら最高だったのにと思います。昨年のサントリーH「Chembar Music Garden」での『エルサレム弦楽四重奏団』の様な熱意溢れる表現だったらと…。

 

②ラヴェル/ヘ長調
 以下の4つの楽章から成り、全曲を通して演奏に約30分を要します。ラヴェルは、この曲を、二十歳代、パリ音楽コンクール院に出入りしていた頃の作品で、また、フランク楽派の伝統を受け入れて、循環形式をひかえめに援用し、作品の自然な統一感をもたらすことにも成功していると言われます。

第1楽章Allegro moderato (アレグロ・モデラート、ヘ長調

第2楽章Assez vif. Très rythmé (十分に活き活きと。きわめてリズミカルに。イ短調

第3楽章Très lent (きわめて緩やかに、主部は変ト長調

4楽章Vif et agité (活き活きと、激しく、ヘ長調)   

 1楽章は意外やたおやかな調べで開始、ラヴェルの他の様々な情念が迸る旋律からはかなりかけ離れているなと思うや否や、アンサンブルは急激に盛り上がり、全強奏になりました。それが再度静まり、1Vn.はハーモニックス音の如き高音を立て、Vc.はPizzicato、Va.が度々活躍、この楽章、山本さんはかなりの存在感を示していた。この楽章を一言で言えば、「小さなドラマ性の発現」でしょうか。どこまでも流れはラヴェル流展開でした。後の作曲スタイルの萌芽は若い時からあったのですね。

 2楽章、この楽章は冒頭も最後もpizzicato、相当部分pizzicato演奏によって占められると言っていいかと思います。時々流れる旋律はトレモロによって縁取りされ、テーマのポンポンポポポン、ポンポンポポポン、という軽快なリズムは旋律の変奏によっても再現されました。

 プログラムノートの記載ではドビュッシーの影響があるとありますが、ラヴェルはフォーレの弟子で良く目を掛けて貰ったと謂われます。楽界大物のフォーレに対し、野人的で女性スキャンダルも多かったドビュッシーをラヴェルは心ではどう思っていたか知る由は有りませんが、ドビュシーの影響と言うより、ドビュシーに対抗意識があって結果的に類似の箇所が出て来たのではないでしょうか?あくまで推論ですが。

 途中調性、曲想が変わり、Vc.によるSlowな調べが流れだしました。1Vn.に引き継がれるとかなり低音域でのアンサンブルが同様なテンポで続きます。Va.が控え目のソロ音を立てた後は再三旋律とpizzicatoの場面が交錯して終了しました。

 第3楽章はVa.の哀愁を帯びた調べでスタート、Va.がゆっくりと主旋律を奏で、Vn.+Vc.のトレモロ下Va.がけだるい旋律を繰り出します。この楽章全体が何か神秘性を帯びた幻想的な雰囲気を帯びていて、例えば深い森の中の小さな池のほとりに妖精たちが花を摘んでくつろいでいるといった風な場面を想起してしまいそう。のちのラヴェルの物語性を帯びたバレエ音楽の源泉を見る思いでした。

 最終楽章は強いボーイングの激しい斉奏でスタート、速いトレモロとpizzicatoが交錯し、中盤からは1楽章の主題旋律が再現されたりし、フランクの循環形式の影響が見て取れます。

 各楽章の時間配分はほぼ7~8分で均整がとれていました。

 以上の演奏はラヴェルのその後の活躍を示唆する曲の特徴を、インテグラのメンバーは意識するせざるに関わらず良く表現で来ていたと思います。1Vn.の三澤さんは先導的な役割を良く果たしていて、特に最終楽章での力強い演奏は目を見張るものがあったし、2Vn.の菊野さんはがっしりした体躯を効果的に使ったこれまた力強い演奏が印象的だったし、とかく隠れがちになるVa.演奏をしっかりとした確実な奏法で、はっきりと表現していた山本さんは、特に第1楽章でのアンサンブルの調整的役割の活躍等素晴らしいものが有りました。またVc.の築地さんは、第二楽章のpizzicato演奏ではあたかもコントラバスかハープの音の様な太いドッシリした音を出してpizzicato による旋律的遷移に重しを掛け、またソロ演奏部でも心にずっしりと響くチェロならでのいい音を立てていました、皆さん、和声的にも素晴らしい融合性を発揮していました。

 

③バルトーク/6番

第1楽章Mesto - Più mosso, pesante - Vivace

第2楽章Mesto - Marcia con sordino

第3楽章Mesto - Burletta

第4楽章Mesto

 インテグラの皆さんは、バルトーク・国際コンクールの覇者となってからも、それ以前からも、恐らくバルトークの曲を(回数を含め)一番よく演奏してきたと思います。この曲はコンクールファイナルで弾いた5番の次に作曲されたものでバルトークが病状にある母の死を目前にして書き上げたというこの曲は彼の最後の弦楽四重奏曲となりました。

第1楽章の冒頭、楽譜にはMesto(悲しげに)の指示があり、バルトークが速度指定の代わりに表現記号を書き込むことは非常に珍しいことです。どれ程悲しみが深かったか、その気持ちを抱いて戦争のさ中母のもとから米国に戻ったか、演奏を聴いているうちに、❝百文は一聞に如かず❞の感がありました。それだけインテグラの皆さんの演奏は心を込めた演奏でした。言う事無し。

 

 予定曲の演奏終了後、満員の会場の割れんばかりの拍手に答え、三澤さんが壇上の一段前に進み、❝こんなに沢山の皆さんに聞いていただき有難う御座いました。アンコール演奏を何にしようか考えたのですが、ベートーヴェンの130番~カヴァティーナを演奏します❞と言った趣旨のことを、素朴な口調で、はにかみながら話し四人は演奏し始めました。

《アンコール曲》

 ベートーヴェン『弦楽四重奏曲第13番 変ロ長調 Op.130 』より 第5楽章. Cavatina: Adagio molto espressivo 

 何と美しいメロディを四人は繰り出してくれるのでしょう。少し冗長に思われる時もあるこの楽章を、インテグラの皆さんは心を手繰り寄せる様に飽きさせず、時間を忘れさせて堪能させて呉れました。有難う、いいお年玉となりました。

尚、昨年バルトーク・コンクールで優勝した時のFinal演奏曲の一つである『バルトーク曲弦楽四重奏曲第5番BB110』は、帰国後サントリホールで弾いたのを聴きました。その時の模様を参考まで以下に抜粋再掲します。

///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

(再掲・抜粋) 

<略>

【演奏の模様】

①モーツァルト『弦楽四重奏曲第15番 ニ短調 K. 421』

<略>

②デュティユー『夜はかくの如し』

<略>

③バルトーク『弦楽四重奏曲第5番BB110』

 バルトークコンクールで1等賞を取った演奏らしく、畳み掛ける各パートの音は、無調的でもあり調和的でもありました。この曲は5つの楽章からなり、1楽章、終楽章が変ロの斉奏で終わるなど中心となる音が有調的であり、また全音階的進行が支配的である点などでこれまでとは異なり一歩進んでいると言えます。一楽章の終わりにそれを見ました。

 二楽章の冒頭の囁く様なトレモロのカノン的動き、1Vn.の旋律に伴奏する三者運休とpizziの交錯等ゆっくりしたリズムとのバランスは難しそう。

終わりまで、強弱・緩急交えた複雑な表現の曲を清濁併せ呑むが如く、この若者たちは何なく弾きこなしたのには舌を巻きました。自分の好みの曲では無いですが、演奏者の技量には感服脱帽です。