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綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

サントリーホール・CMG『エリアス弦楽四重奏団』演奏会(Ⅵ)最終日を聴く

 エリアス弦楽四重奏団の演奏は、初回ベートーヴェンの第15番を聴きました。初回だったせいなのかその実力を十分発揮していない様に思われました。今日はその演奏会の最終回、ベートーヴェン・サイクルも六回目になります。六回も弾けば、様々な条件が整って最高の演奏が期待できるのではないかと思い期待して聴きに行きました。そしてもう一つの理由は、今回の最終曲③ベートーヴェン『弦楽四重奏曲第13番<大フーガ付>』は、現在13番とされているOp.130は、原曲から第六楽章をAllegro の曲に差し替えられており、(差し替え版は今回の二日目(サイクルⅡ)で演奏されていますが、)最終日の今日は、差し替え前の原曲、即ち第六楽章が「大フーガ」のままである(現在はOp.133と番号付けられている)原曲版で演奏されるからでした。(従って今回は全16曲+1曲=17曲が演奏されたのです)

 

【日時】2023.6.14.(水)19:00~ 

【会場】サントリーホール・ブルーローズ

【出演】エリアス弦楽四重奏団

〈メンバー〉

サラ・ビトロック(1Vn.)

ドナルド・グラント(2Vn.)

シモーネ・ファン・デア・ギーセン(Va.)

マリー・ビトロック(Vc.)

【曲目】

①ベートーヴェン『弦楽四重奏曲第4番』

②ベートーヴェン『弦楽四重奏曲第10番<ハープ>』

③ベートーヴェン『弦楽四重奏曲第13番<大フーガ付>』

 

【エリアス弦楽四重奏団について】

1998年マンチェスターの王立ノーザン音楽大学在学中に結成。クリストファー・ローランド博士に師事し、ケルン音楽大学ではアルバン・ベルク弦楽四重奏団のもとで研鑽を積んだ。同世代のカルテットの中でも特に情熱的で、活力のみなぎる団体として、瞬く間にその名声を確立。BBC Radio 3「新世代アーティスト」に選出され、2010年にはボルレッティ・ブイトーニ・トラスト・アワードを受賞。カーネギーホール、ウィーン楽友協会、ベルリン・コンツェルトハウス、コンセルトヘボウ、ウィグモアホールなど、世界の名立たる室内楽ホールに出演している。

 

<メンバ-Profile>

■ヴァイオリン:サラ・ビトロック Sara Bitlloch, Violin
スイスのメニューイン国際音楽アカデミーやアメリカのカーティス音楽院で学ぶ。ヨーゼフ・シゲティ国際ヴァイオリンコンクール第 1 位。1999 年ピアノ三重奏でメルボルン国際室内楽コンクール入賞。パリの
カスタンニェリ弦楽四重奏団のメンバーを務め、2003 年にエリアス弦楽四重奏団に加入。これまでにメニューイン、フライシャー、イッサーリス、ギトリス、カントロフなどと共演。エルネン(スイス)、クフモ(フィンランド)などの室内楽音楽祭に参加する。
■ヴァイオリン:ドナルド・グラント Donald Grant, Violin
スコットランドの小さな村で過ごし、幼少のころから多様な音楽を演奏して過ごす。セント・メリーズ音楽学校や、英国王立ノーザン音楽大学で学び、在学中にエリアス弦楽四重奏団に参加。2009 年ソロ・アルバム『The Way Home』を発表。フォークバンド「The Secret North」メンバー。ストリングスの編曲やコンテンポラリーなフォーク・アルバムへの参加、即興演奏など、様々なコラボレーションをこよなく愛している。
■ヴィオラ:シモーネ・ファン・デア・ギーセン Simone van der Giessen, Viola
1984 年アムステルダム生まれ。2002 年に渡英し、英国王立ノーザン音楽大学で学ぶ。ヤン・レプコに師事。マンチェスターでナバラ弦楽四重奏団を創設し、室内楽が音楽生活の中心となった。06 年に同大学を優秀な成績で卒業し、09 年にはロイヤル・フェスティバル・ホールで演奏。マーラー・チェンバー・オーケストラに参加するなど、室内オーケストラやアンサンブル奏者としても活躍している。
■チェロ:マリー・ビトロック Marie Bitlloch, Cello
パリ国立高等音楽院や英国王立ノーザン音楽大学で学ぶ。フィリップ・ミュレール、ラルフ・カーシュバウムに師事。ヨハン・ゼバスティアン・バッハ国際コンクールで審査員賞を受賞。エリアス弦楽四重奏団の仲間との出会いをきっかけに、英国で室内楽に専念することを決意。これまでにメナヘム・プレスラーなどと共演するほか、パブロ・カザルス音楽祭ほか欧米各地のフェスティバルに参加する

 

【曲について】

配布プログラムのプログラムノートを転載します。

【演奏の模様】
 会場はサントリーホール・小ホール、別名『ブルーローズ』です。会場の入り口に、名称の由来となった「青いバラ」が飾ってありました。これはサントリ―の研究所が開発したものです。

真っ青ではないですが、確かに青い色をしています(市場では真っ青なバラが出回っていますが、あれは染料を使っているので、薔薇本来の色ではありません)。係員の話しでは市場には今出回っていないとのことでした。

 

①ベートーヴェン『弦楽四重奏曲第4番』

第1楽章 Allegro ma non tanto

第2楽章 Scherzo,Andante quasi Allegro

第3楽章 Menuetto Allegretto

第4楽章 Allegro

 1楽章の冒頭、比較的低音部の短調アンサンブルが響き、1Vn.は次第に旋律をせり上げ、Vcが小刻みな伴奏音を立てています。いかにもベートーヴェンらしさを感じる調べが聞こえてきました。1Vn.が声高らかに歌いあげすぐに小刻みな調べに四者が揃え、暫し1Vn.と2Vn.が高・低音旋律のボールを交わしあうと、終盤まで伴奏に徹していたVc.がやおらテーマを渋い音で繰り返したのです(この時は1Vn.等は伴奏的)。前回第一回目の三つの曲(1番、3番、15番)の演奏ではVc.の音が小さく聴こえて、時には耳に届かない気もしたので、今回はどうかな?と最初からVc.演奏に注目していました。冒頭からの伴奏的演奏でもVc.の音はしっかり響いていたし、特にこの主旋律をVc.が弾いた時には、先日と別な奏者?と見まごう程、明確なはっきりとした調べで弾いたのです。こんなにも違うものか?これは曲に依るのか?などと色々考えてしまいました。

 初日とは見違える様なVc.の演奏は、一時的なものでない事は、次に第2楽章前半の1Vn.との掛け合いや、続くVc.ソロ音でも確認出来ました。アンサンブルの下支えをがっしりと保っていました。又この曲を通して、一貫して1Vn.や2Vn.の演奏は力が籠っていて、又それを体でも一杯に表現、迫力十分な演奏でした。1Vn.のサラさんの音色は、特段コンチェルトで通常聴く様な華やかなものではないですが、やや控えめながら他者の音と掛け合い戯れると、輝きがあり非常に美しく感じます。カルテットでの演奏が最適なおんしょくなのでしょう。又1Vn.は音のつなぎのデュナーミクが上手いと思いました。

 

②ベートーヴェン『弦楽四重奏曲第10番<ハープ>』

第1楽章 Poco Adagio-Allegro

第2楽章 Adagio ma non troppo

第3楽章 Presto-Piu presto quasi prestissimo

第4楽章 Allegro con Variazioni

 <ハープ>の意味は、各処で見られるpizzicatoの音を例えた名称です。第1楽章前半すぐのVa.のpizzi.に続く1Vn.&2Vn.に依るpizzi.、確かに1Vn.の高音pizzi等はHp.の音に似ています。またこの楽章最後には、四者強斉奏の後、2V.とVc.のPizzi.が斉奏、それから何と言ってもこの四重奏団は、曲全体を締めくくる4楽章最終部での、各パートのpizzicato音のやり取りが印象的でした。明確な<ハープ>という曲名の意思表示でしょう。

 

③ベートーヴェン『弦楽四重奏曲第13番<大フーガ付>』

第1楽章 Adagio, ma non troppo - Allegro

第2楽章 Presto

第3楽章 Andante con moto, ma non troppo. Poco scherzoso

第4楽章 Alla danza tedesca. Allegro assai

第5楽章 Cavatina. Adagio molto espressivo

第6楽章 Grosse Fuge

 この曲は、本来1826年3月にウィーン学友協会で初演された曲なのですが、第6楽章「大フーガ」が相応しくないという考えから、8か月後には第6楽章をAllegro の曲に改編されて(差し替えられて)出版の手筈となった曰く付きの原曲です。(改訂版については、今回のサイクルⅡの最後の演奏曲参照)

エリアス四重奏団は今回のサイクル演奏会で、13番の第1~第5楽章は二回弾いた事になります。

その「大フーガ」の6楽章についてですが、その詳細を調べると

「24小節の序奏(Overtura:Allegro)に始まり、2つのフーガ主題のうち1つが導かれる。その主題の旋律(B♭-B-A♭-G-B-C-A-B♭)は、《弦楽四重奏曲第15番》の開始主題と密接な関連がある。やがて激しく不協和な二重フーガ(Allegro)に突入する。第2主題は烈しく跳躍し、4つの楽器は3連符や付点によってぶつかり合い、クロスリズムを形成する。開始のフーガに続いて、それぞれに調性やリズム、速度の異なるいくつかの部分が現われる。それぞれの部分はしばしば出し抜けに、準備もなく打ち切られ、とげとげしく予想もできない基調を作り出す。終結に向かって、長い休符をはさみながら速度を落とし、序奏の再現にたどり着くと、急激な結句となって楽章が結ばれる。演奏時間は約18分。」

ということです。フーガの作曲技法に関しては詳しくは知りませんが、バッハに基づいた基本的な定型フーガの組合せからはこの曲は聴いただけでもかなり逸脱していると感じられました。ベートーヴェンはその他の曲でも様々な箇所で、フーガの楽章やパッセッジを珍しくなく使いこなしています。でもそれ等には今まで曲の流れとして違和感を覚えたことは有りません。確かに、時として不協和音的重複音が混じる前半1/3のフーガは耳への響きとしては決して心地良いものではありませんでした。曲相が変わりそれに続く静かで旋律的な箇所は、美しい曲でした。エリアス奏団の皆さん、最後の演奏会の最後の楽章なのか、皆特に気合を入れて演奏していましたが、この美しい箇所などはもっと穏やかに気を鎮めて弾いて欲しかった気もしました。中頃突然再度曲想が変わり、速いリズムの軽快なフーガ、複雑に各パートが絡み合い、この辺りも耳障りは決して良くない。最終の箇所はまた変化があり非常にゆるいテンポが響いた後、テンポを速め軽快さを取り戻して、pizzicatoも入り、最終パッセッジではともかくもベートーヴェンらしさを取り戻したものの、全体とすれば、ちぐはぐな幾つかの曲を寄せ集めた様な印象があり、特にその接続法がスムーズでないので、そうした印象が強い楽章でした。

 ダイナミックな美しいフーガの醍醐味はあまり感じられませんでした。それでも力一杯この曲を演奏し終えたエリアス弦楽四重奏団は、恐らくこれまでにない位盛大な拍手で迎えられました。

 その他の楽章では、第1楽章の中盤で、ドラマティックックな旋律が奏でられ、1Vn.+2Vn.の強奏旋律がカノン的にVa.に遷移する辺りもフーガ的感じを受けました。特にVc.演奏は、この曲でもその前の<ハープ>でも、①の4番の時と変わらぬ力強さで表現され、初日の疑念は完全に吹き飛びました。良い演奏でした。 また第2楽章での2Vn.の旋律演奏がとても美しい箇所があって印象的でした。

 今回の演奏は多くの点で素晴らしい発見が有りましたが、特にチェロ演奏のマリー・ビトロックさんの力強い演奏には満足しました。