HUKKATS hyoro Roc

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ひばり弦楽四重奏団 ベートーヴェン全曲演奏会 vol.8

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【日時】2023年10月06日 (金)19:00 ~

【会場】白寿ホール
【出演】
漆原啓子 (1st vn)、漆原朝子 (2nd vn)、大島亮 (va)、辻本玲 (vc)

【曲目】
①メンデルスゾーン『弦楽四重奏曲 第2番 イ短調 op.13』

(曲について)

フェリックス・メンデルスゾーンが1827年に作曲した弦楽四重奏曲。作曲時メンデルスゾーンは18歳であり、番号こそ第2番となっているが、第1番 作品12(1829年)より先に作曲されている。ベートーヴェンの弦楽四重奏曲から多くの着想を得ている。

この曲の作曲時、メンデルスゾーンはまだ10代だったが、既に室内楽曲の分野では経験豊富な作曲家だった。この時期までに『弦楽五重奏曲第1番』作品18、『弦楽八重奏曲』作品20、そして『ピアノ四重奏曲』などを完成させていたからである。オペラ『カマチョの結婚(英語版)』の上演まではまだ数か月の期間があった。このオペラは失敗に終わることになる。

メンデルゾーンがこの弦楽四重奏曲を作曲したのは、ベートーヴェンの死の数か月後のことだった。ベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲は当時あまり芳しくない評価を受けており、作曲家ルイ・シュポーアの「わけのわからない、取り返しのつかない恐怖」という評には、メンデルスゾーンの父アブラハムを含め多くの者が同意していた。しかしメンデルスゾーンは、それらの作品の虜となっていた。彼はベートーヴェンの弦楽四重奏曲を分析し、そこから自作に多くの引用を散りばめた。

この曲全体を統一する動機には、メンデルスゾーンが数か月前に作曲していたピアノ伴奏によるバリトンのための歌曲『本当に?』(Ist es wahr?)作品9-1からの引用が行われている。この曲はヨハン・グスタフ・ドロイゾン(Johann Gustav Droyson)の詩に基づくもので「きみがいつも木陰を散策する私を待っているというのは本当か」といった内容である。メンデルスゾーンは弦楽四重奏曲の楽譜の表紙にこの歌曲の題を書き入れており、これはベートーヴェンが『弦楽四重奏曲第16番』の終楽章に「Muss es sein?」(かくあらぬか)と書き入れたことを思い起こさせる。しかし内容的には、内省的で実存主義的なベートーヴェンの楽曲とは異なり、メンデルスゾーンのそれは豊かなロマン性を有している。研究者のルーシー・ミラー(Lucy Miller)は「(略)ベートーヴェン後期の作曲技法に大きく依存するこの四重奏曲は、古典派の形式感とロマン派の表現を橋渡しするものである。」と記している。

この曲のように大部分が短調で書かれ、性格的にも暗く、開始楽章と終楽章が共に短調であるというのは、当時のにも暗く、開始楽章と終楽章が共に短調であるというのは、当時の弦楽四重奏曲の慣習からは遠い冒険的な試みであった。まず1830年にパート譜がブライトコプフ・ウント・ヘルテル社から、総譜は1843年に同じくブライトコプフ社から出版された。ヘンレ社からも原典版が刊行されている。演奏時間約30分。

 

②シュルホフ『弦楽四重奏曲 第1番』

(作曲家について)

エルヴィン・シュルホフ(英: Erwin Schulhoff、チェコ語: Ervín Schulhoff、1894~1942)は、チェコの作曲家、ピアニスト、指揮者。

第一次世界大戦後のダダイスム運動の音楽家として重要な人物とされており、ジャズや実験音楽の要素を取り入れた曲など、あらゆるジャンルの作品を残し、生涯に作曲した作品は200作にのぼる。しかしナチス・ドイツによってシュルホフの曲は「退廃音楽」という烙印を押され、演奏活動の禁止や作品の出版も認められなくなるなど迫害を受け、1942年強制収容所で命を落とした。

シュルホフの死後、彼の作品は半世紀にわたって日の目をみることはなかったが、迫害された他のチェコの作曲家(クライン、ウルマンなど)と同様に、再評価が進みつつある。

 

(曲について)

    シュルホフは弦楽四重奏曲を5曲作曲しています。第1番と第2番の弦楽四重奏曲、初期の弦楽四重奏のための『ディヴェルティメント』、番号の付いていない初期の弦楽四重奏曲 ト長調、そして今回の『5つの小品』です。ちょうど『5つの小品』は5曲のうちちょうど3番目に作曲されました。演奏効果が高く、彼の作品の中でもよく取り上げられる作品です。作品は作曲家ダリウス・ミヨーに献呈されています。

献呈者であるミヨーは複調・多調の技法を用いた作風で知られていますが、シュルホフの『5つの小品』も複調・多調が目立ちます。基本的には調性感を損なわない組み合わせ・配置で書かれていますが、部分的に激しい不協和の効果を用いています。


③ベートーヴェン『弦楽四重奏曲 第14番 嬰ハ短調 op.131』

(曲について)

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが1826年に完成させた弦楽四重奏曲。第13番、第15番と並ぶベートーヴェン最晩年の弦楽四重奏曲の傑作。出版順によって14番とされているが、15番目に作曲された。

依頼によって書かれた第12番、第13番、第15番の直後、この第14番は自発的に作曲された。そのためか、内側からの欲求によって作られたより芸術性の高い作品に仕上がっている。

ベートーヴェン自身会心の作であり、この曲を作ったとき「ありがたいことに、創造力は昔よりもそんなに衰えてはいないよ」と友人に語ったという。シューベルトはこの作品を聴いて、「この後でわれわれに何が書けるというのだ?」と述べたと伝えられている。甥カールの属していた連隊の中将ヨーゼフ・フォン・シュトゥッターハイム男爵に献呈されている。

定型より多い7楽章からなるが、第1楽章をきわめて長い序奏、短い第3・第6楽章を楽章連結の経過句と見ると、従来の4楽章構成をふまえたものであると見ることも出来る。全曲は休みなく連続して演奏される。所要時間約38分。

 

【演奏の模様】

①メンデルスゾーン『弦楽四重奏曲 第2番』 

全四楽章構成。

第1楽章Adgjio- allegro vivache

第 2 楽章Adagio non Lento

第3 楽章Intermezzo-allegro con moto

第4 楽章prest

 第1楽章のスタートは穏やかな四者一体のアンサンブルの響きで始まりました。低音も良く効いている。思わずカッコいい旋律だと思いました。Va.のトリルが入ったと思いきや、すかさず急速にテンポを速め、上行旋律で変奏も交え、Va.1→Vn.+2Vn.→Vc.とフガートの流れに身を任せ変化も妙を感じました。

 その後は1Vn.の漆原(啓)さん主動の旋律構成を彼女は力強くアンサンブルを牽引したのでした。 若かりしメンデルスゾーンの活きの良い情熱が伝わって来るよう。

 第2楽章では、スタート時の1Vn.の高音低音アンサンブルの響きがとても良い。ここでもVaソロ音から2Vn.1→Vn.→Vc.とフーガ的推移があり、1Vn.のソロ的旋律にVc.の小刻みな伴奏音がからみ合い、1Vn.はバッハの香りのする変奏旋律を経て、その後2Vn.の強いpizzicatoが1Vn.に呼応するのも面白いですね。終盤の(1Vn.+2Vn.∔Vc.)斉奏的にも聞こえる上行旋律のアンサンブルは力強く、最後の1Vn.のソロ旋律演奏後に緩やかで静かに四者のアンサンブルが奏でる調べは、ずっしりと心に滲み入るものでした。

 第3楽章になると、1Vn.の漆原(啓)さんがゆっくりとした舞曲風の調べを ソロで奏で始め、他の三者はpizzicato奏で寄り添っています。何か民族的素朴さを感じる雰囲気です。途中、Va.の小刻みな速い旋律に曲相が一変し、それに2Vn.が加わり、そのあとを追って1Vn.が同じテーマを遁走して弾く箇所でもフーガの技法をメンデルスゾーンが身に着けていたことが分かります。前半とは打って変わった面白い展開でした。

 終楽章の冒頭、突然、2Vn.∔Va.+Vc.が強いトレモロを発する中、1Vn.が低音域のドラマティックな調べを強奏、漆原(啓)さんは、相変わらず力強いボウイングから美しい調べを発出していました。この楽章は纏めという事で、最後は第1楽章の流麗な調べも繰り返され、静かに曲を閉じるのでした。この最後の4者のアンサンブルは弱音演奏ながらよくハモッテいて、静謐な厳かさまで感じる演奏でした。

 

②シュルホフ『弦楽四重奏曲 第1番』

この曲も四楽章構成です。

第1楽章Prest con fuoco

第2楽章Allegretto con moto e con malinconia grotesca 

第3楽章Allegro giocoso alla Slovacca

第4楽章Andante molto sostenuto

 最初の楽章はいきなり荒々しい速いテンポの斉奏的強奏、pizzicatoを差し挟みながらの超高速運転は下手すると脱線の恐れがある難しそうな演奏でした。民族的味の強い旋律。

2楽章は比較的軽やかで緩やかなテンポの弱音奏ですが、矢張りpizzicatoを多用したり、かすれるような弱音のアンサンブル奏等、相当なハイレヴェルの技法がいる演奏と見ました。斉奏箇所も多かった。後半では2Vn.がソロ音を立て、Va.のソロに引き継がれるとVc.とVn.が強い下行pizzicato音をギターの様にはじき出すところが面白かった。

次楽章もかなりの強奏でリズミカルに推移、Vc.のpizzicato伴奏や弓で弦を叩く奏法など色々面白い演奏テクニックが見られました。

 最終的には静かな旋律を1Vn.が奏で、Vc.の重々しい音から1Vn.のうねる調べ、さらに高音域の音に推移し、後半ではVa.のトリルが長く続く中、Vn.アンサンブルが高音部で単調なけだるそうな弱音の重奏を続け静かに音を閉じました。

 この曲は、これまで、有名な四重奏曲ばかりを聴いて来た自分には非常にユニークな変わった曲といった印象を受け、それでも様々な技法が見られてかなり面白いと思いました。

 

《20分の休憩》

 

後半は、「ひばり四重奏団」がこの演奏会シリーズの一番の目標とされている、ベートーヴェンのカルテットの演奏です。ベートーヴェン連続演奏会といっても、一回の演奏会に1〜

2曲ですから、年に数回の演奏としても、16曲(+3曲)を演奏し終わるに何年かかるのでしょう?2019年から今回までで、2番、9番、14番、12番、5番、15番、6番、10番、1番、7番、13番、3番、16番、14番が済んで残りは、二曲と番号無しの二曲だけとなったのですね。

次回は11番「セリオーソ」と「大フーガ」及び「Hess34」を弾く様ですから、最終回は次々回になり、4番をやるのでしょうかね。この連続演奏会の事を知ったのは途中回からで、聴けなかった番号も多くあります。サントリーホールでは、毎年「CMG音楽祭」というのをやっていて、ほとんど毎回の様に『ベートヴェン弦楽四重奏曲連続演奏会』を実施しています。今年も昨年も聴きましたが、五日から六日くらいかけて一気に全曲演奏します。その利点は聴いた者に、ベートーヴェンのカルテットの比較考量が出来るという事です。勿論曲が違いますからそれぞれの曲の持ち味は違ってきますが、同じ奏者がほぼ同じ演奏体調の中で弾く訳ですから、何らかのベートーヴェンのカルテット曲の推移の様な傾向と特徴が聞き取れるのではなかろうかと思います。皆さんお忙しい中、オケメンバーの方は忙しい演奏会の合間をぬって、また教育現場におられる先生方は、指導と演奏の超多忙な中を四人集まってカルテットの練習をすること自体大変なことだと思います。そして最高レヴェルの演奏を聴かせてもらう聴衆としては、大変ありがたいことです。でも長期間経つと聞いた印象は薄れてしまい、いくら記録を書いても音の印象は薄くなってしまうのです。そういうことは十分分って聴きに行っているのですがねー。

 さて愚痴っぽいことはさて置いて、演奏の方ですが、この曲には美しい調べが満載でした。

③ベートーヴェン『弦楽四重奏曲 第14番』

第1楽章 Adagio ma non troppo e molto

第2楽章 Allegro molto vivace

第3楽章 Allegro moderato - Adagio

第4楽章 Andante ma non troppo e molto cantabile - Più mosso - Andante moderato e lusinghiero - Adagio - Allegretto - Adagio, ma non troppo e semplice - Allegretto

第5楽章 Presto

第6楽章 Adagio quasi un poco andante

第7楽章 Allegro

 全7楽章構成といっても、3楽章と6楽章は短い経過的部分と看做せば、この曲も他の多くの四重奏曲の様に4楽章構成であると看做す向きもあります。アッタカで結ばれる演奏が多く、実際に聴いても、7楽章には聞こえませんでした。

 それにしてもこの曲には美しい箇所が多く散りばめられており、第一楽章からして、曲相が変わって如何にもベートーヴェンらしさが発揮される1Vn.の美しい旋律が流れ、2Vn.と1Vn.の掛け合いにVc.はpizzicatoでボンボンボンと応じて、Va.は下支えをすると今度は、1Vn.とVc.が掛け合い奏をしている間、1Vn.の漆原(啓)さんはかなりの音量で他を牽引している。この辺りの箇所はズートうっとりする位魅力的なベートーヴェン節を聴かせて呉れました。

他にも特筆すべき美しい箇所もありますが、その辺りは以下の(参考)を記するにとどめます。

 全曲通して、全体的に言えることは、やはり、1Vn.の漆原(啓)さんの役割は、各曲とも当然ながら大きいものが有り、それを最初から最後まで一貫した迫力と演奏技術を駆使して、素晴らしい牽引役を果たしていたことは賞賛に値します。Vc.の辻本さんのチェロの音色がまたいいですね。N響の演奏会でもソロ演奏の箇所になるとホール全体に渋くて綺麗な音が広がります。ちょくちょく牽引する漆原(啓)さんの方に目をやって、音を合わせていました。勿論2Vn.の漆原(朝)さん、Va.の大島さんも超一流の演奏を披露して呉れました。曲からして2Vn. Vaが主導する箇所は多くは無いのですが、そうした場面に来ると、本当に明瞭にいい音を出していることがはっきりと分かり、又アンサンブルの下支えの箇所では、出過ぎず弱くなり過ぎず、絶妙の音裁きのアンサンブルを奏でていました。次回(まだ最終回ではないですね)の演奏会も楽しみです。

 ついでながら自分がいつも聴きに行って、思っていることを記しますが、❝名にしおわば いざこと問わん ひばり鳥❞ 、ハイドンの「ひばり」を「ひばり四重奏団」は演奏しないのでしょうか?一度聴いてみたいと思うのですが。多分この「ベートーヴェン全曲演奏会」シリーズの中では、まだ演奏されていない様に思います。それとも別の機会に既に演奏されているのでしょうか?

 

 

 

参考)

第1楽章 Adagio ma non troppo e molto espressivo
嬰ハ短調、2分の2拍子
自由な形式のフーガ。はじめに歌われる第1ヴァイオリンの2つの動機によって楽章全体が構成されてゆく。
このような緩やかな楽章で開始されるのは異例であるが、上記のとおり序奏と見る見方もできる。寂寥にあふれた楽章で、ワーグナーはこの楽章を「音をもって表現しうる最も悲痛なるもの」と評した。
第2楽章 Allegro molto vivace
ニ長調、8分の6拍子、ロンド形式
遠隔調であるニ長調に転ずる。いきいきとした主題を持つロンド。これも副主題がロンド主題から導かれてあまり目立たないなど、自由な形式になっている。
第3楽章 Allegro moderato - Adagio
11小節しかなく、独立した楽章というより、次の楽章への経過句といえる。アレグロ・モデラートで始まる6小節と、第1ヴァイオリンのカデンツァを中心とした5小節のアダージョからなる。
第4楽章 Andante ma non troppo e molto cantabile - Più mosso - Andante moderato e lusinghiero - Adagio - Allegretto - Adagio, ma non troppo e semplice - Allegretto
イ長調、4分の2拍子、主題と6つの変奏
全曲通じてもっとも長大な楽章。32小節と長い主題が第6変奏まで展開される。ベートーヴェンが晩年に力を入れていた緩徐楽章における変奏曲形式の頂点であり、最後の変奏は、主題の原型から大きく隔たった旋律にまで変化しており、変奏の可能性の極限を追求しようとしていることが見てとれる。主題は2つのヴァイオリンが交互に歌うもの。第1変奏は低音と高音で交互に繰り返される。第2変奏は速度を少し上げてピゥ・モッソとなる。第3変奏はアンダンテ・モデラート・エ・ルジンギエロ(愛嬌のある)となり、主題のカノン風変奏となる。第4変奏は音階風な走句が中心となる。第5変奏はアレグレットで、切分音を伴う和声的なもの。第6変奏はアダージョ・マ・ノン・トロッポ・エ・センプリーチェ、4分の9拍子。長い第1ヴァイオリンのトリルで、テンポを変化させながら、静かに終わる。
第5楽章 Presto
ホ長調、2分の2拍子
3拍子でないがスケルツォに相当し、主題は諧謔的。のびやかなトリオは2度繰り返される。ピチカートによる楽器間のやり取りや、特にコーダにおけるスル・ポンティチェロの部分など、楽器演奏的にも可能性を見極めんとしている。
第6楽章 Adagio quasi un poco andante
嬰ト短調、4分の3拍子
この調はベートーヴェンの全楽曲の中でも非常に珍しい。ヴィオラによって物悲しいカヴァティーナ風の旋律が歌われる。この旋律はフランス民謡から取られたともいわれている。最終楽章への導入的性格が濃い。
第7楽章 Allegro
嬰ハ短調、2分の2拍子、ソナタ形式
終楽章においてはじめてソナタ形式の登場であるが、行進曲調の叩きつけるような第1主題がほぼ原形を保ったまま何度も現われるので、ロンド形式ともとれる。第2主題は音階風に歌われる、流れるような対比的なもの。コーダはポコ・アダージョになるなど目まぐるしくリズム、旋律が変化する。最後は長調の音で締められる