【日時】2022.11.15.19:00~
【会場】紀尾井ホール
【出演】仲道郁代(ピアノ)辻本玲(チェロ)
【曲目】
①ショパン『ワルツ第1番<華麗なる大円舞曲>18』
(曲について)
作曲は1833年であり、翌1834年の夏にシュルザンジェ社(パリ)及びブライトコップ・ウント・ヘルテル社(ライプツィヒ)から出版され、ショパンの女性の弟子の1人ローラ・オースフォール(ドイツ語版)に捧げられた。
本来、ショパンはウィンナ・ワルツの表面的な華やかさと一線を画す作曲方針であり、本作品以前に作曲されたワルツはいずれも短く、構成も簡単で舞踏音楽らしさはなかった。しかし後発作曲家の常として華やかな曲想で人気を得る必要があったため、題名の『華麗なる大円舞曲』から納得されるように、明瞭に実用的な舞踏曲として本作品を作曲した。
後に、ロシアの作曲家であるイーゴリ・ストラヴィンスキーが、1909年にセルゲイ・ヂィアギレフによるバレエ『レ・シルフィード』のために管弦楽用に編曲しており、他にもこのバレエのために、アレクサンドル・グレチャニノフやゴードン・ジェイコブ、ロイ・ダグラス、ベンジャミン・ブリテンらが本作品を編曲している
②ショパン『ノクターン9-1~2』
(曲について)
夜想曲 作品9は、フレデリック・ショパンが1831年に作曲し、翌1832年に出版したピアノのための夜想曲で三つの曲からなります。ベルリオーズの元婚約者でピアノ製作会社プレイエルの社長カミーユ・プレイエルの妻マリーに献呈されました。
作品9の3つの夜想曲のうち、最初の作品9-1は「ノックターン第一番」とも呼ばれ、また第2作の作品9-2は三つの内一番有名な作です。作品9-1は、その陰に隠れがちですが、規模内容ともに9-2に遜色ない優雅な曲想で、愛好家にも好評であり作者の出世作となりました。
ショパンは夜想曲を全部で21曲書きましたが、作品9-2はその中でも最も有名な作品です。その美しさからヴァイオリン、チェロ、声楽用など様々な編成による編曲が多くの人によってなされています。
この作品9はアイルランドの作曲家ジョン・フィールドの影響を受けていると言われています。ジョン・フィールドはショパンより30年ほど前に生まれた人物です。
初めて「夜想曲(ノクターン)」を作曲した人物で、それはショパンに影響を与えただけではなく、ロマン派作曲家の作品の先駆けとなりました。
③アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ
(曲について)
アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ作品22は、フレデリック・ショパンの管弦楽とピアノによる協奏曲的作品。1831年に管弦楽とピアノによるポロネーズ部が作曲されたが、後の1834年に前奏としてピアノ独奏による「アンダンテ・スピアナート」の部分が作曲され、1836年に現在の形でピアノ独奏版と共に出版された
④フランク『チェロとピアノのためのソナタ』
(曲について)
フランクの「チェロ・ソナタ」というのは、そういった作品があるわけではなくて、「ヴァイオリン・ソナタ」イ長調をチェロで演奏するものです(勿論音域を変えてです)。もとはといえば、ピエール・フルニエが編曲し自ら演奏したものも有りました。
このヴァイオリン曲はセザール・フランクが1886年に作曲した『ヴァイオリンとピアノのためのソナタ』で、ヴァイオリニストのイザーイに献呈されました。
【演奏の模様】
①ワルツ
最初に仲道さんは、マイクをもち、トークを交えての演奏でした。今日使うピアノは、1906年製の古い初期のスタンウェー製のもので、ショパン時代の(ピアノ)の面影が残っていることや、ショパンが作曲した時代的背景や裏事情などを話しました。演奏の鑑賞がより深く理解できます。ただ仲道さんのトークを聞いて(聞くのは、何年ぶりかな?)以前より、声に元気が無いように感じ少し気になったのですが、演奏が始まると力が一杯こもった元気な打鍵が聞こえて来て安心しました。この人口に膾炙したとも云える可愛らしい曲は、いつ聞いても嬉しくなります。このピアノは、とても柔らかく温かい音色ですね(勿論仲道さんの発音がそうさせているのでしょうけれど)。
②ノックターン
これも日常的によく聞く曲です。いい曲です。好きです。でも流石ですね、仲道先生の模範演奏を聞く生徒になった気分。
③大ポロネーズ
将に仲道さんのこれまでの曲以上に力が入った渾身の演奏でした。興奮しました。この様な素晴らしいこの曲の演奏を聞いたのは、キーシン以来かな。弾き終わった途端、仲道さんは、一瞬椅子にぐったりした様子にすわっていました。相当心を込めて弾いて疲れたのでしょう。
《休憩》
④フランク『チェロソナタ』
第1楽章 アレグレット・ベン・モデラート
第2楽章 アレグロ
第3楽章 幻想的な徐唱ベン・モデラート
第4楽章 アレグレット・ポコ・モッソ
aイ長調 8分の9拍子、展開部のないソナタ形式。属九の和音による開始は非常に印象的であり、第2主題はもっぱらピアノのみによって奏される。
bニ短調、4分の4拍子、ソナタ形式。きわめて情熱的な楽章で、ピアノとヴァイオリンの双方に高度な演奏技術を要する。
c 幻想的な叙唱ベン・モデラート2分の2拍子。「幻想的な叙唱」(Recitativo-Fantasia)と題された、自由な形式による楽章。調性表記は無いが、転調を重ねて最後には嬰へ短調で終結する。
dアレグレット・ポコ・モッソイ長調、2分の2拍子、ロンドソナタ形式。
ヴァイオリンとピアノのカノン風の楽想による、最後を飾るにふさわしい輝かしいフィナーレです。
辻本さんのチェロ演奏は、力強くて若々しく、旋律は同じであっても、ヴァイオリンとはかなり違った雰囲気の曲となっていました。仲道さんのピアノ演奏は、チェロを牽引する様な箇所もあれば、チェロの伴奏に徹する様なところもあり、チェロが暫し手を休める箇所では、綺麗なピアノの魅力的音を響かせていました。それもその筈、プログラムには、『チェロとピアノのためのソナタ』と書いてありますし、原曲もフランクは、『Sonata Pour Piano et Violon en La majeur』と名付けています。要するに、ピアノの活躍が重要視されているのですから、チェロの活躍の陰に隠れてしまうことはないのです。それもその筈フランクは、鍵盤奏者だったのですから。ベートーヴェンだってそうですね。先週聴いた五嶋みどりさんのベートーヴェン・ソナタでも、同様な感慨をもちました。ついでに言うと、ブラームスになると、そうした傾向はさらに顕著になります。
辻本さんも、今回は二重奏の相方にめぐまれましたね。素晴らしいチェロの演奏が、仲道さんのピアノで一層引き立ちました。
なお、この原曲であるヴァイオリン版は、昨年2月に若手ヴァイオリニストの演奏を聴いているので、参考までその時の記録を文末に再掲(抜粋)しました。
演奏後、大きな拍手に応えて、アンコール演奏がありました。
フォーレの歌曲『夢のあとに』のチェロ・ヴァージョンです。仲道さんの話しでは、もともとイタリアのトスカーナ地方のもので、とても美しい歌詞を持っているとのことで、詩を読み上げました。
『夢のあとにOP.7-1』作曲:フォーレ
Après un rêve
Dans un sommeil que chamait ton image,
Je rêvais le bonheur, ardent mirage.
Tes yeux étaint plus doux, ta voix pure et sonore,
Tu rayonnais comme un ciel éclairé par l'aurore;
Tu m'appelais et je quittais la terre
Pour m'enfuir avec toi vers la lumiére.
Les cieux pour nous entr'ouvraient leurs nues,
Splendeurs inconnues divines entrevues;
Hélas! Hélas, triste réveil des songes,
Je t'appelle, Ô nuie, rends-moi tes mensonges,
Reviens, reviens radieuse,
Reviens, Ô nuit mystérieuse!
夢のあとに
夢の中にあなたの美しい姿があった、
私の幸福の夢、燃え上がる幻影。
あなたの瞳はとても優しく、声は澄んで響いた、
あなたは輝いていた 暁に照らされた空のように;
あなたは私を呼び 私は地上を離れた
二人して光の彼方に逃れるために。
空は私たちのために天空の扉を開き、
見たこともない麗しさ 神からの微かな光が見えた;
あぁ、あぁ、なんという悲しき目覚め、
私は呼ぶ、おぉ夜よ、あの人の幻影を私に返して、
もう一度、もう一度輝かせておくれ、
もう一度、おぉ謎に包まれた夜よ!
確かに訳した文も綺麗な内容を有していますが、原文は、韻をあちこちに踏み、フランス人が上手に朗読すれば、聞いた耳にもさらに心地よい響きが伝わってくるでしょう。
お二方の演奏には、パリの空を漂う夢見心地さがしっとりと表されていました。
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2月20日(土)に表記のリサイタルを聴いて来ました。時々若い人の演奏も聴いておかないと、熟練者の演奏を理解する力も鈍ってしまうと考えるので、時間が許す限り出来るだけの機会を捉えようと心がけています。 今回の演奏者は伊藤万桜さんというまだ二十歳代ではなかろうかと思われるヴァイオリニストです。「万桜」と書いてmaoと読む様です。春の満開の桜を連想させる季節感もあり、また名作曲家の代表的ソナタを意欲的に三つ演奏するというので、聴きに行ってみました。ネットによると概略経歴は以下の通りです。
東京都立芸術高等学校、東京音楽大学を卒業。同大学院音楽研究科を経て多岐に演奏活動を行う。パブロ・カザルス国際音楽アカデミー、ヴィチェンツァ国立音楽院、アントン・ルービンシュタイン国際アカデミー等にて、Mark Gothoni、Leon Spieler、Albert Martini、Boris Davidovich Belkin、Lucie Robert、Lorenz N-Herschcowiciの各氏のマスタークラスを受ける。
第16回KOBE国際音楽コンクール優秀賞、兵庫県芸術文化協会賞をはじめコンクールに多数入賞。
カザルス音楽祭(仏)、キルヒベルク国際音楽祭(独)、テアトロオリンピコ音楽フェスティバル(伊)、モスクワ音楽院演奏会(露)に出演。2016年第31回練馬区新人演奏会にて東京フィルハーモニー交響楽団とチャイコフスキーの協奏曲を共演。2017年度東京音楽大学卒業演奏会に出演。
2018年よりNHK「名曲アルバムプラス」、Sony Music Entertainment主催STAND UP! ORCHESTRAとしてBSフジ、2019年よりMUTIAとしてOTTAVAラジオ、ラ・フォル・ジュルネTOKYO等に出演。2019年10月東京文化会館小ホールにて、文化庁/日本演奏連盟主催のリサイタルを開催。バイオリンを大谷康子、海野義雄、嶋田慶子、漆原朝子、村瀬敬子、山岡耕筰、Mark Gothoniの各氏に師事。
また今回の演奏会の主催者プロモート文は以下の様なものでした。
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ヴァイオリンソナタ最高峰をオペラシティで文化庁助成、日本演奏連盟後援。2019年東京文化会館初リサイタル(文化庁主催)では300人を超える来場者にてリヒャルト・シュトラウスのソナタ等でブラーボを頂戴した注目の若手ヴァイオリニスト伊藤万桜。憧れのホールにて、後期ロマン派より、ヴァイオリンソナタの最高傑作の一つと言われるフランク:ヴァイオリン・ソナタ、グリーグ:ヴァイオリン・ソナタ第3番、イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番をお届け。
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《プログラム》
【日時】2021.2/20(土)14:oo~
【会場】東京オペラシティリサイタルホール
【曲目】①フランク『ソナタイ長調FWV8』
②グリーグ『ソナタ第3番ハ短調作品45』
③イザイ『無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番ニ短調作品27「バラード」』
尚、当日配布されたプログラムでは、当初予定の演奏順に変更があり、①グリーグ、②イザイ、③フランクの順で演奏されました。
【ピアノ】山崎早登美
【演奏の模様】
グレー系の薄衣のラメ入りロングドレスを身に纏って登壇した万桜さんは、チラシの和やかな写真とは打って変わって、口をややへの字にし、キリッと引き締まった表情で弾き始めました。かなり緊張しているかな?と思った途端、非常に太いずっしりた重量感のある音が滔々と響き始め、杞憂であることが分かりました。神経を研ぎ澄まして弾いているのでしょう。12月に聴いた庄司さんも、演奏中は、決っして和やかな表情は見せなかったし、昨年、一昨年と聴いた竹澤恭子さんの演奏では、音を魂から捻り出しているといった苦しい表情で演奏していました。神尾さんは、割りと淡々とした表情でしたが。
①フランク『ソナタイ長調FWV8』
万桜さんは、今度は桜の花を先取りする薄ピンク色の白いロングドレスに着替えて登場、短いトークで恥じらいぎみに挨拶するのも初々しい。
フランクのこのソナタは、当時のヴァイオリニスト、イザイに献呈された曲で、名曲の名をほしいままにし、多くのヴァイオリニストが好んで弾いています。
昨年だっか、一昨年だったか、レーピンのリサイタルで聴いた記憶があります。
都合四つの楽章の万桜さんの演奏は、これまた言うことが無いくらい、素晴らしいものの一言でした。
予定曲演奏後、アンコールがあり、シューベルト『アヴェ・マリア』でした。
総じて、今日の伊藤万桜さんの演奏は、予想以上のもので、今後の更なる向上と活躍が期待出来そうです。うえに上げた新井里桜さんや佐藤玲果さん、そのほか、これまで聴いた若手ヴァイオリニストである戸澤采紀さん、辻彩奈さん、新井章乃さん、寺内詩織さんなど、皆驚く程の演奏をします。日本のヴァイオリン演奏技術のルベルは高いですね。コロナ禍で演奏会がシュリンクしてしまったことは残念です。しかし「禍を転じて福となす」です。演奏家の皆さんは練習に励み、技術向上が出来る訳ですから、羨ましい限りです。いつの日かまたそうした磨きをかけた腕前を披露される日が必ずや来るでしょうから、その時はまたコンサートにせっせと足を運びましょう。楽しませて下さい。