HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

『伊藤万桜ヴァイオリンリサイタル』

 2月20日(土)に表記のリサイタルを聴いて来ました。時々若い人の演奏も聴いておかないと、熟練者の演奏を理解する力も鈍ってしまうと考えるので、時間が許す限り出来るだけの機会を捉えようと心がけています。  今回の演奏者は伊藤万桜さんというまだ二十歳代ではなかろうかと思われるヴァイオリニストです。「万桜」と書いてmaoと読む様です。春の満開の桜を連想させる季節感もあり、また名作曲家の代表的ソナタを意欲的に三つ演奏するというので、聴きに行ってみました。ネットによると概略経歴は以下の通りです。

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 東京都立芸術高等学校、東京音楽大学を卒業。同大学院音楽研究科を経て多岐に演奏活動を行う。パブロ・カザルス国際音楽アカデミー、ヴィチェンツァ国立音楽院、アントン・ルービンシュタイン国際アカデミー等にて、Mark Gothoni、Leon Spieler、Albert Martini、Boris Davidovich Belkin、Lucie Robert、Lorenz N-Herschcowiciの各氏のマスタークラスを受ける。
第16回KOBE国際音楽コンクール優秀賞、兵庫県芸術文化協会賞をはじめコンクールに多数入賞。
カザルス音楽祭(仏)、キルヒベルク国際音楽祭(独)、テアトロオリンピコ音楽フェスティバル(伊)、モスクワ音楽院演奏会(露)に出演。2016年第31回練馬区新人演奏会にて東京フィルハーモニー交響楽団とチャイコフスキーの協奏曲を共演。2017年度東京音楽大学卒業演奏会に出演。
2018年よりNHK「名曲アルバムプラス」、Sony Music Entertainment主催STAND UP! ORCHESTRAとしてBSフジ、2019年よりMUTIAとしてOTTAVAラジオ、ラ・フォル・ジュルネTOKYO等に出演。2019年10月東京文化会館小ホールにて、文化庁/日本演奏連盟主催のリサイタルを開催。バイオリンを大谷康子、海野義雄、嶋田慶子、漆原朝子、村瀬敬子、山岡耕筰、Mark Gothoniの各氏に師事。

 

また今回の演奏会の主催者プロモート文は以下の様なものでした。

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ヴァイオリンソナタ最高峰をオペラシティで文化庁助成、日本演奏連盟後援。2019年東京文化会館初リサイタル(文化庁主催)では300人を超える来場者にてリヒャルト・シュトラウスのソナタ等でブラーボを頂戴した注目の若手ヴァイオリニスト伊藤万桜。憧れのホールにて、後期ロマン派より、ヴァイオリンソナタの最高傑作の一つと言われるフランク:ヴァイオリン・ソナタ、グリーグ:ヴァイオリン・ソナタ第3番、イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番をお届け。

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《プログラム》

【日時】2021.2/20(土)14:oo~

【会場】東京オペラシティリサイタルホール

【曲目】①フランク『ソナタイ長調FWV8』

                ②グリーグ『ソナタ第3番ハ短調作品45』

    ③イザイ『無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番ニ短調作品27「バラード」』 

 

尚、当日配布されたプログラムでは、当初予定の演奏順に変更があり、①グリーグ、②イザイ、③フランクの順で演奏されました。

 

【ピアノ】山崎早登美

 ※略歴

東京芸術大学付属音楽高等学校、 東京芸術大を経て、同大学大学院音楽研究科修了。第5回北海道学生ショパンコンクール金賞。河合賞受賞。第41回全日本学生音楽コンクール東京大会中学校の部第2位。第9回宝塚ベガ音楽コンクールピアノ部門第3位。第15回大曲新人音楽祭グランプリ受賞。第67回日本音楽コンクール(毎日新聞・NHK共催)ピアノ部門入選。大学在学中、東京芸術大学管弦楽研究部と共演。その他、これまでに東京都交響楽団、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、警視庁音楽隊、東京学芸大学オーケストラ等と協演。1997年東京文化会館新人推薦オーディションに合格し、新人演奏会に出演。1998年東京にてソロリサイタルを開催。1999年、芸大定期室内楽演奏会に出演(津田ホール)。2000年、東京芸術大学主催ショパン全曲演奏会に出演。ピアノを白石朋子、水田香、植田克己、クラウス・シルデの各氏に、室内楽を植田克己、岡山潔、田中千香士の各氏に師事。東京音楽大学 弦楽科講師(伴奏・室内楽)。 

 

【演奏の模様】

 グレー系の薄衣のラメ入りロングドレスを身に纏って登壇した万桜さんは、チラシの和やかな写真とは打って変わって、口をややへの字にし、キリッと引き締まった表情で弾き始めました。かなり緊張しているかな?と思った途端、非常に太いずっしりた重量感のある音が滔々と響き始め、杞憂であることが分かりました。神経を研ぎ澄まして弾いているのでしょう。12月に聴いた庄司さんも、演奏中は、決っして和やかな表情は見せなかったし、昨年、一昨年と聴いた竹澤恭子さんの演奏では、音を魂から捻り出しているといった苦しい表情で演奏していました。神尾さんは、割りと淡々とした表情でしたが。

 ①グリーグのヴァイオリンソナタは三つあります。1番、2番よりかなり(20年)も経ってから作曲されたこの3番が良く演奏されますが、生で聴いたのは初めてです。   メロディーやリズム・パターンなどは、ノルウェー民族音楽の影響力が感じられます。これは、当時グリーグはノルウェーの文化や民俗に強く傾倒していたためと考えられます。その直後から、他の作品でもノルウェー風の調べが多く入る様になるからです。グリーグは民族音楽や美しい北欧の自然の風景に対する愛着を一生抱き続けましたが、このソナタ全体は、伝統的なロマン主義時代の様式に従っています。

 第1楽章(9分程度)

 重々しい太い音が、まるで重戦車のチェロの様な勢いで広がり、中盤の重音奏法もしっかり、流麗なメロディが厳かに響きました。やや高音が弱いかな?

 第2楽章(7分程度)
 少し遅れて入るヴァイオリンの調べを予想させるピアノの、流れる様なメロディがイントロとして始まり、優雅なヴァイオリンの音に引き継がれ、続く馴染みのある特徴的なリズミムのピッツィカートの音との組み合わせは何回聴いても印象的です。最後はかなりの高音をズーと伸ばし消え入る様にして終了です。最後の最後、音がややふら付いた感じがしましたが、気のせいかもしれません。

 この楽章の高音は、力のある奇麗な音となっていました。

第3楽章(7分程度)

 前楽章にもあった北欧的調べが、ここでは明確に将に民族音楽だと思わせるピアノとの駆け引きの調べ、リズムが冒頭から流れました。ピッツィカートが多用され、力強い万桜さんの調べに変化を与えていました。最後の主題の演奏は将に堂々として良かった。 さらに高音がチューニングされ、わずかな雑味の波長音が無くなれば、もっと素晴らしい音になるでしょう。

 ②イザイはヴァイオリニストらしく、高度なテクニックを駆使するヴァイオリン曲を作り、無伴奏のソナタは全6曲から成っています。超絶技巧を要する曲が多く、難曲が故に演奏会に遡上される曲は少ない中で、この3番の「バラード」は単一楽章からなる比較的短い曲で、良く演奏される様です。6番の曲は昨年1月に荒井里桜さんが弾いたのを、同年8月には佐藤玲果さんという若手が弾いたのを聴いた事があります。超絶技巧曲だったと思います。

 今回の演奏は、冒頭から重音演奏でゆったりとしたメロディが輻輳して流れ、最後まで技巧も素晴らしく欠点が見当たらないくらいいい演奏でした。

 不気味な美しさのある曲、アクセントの掛け方も特徴ある奏法、この世のものと思えない風景、怪しげな静けさに満ちた蓮池に、煌めく粉雪が舞い降りている、と見る間もなく一陣の風が吹き荒れ、雪はいつの間にか舞い散る桜の花びらに変化、花吹雪に覆われた池の蕾の蓮花はまたたく間に大きく開いて池を埋め尽くした浮き葉の間から次々と茎をのばす。そしてそれに絡まるなんとも不気味な小動物や蝶たちがあちこちで蠢いているといったアンリ・ルソーの絵の如き幻想的風景を瞼に浮かべながら聴いていました。

《休憩》 

 万桜さんは、今度は桜の花を先取りする薄ピンク色の白いロングドレスに着替えて登場、短いトークで恥じらいぎみに挨拶するのも初々しい。

 さて③のフランクのこのソナタは、当時のヴァイオリニスト、イザイに献呈された曲で、名曲の名をほしいままにし、多くのヴァイオリニストが好んで弾いています。

 昨年だっか、一昨年だったか、レーピンのリサイタルで聴いた記憶があります。

 都合四つの楽章の万桜さんの演奏は、これまた言うことが無いくらい、素晴らしいものの一言でした。

 予定曲演奏後、アンコールがあり、シューベルト『アヴェ・マリア』でした。

 総じて、今日の伊藤万桜さんの演奏は、予想以上のもので、今後の更なる向上と活躍が期待出来そうです。うえに上げた新井里桜さんや佐藤玲果さん、そのほか、これまで聴いた若手ヴァイオリニストである戸澤采紀さん、辻彩奈さん、新井章乃さん、寺内詩織さんなど、皆驚く程の演奏をします。日本のヴァイオリン演奏技術のルベルは高いですね。コロナ禍で演奏会がシュリンクしてしまったことは残念です。しかし「禍を転じて福となす」です。演奏家の皆さんは練習に励み、技術向上が出来る訳ですから、羨ましい限りです。いつの日かまたそうした磨きをかけた腕前を披露される日が必ずや来るでしょうから、その時はまたコンサートにせっせと足を運びましょう。楽しませて下さい。