HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

東京春音楽祭/『フランクの室内楽』

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【日時】2022年4月9日 [土] 14:00~

【会場】東京藝大奏楽堂

【出演】

ヴァイオリン:漆原朝子倉冨亮太
ヴィオラ        :須田祥子
チェロ            :山崎伸子
オルガン        :大木麻理
ピアノ            :三浦謙司

 

【Profile】

〇漆原朝子(ヴァイオリン)                                      

東京藝術大学附属高等学校在学中に第2回日本国際音楽コンクールにおいて最年少優勝並びに日本人作品最優秀演奏賞を受賞。東京藝術大学に入学した翌年、文化庁芸術家在外研修員としてジュリアード音楽院に留学。第4回アリオン賞、モービル音楽賞奨励賞などを受賞。また、CDも古典から現代前衛作品に至る、非常に広範なレパートリーを多数リリースしている。2008~09年にはベリー・スナイダー、ロータス・カルテットと共に『シューベルト:ヴァイオリン作品全集』をレコーディング。東京藝大教授。

倉冨亮太

東京藝術大学音楽学部弦楽科を首席で卒業。在学中に安宅賞等受賞。同大学修士課程修了。シゲティ国際コンクール入賞。リピッツァー国際コンクール第2位(最高位)、特別賞受賞。公益財団法人ロームミュージックファンデーション2016年度奨学生。東京ジュニアオーケストラソサエティ講師。現在、NHK交響楽団ヴァイオリン奏者。

 

〇須田祥子(ヴィオラ)

6歳よりヴァイオリンを始め、桐朋学園大学在学中にヴィオラに転向し、98年同大学を首席で卒業。これまでにヴァイオリンを室谷高廣、室内楽を名倉淑子、ヴィオラと室内楽を岡田伸夫らに師事。97年、第7回日本室内楽コンクール、99年、第7回多摩フレッシュ音楽コンクール、99年、第23回プレミオ・ヴィットリオ・グイ賞国際コンクール、2000年、第2回淡路島しづかホールヴィオラコンクールの全てのコンクールで第1位優勝。

 

〇山崎伸子(チェロ)

広島生まれ。桐朋女子高等学校音楽科、同大学音楽学部卒業。齋藤秀雄、レイヌ・フラショー、堤 剛、安田謙一郎、藤原真理各氏に師事。
第1回民音室内楽コンクール第1位、第44回日本音楽コンクール・チェロ部門第1位。卒業後、文化庁海外派遣研修員として、2年間ジュネーヴでピエール・フルニエに師事。

〇大木麻理(オルガン)

東京藝術大学卒業、同大学院修士課程修了。
オルガンを菊池みち子、廣野嗣雄、椎名雄一郎、チェンバロを鈴木雅明、大塚直哉、アンサンブルを今井奈緒子、廣澤麻美の各氏に師事。
DAAD(ドイツ学術交流会)、ポセール財団の奨学金を得てリューベック国立音楽大学、デトモルト音楽大学に留学、A・ガスト、M・ザンダー、M・ラドレスクの各氏に師事、満場一致の最優等で国家演奏家資格を得て卒業。

 

〇三浦謙司(ピアノ)

2019年11月ロン=ティボ=クレスパン国際コンクール優勝及び3つの特別賞を獲得、新な才能としてその名を世界に知られることになる。これまで第4回マンハッタン国際音楽コンクール金賞受賞、第1回Shigeru Kawai国際ピアノコンクール優勝など獲得。ウィグモアホール、ベルリンコンツェルトハウス、モスクワ国際音楽の家など世界各地のホールに出演。

 

【曲目】フランク作曲

①3声のミサ曲Op.12 より 天使のパン(ヴァイオリンとオルガン版)

 

②3つのコラール より 第3番 イ短調

 

③ヴァイオリン・ソナタ イ長調

 

④ピアノ五重奏曲 ヘ短調

   

【曲目解説(主催者資料)】  

今年生誕200年を迎えるセザール・フランク(1822-90)は、ベルギーのリエージュに生まれ、パリ音楽院で学んだ。そうした生い立ちも大いに影響しているのだろう、その音楽にはフランス的な色彩美とドイツ的な堅牢性が融合している。教会のオルガニストやピアノ教師として生活しながら作曲を続けたが、それが花開いて傑作群が生まれたのは実に60歳に近づいた頃だった。ニ短調の交響曲、ピアノ曲「プレリュード、コラールとフーガ」、そして今回演奏される「ヴァイオリン・ソナタ」や「ピアノ五重奏曲」などは、全てその晩年に書かれ、現在も屈指の名品として音楽史に輝いている。

 

①3声のミサ曲 より 天使のパン

 クリスマスなどにも歌われる、清らかな旋律をもった「天使のパン(糧)」は「3声のミサ曲」(1860)に挿入された1曲。1872年に作曲され、中世の神学者トマス・アクィナスが聖体祝日のために書いた「Sacris Solemnis」の終わりの2節が歌われる。今回はヴァイオリンとオルガンで演奏される。

 

②3つのコラール より 第3番

 フランクが亡くなる年に書いた最後の作品。速いカンタータ部分と静かなアダージョのコラールが交替しながら進み、J.S.バッハの音楽から学んだであろうポリフォニーに荘厳さが滲み出る。敬虔なカトリック信者として、またオルガニストとして長く活躍しながら、独創的な作品を残したフランクの個性が存分に感じられる。

 

③ヴァイオリン・ソナタ

 古今東西のヴァイオリン・ソナタのなかでも、最も有名なものの一つ。作曲は1886年で、ベルギーの大ヴァイオリニスト、イザイに献呈された。多彩な音色のうちに夢幻的かつ噴き上げるような情熱と深い瞑想が共存している。第1楽章の半音階的な和声進行で生まれるゆらぎ、第2楽章の華麗で激情的なアレグロ、第3楽章の自由で静かな瞑想、そして一転して愛らしい主題がカノンで展開するフィナーレ・・・フランクの代名詞でもある「循環形式」が際立ち、主要テーマが全楽章に現れることで、曲全体に統一感が付与されている。

 

④ピアノ五重奏曲

 1878年から79年にかけて作曲され、晩年の傑作群の口火を切る一作となった。実は、フランクがピアノおよび室内楽作品を手がけたのは30数年ぶりだった。(リストにも認められたほどの)フランクのピアニストとしてのヴィルトゥオーゾぶりを彷彿とさせるピアノ・パートと弦楽パートの重厚さは、ブラームスの同名曲を想わせる(調性も同じ「へ短調」であり、フランクもこの曲を意識していたかもしれない)。本作でも「循環形式」や半音階的進行が駆使され、変化に富んだ劇的な両端楽章、奥行きのある静謐な第2楽章すべてが、内向的なトーンの中で独自の光を放ち、存分の聴き応えをもたらしてくれる。

 

【演奏の模様】

 藝大奏楽堂のパイプオルガンは、通常はシャッターが降ろされていて客席からは見えない構造になっています。演奏する時はシャッターが上がるのです。このオルガンは、マルク・ガルニエ・オルグ社(仏アルザス南部)製で池袋の東京藝術劇場のパイプオルガンと同じ会社製です。

 最初の演奏曲は①3声のミサ曲より天使のパンです。

①天使のパン この曲はもともと「サンクトゥス」と「神の子羊」の間に「天使の糧(パン)」が挿入された6曲から構成されるミサ曲で、器楽の前奏の後にソプラノ、バリトン、バスの三声部で歌われます。藝大のパイプオルガンは5500本以上のパイプを有するかなり大型のもので、演奏は、大木麻里さん。ヴァイオリン演奏は漆原朝子さん。短い曲でしたが、オルガンの前奏の後ヴァイオリンは比較的低音で入り、大変美しいメロディを奏でました。

 

②3つのコラール より 第3番 イ短調 

第1曲(モデラート 3/4 ホ長調 主題群と2つの変奏、及びコーダからなる自由な変奏曲)
第2曲(マエストーソ 3/4 ロ短調 オスティナート主題によってパッサカリア風に開始される)
第3曲(クアジ・アレグロ 4/4イ短調 トッカータ コラール アダージョからなる)の3つのオルガン曲です。それぞれ約15分、計50分弱の大曲です。

 コラールと言っても、フランクにとってのコラールは「自身が神を讃え、信仰を告白するための心の歌である」と考えていた様です。パリ、サント・クロチルド聖堂のオルガニストを30年に渡って務めていたフランクにとって、オルガン曲が一番身近な存在だったのでしょう。この寺院のオルガニストを務めたという事は、パリで最高のオルガニストの地位とされるマドレーヌ寺院(サンサーンス、フォーレなどが就任)に次ぐ名誉のあることでした。余り日本では知られていない寺院ですが、ルーブル美術館やバンドーム広場のあるパリ1区の対岸、7区にある歴史ある大きな寺院です。

 散歩がてら徒歩で行くなら、ナポレオン像の建つバンドーム広場の通り(ラ・ペ通り)を横切るのではなく縦に(南南西に)進みどこまでもまっすぐ歩くと、チェルリー公園(広場、庭園)にぶつかるので、そこ(カスティリオーヌ通り)も真っすぐに進んでセーヌ川に出て、さらにまっすぐ伸びる歩行者専用橋(レオポール・セダール・サンゴール橋)を渡ると対岸の大きな通り(アナトール・フランス通り)にぶつかります。

 左折すればオルセー美術館に行けますが、まがらず通りを横切ってさらに直進、中規模の通りを二つ横切ると大きなサン・ジェルマン大通りに出ます。その先は小さな広場になっていますが、建物にぶつかるので多分今は通り抜け出来ないと思う。従って迂回するため、サン・ジェルマン大通りを横切ったら左折して少し進み、次の交わる小通り(一車線、ブレシャス通り)を右折して進みます。一つ小通り(一車線、サン・ドミニク通り)を横切って少し進むとT字路(ラ・カス通り)が右側にあり、そこを右折すれば奥に、サント・クロチルド聖堂の尖塔が見えてきます。かなり広い敷地に建つ聖堂です。(地下鉄だったらAssemblée Nationale駅下車数分)

 さて今回はその内、最後の第3曲が演奏され、①と同じく大木さんが演奏しました。フランクが死の直前に完成した作品だけあって、かなりの力作と見ましたが、不安定な和音は不安の一面の表出でしょうか?力強い速いパッセッジが故に心底の嘆きを象徴している気がしました。前半の後の方ではゆっくりした旋律で何を表そうとしたのでしょう?冒頭の不安、ある種苦しみ的な境地が恩寵により救われ、安穏として死に向かい合える強さを感じます。しかし後半の相当楽器を奮い立たせて大きくて強い音を出していたという事は、新たに迷い、疑い、不安の気持ちが頭をもたげたのでしょうか?大木さんの演奏は、1000人を超える座席数の大学ホールを揺るがし、約3分の1の観客(コロナ対策の市松状座席)に十分オルガンの魅力、フランクの素晴らしさを伝えるのに十分なものと思えました。

③ヴァイオリンソナタイ長調

 この曲は余りにも有名で、クラシックファンであれば殆どの人が、一度は聞いたことがあるソナタではなかろうかと思われます。今日では昔の名人達の演奏も録音でそこそこ良い音質で聞けますので、パールマン、オイストラフ、ハイフェッツ、メニューイン、ロン・ティボーさえも聞くことが出来ます。また生演奏される機会も多く、例えば昨年2月、一昨年8月に、若手奏者の演奏を聴きに行きました。また小さい時来日して演奏会を行い、ピアノのキーシンと並び称されて話題になった、レーピンが演奏するフランクのソナタを2019年に聴きました。これだけ「人口に膾炙している(「多くの人が聞いて知っていて口ずさむくらい有名な」ほどの意)」曲なので、演奏者はやりずらいかも知れませんが、今回は、藝大ヴァイオリン部門トップクラスのヴァイオリニストでしたから堂々としたものでした。素人の自分の耳で聴いても、ノーミス、完璧だと思いました。またその技術たるや凄みを感じる程、音も非常にきれい、まるで春風に舞うしだれ桜の花の様でした。勿論このソナタは高い精神性も有している曲ですから、美しさの中にも芯の太い強さを感じました。いや櫻花というよりピンクの撫子の方が似つかわしいかな? とにかく素晴らしい演奏でした。伴奏のピアノも楽譜を見てピッタリ合わせていましたし、独奏ピアノ箇所の綺麗な音も印象的でした。

 

《休憩》

 

 休憩後は④ピアノ五重奏曲 ヘ短調です。

 ピアノとカルッテットを組み合わせた五重奏曲は、シューベルトやブラームスの曲は聞いたことがありますが、フランクの曲は初めてです。第1ヴァイオリンとピアノは③と同じく、漆原さんと三浦さん。それに第2ヴァイオリンの倉富良太さん、ヴィオラの須田祥子さん、チェロの山崎伸子さんが加わりました。演奏時間約40分の長い曲でした。

第一楽章(Molt monderato quasi lento)は、

 特徴ある弦楽旋律でスタート、Pfが繰り替えしの調べで、何回かテーマを繰り返し、次第に高音部へとせり上がると思いきやだんだんと下降したり、Pfのソロ部の綺麗な音、Vaの不気味なソロ音、など何というか各パートがそれぞれ勝手に音を立てている様でいて、統一性の網が被されている感じがしました。後半主題が何回か繰り返され、最後のPfの強打により区切りを付けた後、又泉の様に各パートの調べが噴き上がり、最後、ジャッチャジャーン、ジャッチャジャーンと全アンサンブルがまるでオーケストラの様な音を立て、Vn Va がその主題を繰り返して静かに終了です。

第二楽章(Lent,con molt sentimento )は、

1VnとPfの共奏で始まり、とてもきれいなVnの調べが流れました。滔々と流れる様な旋律、Pfは単純和音の繰り返しで伴奏しています。他の弦は時々伴奏的に入ります。Pf の伴奏は淡々と丹念に弾いている。Pfのソロ部もあり、奇麗な響きを呈している。三浦さんのPfはなかなか綺麗な音を立てますね。最終場面のVnの音色の何と奇麗なこと!それを寄り添う弦楽アンサンブルの伴奏が支えます。 この楽章は季節に例えると「春」かな?

第三楽章(Allegro non troppo, ma con fuoco )は、

冒頭から猛スピードで第2VnのトレモロにPf 伴奏がボンボンと下支えをし、次第にピアノもテーマ的な高速音を速い指使いで応じ始めました。リムスキー・コルサコフの熊ん蜂に負けない位の速さで。それもつかの間、ピアノ旋律が綺麗に鳴り出し、弦楽アンサンブルがそれに合わせ次第にPfが強奏、高音でも1Vnが目立つ調べを時々繰り出します。そして曲終焉に向けて、構成要素が同じテーマを繰り返し、ここではやはりピアノ主導でした。最後は波状的に催す発作の様な弦楽の強奏により、意外とあっけなく終わったのでした。

 全体としてこの曲では、かなり激しい音の競演の場面もあり、一節によると、この曲にはフランクのオルメスという女性弟子に対する激情が隠されている、とさえ言われています。確かに一楽章や、三楽章では、構成楽器の強奏による激しいアンサンブルがたびたび勃発する訳ですから、何等かの理由をつけたがる人も出て来るでしょう。各断面ではVnやVa 主導、時にはVcが率先するケースもありましたが、全体的にはやはりピアノ主導の曲かな?という印象でした。

 確かにこの様な曲を作るのは凡人のかなう処ではないでしょう。フランクは天才です。演奏者もまた複雑(怪奇?)な難しい曲を弾き終えた後は、多分一種の達成感、清涼感を味わう事でしょう。でも個人的に言わせて貰うと、音楽鑑賞する立場としては、特徴を明確にとらえるのが難しいこうした複雑な曲は、何回も聞かないとその良さが分かってこないのではなかろうかと考え込んでしまうのです。かといって音源を購入してすり減る程鑑賞したいとは思わないし、演奏会で遭遇する機会もきっとめったにないでしょうし。貴重な体験をしたというのが率直な感想です。