開館70周年記念/シリーズ「新しい視点」
【主催者言】
「紅葉坂プロジェクト」はクラシック音楽の常識、音楽の概念そのものをも転回する新鮮なアイデアを企画委員・沼野雄司、濱田芳通、湯山玲子の3名の審査によって選ぶ公募プログラム。2024年3月のワークインプログレスでブラッシュアップされた2つの企画をいよいよ披露!
【日時】2024.7.20.(土)15:00〜
【会場】神奈川県立音楽堂
【演奏】
《第1部》
〇マキシマム(磯部英彬、星谷丈生)/マキシマム電子合唱団
〈Profile〉
マキシマム電子合唱団は、独自に開発した様々な楽器を操りながら演奏する声とエレクトロニクス、生楽器が融合した新しいタイプの合唱団です。合唱メンバーは、様々な楽器演奏のエキスパート達で構成され、歌と楽器を交互に演奏し、発声は地声を重視した新しい表現を探究します。
合唱団に登場する新しい楽器には、まるで演奏者から音の出ているかのようなウェアラブルガジェットや、特殊音律リアルタイム音程可変装置Isobe-Tune、指向性スピーカーIsobe-Shot、その他様々な特殊スピーカーなどがあり、それらを用いて合唱と生楽器とエレクトロニクスから生まれる人間の創造力と現代の最新技術を融合させた公演を行います。
マキシマム
〈Profile〉
マキシマムは、作曲家、楽器製作者である磯部英彬が主催するエレクトロニクスとアコースティック楽器による可能性を探究する団体です。新しい楽器を発明、または既存楽器を改良してこれまで計8回のコンサートを開催し、様々な音楽家との協働作業を行ってきました。近年は、作曲家 星谷丈生とともにIsobe-RailやHoshiya-Boardなどを開発。また2023年8月から学校教育向けのICT活用セミナーも行っています
マキシマム電子合唱団は、独自に開発した様々な楽器を操りながら演奏する声とエレクトロニクス、生楽器が融合した新しいタイプの合唱団です。合唱メンバーは、様々な楽器演奏のエキスパート達で構成され、歌と楽器を交互に演奏し、発声は地声を重視した新しい表現を探究します。歌と楽器を交互に演奏し、発声は地声を重視した新しい表現を探究します。
合唱団に登場する新しい楽器には、まるで演奏者から音の出ているかのようなウェアラブルガジェットや、特殊音律リアルタイム音程可変装置Isobe-Tune、指向性スピーカーIsobe-Shot、その他様々な特殊スピーカーなどがあり、それらを用いて合唱と生楽器とエレクトロニクスから生まれる人間の創造力と現代の最新技術を融合させた公演を行います。
【曲目】
①星谷丈生『電子合唱団と複数の楽器のための《菩提樹の詩》
②磯部英彬:電子合唱団と複数の楽器のための《幸せの缶詰》
【出演】
合唱:亀井庸州(尺八、ヴァイオリン)、多井智紀(楽具)、近藤圭(ホルン)、菊地秀夫(クラリネット)、今井貴子(フルート)、高瀬真吾(打楽器)、迫田圭(ヴァイオリン)、星谷丈生、磯部英彬(エレクトロニクス)ほか
【スタッフ】
舞台美術:上原永美(舞台美術)、映像、電子デバイス制作:秋山大知、
ヘアメイク:山内美里 (nico organic & relaxing)
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《第2部》
〜小倉美春&上條 晃/おんがくが「ぬ」とであふとき〜
【主催者言】
「風立ちぬ」に代表される古代語の「ぬ」。日常生活では使われなくなってしまったこの言葉が持つ、さまざまな息づかいを作曲で掬う企画です。「ぬ」の回転そのものが遊んでいるような新作弦楽トリオ、「ぬ」の付く言葉たちが殆ど聞き取れない速さで駆け抜けていく声のための即興的新作、「ぬ」が本来持っていたゆったりとした流れを想い起こす《Zerfließen…》、「ぬ」が「ぬ」になるまでの経過を追随するような《「ぬ」についての考察I》。そこに、音象徴としての「ぬ」、身振りとしての「ぬ」をも交えた舞台作品を、一流の演奏家陣とともにお届けします。「ぬ」から力を得た音楽が、「ぬ」へと還っていくきっかけになればと思います。
【プログラム】
①小倉美春: 入りまじるくるり:「ぬ」についての考察II ~弦楽三重奏のための~(2024、世界初演)
②短く速くくるり:「ぬ」についての考察III ~3声のための~(2024、世界初演)
③ゆつくりとながいくるり:Zerfließen… ~アコーディオンとクラリネットのための~(2022、日本初演)
④短くもながいくるり:「ぬ」についての考察I ~アンサンブルのための〜(2023、世界初演)
【出演】
ソプラノ:薬師寺典子、溝淵加奈枝 テノール:金沢青児 ヴァイオリン:河村絢音 ヴィオラ:河相美帆 チェロ:山澤慧 クラリネット:片山貴裕 トロンボーン:直井紀和 アコーディオン:大田智美 指揮:金井俊文
【スタッフ】後藤天(映像) 窪田翔、小林瑞季、難波芙美加(舞台)
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【演奏の模様】
今回の演奏会は、所謂、現代音楽の前衛音楽でもなく、ミニマル・ミュージックでもなく、マニエリスムでもなく、謂わば「実験音楽」の一つと見做すことが出来ると思います。「実験音楽」といっても、従前の音波を科学的に分析して、音楽に応用する「スペクトル学派」的なものでもなく、どちらかというと、❝聴き手に複雑な音の事象の認識を要求する❞「新しい複雑音楽」とでも言えるでしょうか。
県立音楽堂では、2021年から新補助制度シリーズ「新しい視点」から「紅葉坂(※hukkats注)プロジェクト」を推進していて、クラシック音楽の常識、音楽の概念そのものを転回するアイデアを公募し、企画委員の審査で選ぶプログラムを遂行しているとのことです。
2024年の「紅葉坂プロジェクトVol.3」では、そうして選ばれた、何れも東京音大関係者が中心とする、二つの演奏者グループが、前半・後半に分けて演奏しました。
紅葉坂(※hukkats注)
紅葉坂(もみじざか)は、山下長津田線(桜川新道)紅葉橋交差点を坂下の起点とし、そこから横浜駅根岸道路戸部1丁目交差点の方向に上っていく坂。全長およそ340mの、一直線で比較的急な坂である。以前は美しい石畳の坂道で、波紋状の模様が美しい石畳が特徴だったが、2006年に改修されて石畳ではなくなった。1872年に沿道にカエデが植樹され、「紅葉坂」と命名された。起点の紅葉橋交差点は横浜ランドマークタワーから西側に約300m進んだ場所にあり、横浜みなとみらい21のビル群などが間近に見られる絶景ポイント。県立音楽堂は、この坂を登りきった右手にあります。
《第一部》
〇マキシマム(磯部英彬、星谷丈生)/マキシマム電子合唱団
二つの予定曲目の演奏順の変更が館内放送されました。
①磯部英彬:電子合唱団と複数の楽器のための《幸せの缶詰》
舞台上には、左右に譜面台が何台か置いてあり、中央には椅子二つと、いろいろなパーカッションが置いてあります。時間となって左手の譜面台には、弦楽(Vn.or Va.)奏者二人、中央に左手電子音操作、パーカッション奏者、上手にCl.奏者、Fl.奏者、Hr.奏者が位置につき、演奏を始めました。気怠い音が途切れ途切れに聞こえてきます。例えれば、仏僧が声明(しょうみょう)をとなえている様な声(というか音)が、弱く低く響く中を、散発的に弦楽等の音が差し込まれます。パーカッションは、木魚様の音、鐘の音など様々な小物打楽器をくり出して矢張り大きな伽藍の中で、何か宗教儀式が取り行こなわれている様な感じがします。こうした雰囲気は、一貫して最後まで続きました。
②星谷丈生『電子合唱団と複数の楽器のための《菩提樹の詩》
プログラムノートには、
《菩提樹の歌》(星谷丈生作曲)は、菩提樹をテーマにした古今東西の文学作品や詩からテキストを選びました。通常の合唱では演奏することが難しい特殊な音律を用いて作曲されており、楽譜も独自の ルールによって書かれています。そのため演奏が大変難しく、複雑な音律を正確に演奏するために特殊 なチューナーや特殊な調弦などを施した楽器によって演奏されます。音楽のスタイルはルネサンスの 合唱をヒントにして創作していますが、作品の主要なテーマは仏教で説かれている時間論についてで す。また指揮者の代わりに様々な合図を駆使して複雑なアンサンブルを可能にしています。
とあります。
尺八の様な音、スピーカーからの合唱の音は、お経の声の様。奏者が退場したり再登場したり、舞台から降りて座席に迫ったり、①の時よりかなり迫力ある演奏とパーフォーマンスでした。
二つの曲とも、合唱団と言っても、スピーカーから流れるのは、得体の知れないお経の様な声と楽器奏者の素人が歌う雑然としたコーラスの合わさったもの、楽器演奏旋律は殆ど目立たず、どちらかと言うと、リズムを刻む打楽器のよう。奏者は動き回って位置変化はあるのですが、全体としては退屈な音楽というかつまらなさまで感じました。パーカッションの使用小物がいろいろあって、興味をもったのですが、何の楽器名なのかが、プログラムにも何処にも書いてなくて説明もなく、音楽演奏会の基本が出来ていない、と思いました。
《20分の休憩》
後半は、さらに難解な演奏でした。①から④の曲は、何れも「ぬ」と関係するという?「ぬ」は、堀辰雄の「風たちぬ」の「ぬ」や「秋来ぬと目にはさやかに見えねども・・・」などの古語の「ぬ」のことであって、その語の意味する処は言語学的な解析の対象として相当研究が為されてきている様なのです。それを、今回、音楽家で作曲もする小倉美春さんが、「ぬ」の概念に関して作曲した作品を、初演したということなのですが、プログラムとは別刷りの「ぬを、考える」という冊子に書いてある説明を読んでも、言語学的解説の記載はあっても、「ぬ」を音楽に準用する際の「ぬの何をどの様に音楽にアプライするかについて」は、一切説明が成されていません。ただ「ぬ」という言葉に酔い、漠然と曲を作って演奏しただけで、音楽の目指す処、「ぬ」との関係性は聴衆に、殆ど明らかにされませんでした。従って???の続くまったく意味不明の演奏で、そこから聴衆が何かを感じよと言われても無理な話しです。ただ、演奏形態だけは、小ホール全体をステージ化し、バンダ演奏の拡大の様な、やり方によっては、これまでの管弦楽の演奏形態に、新しい風を吹き込む可能性も無きにしもあらずとも思えました。(でも、室内楽団や非常に小編成の楽曲に、限られるでしょうね。だって指揮者は必要ですし、一人しかいないのですから。二人以上の指揮者では、それぞれの調和・融合が難しいですから)
会場は、結構な入りで、禁止区域以外は、八割方の座席が埋まっていたのではないかと思います。2時からの開場だったので、暑いさなか、紅葉坂を登っていくのは、大変でした。着いた時には、汗ダクダク。でもその後3時間以上は、天国の涼しさでした。横浜駅から、紅葉坂のバス停を通るバスにのりましたが、この桜木町方向のバスは、昔からお気に入りです。何故なら、紅葉坂まで、美しい名前のバス停が続くからです。花咲橋→雪見橋→紅葉坂。気持ち的に少しは清涼感を感じます。
これからも猛暑が続く様なので、二、三の例外を除いて、出来るだけ近場の演奏会に限るつもりです(もともと日帰り出来ない遠出はしないことにしていますが)。
ミューザ夏祭りがまもなく始まります。川崎は横浜からアクセスがかなりいいので、たのしみです。