HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

藝大ピアノ科教員による『オール ベートーヴェン プログラム〜最後のソナタと交響曲〜』

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 この演奏会は、「ピアノシリーズ2020音楽の至宝 Vol.8」と題したプログラムの一環として、催行されたもので、藝大ピアノ科を中心とする先生方によるベートーヴェンの音楽を、纏まって聴ける良い機会と思い、聴きに出掛けることにしました。

【日 時 】
2020年11月15日(日)15h~

【会 場】東京藝術大学奏楽堂(大学構内)
【藝大案内文】
 世界70億の人々の内、いわゆるクラシック音楽が好きな人は何人くらいいるか見当も付きませんが、一番好きな作曲家は誰か、とアンケートを取れば間違い無くベートーヴェンの名前が首位に挙がる事でしょう。ベートーヴェンの音楽は あらゆる境遇、人種の人に生きるパワーを与え、また彼自身も「苦しみを乗り越え歓喜に至れ」と、それを音楽を通して伝える事を使命としていました。
 今回のシリーズでは創作の中核を成したシンフォニーを第1日で4手連弾により、またヴァイオリン、チェロ、ピアノそれぞれの最後のソナタと、あの「第九」をリスト編2台ピアノでお楽しみいただきます。ベートーヴェンイヤーに於けるピアノ科の作曲者への敬愛を感じていただければ幸甚です。ぜひお運び下さいますようお願い致します。
   青柳 晋(東京藝大音楽学部教授)

【出演者及び略歴】
《ピアノ演奏》
⚪青柳 晋
米国で5歳よりピアノを始め、小学4年時に帰国。桐朋学園を経てベルリン芸術大に留学。ロンティボー国際コンクール入賞、 ハエン国際コンクール優勝。第28回ショパン協会賞受賞。各地で幅広く演奏活動を展開している。東京藝術大学音楽学部教授。

⚪有森 博
1992年東京藝術大学大学院修了後、モスクワで研鑽を積む。ショパン、シドニー、チャイコフスキー国際コンクールにて 受賞。ロシア音楽に積極的に取り組みながら、CDを数多く録音。東京藝術大学音楽学部教授。

⚪伊藤 恵
ザルツブルク・モーツァルテウム音楽大学、ハノーファー国立音楽大学卒業。1983年ミュンヘン国際音楽コンクールに日本人初の第1位受賞を果たし、同年サヴァリッシュ指揮バイエルン国立歌劇場管弦楽団と共演。シューマンの全ピアノ曲録音に続き、「シューベルト・ピアノ作品集」では、その第6集がレコード・アカデミー賞と第70回文化庁芸術祭賞優秀 賞を受賞。東京藝術大学音楽学部教授。桐朋学園大学特任教授。

 ⚪津田 裕也
東京藝術大学卒業、同大学院修了。ベルリン芸術大学を最優秀で卒業、ドイツ国家演奏家資格取得。2007年仙台国際音楽コンクール第1位、2011年ミュンヘン国際音楽コンクール特別賞ほか。東京藝術大学音楽学部准教授。

 ⚪渡邊 健二
東京藝術大学、同大学院、ハンガリー・リスト音楽院修了。第43回日本音楽コンクール第1位他、ミュンヘン、リスト・バルトーク等の国際コンクールに入賞。2018年ハンガリー国功労勲章オフィサー十字型受章。現在東京藝術大学音楽学部教授。

《ヴァイオリン演奏》
 ⚪植村 太郎
桐朋学園大学在学中に日本音楽コンクール第1位および多数の副賞受賞。同大学を首席卒業後、ハノーファー芸術大学、 ジュネーヴ音楽院、ベルリン・ハンス・アイスラー音楽大学を卒業。2006年より名古屋フィル客演コンサートマスター、 2017年より藝大フィルハーモニア管弦楽団ソロコンサートマスター。現在、東京藝術大学演奏藝術センター准教授。

《チェロ演奏》
⚪中木 健二
パリ国立音楽院を首席で卒業。ソリスト・室内楽奏者として活動している。使用楽器はNPO法人イエローエンジェルより貸与されている1700年製ヨーゼフ・グァルネリ。東京藝術大学音楽学部准教授。

【曲 目】オール ベートーヴェン プログラム

①ベートーヴェン『ヴァイオリンソナタ第10番ト長調 op.96』L. v. Beethoven:Sonate für Violine und Klavier Nr.10 in G op.96
ヴァイオリン:植村 太郎 

ピアノ:有森 博

②ベートーヴェン『チェロソナタ第5番 ニ長調 op.102-2』
L.v.Beethoven:Sonate für Violoncello und Klavier Nr.5 in D op.102-2
チェロ:中木 健二  
ピアノ:津田 裕也

③ベートーヴェン:『ピアノソナタ第32番 ハ短調 op.111』
L.v.Beethoven:Sonate für Klavier Nr.32 in C op.111
ピアノ:渡邊 健二

④ベートーヴェン(リスト編曲 2台4手版)『交響曲第9番ニ短調 op.125』
L.v.Beethoven (arr.byF.Liszt):Symphonie Nr.9 in D op.125
プリモピアノ:青柳 晋 
セコンドピアノ:伊藤 恵

【演奏の模様】
 新奏楽堂に行ったのは、約一年振りです。2019.10.14.に『弦楽シリーズ2019-----フランス室内楽の名曲を探して―名手ドンスク・カンと日本の仲間たち』というヴァイオリン演奏が中心の音楽会でした。その時、今回演奏者にリストされている津田さんと中木さんが一緒に演奏したのです。その時の記録を参考まで、文末に引用しておきます。
 今回は中木さんは津田さんの伴奏でベートーヴェン最後のチェロソナタを弾きました

 またヴァイオリンの最後のソナタ10番も演奏されたのです。ピアノ科主宰でも弦学科の協力があったのですね。

さて今回は、ベートーヴェンのピアノソナタ32番もやるということが聴きに行く動機の一つでした。ご案内の様にこのソナタは、ベートーヴェン最後のソナタです。1番から最後まで通して録音で鑑賞すると、一般的に謂われることですが、”中期から後期のソナタがいい”と言うのは確かにそうだと思います。副題の付いた有名曲も多い。しかし初期のソナタにも、ベートーヴェンが上り坂を駆け上がり、実力と天才性を発揮していることが分かる良い曲が散見されます。そういった曲が世に受け入れられ、伸び盛りのベートーヴェンが益々曲作りに邁進して行ったのでしょう。中期以降のソナタには、有名な曲が多いだけに、演奏される機会も多いです。従って益々有名になって人気が上がります。しかし、後期の29番「ハンマークラビーア」以降の30番、31番や32番のソナタが演奏曲目に入っているリサイタルはそう多くはありません。32番を聞けるので楽しみでした。

 そして最後に何と交響曲第九番のピアノ編曲版(リスト)が、二台のピアノで演奏されるという、滅多に聴けない機会だったので、それにも期待していました。

 ①Vnが余り起伏に富まない、なだらかな丘陵の様な平易な感じの演奏でした。

 次楽章のゆったりとしたメロディの箇所はアンサンブルの息がとても良く合っていました。アタッカで3楽章に移行しましたがどちらかというと民族調の調べもきらめきを感じまなかった。最終楽章の激しいリズムの箇所はやや粗削りの調べで、最後の箇所のヴァイオリンの音は大変綺麗で良く耳に感じました。総じて少し退屈しました。

 ②では一言で言うと中木さんは元気が無かったですね。気迫が感じられませんでした。従って津田さんの伴奏が目立ってしまいました。冒頭などピアノの音が元気過ぎるほどに聴こえました。アンサンブルとしては文末に引用した昨年のお二人の演奏の方が良かった。中木さんは余程体調が悪かったのでしょうか?

 

③は二楽章構成ですが結構長い(特に2楽章が長い)曲で、音楽としてソナタとして十分過ぎる構成と言えるでしょう。ベートーヴェンがこれまでの経験と最後の力を振り絞って作曲した力作中の力作だと思います。

Ⅰ.Maestoso Allegro con brio ed appassionato

 冒頭からババーンと強い打鍵の調べが響き、リズミカルなffの主題が速いリズムで続き、相当なドラマ性を帯びた調べが繰り返されます。そうそう、この明るくないが決して暗くもないずっしりとした心に響く音達、たびたび録音(アラウやゼルキン)を聴いて脳裏に滲み込んだ音が耳に届いて来ました。渡辺さんは小柄でどちらかというと痩せ気味ですが骨太そうな体を駆使して、力強い演奏をしている。予想をはるかに超えた演奏です。

Ⅱ.Arietta: Adagio molto semplice e cantabile

 ゆったりした比較的単純そうな主題で開始、渡辺さんは徐々にテンポを上げながら丹念に音を紡いで行く。音の強弱、速度の変化のうねりが何とも言えない、繊細さまで感じる心地良い音楽、将に音楽とはこうしたものだという実感、その素晴らしさを堪能しているうちに高音のトリルが綺麗に長く響き最後に静かに終了しました。思わず力を込めて拍手してしまいました。何とも申し分ない程の見事な演奏。ほとんど完璧な演奏、これは本物です。暫くぶりでベートーヴェンのソナタの名演を聴きました。

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渡辺健二さん

 昨年からこの一年程ピアノソナタは、亀井聖矢さん、ボゴレリッチ、アンドラーシュ・シフ、仲道さん、金子三勇士さん、内田光子さん、キーシン、ピリスなどいろいろ聴いて来ましたが、これまで聴いた録音、録画も含めて、自分の感じでは、3本の指に数えられる程の素晴らしい演奏だったと思います。一朝一夕では成しえない演奏ですね。藝大ピアノの層の厚さと実力をまざまざと見せつけられた感じがしました。


③の第九にはびっくりしました。演奏直前にもう一台のピアノが対抗した向きに並べられ、向かって右手が伊藤恵さん、左手のピアノに青柳晋さんが座り、2台のピアノによる連弾です。

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第九演奏前の調律

 リストが編曲したとの事。この曲があるということは知っていましたが、リストがどんなにベートーヴェンを尊崇していたかが今回の演奏を聴いて、そうだったのかと実感を持って理解出来ました。何せオーケストラの主要メロディは漏らさず抜け無く、過不足無く取り入れ、合唱部門も見事にピアノで表現、一足早い年の瀬を感じることが出来ました。

 熱演された両氏の力演と息の合った重奏に感服しました。



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『2019-10-31藝大構内奏楽堂で催された演奏会(10/14)記録』より抜粋

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 2019年10月14日体育の日、藝大構内奏楽堂で催された演奏会を聴いて来ました『弦楽シリーズ2019-----フランス室内楽の名曲を探して ― 名手ドンスク・カンと日本の仲間たち』

《中略》
 
 続いての演奏は、②ロパルツ(Joseph-GuyRopartz )作曲『チェロとピアノのためのソナタ第1 番ト短調』(Vc:中木 健二、Pf:津田 裕也)
    配布されたプログラムによれば、この曲はコルトーにより初演された様です。ロバルツはパリ音楽院に入学、有名なマスネ教授のクラスに入るも、当時のフランスでドビシー等の印象派音楽と二大潮流であった“フランキスト(フランク派)”の一員に加わった、即ち当時の流れとしてあったフランクの弟子となって作曲を学んだといいます。ショーソンも同様ですね。マスネは作曲家として『マノン』『ウエテル』『タイス』などいい曲を沢山作曲していますが、教授としての資質はどうだったのでしょうか?フランクに弟子を皆なとられてしまったのでしょうか?確かに大学は専門を追求する(研究する)立場と先生としての(教育する)立場の二面性がありますから両立は非常に大変なのでしょうね。
 ロパルツもこのチェロ曲も日本では有名ではないのでしょう。あまり演奏されないのでは?調べたらロバルツはトランペット曲やピアノ曲がよく演奏され、また長大なシンフョニーが1番から4番まで?ある様です。日本では演奏されないのかな?あれば聴きに行きたいな。
 今回の曲のピアノを演奏した津田さんは10/5(土)にリリアで聴いた竹沢さんのリサイタルでもピアノ伴奏しました。その時大変綺麗な音を出す奏者だと感じていたのですが今回はどうでしょう。チェロの中木さんは初めてです。冒頭から最後まで目をつむり、時としてチェロを傾けながら体を反らせながら曲に没頭して演奏していた。第2楽章ではピアノと交互に主題を朗々と奏でていて大変良く聞こえました。3楽章の強いピッツィカートはコントラバスの如し。欲を言えば全体的にもう少し艶のある音が欲しいかな。ピアノの津田さんは、たまに首を横に振る他は上半身をきちんと姿勢良くして淡々と弾いていました。高音でハットする様な綺麗な音を出す時もあり、指の運びも滑らかでしたが(鍵盤がよく見える席でした)、演奏が単調になるきらいがあるので要注意ですね。今後の飛躍が期待されます。お二方ともまだまだ(こじんまり⇒大型への)伸びしろのある演奏家だと思いました。曲の全体印象は現代音楽を予感する兆しを感じました。