サントリーホールで開催中のチェンバーミュジック・ガーデン(CMG)演奏会は聴きに行く日と聴きに行けない日とが有り、後者はリピート配信で聴くことにしていました。ところがその期間は演奏日から一週間内に限られていて、そこでまだ期限が切れていない6月8日演奏の『葵トリオ』の演奏を聴くことにしました。
【演奏日】2022.6.8.(水)19:00~
【鑑賞日】2022.6.14(水)
【出演】葵トリオ
秋元孝介(Pf.)小川響子(Vn.)伊藤裕(Vc.)
【演奏曲目】
①ベートーヴェン『ピアノ三重奏曲第2番ト長調Op.1-2』
②細川俊夫『トリオ』
③フランク『協奏的三重奏曲第1番嬰ヘ短調Op.1-1』
【演奏の模様】
ヴァイオリンの小川さんの演奏は、先月末、文化会館でのリサイタルを聴きました。トリオのピアノ担当、秋元孝介さんの伴奏でした。その時の印象は、文末に参考まで再掲しておきます。
ベートーヴェンもフランクの曲も重奏のアンサンブルの響きもいいのですが、それにまして少人数の特徴を生かした各奏者のやり取り、かけあいが非常に見もので面白かったです。
最初の曲の立ち上がり部では、ピアノの秋元さんもヴァイオリンの小川さんも、とても明快な演奏で良かった。冒頭伊藤さん(Vc.)がやや弱いかな?と思ったのですが、でもその後チェロは肝心な処(例えばフランクの冒頭その他多数箇処)では、しっかりと演奏していました。特にフランクの終盤では大活躍、最後まで見事な響きで力量を発揮していました。
フランクの曲は皆さん相当の力演で、特に三楽章の力強さはかなり熱が籠っていました。
日本人作曲家の細川さんは、ついこの間まで俳優業も兼務しているのかな?と思い違いしていました。俳優は別人でした。
調べると細川さんは弦楽アンサンブルのための曲を沢山作っているのですね。しかも様々な楽器を入れて。また「3~7人の奏者のための作品」群としては40近くの曲もあり、今回の『トリオ』はその内の一つです。2013年の作品、スタート時の極微弱なトレモロが面白い。最後のかすかな音で終了するところも。小ホールですから、聴衆も耳を澄まして聞き分けられるのでしょうが、それで思い出したのが、時々大ホールに於けるオーケストラ演奏等です。微弱な聞こえるか聞こえない位の弱い音が、たまに発出されることがあります。先だってのギドン・クレーメルの演奏でも曲の最終音がそうでした(しかもpizzicato)。演奏終了と思って思わず拍手をしてしまう人がいました。又別な処では❝聴衆に聞えない音では意味が無い❞等と侃々諤々議論されることも。でも無音の音があってもいいと思います。『4分33秒』の例もありますからね。(ジョン・ケージを聴きに行きたくなって来ました。どこかで演奏されないかな?いや演奏しないかな?)話を戻しますと、細川さんの曲は奇妙な音の連続も有り、各パートアンサンブルとして、合わせるのが大変難しそうに思えました。どこまで作曲者の意図を演奏出来たかは、聴いていて分かりませんでした。でも細川さんの独創性は十分伝わって来る演奏だったと思います。
全体的には特にベートーヴェンの演奏が軽妙で生き生きとエネルギーに溢れ、素晴らしいと思いました。自分の好みを大いに充足して呉れました。
尚演奏後小川さんのトークとアンコール演奏がありました。今日のプログラムは、各作曲家の作品中では余り有名でない曲を選んだとのこと。またアンコール曲は、
ベートーヴェン『ピアノ三重奏曲第3番ハ長調作品1-3』より第3楽章でした。来年この曲を演奏するそうです。可能であれば聴きに行こうと思います。
///////////////(2021.5.25.hukkats録/////////////
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上野 de クラシック Vol.69 小川響子(ヴァイオリン)リサイタル
本リサイタルは、 東京都が、過去の「東京音楽コンクール」優勝者を主として招聘し東京文化会館が主催する形のリサイタルで、国の補助も入っており今回がVol69だそうです。演奏は2012年、第10回「東京音楽コンクール・ヴァイオリンの部」で優勝した小川響子さんです。ピアノ伴奏は、秋元孝介さんです。小川さんは秋元さんと、チェロの伊藤裕さんと共に「葵トリオ」を2016年に結成、2018年に開催された「第67回ミュンヘン国際音楽コンクール」のピアノ三重奏部門で、日本人として初の優勝を決めました。東京文化会館では10年振りのリサイタルだそうです。
【日時】2022.5.25.(水)19:00~
【会場】東京文化会館小ホール
【出演】小川響子(Vn.)秋元孝介(Pf.)
<Profile>
第10回東京音楽コンクール弦楽部門第1位および聴衆賞、ザルツブルク=モーツァルト国際室内楽コンクール2015第1位ほか、受賞多数。東京都交響楽団、東京交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団などと共演。東京芸術大学、同大学院修士課程を首席で修了。2018年にベルリン・フィルハーモニー・カラヤン・アカデミー派遣第一期生として合格した。現在、ベルリン・フィルハーモニー・カラヤン・アカデミーにてベルリンフィルコンマスの樫本大進氏に師事。葵トリオを結成してそちらでも活躍中。
【曲目】
①クライスラー 『 ベートーヴェンの主題によるロンディーノ』
②ベートーヴェン『ヴァイオリン・ソナタ第7番 ハ短調 Op.30, No.2』
③R.シュトラウス『ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 Op.18 TrV151』
【演奏の模様】
①クライスラー 『 ベートーヴェンの主題によるロンディーノ』
比較的低音の旋律が続き、クライスラーらしさを感じることの出来る数分の短い曲でした。ベートーヴェンの何処から取ったかは不明瞭ですが、彼は過去の大作曲家、バッハやクープランやルクレールなどの作品をまねた作品を色々書き、タイトルに有名作曲の名を利用しています。でもほとんどでクライスラー化した曲となっており、独自のものとみなして良いでしょう。全体的に演奏は問題ないのですが、時々出て来る高音の跳躍音がやや金属的な響きが強いことが気になりました。
②ベートーヴェン『ヴァイオリン・ソナタ第7番 ハ短調 Op.30, No.2』
1802年頃に作曲され、6番、8番と共にロシア皇帝に献呈。「アレキサンダーソナタ」とも呼ばれます。ハ短調で書かれており、同じ時期に書かれた「英雄」と同じ調性です。四楽章構成。
②-1 Allegro con brio
②-2 Adagio cantabile
②-3 Scherzo:Allegro
②-4 Allegro presto
小川さんは、演奏前にマイクを持ちショート・トークで「第二楽章が特に好き」と言った趣旨のことを説明、各章それぞれPf.伴奏との息使いもピッタリ合っていて良かった。特に第二楽章では、低音は力が漲っていたし、高音の弱音も綺麗に出ていて、この楽章のゆっくりした旋律の美しさがピアノ共々十分表現で来ていたと思いました。
③R.シュトラウス『ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 Op.18 TrV151』
三楽章構成です。
③-1 Allegro ma non troppo
③-2 Improvisation: Andante cantabile
③-3 Finale: Andante - Allegro
R.シュトラウスの作品は、先月初め『ばらの騎士』を見て来たばかりで、素晴らしいアリアがふんだんに盛り込まれているのを堪能しました。でもこの作曲家にヴァイオリン・ソナタ曲があるとは知りませんでした。初めて聴きました。1880年代終盤に書かれた唯一のヴァイオリン・ソナタだそうです。
R.シュトラウスはロマン派と言っても第二次大戦終了時にはまだ存命だったので、現代作曲家の様に思いがちですが、このソナタの様にクラシカルな響きを存分に取り入れた素晴らしい古典的香りの残る曲を作っていたのですね。旋律が非常に繊細かつ大胆で、綺麗に響かせる個所がふんだんにあって、小川さん、秋元さんともに、この日最大の力を込めた、入魂の演奏でした。この曲では小川さんのヴァイオリンの音は、一流のヴァイオリニストの演奏を聴いた時と同類の響きが出ていて、特に高音の響きでは楽器を良く鳴らしていた(と言うか楽器が答えていた)素晴らしい演奏でした。小川さんの話でも、これまた特に第二楽章を弾きたいので選曲したそうですが、その言葉通り、滔々とゆったり流れる旋律、後半の力を込めた演奏は、まるでオペラの美しいアリアを歌うプリマドンナの洗練された香り高い歌声と、ドラマティックな展開の舞台を見ているが如き錯覚を抱く程の響きを有していました。
尚、大きな拍手に答えてアンコール演奏がありました。
《アンコール曲》
ベートーヴェン『ヴァイオリン・ソナタ第9番 イ長調 Op.47<クロイツェル>』より 第3楽章
最後のシュトラウスの曲の力演の余勢を駆った勢いのある聴きごたえのある演奏でした。ピアノの秋元さんも小川さんと呼吸がピッタリあった力強い演奏で、③の時と同様、伴奏の域を超えていました。❛ヴァイオリンとピアノのためのソナタ❜若しくは❛ピアノ三重奏❜からぬ❝ピアノ二重奏❞と思える程でした。