HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

『シフ・22年来日公演最終日』鑑賞

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ピアニストのサー・アンドラーシ・シフが2年半振りに来日、10月27日(木)大阪、10月29日(土)北海道・札幌、11月1日(火)と4日(金)が東京・東京オペラシティ コンサートホール、11月3日(木・祝)埼玉・所沢市と巡回して演奏会を開きました。その最終日公演(11/4東京)を聴きに行きました。

〈演奏者メッセージ〉

 今回の演奏会は、確かに私が普段おこなっているレクチャーやレクチャー・コンサートの延長線上にありますが、それだけにとどまりません。このアイデアが頭に浮かんだのは、私たち演奏家が演奏する機会を失ったパンデミックのさなかでした。クラシック音楽には、どんな未来が待っているのでしょう? 昨今、コンサートはきわめて“予測可能なもの”になりつつあります。果たしてそれは良いことでしょうか? 私たちピアニストは、幸運なことに、信じられないほど豊富なレパートリーに囲まれ、あまたの傑作の中から演奏曲を選ぶことができます。しかし、その選択は自発的であるべきです。今回の私の選択は、その時の気分のみならず、会場や、その音響、さらに楽器によって変わります。当日の朝にコンサートホールへ行き、インスピレーションを得て、その日の夕刻に自分が何を弾きたいのか思いめぐらすことになります。もちろん、そのためには沢山の曲を手の内に収めておく必要がありますが……。さらに舞台上でのトークによって、聴衆と演奏家のあいだに在る壁や境界を取り払うことも、企画のねらいです。私たち演奏家は、聴衆の方々と同じ人間であり、他の惑星からやって来た生き物ではないのですから。
 聴衆の皆様には、ぜひサプライズと新しい発見を体験していただきたいと思っています。きっとお楽しみいただけると思います。

      サー・アンドラーシュ・シフ

 

 

【日時】2022.11.4.(金)19:00~

【会場】オペラシティ/タケミツメモリアル

【演奏】サー・アンドラーシ・シフ(Pf.)

 <Profile>

 1953年、ハンガリーのブダペスト生まれ。5歳からエリザベス・ヴァダスの下でピアノを始め、その後フランツ・リスト音楽院でパール・カドシャ、ジェルジ・クルターク、フェレンツ・ラドシュらに学び、さらにロンドンでジョージ・マルコムに師事した。
 シフの活動の大半はJ. S. バッハ、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、シューマン、バルトーク、ヤナーチェクなどの主要な鍵盤作品によるリサイタルや全曲演奏会、録音である。ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全32曲によるリサイタルを2004年から20都市以上で行い、チューリヒ・トーンハレで行われた同プログラムはライヴ・レコーディングされた。
 世界の一流オーケストラや指揮者の大多数と共演してきたが、近年はピアノを弾きながら自らオーケストラを指揮する弾き振りの活動に力点を置いている。1999年には自身の室内楽オーケストラ、カペラ・アンドレア・バルカを創設、メンバーには国際的なソリストや室内楽奏者、友人たちが加わっている。
 幼少の頃から室内楽にも親しみ、1989年から1998年まで、ザルツブルク近郊の、国際的にも評価の高いモントゼー音楽週間の芸術監督を務めた。また1995年にハインツ・ホリガーとともに、スイスのカルタウス・イッティンゲンでイッティンガー聖霊降臨祭音楽祭を創設。1998年にも「パラディオへのオマージュ」と名づけた同様のシリーズをヴィチェンツァのテアトロ・オリンピコでスタートさせた。
 受賞歴は数多和。2006年、ベートーヴェン作品の演奏における業績を称えられ、ボンのベートーヴェン・ハウスの名誉会員に選ばれた。2008年にはロンドンのウィグモアホールでの30年にわたる音楽活動が評価され、ウィグモアホール・メダルを贈られた。2009年、オックスフォード大学のベリオール・カレッジの特別研究員に選出されている。2011年、ツヴィッカウ市よりシューマン賞を受賞。プール・ル・メリット勲章ならびにドイツ連邦共和国功労勲章大功労十字星章も受章。2014年にはエリザベス女王の公式誕生日を記念する叙勲名簿の発表に際し、英国よりナイト爵位を授与された。

 

【曲目】

<演奏者メッセージ>で演奏者が語っている様に、事前の曲目発表は有りませんでした。当日舞台で、シフのトーク(講義)により何を演奏するかを、トークのストーリーに沿って発表されました。(曲目の詳細は、演奏会終了後、主宰者H.P.に掲載、以下に転記)

①J.S.バッハ『カプリッチョ<最愛の兄の旅立ちに寄せて>BWV992』


②ハイドン『ピアノ・ソナタ ハ短調 Hob.XVI-20』

  1. Moderato   II. Andante con moto  III. Finale – Allegro


③J.S.バッハ『半音階的幻想曲とフーガ ニ短調 BWV903』


④ベートーヴェン『ピアノ・ソナタ第17番 ニ短調 op.31-2 <テンペスト>』

 

《20分の休憩》

 

⑤モーツァルト『ロンド イ短調 K.511』


⑥シューベルト『ピアノ・ソナタ第20番 イ長調 D959』

〈アンコール曲〉
⑦ブラームス『インテルメッツォ op.118-2』

 

⑧モーツァルト『ピアノ・ソナタ第15番 ハ長調 K.545』から 第1楽章

 

⑨J.S.バッハ『イタリア協奏曲 ヘ長調 BWV971』から 第1楽章

 

【演奏の模様】

シフは演奏前にマイクを手にして、❝バッハ、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンは古典時代の代表的作曲家であり、時代が下がっても先輩の曲を学び研究し自分の曲にその技法を取り入れた❞といった趣旨のことを語ってから、先ずバッハのレアな曲①について説明しました。要旨は次の様です(hukkats補足含む)。尚英語での説明だったため、シフの奥様(ヴァイオリニストの塩川悠子)が舞台左手に椅子に座っていて、説明の要所要所で日本語に翻訳説明されていました。

①J.S.バッハ『カプリッチョ<最愛の兄の旅立ちに寄せて>BWV992』

(曲について)

この曲は、1700年頃、バッハの兄、ヤーコブがスウェーデンの音楽隊員に登用され、故郷を離れて赴任する際のことをピアノ曲(クラヴィール曲)にしたものです。全6曲(楽章)からなり、演奏時間は約11分。各曲には標題的な題名が付けられており、ヨハン・クーナーが1700年に発表した「聖書ソナタ」("Musicalische Vorstellung einiger biblischer Historien")からの影響が指摘されています。作品の中心となる第3曲のラメント(悲歌、哀歌、嘆き節)は、繰り返される半音下降の旋律による一種のパッサカリアであり(※hukkats注)、別離の嘆きを表している。第2曲と第6曲はフーガで書かれている。第5曲や第6曲の対位(第5小節-)では、馭者の郵便ラッパ(ポストホルン)の模倣が聴かれる。

1.アリオーソ、旅を思いとどまらせようとする友人たちのやさしい言葉 (Adagio)Arioso. Ist eine Schmeichelung der Freunde, um denselben von seiner Reise abzuhalten.

2.他国で起こるかもしれないさまざまな不幸の想像 Ist eine Vorstellung unterschiedlicher Casuum, die ihm in der Fremde könnten vorfallen.

3.友人一同の嘆き (Adagiosissimo) Ist ein allgemeines Lamento der Freunde.

4.友人たちは(どうしようもないと知って)集まり、別れを告げる Allhier kommen die Freunde (weil sie doch sehen, dass es anders nicht sein kann) und nehmen Abschied.

5.郵便馬車の御者のアリア Aria di Postiglione.

6.郵便ラッパを模したフーガ Fuga all'imitatione di Posta .

(※hukkats注)               

半音階(Chromatic scale)を多用した音楽のことで、クロマティシズム(Chromaticism)ともいう。この曲では下降する半音階(Chromatic scale)を多用して、嘆きを表現している。

演奏とトークを終えた後、❝(バッハの曲としては)かなり珍しい曲なのでもう一度弾きます❞と言って、ピアノに向かったシフ、再度、同じ曲を通して演奏してくれました。通して聴いてみるとなかなかしっとりとしたいい曲でした。あくまでこれは想像ですが、兄との別れは丁度今頃のかなり寒くなって来た欧州の北ドイツの都市(多分リューネブルグ)でだと思います。木の葉はかなり落葉し、ハンブルグ方面からの冷たい海の湿気を含んだ北風が木立を越えて体に滲みる中、今は亡き父親代わりの兄との別れを惜しんだ若干17~18歳のバッハが、気持ちを込めて作曲したのでしょう。シフはバッハの早熟な天才性を示しました。

次にマイクを握ったシフは、❝ハイドンのピアノ曲は過小評価されている様に思う。❞と先ず切り出し、これも又ハイドンの最初のピアノフォルテ専用の曲と謂われる②のソナタを弾き始めました。
②ハイドン『ピアノ・ソナタ ハ短調 Hob.XVI-20』

(曲について)

ハイドンは鍵盤楽器用のソナタをディヴェルティメントまたはパルティータと呼んでいたが、この曲ではじめて「ソナタ」の語を用いた。また、初期の作品はチェンバロあるいはクラヴィコード用に書かれていたが、この曲はフォルテピアノ用に書かれたと考えられており、楽譜には細かい強弱記号がついている。

おそらくハイドンが最初に書いたピアノ専用曲のひとつであり、ピアノ曲にほとんど交響曲的な様式を持ちこんでいる。

ずっと後の1780年になって、第35番第36番第37番第38番第39番と合わせて6曲組のピアノソナタ曲集としてウィーンのアルタリアから出版された。これはアルタリアから出版された最初のハイドンの曲だった。この曲集はウィーンのピアニストであるアウエンブルッガー姉妹に献呈されたので、アウエンブルッガー・ソナタとしても知られる。

シフの説明によれば、ハイドン40歳後半の円熟期の作。初めてのソナタ形式の曲で、モーツァルトも一目置いていたそうです。AllegroからAdagio への急変やppから ffへの変化など、ダイナミックでドラマティックな曲とのこと、確かにあちこちで、特に三楽章終盤などでモーツアルトの曲にも通じる響きを感じました。そろそろ曲の終わりかと思うとまた旋律が繰り出されて続き、最後はあっけない程の終焉でしたが、結構長い曲でした。

シフの演奏は、音の一粒一粒を、あたかも宝石を扱う様に大事に丹念に扱い、とても磨きの掛かった粒揃いの旋律を奏でていました。確かにハイドンのピアノ曲がこんなに美しく感じたことは有りません。何の曲でも当たり前かも知れませんが、曲が良く聴こえるかそうではないかは演奏者に依るところ大なのです。確かにこれまでハイドンと言ったら交響曲や弦楽四重曲、オラトリオ曲がすぐ頭に浮かびますが、ピアノ曲は??です。聴衆の耳に届く良い演奏がこれまで少なかったのでしょう。すると益々演奏機会が少なくなっていく、その悪循環だったのでしょう。シフの演奏を聴くとこんなに素晴らしい曲なのかと認識が改まります。

続いて、③と④のバッハとベートーヴェンの曲をセットにしたトークと演奏があり、続いて

⑤、⑥のモーツァルトとシューベルト、さらにはアンコール曲三曲と膨大な内容を長大な時間をかけたシフの演奏会の模様は一旦ここまでで切り、続きを記すのは次回にしましょう。
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③J.S.バッハ『半音階的幻想曲とフーガ ニ短調 BWV903』


④ベートーヴェン『ピアノ・ソナタ第17番 ニ短調 op.31-2 <テンペスト>』

 

《20分の休憩》

 

⑤モーツァルト『ロンド イ短調 K.511』


⑥シューベルト『ピアノ・ソナタ第20番 イ長調 D959』

 

終了したのは既に22時は回っていて、22:20頃だったでしょうか。19時から優に3時間半近くの公演、これはオペラか?ベートーヴェン交響曲全曲演奏会ですか?通常のピアノリサイタルでは有り得ない事。そうなんですこれはリサイタルでなくて、シフ先生の『ピアノ実演講習演奏会』だったのです。