表記の演奏会は、毎年年初に、主としてヴァイオリニストの徳永さんに繋がる弦楽奏者達によって行われている様なので、昨年に続き聴きに行きました。今回で結成30年になるそうです。今回がVol49だそうですから、以前は年数回演奏会があったのかも知れません。メンバーは我が国では名を成した若しくは成しつつある音楽家で、一応錚々たる顔ぶれと言えるでしょう。
【日時】2022.1.30.(日)15:00~
【会場】鎌倉芸術館
【出演】鎌倉芸術館ゾリステン
〇会田莉凡、礒絵里子、漆原朝子、漆原啓子、川田知子、小林美樹、徳永二男、三浦章宏(ヴァイオリン)
〇川本嘉子、篠﨑友美、横溝耕一(ヴィオラ)
〇上村文乃、古川展生、向山佳絵子(チェロ)
〇加藤雄太(コントラバス)
〇小森谷裕子(チェンバロ)
一応弦楽五部四型(4-4-3-3-1)の弦楽アンサンブルと看做せます。若干Cbが少ない気がしますが。
【曲目】
①レスピーギ『リュートのための古代舞曲とアリア 第3組曲』
②ヴィヴァルディ『ヴァイオリンとチェロのための協奏曲 変ロ長調 RV547』〔ソロ:漆原啓子・向山佳絵子〕
《休憩20分》
③クライスラー『美しきロスマリンop.55-4』〔ソロ:漆原朝子〕
④クライスラー『中国の太鼓』〔ソロ:川田知子〕
⑤クライスラー『愛のよろこび』〔ソロ:小林美樹〕
⑥ドヴォルザーク:弦楽セレナーデ ホ長調 op.22
【演奏の模様】
①はリュートで演奏される曲ではありません。レスピーギによりイタリア古楽を弦楽アンサンブル用に編曲した曲で、新バロック曲とも言えます。彼は第二次世界大戦前まで活躍し、多くの作品を残しましたが、今回の様な管・弦楽の曲も多くあるのです。①と同名の曲は三つありますが、第3番目が弦楽のみの演奏です。この曲は聞いていると確かにタイトルが示す様に、古楽的雰囲気が芬々としていて、ルネッサンス朝の調べがあったり、VnからVaへ、さらにVcへと繋ぐhuga的調べで主題を盛り上げる全力演奏もあったり、古楽として新鮮というか珍しい曲だと思いました。NHKFM放送で早朝、『古楽の楽しみ』という番組を時々聴くのですが、レスピーギの曲は聴いた事無いですね。レアものです。弦楽アンサンブルは、以前より低音弦が補強された様ですが、Vnに比しCbを除く低音弦がやや弱いかな?左翼の高音と右翼の低音とのバランスが良く聞き取れる様に、中央位置の座席で聴きましたが、Vnが一貫して強い音。特にコンマスの音がいつも目だって聞こえた。皆さん独奏者としては一家を成して名人級の奏者もいるのでしょうが、アンサンブルとして観客席にどう聴こえるか以外と無頓着なのでは?マー指揮者もいないので仕方ないのでしょうけれど。Cbはこの曲以降も一人で大健闘していました。ボン・ボンとアンサンブルに重しが良く効いていた。 次曲②のヴィヴァルディは漆原啓子さんと向山さんがソリストで前に出て演奏。Vcの音は控え目、それに対し漆原さんは思い切りのいい演奏でした。漆原さんの演奏は、昨年6月に『ひばり弦楽四重奏団』演奏会で聴いた事がありますが、ベートーヴェンの『弦楽四重曲第15番』で1Vnを担当、他の三人とのバランスも良くしかも牽引力も発揮して見事な演奏を見せていました。いつも度胸のある演奏ですね。“男は度胸”かと思っていたらそうとは限らない。「撫子ジャパン」のプレーも皆いい度胸をしています。古来大和撫子は度胸がいいのでしょうか。 さて曲演奏の方は、第二楽章のソロ演奏が弦楽伴奏なしにVnとVcが交互に演奏、バックのチェンバロのシャリンシャリンという響きや第三楽章でも早いテンポで同様な掛け合いがあって面白かった。ヴィヴァルディは少し聴いただけでもそれと分かる調べで比較的明るい曲が多いので好きです。孤児たちと合奏をして教えてもいたといいますから、きっと希望を常に心にともして音楽を楽しんでいたのでしょう。
《20分の休憩》
後半最初は③のクライスラー、漆原朝子さんの独奏です。もうこれは言う事無しの演奏ですね。完璧。タイトルの通り女性の美しさがにじみ出ています。大和撫子で言えば余り思いつかないけれど、例えば「見返り美人」かなー?でもクライスラーはオーストリア人だから「シシイ」かな?なーんて妄想したりして。
次は演奏曲目に変更があって、④『中国の太鼓』、やはりクライスラーの曲です。ソロは川田さん。初めて聴きました。歯切れが良い。テクニック的にもしっかり。今日の演奏者は皆さん感心する人ばかりでした。クライスラーはユダヤ系だったらしくアメリカに移住して作曲・演奏活動をしました。この作品の作曲は、中華街や京劇から着想を得たらしい。太鼓と言っても小さな太鼓でしょうか?大きな太鼓は余り見かけない。太鼓自体は中国の歴史上音楽に使われなかったことは無いでしょうけれど、華流テレビドラマや歴史書を見てもあまり出てきません。筝の演奏は、秦や漢や唐の物語・情景には良く出て来ますけれど。
次の演奏も、クライスラーの人気曲、『愛の喜び』です。ソリストは小林美樹さん。彼女の名前は最近よく演奏会案内で見かけますが、他の演奏会との都合が合わなくまだ聴いた事がありませんでした。アンサンブルで後ろで弾いていたのですが、ソロということで舞台中央に出て来た彼女は、随分背が高くモデルみたいにスタイルがいいのですね。演奏の方も大型な堂々とした演奏でした。音の透明度が極まればもっと良く鳴ると思います。
最終演奏曲目は⑥ドヴォルジャークの弦楽セレナーデ。三大弦楽セレナーデとも呼ばれます。チャイコフスキーのうねる様な華麗なアンサンブルとは違って、スラブ民族調の変化に富んだ5楽章から成る30分ほどの大曲です。本来オーケストラで12型とか14型で演奏されるものを、今回は弦楽五部4型という非常に小編成だったのですが、さすが皆さんいい腕をしておられる、曲の雰囲気は良く出ていたと思います。それにしてもドヴォルジャークは天才ですね。他の曲を聴いてもこの曲を聴いてもそう思います。
尚、予定曲終了後に徳永さんによる話があり、出演予定だったヴィオラ奏者の川崎和憲さん(前東京藝大教授)が亡くなられて今回出られなかったということでした。次いでアンコール演奏があり、バッハ作曲『管弦楽組曲第3番エアー』が演奏されました。この部分は管無しの弦楽のみで演奏されます。しっとりとしたいい曲です。アンサンブルとしては今日一番良かったと思いました。