【Introductionはじめに】〜主催者
自由と愛に生きたひとりの女性の物語衝撃のTOKYOカルメン再び世界中で人気オペラの筆頭に挙がる人気作中の人気作。活気あふれる前奏曲、カルメンの登場で歌われる「ハバネラ」、ホセを誘惑する「セギディーリャ」、スペイン情緒みなぎるスペクタクルな「ジプシーの歌」、華やかな「闘牛士の歌」など、誰しもおなじみの名曲にのせ、自由奔放な女カルメンと一途な男ドン・ホセによる愛と死の運命のドラマが繰り広げられます。ビゼーの音楽にはフランス・ロマン派の魅惑的な響きと、スペインの民族色を取り入れた情熱的な音楽が融合し、観客を熱狂させます。
新国立劇場で2021年に新制作したアレックス・オリエ版『カルメン』は、オリエらしいスペクタクル性と、観客を唸らせる斬新な解釈が詰まった舞台。現代的で知的、勇気と反骨心を持って自由に生きる女性カルメンと、独占欲が強くて嫉妬深く、拒絶を受け入れられない男ホセの恋物語、そして今日どこにでも起こり得る悲劇となって、特に若い世代の共感を呼びました。21年の新制作では新型コロナウイルス感染症拡大防止策を講じた演出で上演したため、今回の上演では制約を外した演出に練り直して上演します。
注目のカルメン役には、強さと柔らかさを併せ持つ美声とドラマティックな表現力でスター街道を駆け上るサマンサ・ハンキーが登場。ドン・ホセ役に登場する、欧米で急成長中のブラジル人テノール、アタラ・アヤンも見逃せません。エスカミーリョにはエスカミーリョ歌い、ロジェ王歌いとして活躍するルーカス・ゴリンスキーが出演します。指揮は22年『さまよえるオランダ人』『愛の妙薬』に急遽登場、ワーグナー、ベルカントそれぞれの美点を捉えた演奏が絶賛されたガエタノ・デスピノーサです。
【日時】2025.3.6.(木)14:00〜
【演目】ビゼー作曲『カルメン』
【台本】???????
【上演時間】全幕約3時間10分(第1+2幕 95分 、休憩 30分 、第3幕1場・2場 65分
【会場】NNTTオペラパレス
【管弦楽】東京交響楽団
【指揮】ガエタノ・デスピノーサ
【合唱】新国立劇場合唱団
【児童合唱】TOKYO FM 少年合唱団
【合唱指揮】三澤洋史
【児童合唱指導】林ゆか
【音楽ヘッドコーチ】 城谷 正博
【出演】
○カルメン:サマンサ・ハンキー
〈Profile〉
ジュリアード音楽院で学士号と修士号を取得した後、グラインドボーン・カップやオペラリア・コンクール、メトロポリタン歌劇場ナショナル・カウンシル・オーディションなどに数多く入賞。2019年~21年にはバイエルン州立歌劇場と契約し、数多くの役に出演するとともに、チューリヒ歌劇場、ノルウェー国立オペラ、ジュネーヴ大劇場、ダラス・オペラなどにデビュー。その後、スコティッシュ・オペラ『アイナダマール』フェデリコ・ガルシア・ロルカ、シカゴ・リリック・オペラ『ヘンゼルとグレーテル』ヘンゼル、サンタフェ・オペラ『ペレアスとメリザンド』メリザンド、メトロポリタン歌劇場『ばらの騎士』オクタヴィアンに出演。23/24シーズンは、英国ロイヤルオペラ、チューリヒ歌劇場『コジ・ファン・トゥッテ』ドラベッラ、ザクセン州立歌劇場『フィガロの結婚』ケルビーノ、デトロイト・オペラ『利口な女狐の物語』男狐、メトロポリタン歌劇場『ロメオとジュリエット』ステファノなどに出演。24/25シーズンはバイエルン州立歌劇場『ばらの騎士』オクタヴィアン、『ドン・ジョヴァンニ』ドンナ・エルヴィーラなどに出演予定。新国立劇場初登場。
○ドン・ホセ:アタラ・アヤン
〈Profile〉
ブラジル出身の注目のテノール。2007年、母国ベレンの平和劇場『ジャンニ・スキッキ』リヌッチョでデビュー。翌年ギリシャ国立歌劇場『ラ・ボエーム』ロドルフォに出演。ボローニャ歌劇場イタリア・オペラ研修所、メトロポリタン歌劇場リンデマン・ヤング・アーティストプログラムを経て、シュトゥットガルト州立歌劇場専属歌手となり多くの役に出演。11年にはオープニング・ガラコンサートに急遽出演しメトロポリタン歌劇場デビューを果たす。『ラ・ボエーム』ロドルフォでパリ・オペラ座、コロン歌劇場、オランダ国立オペラ、カナディアン・オペラ・カンパニー、スウェーデン王立歌劇場などにデビュー。同役は英国ロイヤルオペラ、ベルリン・ドイツ・オペラ、ザクセン州立歌劇場、バイエルン州立歌劇場などでも出演。『椿姫』アルフレードは、ジェノヴァ・カルロ・フェリーチェ劇場、メトロポリタン歌劇場、サンフランシスコ・オペラ、ノルウェー国立オペラなどで出演。ミラノ・スカラ座、バイエルン州立歌劇場『愛の妙薬』ネモリーノ、オーストラリア・オペラ『リゴレット』マントヴァ公爵、パリ・オペラ座『マノン』デ・グリューなどにも出演している。23/24シーズンはシュトゥットガルト州立歌劇場で『トスカ』カヴァラドッシ、『カルメン』ドン・ホセ、『イル・トロヴァトーレ』マンリーコに、リトアニア国立歌劇場『マノン』デ・グリュー出演した。新国立劇場初登場。
○エスカミーリョ: ルーカス・ゴリンスキー
〈Profile〉
ポーランド出身。ポーランド国立歌劇場に出演を重ねるほか、近年では、英国ロイヤルオペラ『サムソンとデリラ』ダゴンの大祭司、『ラ・ボエーム』マルチェッロ、スウェーデン王立歌劇場『サロメ』ヨハナーン、リセウ大劇場『スペードの女王』トムスキー伯爵、サヴォンリンナ音楽祭、プラハ国民劇場『椿姫』ジェルモン、ザルツブルク音楽祭『ボリス・ゴドゥノフ』ピーメン、フランクフルト歌劇場、スウェーデン王立歌劇場『トスカ』スカルピア、ザルツブルク音楽祭『ギリシャ受難劇』フォティス、ハンブルク州立歌劇場、フランクフルト歌劇場、プラハ国民劇場『カルメン』エスカミーリョなどに出演。『ロジェ王』タイトルロールではサンタ・チェチーリア管、フランクフルト歌劇場、ポーランド国立歌劇場、プラハ国民劇場に招かれ「完璧なロジェ王」と絶賛される。エクサン・プロヴァンス音楽祭、ポーランド国立歌劇場『炎の天使』では大野和士と共演した。2023/24シーズンは英国ロイヤルオペラ『エレクトラ』オレスト、ハンブルク州立歌劇場『椿姫』ジェルモン、シュトゥットガルト州立歌劇場、チューリヒ歌劇場、グラインドボーン音楽祭『カルメン』エスカミーリョ、ポーランド国立歌劇場『蝶々夫人』シャープレス、『椿姫』ジェルモンに出演。24/25シーズンはプラハ国立歌劇場、ベルリン州立歌劇場、英国ロイヤルオペラ『カルメン』エスカミーリョなどに出演する。新国立劇場初登場。
・ミカエラ:伊藤晴
・スニガ:田中 大揮
・フラスキータ :富平安希子
・モラレス:森口賢二
・ダンカイロ:成田博之
・レメンダード: 糸賀 修平
・メルセデス :十合翔子
◉スタッフ
【芸術監督】大野和士
【演出】アレックス・オリエ
【美術】アルフォンス・フローレス
【衣装】リュック・カステーイス
【照明】マルコ・フィリベック
【舞台監督】高橋尚史
【粗筋】
第1幕-セビリアの町の広場
セビリアの町の警備にあたっている衛兵たち。交代のためにやって来た伍長のホセは同僚から婚約者のミカエラが訪ねてきたことを告げられる。 やがて、工場の鐘が昼休みを告げると、女工たちが広場に出て来る。その中の一人、ジプシー女のカルメンは、男たちの人気も高いが、自分は気まぐれで、鎖にしばられるような恋はご免だと、言い寄る男たちにいう(①ハバネラ:L'amour est un oiseaurrebelle「恋は野の鳥」)。そうした中で、ただ一人、自分に無関心なホセの姿を見て、カルメンは、彼に花を投げつける。昼休みが終わり、女工たちが仕事に戻ると、ホセは花を拾い上げる。
そこへミカエラが戻ってきて、ホセの母親から預かった手紙とお金を渡し、母の息子への愛を伝える(②二重唱:Parle moi de ma mere「母のたよりを」)。
工場の中でカルメンが女工に傷を負わせる。取り調べに答えないカルメンを牢に入れるよう、スニガはホセに命じる。カルメンは、愛しているから逃してくれとホセに言い寄る(③セギディーリャ:Prés des rempars de Séville「セビリアのとりでの近くに」)。ホセは口車にのせられて、カルメンの縄をといてしまう。
第2幕-リーリャス・パスティーアの酒場
スニガたちが、ジプシーの酒場で騒いでいる。カルメンは、彼らのために仲間のフラスキータ、メルセデスたちと一緒に踊る。スニガはカルメンに、ドン・ホセが彼女を逃したために営倉送りとなり、ようやく釈放されたことを告げる。そこへ、闘牛士エスカミーリョが現れ、皆からの賞賛の祝杯に応える(④Votre toast,je peux vous le rendrer「闘牛士の歌」)。カルメンを見たエスカミーリョは、彼女に惹きつけられる。
客たちが帰ると、密輸団の仲間、レメンダートとダンカイロが現れ、密輸の仕事の計画について話を始める(⑤五重唱:Nous avons en tête une affaire「うまい話がある」)。税関の男たちの注意をそらすためにカルメンたちの助けが必要だと頼むが、カルメンは恋をしているので儲け話には手を貸せないと言う。最初は、誰もカルメンの言うことを信じなかったが、カルメンは、彼女の身代わりに牢に入れられた伍長が相手だと言って、密輸の仕事に加わろうとはしない。
釈放されたホセがカルメンに会いに来る。カルメンはホセの訪れを喜ぶが、彼が帰営のラッパを聞いて帰ろうとしたため腹を立てる。さっさと帰ってしまえというカルメンに、ホセはいつか彼女が投げ与えた花を取り出し、牢に入れられている間、この花を見て、どんなに彼女のことを思っていたか、切々と訴える(⑥La fleur gue tu m7avais Jetée「花の歌」)。カルメンは密輸団に加わって、山の中で自由な生活を送ろうとホセを誘うが、ホセは脱走兵となるのは恥だと言って誘いを断り、カルメンに別れを告げて帰りかける。そこへスニガがカルメンを訪ねてきて、カルメンをめぐって、ホセと口論になり、決闘沙汰になる。驚いたカルメンの声に、密輸団の仲間が出てきて、スニガを取り押さえ、外に連れ出す。賽は投げられた。ホセは仕方なく、密輸団に加わることにする。
第3幕(今回の3幕1場)-山の中の密輸団のたまり場
カルメンのために密輸団に加わったホセだが、彼女の心はすでにホセにはない。
トランプ占いをしているメルセデスとフラスキータ。カルメンも加わるが、彼女の運勢は大凶、死と出る(⑦En vain pour éviter les responses améres「何が出ようとも」)。
町に偵察に出ていた者たちの報告で、税管吏の注意を逸らす役割をカルメンたち女が引き受け山を下りていく(Quant au douanier, c'est motre affaire「税官吏は、私たちが引き受けよう」)。
ミカエラが、ホセを探してやってくる。彼女はホセが侵入者に向かって発砲するのを見て、おびえていて岩陰に身を隠す(⑧Je dis que rien ne m'épouvante「なんの恐れることがありましょう」)。
侵入してきたのは、闘牛士のエスカミーリョ。ホセはエスカミーリョもカルメンを愛していることを知り、決闘を挑む。そこへカルメンたちが戻ってきて、二人を止める。エスカミーリョはカルメンに愛を語り、カルメンもまんざらでもない様子である。それを見て怒ったホセを、密輸団の者たちが押さえる。エスカミーリョは自分の出場する闘牛に一同を招待し、山を下りていく。
隠れていたミカエラが見つかり、連れてこられる。彼女はホセに彼の母親が危篤状態であることを知らせ、ホセは、ミカエラと山を下りることにする。
第4幕(今回の3幕2場)-セビリアの闘牛場の外
闘牛士の入場を見るため、群衆が集まっている。やがて、スターのエスカミーリョもカルメンと一緒に現れ、彼はカルメンへの愛を群集の前で告げ、闘牛場の中に入っていく。
フラスキータとメルセデスは、一人残ったカルメンに、ホセが来ているから気をつけるよう忠告するが、カルメンは一向に気にする様子もない。ホセはカルメンに出会うと愛を訴え、よりを戻そうとするが、カルメンはつれない態度をとる(⑨二重唱:C'est toi? C'est moi!「あんたね。おれだ。」)。今はエスカミーリョを愛しているといい、ホセが贈った指輪を投げつけたカルメンを見て、ホセは激怒し、カルメンを刺し殺してしまう。
やがて闘牛が終わり、人々が出てきて、幕が下りる。
【上演の模様】
今回のNNTTの上演は全三幕で一幕と二幕を続けて演じ、休憩後三幕の一場と二場を上演するというものでした。一場を三幕、二場を四幕として分けて演じることも多いですが、今回は、時間節約のため(要するに観客の帰宅時間を考慮して)だと思います。従って第一場と第二場の間は幕が下りて、舞台転換の待ち時間が有りました。(上記【粗筋】の三幕が第一場、四幕が第二場に相当)
今回はいろいろ都合があって、第四日目の観劇となりました。開演時間間際に会場に入ると、あの大会場は観客で一杯、満員に近い入りでした。平日の午後にも関わらずです。恐らく勤め人で来れる人は少ないでしょうから、年配者、老人が多いことには変わり有りませんでしたが、若い人の姿も結構見かけました。人気の程が伺えます(今回何が人気なのかは検証の余地有り)。最初に今回の歌手(特に主だった配役の歌手)の歌い振り、演技等で気が付いた事を記します。
タイトルロールのハンキーとその恋人、準主役ホセのアヤンは、第一幕では二人共エンジンがかからないのか、聴いていて満足できる出来ではありませんでした。歌い終わっても会場からは拍手がパラパラ。自分もする気が出なかった。カルメンの歌声はやや硬さがあり、期待した程、自由な伸びやかな声ではなかったのです(①)。ホセは、故郷からやって来た許婚者と言ってもいい位の存在、ミカエラと母に関する歌を歌うのです(②)が、小締んまりとしたテノールで、声に伸びも力も感じらなかったのです。
むしろミカエラ役の伊藤晴さんの方が声量もあり、高音も十分大きい声で、見映え(聞き映え)のする歌唱でした。繊細な田舎娘(ミカエラ)の感じとは少し異なっていましたが、この段階では日本人歌手陣(スニガ役、田中大輝さんも含め)の方が善戦していて、外人歌手がむしろ低調。しかしここまででも、合唱団の活躍はいつもの通り大きく、女声、男声、児童の各合唱、及び群れる動きが場を盛り上げ、オケと合わせ場面の推進役として大活躍でした。
上司スニガに言われた通りに、喧嘩して相手の女を傷つけたカルメンを牢まで連れて行こうとするホセ、ホセはスペイン北部のナバラ州(自治州)にある町エリソンド(Elizondo)出身と聞き出したカルメンは、嘘かホントか、「あたしはエッチャラール…」というのです。エッチャラールか! ... エリゾンドからエッチャラールまで4時間しかない、近い(=同郷だ)という話で、捕縛を解いて貰おうとするカルメン。でもナカナカその手には載らないホセを最後は篭絡し、綱を解いて逃走してしまうのでした。城壁近くの酒場リリアス・パスティアの店で会うことをホセに約束して。
第二幕の酒場の場面では、闘牛士エスカミーリョ役ルスカス・ゴリンスキーが登場、本格的なバリトンで歌い始めました(⑤)が、やや硬い声かな、普通以上の歌い振りですが、素晴らしいとはとても言えない物でした。三外人ともかなり上がっていたのかな?経歴を見ると、三人とも経験豊かな歌手で場数も多く踏んでいるのですから、一般的な状況として良くある、立ち上がったばかりでまだ喉という楽器が潤っていない、本格的な状態に達していなかったからではなかろうか?と思いました。
闘牛士が去ったあと、密輸団の親分ダンカイロ(成田博之)と子分レメンダード(糸賀修平)がやって来て、もともとその場にいたフランキータ(冨平安希子)とメルセデス(十合翔子)とカルメンに密輸には女の存在が必要だという話を、五人の五重唱で歌うのでした。
《五重唱》
LE DANCAÏRE:もうけ話があるのさ
MERCÉDÈS et FRASQUITA:うまい話なのかい 教えてよ?
LE DANCAÏRE:すばらしいさ いとしいひと でもおまえたちが必要なんだ
LE REMENDADO:そう, でもおまえたちが必要なんだ!
CARMEN:あたしたち?
LE REMENDADO:おまえたちさ!
FRASQUITA:あたしたち?
LE DANCAÏRE:おまえたちさ!
MERCÉDÈS:あたしたち?
FRASQUITA, MERCÉDÈS et CARMEN:なんだって! あたしたちが要るのかい?
LE REMENDADO et LE DANCAÏRE:そう, おまえたちが必要なんだ!謙虚になって言うよ 尊敬の念をもって言うよ そう謙虚になって言うよ ごまかしだまし 盗みのときには 誓って うまくやるにはいつも 女が必要なのさ もし女がいなきゃ おれたちの女がひとりもいなきゃ なにもうまくいかないさ
FRASQUITA, MERCÉDÈS et CARMEN:なんと! あたし達がいないと何もうまくいかないって?
LE DANCAÏRE et LE REMENDADO:賛成できないかい?
FRASQUITA, MERCÉDÈS et CARMEN:もちろん 賛成さ そうとも 賛成さ
TOUS LES CINQ:ごまかし だまし 盗みのときには 誓って うまくやるにはいつも 女が必要なのさ もし女がいなきゃ おれたちの女がひとりもいなきゃなにもうまくいかないさ
FRASQUITA, MERCÉDÈS et CARMEN:
なんと! あたし達がいないと何もうまくいかないって?
LE DANCAÏRE et LE REMENDADO:賛成できないかい?
FRASQUITA, MERCÉDÈS et CARMEN:もちろん 賛成さ そうとも 賛成さ
TOUS LES CINQ(五人の内の二重唱)
ごまかし だまし 盗みのときには 誓って うまくやるにはいつも 女が必要なのさ もし女がいなきゃ おれたちの女がひとりも いなきゃ なにもうまくいかないさ
LE DANCAÏRE:そういうわけさ 行こうか
MERCÉDÈS et FRASQUITA:いつでもオッケー
LE REMENDADO:じゃあいますぐ
CARMEN:ああ! ごめんよ, ごめんよ.
(メルセデスとフラスキータに)
あんた達は行きたければ行けばいい でもあたしは旅にはでられない あたしは行けない ... 行けないんだ.
LE REMENDADO et LE DANCAÏRE:カルメン 愛する人よ 来ておくれよ それに 勇気はなかろう
こんなに困っている俺たちをおいて
CARMEN:あたしは行けない 行けないんだ
FRASQUITA et MERCÉDÈS:ああ! あたし達のカルメン 来ておくれよ
と続く重唱は、何のことない密輸で如何に税関を誤魔化し通過するか、そのための要人勧誘の歌なのですが、カルメンは断じて応じません(いつもなら軽くOKでしょが。)何故なら愛するドン・ホセを待っているからなのでした。カルメンを逃がした罪でホセは営倉(軍隊の牢屋)に一ヶ月も捕縛されていたからです。
第三幕
冒頭は、カード占いをしている処に割り込んだカルメンが、自分の運を占う場面からです。何回占っても『死』と出るのでした。
エスカミーリョとホセの決闘の場面も有りましたが、ミカエラが危険をものともせず困難を乗り越えて、ホセに又会いに来たのは奇蹟とも言えるでしょう。最初岩山の物陰に隠れて歌う⑧Je dis que rien ne m'épouvante「なんの恐れることがありましょう」
を伊藤晴さんは、元気な勢いある声で歌い上げましたが、この頃になるとカルメンのハンキーもかなり本調子が出て来ていた様です。オペラ歌手というのはこれ位の時間歌わないと声帯と喉が発声に最適状態にならないのかも知れません(最初から素晴らしい歌を聴かせて呉れるオペラ歌手も少ないけれどいますが。例えば、ヨンチェバ、ガランチャetc.)。
この幕で最も特筆すべきは、ドン・ホセ役のアヤンの歌うアリアでした。この要塞の様な密輸団の本拠紙にやって来たミカエラホセの母親の危篤を伝えに来たのでした(ほとんど不可能な到来ですが)。
MICAËLA:
Moi, je viens te chercher. Là-bas est la chaumière Où, sans cesse priant,
Une mère, ta mère,Pleure hélas sur son enfant …Elle pleure et t'appelle,Elle pleure et te tend les bras;Tu prendras pitié d'elle, José,Ah! José, tu me suivras, tu me suivras.
CARMEN:
Va-t'en! Va-t'en! Tu feras bien,Notre métier ne te vaut rien.
JOSÉ: à Carmen Tu me dis de la suivre?
CARMEN: Oui, tu devrais partir.
JOSÉ:
Tu me dis de la suivre Pour que toi tu puisses courir Après ton nouvel amant.
Non, vraiment,Dût-il m'en coûter la vie,Non, je ne partirai pas,Et la chaîne qui nous lie
Nous liera jusqu'au trépas ...Dût-il m'en coûter la vie Non, non, non je ne partirai pas!
MICAËLA:
Écoute-moi, je t'en prie,Ta mère te tend les bras,Cette chaîne qui te lie,José, tu la briseras.
Hélas, José!
TOUS:
Il t'en coûtera la vie,José, si tu ne pars pas,Et la chaîne qui vous lie Se rompra par ton trépas.
JOSÉ:Laisse-moi,Car je suis condamné!
TOUS
José, prends garde!
JOSÉ:Ah! Je te tiens, fille damnée,je te tiens,Et je te forcerai bien À subir la destinée
Qui rive ton sort au mien.Dût-il m'en coûter la vie,Non, non, non je ne partirai pas!
TOUS: Ah! Prends garde, prends garde Don José!
MICAËLA:
Une parole encor! ...Ce sera la dernière.Ta mère, hélas, ta mère se meurt, Et ta mère
Ne voudrait pas mourir Sans t'avoir pardonné.
JOSÉ: Ma mère ... elle se meurt …
MICAËLA: Oui, Don José.
JOSÉ: Partons ... Ah! Partons! à Carmen Sois contente, je pars, Mais nous nous reverrons.
カルメンにミカエラと一緒に故郷に戻ったらいい!と言われても、絶対カルメンについて行くと興奮して歌うホセは、最後に驚く勿れ、ミカエラに母の危篤を告げられると、前言を翻し、急いで故郷に向かったのでした。この場のアヤンの歌声は、最初と比べて見違える様な張りのある伸びるテノールで、会場からこの日一番の拍手を浴びていました。その後絶好調になったアヤンは、そのまま幕が下りるまで好調な歌声を維持したのです。(三幕第一場)
それに比しカルメン役のハンキーは最後になっても「とても素晴らしい歌声」とはお世辞にも言えない歌い振りで、かなり声の柔らかさ、伸びに改善は見られたものの、タイトルロールとしては物足りなさを感じるものでした。声質、節回し、表現が、一種のあく役とも言えるカルメンの役柄に向いていないのかも知れない。今年来日の『ウィーン国立歌劇場公演』のオクタヴィアン役を演じる予定らしいですが、そうですね、元帥夫人に好まれる清潔な若いズボン役がお似合い、適役なのかも知れません。
尚演出につては何回か詳細していたものと殆ど変わりませんでしたが、何回か観るうちに慣れて来たことがあったかも知れない。いやだという感情も少し和らいだかな?しかしNNTTが大きくイントロに宣伝している文の以下の赤字部分は、どこがどう「練り直された」のか不明でした。又自分が観た日のハンキーの詠唱には強さが不足、ドラマティックな表現力も感じられなかったことは上記でも何回か記しました。
❝21年の新制作では新型コロナウイルス感染症拡大防止策を講じた演出で上演したため、今回の上演では制約を外した演出に練り直して上演します。
注目のカルメン役には、強さと柔らかさを併せ持つ美声とドラマティックな表現力でスター街道を駆け上るサマンサ・ハンキーが登場。ドン・ホセ役に登場する、欧米で急成長中のブラジル人テノール、アタラ・アヤンも見逃せません。❞
ついでに調べたことを記すれば、一般的に建築構造物におけるトラス構造の組み立ては、建築コストが結構高くつくことが多いと謂われている様です。例えば、「東京スカイツリー」。でも今回の舞台ではパイプをネジ止め(或いは溶接か接着)で止めただけで、外壁や内壁を張り付けていませんから(前面に一部入口は設けた様ですが)どうだったのでしょう。第三幕一場の岩山等、トラスの外面にビニールか布か何かで覆えば、それらしい表現になったかも知れないし一幕でトラスの上部を△状に組み直せるようにすれば、たばこ工場らしく見えたかも知れない。簡単にパイプを移し替えは出来ないのでしょうけれど。
それから思い出しながら今気が付いたのですが、前回よりも劇中劇の舞台の動きは、カルメンが歌う場、そして群集、観客(合唱団)の喝采を浴びる場面に限られていた様に思うのですが?それだったら、カルメンは何れにせよ人気者ですからそうした演出は有りかなとも思ったりして・・・。
尚、この日は、終演後大野監督による次期オペラについての説明会があったのですが、たまたまこの日はダブルヘッダーで、終演後急いで、都内の小さなホールに駆け付けたので、説明会は聞けませんでした。後日録画がネットで公開されるでしょうから、それを待ちます。