HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

N響第1959回定期演奏会

【日時】2022.6.11.(土)19:00~

【会場】池袋・東京藝術劇場コンサートホール
【管弦楽】NHK交響楽団,

【指揮】ステファヌ・ドゥネーヴ

<Profile>

Stéphane Denève(ステファン・ドゥネーヴ) is the newly appointed chief conductor of the Stuttgart Radio Symphony Orchestra (SWR) and, since 2005, music cirector of the Royal Scottish National Orchestra. He has made regular appearances with the Scottish orchestra at the Edinburgh International Festival and BBC Proms and the Festival Présences, and at celebrated venues throughout Europe including the Vienna Konzerthaus, Amsterdam Concertgebouw, and Théâtre des Champs-Elysées. He and the orchestra have made a number of acclaimed recordings together, including a survey of the works of Albert Roussel for Naxos, the first disc of which won a Diapason d’Or de l’année in 2007.

A graduate and prizewinner of the Paris Conservatoire, Stéphane Denève began his career as Sir Georg Solti’s assistant with the Orchestre de Paris and Paris National Opéra, also assisting Georges Prêtre and Seiji Ozawa during this time. In recent seasons he has appeared as a guest conductor with orchestras including the Boston Symphony, Bavarian Radio Symphony, London Symphony Orchestra, NDR Symphony Hamburg and Maggio Musicale Florence, with return engagements with the Philharmonia Orchestra, Philadelphia Orchestra, the Cleveland Orchestra, Los Angeles Philharmonic, Toronto Symphony, and Deutsches Symphonie Orchester Berlin among others. In the field of opera he has led productions at the Royal Opera House, Glyndebourne, Opéra National de Paris, Netherlands Opera, La Monnaie, the Barcelona Gran Teatro de Liceu, the Teatro Comunale Bologna and Cincinnati Opera. He has also worked with a distinguished list of solo artists including Jean-Yves Thibaudet, Leif Ove Andsnes, Piotr Anderszewski, Emanuel Ax, Lars Vogt, Nikolai Lugansky, Paul Lewis, Frank Peter Zimmermann, Yo-Yo Ma, Nikolaj Znaider, Pinchas Zukerman, Leonidas Kavakos, Hilary Hahn, Vadim Repin, Gil Shaham, Nathalie Dessay and Nina Stemme.

【ソロ出演】ステファニー・ドゥストラック(メゾソプラノ)

       

<Profile>

Stephanie d'Oustrac (ステファニー・ドゥストラック)はフランスのメゾソプラノ歌手。1974年6月27日リヨン生まれ。フランシス・プーランクとジャック・ドゥ・ラ・プレルの姪。リヨン国立高等音楽・舞踊学校で学び、1998年に声楽科を優秀な成績で卒業。オペラ歌手になる前は女優を目指していた。今年48歳。一般論としては歌手として円熟味を増す年頃です。新国立劇場オペラでカルメンを歌った(2021).

【曲目】
①デュカス『バレエ音楽〈ペリ〉」


②ラヴェル『シェエラザード』


(メゾ・ソプラノ)ステファニー・ドゥストラック


③ドビュッシー『牧神の午後への前奏曲』

 

④フロラン・シュミット『バレエ組曲〈サロメの悲劇〉作品50』

 


【演奏の模様】

 N響は前回(5/25)の演目でもラベルやメシアンのピアノ曲や「シエラザード」(リムスキー・コルサコフ)を曲目に取り上げていますが、今回はフランス人の指揮者と歌手を揃えて、フランス物を演奏するという凝りようです。今の時期、何かフランス音楽に関係する時期なのでしょうか?そう言えば、最近大小あちこちのコンサートで、フォーレやドヴュシ―、ラヴェル、サティまで演奏されることが目立ちます。クラシック音楽では、フランス音楽の根強いファンが一定程度いて人気を保っているのですが、それを超える人気である様な気がします。 若しかしてパリなどの都市では、6月21日が「Fête de la Musique(音楽祭日)」なので、そのおすそ分け?でもあれはクラシックというより他の音楽何でもありのお祭りみたいなもので、クラシックはごく一部、コンサートは原則無料ですし、N響がそれにあやかっているとは思えない。今年のフランスではコロナはどうなのでしょう?日本では例年だったら5月に「La folle journee au japon」が開催される筈だったのですが、コロナで全面中止に追い込まれました (ナントでは規模縮小してやったそうです。マクロン大統領がワクチン接種義務化法を通して以降、強気の政局運営ですね。選挙にも勝ちましたし)。

 それはさておいて、演奏の様子についてです。

①デュカス『バレエ音楽〈ラ・ペリ〉』は1912年にロシアのバレエ団の依頼に応じて作曲されたものです。

 ポール・デュカス(1865~1935)は、 パリのユダヤ人家庭に生まれました。独学で音楽の勉強を始め、1882年 パリ音楽院に入学、和声をデュボワ、作曲をギロー、ピアノをマティアスに学びます。管弦楽曲《序曲<ポリュクト>》などで注目され、1902年~1917年にかけては、新聞や雑誌に多くの音楽評論を発表します。またベートーヴェン、スカルラッティ、サン=サーンスの作品の編曲も手掛け、ピアノ連弾曲への編曲などを行いました。1910年にはパリ音楽院の管弦科教授に就任、その後、同音楽院の作曲科教授にもなりました。

 『ラ・ペリ〉』はデュカスの代表作『魔法使いの弟子』ほど有名では有りませんが、脂の乗り切った円熟期の傑作です。冒頭のファンファーレが金管楽器だけで演奏されるので、そこだけ切り取られて演奏会で演奏されることも多いです(バレエ音楽としては1912年パリ・シャトレ座で初演)。

 ファンファーレはさすがと言える伸び伸びした安定した響きでした。その後のアンサンブルも管があちこちで鳴らすアンサンブルは弦と綺麗に溶け合わされ全体としては幻想的とも言える音楽でした。一体どんな粗筋のバレエなのでしょう?蓮の精霊が出て来るらしい。またどうもバレエ『ラ・ペリ』には二種類あって、デュカス以前に、ブルグミュラー(ピアノ練習曲集で有名)が作曲した『ラ・ペリ(1843年パリ・オペラ座初演)』が踊られていた様です。物語もデュカスの作品とは別物の様です。バレエ公演を見れば音楽がどの様に使われているかが分かりますし、オーケストラで演奏する楽団員もバレエを見たことが有るか無いかでその演奏は同じ指揮者下でも違ってくるでしょう。でもこのバレエ、滅多なことでは公演されないみたい。ネット情報によると2010年2月にベルリン国立バレエで行われた模様。

②ラヴェル『シェエラザード』
 管弦楽曲として「シェエラザード」と言えば、リムスキー・コルサコフの交響組曲が有名ですが、ラヴェルもオペラ化を目指した『おとぎの国への序曲<シェエラザード>』を作曲しています。しかし今日の演奏は、それとは別にラヴェルの『管弦楽伴奏歌曲集《シェヘラザード》』という歌中心の作品が有り、それをメゾ・ソプラノのステファニー・ドゥストラックが歌ったのです。彼女は昨年(2021年)7月初めにNNTTオペラパレスでのカルメン上演の時、タイトルロールを歌いました。その時は大野総監督企画のカルメン構成に不満を持って観ていたせいもあってか、彼女の歌い振りも決して褒められたものには思えなかった記憶があります(参考までその時NNTTオペラを聴いた記録を文末に再掲しました。次いでながらその中ではMETライブヴューイングのカルメンとスカラ座公演のカルメンとの比較も書いていますので参考まで)。それに比し今日の彼女のラヴェルの歌曲は伸びもあって安定した歌い振りで、これは彼女が上手になったのか、オペラより歌曲向きの歌手のせいなのかは分りませんが、堂々としたものでした。

③ドビュッシー『牧神の午後への前奏曲』

 これは余りに有名過ぎる名曲で、矢張りFl.を中心とした管群の響きは、N響は国内有数のものを有していることを証明した様なものでした。Fl.にHp.が絡み合う処が何といい感じの響きなのでしょう。

 ドビュッシーと言えば7月にNNTTでオペラ『ペレアスとメリザンド』を上演するのですね。これは最初から余り期待していません。アリアが無い。会話をずるずると歌で進めるだけ。フランス語もかなり難しい。日本語に例えれば古文の様な会話文となっている。しかもまた大野さん得意の「新制作」でしょう。メーテルリンクの原文の幽玄の世界は演出出来ていないのではと危惧します(勿論観には行きますけれど。)

 音楽としてはフォーレの劇付き付随音楽『ペレアスとメリザンド』の方がはるかに美しくて好きです。

 

④フロラン・シュミット『バレエ組曲〈サロメの悲劇〉作品50』

 この作曲家の曲は初めて聴きましたなかなか良かったですよ。最初の穏やかな調べはスーと気持ちに入って来ましたし、次第に打楽器群も加わって不安が募る音楽は、まさに「サロメ」の残酷な運命を連想させます。どんなバレエなのでしょうか。一度見てみたい気がします。サロメのオペラは来年5~6月にNNTTで上演予定とのこと。また演奏会方式オペラでは、今年11月にジョナサン・ノット指揮の上演がありますね。

 また今日の独唱のメゾソプラノで思い出しましたが、文末に引用した記録中のMETでカルメンを歌ったエリーナ・ガランチャが、今月末来日リサイタルを開きます。大いに期待しています。

 

////////////////////////////(2021.7.3記事再掲)////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

オペラ速報/ビゼー『カルメン』at NNTT

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 表記のオペラは、7月3日(土)から7月19日(月)の間、五日間に渡って新国立劇場で催行されるもので、その初日を観ましたので、以下に記録します。

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【日時】2021.7.3.(土)14:00~

【会場】NNTT オペラパレス

【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

【指揮】大野和士

【合唱】NNTT合唱団、

    びわ湖H声楽アンサンブル

    (児童合唱)TOKYO FM少年合唱団

【合唱指揮】冨平恭平

【演出】アレックス・オリエ

【美術】アルフォンス・フローレス

【衣装】リュック・カステーイス

【照明】マルコ・フェリベック

【舞台監督】高橋尚史 

【出演】

 (カルメン)ステファニー・ドゥストラ ック

  (ドン・ホセ)村上敏明 急遽、村上公太が歌うことに変更(初日開演直後に発表) 

  (エスカミーリョ)アレクサンドル・ドゥハメル

  •   (ミカエラ)砂川涼子
  •  (スニガ)妻屋秀和
  •  (モラレス)吉川健一
  •  (ダンカイロ)町 英和
  •  (レメンダード)糸賀修平
  •  (フラスキータ)森谷真理
  •  (メルセデス)金子美香
  •  
  • 【粗筋】NNTTのH.P.のものを転載します。
  • 【第1幕】セビリアのタバコ工場前の広場。休憩時間となり女達が出てくる。男達も集まるが、彼らの関心の的はカルメン。だが彼女は言い寄る男達には目もくれず、自分に無関心な衛兵のホセに興味を持つ。ホセを訪ねて同郷の娘ミカエラが登場、母親からの便りを渡して立ち去る。工場が騒がしくなり、女工と喧嘩をしたカルメンが引き立てられる。カルメンを護送する役目になったホセだが、彼女の魅力に負けて、カルメンを逃がしてしまう。
  • 【第2幕】郊外の酒場。ジプシーが踊るなか、人気闘牛士エスカミーリョが現れてカルメンに目を留める。密輸団の仲間がやって来て相談を始める。そこへホセが登場。カルメンを逃がした罪で投獄され、やっと自由の身になったのだ。カルメンは彼のために歌い、踊るが、帰営の時間を気にするホセをなじる。そこへ折悪しく上官のスニガが現れて鉢合わせしたホセと、決闘になる。スニガは密輸団に捕らえられ、ホセは仕方なく彼らの仲間に入る。
  • 【第3幕・第1場】岩山にある密輸団の野営地。カルタ占いをするカルメンは、「何度やっても死ぬと出る!」と叫ぶ。ミカエラが現れ、ホセの母親が危篤だと知らせる。そこにエスカミーリョがカルメンを訪ねてやって来るが、カルメンをめぐってホセと争う。カルメンは二人の間に割って入り、エスカミーリョを助けるが、ホセには、ミカエラと一緒に山を降りるよう冷たく言い放つ。
  • 【第3幕・第2場】祭りで賑わうセビリア、闘牛場の前。闘牛士エスカミーリョはカルメンに見送られて場内に入る。女達が、ホセが来ているから注意するように言うがカルメンは取り合わない。やがてホセが現れ、復縁を迫るが冷たく拒否される。逆上したホセは彼女を刺し殺す。
  •  
  • 【上演の模様】 
  •  『カルメン』は世界中で愛されているオペラで、恐らく上演回数は一、二を争う位多いのではないかと思われます。今年の2月下旬に「METライブ・ヴューイング」と「スカラ座公演配信」で行われた「カルメン」を観て記録していますので、参考まで、先に以下に再掲します。
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  • 『METライヴビューイング「カルメン」2010年上演』at 横浜ブルグ13映画劇場、及び『ミラノ・スカラ座オペラ「カルメン」2009年上演』Streaming配信を観る

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     表記の「カルメン」の二つの公演を映像で観賞しました。見た目にも何れもかなりの迫力で音質も生を聞くにはかなわないですが、十分過ぎる歌を堪能出来ました。何れも世界の屈指の歌い手が揃っていたからでしょう。

     ビゼー『カルメン』はオペラの中でも一二を争う位有名で人気のある作品で、オペラを観たことが無い人でも、その中のアリアや演奏曲のメロディは良く知っています。それだけ部分の歌、部分の曲が単独でも、組合せでも演奏されていることを意味する人口に膾炙した歌、曲なのです。

     簡単にその起源、由来を書きますと、もともと「カルメン」はフランスの作家、メリメ(Prosper Merimee,1803~1870)が1845年に評論紙に発表した全4章からなる小説です。それをもとに、アンリ・メイヤックとリュドヴィック・アレヴィが共同で、オペラ・コミック用の台本を書き、それにビゼーが作曲してオペラ化したものです。1875年にパリ、オペラ・コミック座で初演されたものです。当初不人気だったものが、次第に人気が出たと謂われます。それにしても、ビゼーもかなり短命ですね。享年37歳、モーツァルトの35歳とそう変わらない。何と素晴らしい作曲家達が30歳台で亡くなったケースが何と多いのでしょう。シューベルト31歳、ベルリーニ34歳、メンデルスゾーン38歳、ショパン39歳、フォスター38歳でした。それより1世紀前のバッハの頃には、60~70歳の長寿の作曲家が珍しくなかったのに。これは19世紀前半の欧州では革命や体制の変化が激しく、戦乱も絶えなかったことが音楽家の社会における立ち場の弱体化、収入、栄養面での貧弱化、感染症による病気などの影響を受けたからでしょうか?                                 それはさて置き、『カルメン』制作の関与者はすべてフランス人なのに、何故かすべてスペインを舞台にしています。それもあのセビリアでの出来事です。ロッシーニもモーツァルトも同じ街を背景にオペラを作曲しています。何故セビリアが舞台なのか?ここはキリスト教文化にイスラムの影響も入り交じった(フランスやイタリアの作家や作曲家にとっては)異国風の文化がふんぷんと匂う、創作意欲が盛んになる街だからという人もいます。確かにビゼーは旅行が好きで、たびたびスペインを訪れていました。しかし私見によれば、これらの制作者の生きた当時は、スペインがかねての黄金時代の輝きを失いつつあり、18世紀に入るとハプスブルグ家のスペイン支配は終わって、フランス、ブルボン家がスペイン経営に乗り出したこともあって、セビリアを舞台とした物語はフランス他の国で大衆受けが良かったからではなかろうかと思われます。

     セビリアはいい街です。

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    セビリア遠景

    オレンジの実のなる街路樹が連なり、一目で気に入りました。

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     この実は見た目は美味しく見えますが、食べられないそうです(余り甘くないか?)。 

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    たわわな実

     カルメンたち女性が働く「たばこ工場」は、スペイン広場からエル・シッド通りを北に向かって進むと、左手に大きな建物が見えてきますが、これが昔のタバコ工場跡で、現在はセビリア大学の本部と法学部が置かれています。

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    たばこ工場跡(現セビリア大学)

     ここが、『カルメン』の舞台となった場所です。女工たちはこの工場で葉巻を巻いて製造していたのでした。当時は、世界で初めて出来たタバコ工場だそうです。                             スペイン広場は万博会場のパヴィリオンとして建てられたもので、両翼に半円形に延びる回廊と、スペイン各都市の歴史的出来事を描写した壁面タイル絵が特徴的。

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    スペイン広場

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    タイル絵の一つ(ラ・マンチャ地方の風景)

     この一帯は今もかってもセビリアの中心地区で、歴史的遺産が多く残っている箇所です。14世紀にカスティリア王国時代に建てられた宮殿である「アルカサル」もその一つです。世界遺産となっています。

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    アルカサル

      
    (Ⅰ)METライヴビューイング「カルメン」鑑賞

    我が国の映画館でのライヴビューイングの今年のライン・アップが発表されています。

    METライブビューイング2021ラインナップ

    ① ビゼー《カルメン》Carmen- Bizet2021/2/12 fri. - 2/18 thu

     

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    カルメン

    ② レハール《メリー・ウィドウ》The Merry Widow- Lehár

    2021/3/19 fri. - 3/25 thu

     

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    メリーウィドウ

    ③ ワーグナー《ワルキューレ》Die walküre- Wagner    

    2021/4/9 fri. - 4/15 thu

     

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    ワルキューレ

    ④ ヴェルディ《椿姫》La Traviata- Verdi

     

     

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    椿姫

    ッシーニ《セビリャの理髪師》Il Barbiere di Siviglia- Rossini

    2021/6/18 fri. - 6/24 thu

     

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    セビリャの理髪師

     

    ⑥ヴェルディ《アイーダ》Aida- Verdi            

     2021/7/30 fri. - 8/5 thu

     

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    アイーダ

     この中の2月上映の「カルメン」最終日を2月18日に観たのです。観客は110人席の約1/3、30人ほどでした。映画館の大画面、多重音響装置の迫力は、オペラハウスの特等席で聴くオぺラとまがうばかり。ストリーミング映像はとてもかないませんね。

    【指 揮】ヤニック・ネゼ=セガン

    【管弦楽】メトロポリタン歌劇場管弦楽団

    【合 唱】メトロポリタン歌劇場合唱団、少年・少女合唱団

    【出 演】                               

     ドン・ホセ:(1)ロベルト・アラーニャ   (以下アラーニャと略記)                                            

        カルメン :(2)エリーナ・ガランチャ (以下ガランチャと略記)                                       

         ミカエラ :(3)バルバラ・フリットリ   (以下フリットリと略記)                                           

         エスカミーリョ(4)テディ・タフ・ローズ (以下ローズと略記)                    他

     各歌手の概要は、                                                                           (1)アラーニャ

    両親はシチリア人。パリ生まれのテノール歌手。10代からパリでポップスを歌い始めるが、映画『歌劇王カルーソ』や、歴史的テノールの録音に影響を受けオペラを志す。その大部分は独学であった。フランスとイタリア両国の国籍を持ち、パリ在住。

    (2)ガランチャ

    1976年ラトビアのリガ生まれの44歳(当時33歳)。父ヤーニャは合唱指揮者、母アニタは声楽家でラトビア音楽アカデミー教授。、ヘルシンキのミリアム・ヘリン国際声楽コンクールで優勝。2003年マスカーニ『カヴァレリア・ルスティカーナ』のローラ役でウィーン国立歌劇場の初舞台を踏む。同年ザルツブルグ音楽祭でモーツアルト『皇帝ティートの慈悲』のプロダクションでアンニオを歌い、国際的な活躍を開始。2007年、コヴェント・ガーデンにドラベッラ役でデビュー。翌年メトロポリタン歌劇場にロッシーニ『セビリアの理髪師』のロジーナ役でデビュー。同2010年、プロダクション『カルメン』の主役を歌った。

    (3)フリットリ

    1967ミラノ生まれ、当時43歳。ミラノのジュゼッペ・ヴェルディ音楽院を経て1993年26歳でスカラ座デビューした後、2000年「イル・トロヴァトーレ」のレオノーラで絶賛を博した。モーツァルトとヴェルディの歌劇における現代最高のソプラノ歌手の一人との評あり。

    (4)ローズ

    1966年生まれの 54歳(当時44歳)。N.Z.出身で、地元クライストチャーチで32歳まで会計士をやっていたという異色の経歴。

     METはいつもながら幕間に、主な出演者のインタヴューの様子や舞台裏の映像を流していました。

     出演は、カルメンを得意とするそうそうたるメンバーです。ただエスカミーリョ役のローズは当日、数時間前に電話がかかって来て、マリウシュ・クフィエチェンの代役として急遽出演となったと、インタヴューしたルネ・フレミングに答えていました。そしたら彼女は“私がデヴューした時もそうでした”と言っていた。代役で出てそのまま伸びていく歌手って時々いますね。

     

    (Ⅱ)スカラ座「カルメン」ストリーミング配信鑑賞

     2010年のスカラ座オープニング初日の「カルメン」を映像化したものを、以下に示すNBS(日本舞台芸術振興会)のアナウンスが告げる様なタイトルのオペラで(各月)配信するというのです。その第二陣は「カルメン」上映です。

    第一陣の「シモン・ボッカネグラ」は既に観ており、2021.1.15付hukkats記事に記録しました。

    ミラノ・スカラ座オペラ"配信"テッパン"の3作品をオンデマンドで2020年の日本公演中止を余儀なくされただけでなく、12月7日の2020 /2021シーズン開幕のオペラ公演も中止せざるを得なくなったミラノ・スカラ座。オペラ・ファンにとっては舞台への渇望もひとしお高まっていることでしょう。             そこで、ライブ・ビューイング・ジャパンの「アーツ・オンライン」によるミラノ・スカラ座のオペラ配信スケジュールをご紹介! 1月から3月まで1作ずつが紹介されます。

    1月はプラシド・ドミンゴ主演『シモン・ボッカネグラ』、

    2月はヨナス・カウフマンとアーウィン・シュロットというイケメン共演の『カルメン』、

    3月は華やかさ満点の『ランスへの旅』

    となれば、まさに"テッパン"の傑作!視聴期間はチケット購入から購入日に応じて最長7日間。じっくり楽しめます。

    「カルメン」の配信は2月19日から一週間の配信期間、次は2月26日から一週間、その次は3月5日から、次は3月12日からと一週間ごとに区切って、有料ストリーミングを行うということです。結局4月15日まで、都合8週間も配信するのですから、焦って聴く必要は無いのですが、今回は丁度METライヴビューイングの「カルメン」が、横浜ではブルグ13という映画館で2月12日から一週間上映されている頃は知っていたものの、なかなか都合が付かず行けなかったので、最終日の2月18日にやっと見に行きました。そういう訳で、スカラ座のストリーミングもそれに近い日にちである2月19日からの配信を申し込んだのでした。

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    ヨナス・カウフマンとアニタ・ラチヴェリシュヴィリ(スカラ座)

    【指揮】・ダニエル・バレンボイム
    【管弦楽】ミラノ・スカラ座オーケストラ

    【合 唱】ミラノ・スカラ座合唱団
    【出 演】

    ドン・ホセ  :(1)ヨナス・カウフマン(以下カウフマンと略記)
    カルメン   :(2)アニタ・ラチヴェリシュヴィリ(以下アニタと省略)

    ミカエラ   :(3)アドリアーナ・ダマート(以下ダマートと略)

    エスカミーリョ   (4)アーウィン・シュロット、(以下シュロットと略)

    各歌手は次の様な人達です。

    (1)カウフマンは有名過ぎて知らない人はいないと思いますので割愛。

    (2)グルジアのメゾソプラノ。現在37歳なのでこの時は26歳。彼女は特にヴェルディを歌うことで知られています。リカルドムティは2018年に次のように述べています。「彼女は間違いなく、今日の地球上で最高のヴェルディメゾソプラノです。間違いなく。」彼女はビゼーのカルメンを歌うことでも有名。

    ラチヴェリシュヴィリは2007年にスカラ座の研修生として留学。2009年スカラ座で脇役メルセデスのオーディションのために歌ったのがバレンボイムの目に止まり、「カルメン」の主役に大抜擢。これはまさにシンデレラ・ストーリーで、当時25歳のスカラ座のオープニングを歌う歌手としても最年少。新たなカルメン伝説を築き上げた。

    (3)イタリア、コンヴエルサーノ出身、当時36歳。

    (4)ウルグアイの男性オペラ歌手。1972年12月21日生まれ。この時39歳。バス・バリトン。特にモーツァルトのドン・ジョヴァンニで高い評価。

     

    【演奏に関して、両オペラの特徴、比較など】

    ・両劇場の公演の大きな違いは、METが伝統的な四幕物の「グランドオペラ」であるのに対し、スカラ座の方は、パリ、オペラ・コミック座初演に近い「オペラ・コミック」だということです。「コミックのオペラ」と言っても、バレーや合唱や様々な舞台装置を多く駆使する「セリフ版グランドオペラ」とも言えるかと思います。要するに前者が歌で会話を交わすのに対し、後者は演劇的なセリフで会話し、つないでいく違いです。

     幕が上がって舞台は、たばこ工場傍の衛兵達の兵営。合唱が、盛んに兵士たちを揶揄して「衛兵が通る、おかしな連中だ。衛兵の詰所(corps de garde)の入り口にもたれたり、行ったり来たりおかしな連中。各々が通る」などと歌いますが、METの合唱団は、子供が中心に自由な様子で歌っているのに対し、スカラ座の合唱は、少し堅苦しく整然とした感じです。ここでgardeとは王宮を守る近衛兵即ち衛兵の事です。話は飛びますが、中国の文化大革命の時、若者たちの「紅衛兵」が有名でした。あれは結局、❝紅❞すなわち中国共産党の衛兵、即ち❝共産党及び国家の王❞即ち毛沢東を守る近衛兵という意味だと思います。毛沢東はトップだったのですが、権力を完全に掌握していなくて、紅衛兵を使って権力を奪還しようとしたのですね。

     衛兵は王宮を交代で守ります。従ってカルメンの冒頭、ミカエラがドン・ホセに会えなかったのは彼が衛兵としてたばこ工場の近隣にある王宮に詰めていたからです。そして彼は、交代時刻となって兵舎に戻って来るのです。たまたまたばこ工場のそばに兵舎があったのであって、衛兵は工場を守る役目ではないのです。バッキンガム宮殿やプラハ城の衛兵交代は今でも見られますね。後者は以前見たことがあります。 

    ・第一幕の見せ場は、①カルメンがドン・ホセの前に現れ歌を歌って盛んに誘惑する場面、花をホセに投げかけます。②ミカエラがドン・ホセに会いに来る場面。③女工たちの喧嘩で捉われたカルメンが、牢に繋ぐドン・ホセを誘惑し遂にその手に陥とす場面。カルメンはホセを突き飛ばし逃走し、ホセは営倉送り。

     ①に関して、ミカエラと母の事が頭に一杯のホセは、カルメンがいくら誘惑してもそしらぬ顔で平然としています。それを変えたのは何と言っても、第一幕5場で歌う「Habanera」でしょう。この場面はMETのガランチャの歌及び演技が圧巻です。

     多くの女工たちや群衆や兵士に取り囲まれたカルメンは、素晴らしいメッゾの声で歌いながら、離れて立ちながら何やら作業しているホセを時々誘うような目つきで見て、

    ❝La'mour est un oiseau rebelle .Que nul ne peut apprivoiser. Et c'est bien en vain qu'on l'appelle. ・・・ ❞と歌うのでした。

     取り巻く男たちは皆自分の事だと勘違いしてうっとりと耳を欹てている。カルメンの標的は唯ホセ一人なのに。

      素晴らしいガランチャの官能的な演技でした。将に魂が揺さぶられる、欲望に火が付く歌い振りです。素知らぬ顔をしているホセ(アラーニャ)も、時々カルメンが歌いながら衣服や足を洗うのを見やっています。カルメンは胸からオレンジを取り出し、齧りながら繰り返し歌うのです。最初、隊長に気がある振りをして、しだいにホセに近づくカルメンその演技も自然で上手で感心しました。

     次の6場で、カルメンたちが去った後、彼女がホセに投げつけた1輪の花を拾い上げて、匂いを嗅ぎながら❝Comme c'est fort! Certainement s'il y a des sorcières, cette fille-là en est un❞とその強い香りにびっくりし、カルメンを悪魔の様な子だと思うのです。もうこの辺で心がぐらつき始めていますね。かろうじて、ミカエラと母の思いに支えられてはいますが。

     ところでこの花は何でしょうか。メリメの原文でも「cassie(キンゴウカン)」と記述されています。キンゴウカン(金合歓)はフランスでは cassieカシーと言い、匂いが非常に強く良いので、花の精油成分から香水スイートアカシア花油「カッシー油」を抽出し珍重されます。金合歓の花言葉は(歓喜 胸のときめき 創造力 繊細 夢想 安らぎ)等で、カルメンの場面にピッタリの花です。スカラ座の第1幕では、工場から戻った女工たちが大きなプールにこの花を沢山浮かべて、体を洗ったり清めていました。

     この花を投げつけたということは、カルメンのハバネラで歌った胸のときめきの相手は❝あなた、ドン・ホセです❞という意味なのです。

     ただここでcassieを、オペラのカルメンは、METでもスカラ座でも、ホセの体に投げつけ地面に落ちますが、メリメの原本では ❝Et prenant la fleur de cassie qu'ell avait à la bouche , elle me la lança ,d'un mouvement du pouce,just entree les deu yeux. ❞ と書いています。つまり、カルメンは親指ではじいてホセの眉間に投げつけたのです。ホセは弾丸の様だったと言っています。

     実際、舞台で1輪の花ビラを指ではじいて、相手の眉間に当てることは非常に困難な動作ですから、オペラでは モノローグでホセに ❝Avec quelle adresse elle me l'a lancée, cette fleur …là, juste entre les deux yeux ... ça m'a fait l'effet d'une balle qui m'arrivait ...❞ と原文と同様なことを言わせているのです。

     6場のこの箇所でもう一点注意が必要なことは、「epinglette」という単語の意味です。これは普通、ピンとか針の意味がありますが、ここでは兵隊が自分の銃砲の筒を掃除する「火門針」という特殊な道具を意味します。ホセはハバネラを聞きながらその針を止める鎖を作っていたのでした。オペラでは、カルメンはホセにその針で私の心臓を射とめて欲しい旨を言わせます。

     さて次は②のミカエラがホセに会う場面です。METのフリットリは物腰も優しく品良く、柔らかな安定した歌声で、田舎の義母(ホセの実母)の伝言等をホセに伝えます。アラーニャもこれに対し心から感謝の歌声で答えていました。でもフリットリさんは歌は上手ですが、見た目も雰囲気も上品過ぎて、田舎の小娘と言った感じからは遠いかも知れません。かえってスカラ座のダマートの方が適役かも知れない。歌もまっとうだし。

     ところでこのミカエラとういう人物は原文には無かったのです。ミカエラというホセの許嫁を台本では創造し、逆に原文では存在したカルメンの夫ガルシア(ホセとの決闘で殺されてしまいます)をオペラでは最初から消し去り、逆三角関係をつくっています。エスカミーリョという闘牛士のマタドール(とどめを刺す役)もオペラではかなり重要な位置づけで登場させ、逆に原文にあった闘牛士のピカドール(乗馬して牛の背にやりを刺す役)ルーカス(この闘牛士は牛に倒されカルメンに嫌われて愛の対象にはならない)は登場させていないのです。この闘牛士とカルメンとホセの三角関係に台本は小説を焼き直しているのです。この辺の人物操作でオペラ「カルメン」はよりドラマティックになったとも言えます。

     ・第一幕で登場する、ドン・ホセ(以下ホセと略記)、カルメン、ミカエラの担当歌手は、METでは、アラーニャ、ガランチャ、フリットリで、スカラ座では、カウフマン、アニタ、ダマートです。1楽章の歌唱を聴いた印象では、アラーニャ、ガランチャが際立って目立っており、フリットリも素晴らしい歌声です。一方スカラ座のカウフマンは音程も安定、声量もかなりあるのですが、10年前は現在よりややスケールが小さい声質に聞こえました。カルメンのアニタは、バレンボエムに見え出されカルメンに抜てきされたというダマートは、良い声をしていることはしているのですが、歌唱がやや不安定な(上ずる)時があり、迫力ではガランチャの後塵を拝しています。アニタのミカエラは一番年上で経験も長いこともあるのか、相当の歌唱力ですが、声量はすごくはない。 

     ・演技力としては、全体を通して、ガランチャが大奮闘、踊りも上手で迫力が有り、殊勲賞ですね。アニタのカルメンには敢闘賞を上げたい。カルメンの初舞台にしては大健闘しており舞台センスの良さが光ります。その辺りをバレンボエムも評価したのかも知れない(歌は経験を積むにつれて目立って安定して上手になることが多いですから)。

    アラーニャは素晴らしいことは素晴らしいのですが、彼のキャリア位になると当たり前で、それ以上の輝きが求められるのでは?カウフマンは若さ故の生真面目さが演技を制約する時があると感じられました。

     闘牛士は、ローズがシュロットを圧倒していました。カルメンに迫る場面、ホセとの決闘の場面等でローズの闘牛士の振る舞いが存分に演技に表出されていました。

     ・次は、言葉の発音に関してです。METのアラーニャのホセは美しいフランス語で歌っていました。鼻濁音、rや語尾のe の発音など流石フランス人のホセ役です。カルメンのガランチャ、エスカミーリョのローズは歌い言葉が耳に素直には入って来ませんでした。何かもやもやしたオブラートにくるまったフランス語の感じ。フリットリはイタリア人ながらフランス語のオペラも沢山歌っている経験からか、立派な原語に聞こえました。

     それに対し、スカラ座のカルメン役アニタ、ホセ役カウフマン、ミカエラ役ダマート、エスカミーリョ役シュロットは何れもフランス以外の外国人にも関わらず、原語が明瞭に発音されていました。これは会話が音楽の間に挟まれた「オペラ・コミック」だったことも或る程度影響あると思います。  

     第二幕、第三幕、第四幕でも色々感ずるところはありましたが、この調子で書くときりが無く永遠に書かなくては?との脅迫感に捉われてしまうので、あと一点だけに留めます。   

     最後の楽章の最後、ホセに復縁を迫られるカルメンは死の予感がするのですが、  ❝ Jamais Carmen ne cédera,Libre elle est née Et libre elle mourra.❞と言って、自由に生まれ、自由に死ぬと叫ぶのです。この“Libre(自由な)”はたびたび出て来て、第二楽章でホセが帰営を諦め、カルメンたちの仲間に加わる場面でも、仲間たちのコーラスが、  ❝…pour pays tout l'univers; pour loi sa volonté,et surtout la chose enivrante:la liberté, la liberté!❞と自由な生活の素晴らしさを歌い、第一楽章の「ハバネラ」の歌の二番でも     ❝ L'amour est enfant de bohème,il n'a jamais connu de loi:❞と 恋は自由な放浪者(ロマ)の落とし子、決してきまりなど知ったことではない と歌います。さらに女工同士が喧嘩し、相手を傷つけて捕縛されたカルメンが、監視役のホセに、城壁の近くの店に飲みに行こうとさそう歌「セギディーリャ」でも❝ mon cœur est libre comme l'air.❞ と自分の心臓は空気の様に自由だ と歌うのです。

     「カルメン」が初舞台以降170年以上も経っても人気が衰えるどころか、一二を争うトップオペラになっている一つの理由に、この“liberté,”の精神が貫かれていることがあるのではないかと思うのです。勿論もう一つの大きな理由は「激しい恋」と「悲劇的な結末」が大きなテーマですが。そもそも“ジプシー”は定住せず気ままな移動生活をする民と一般的には考えられていますが、現代ではその多くは定住し、“ジプシー”という語自体が差別用語とされ、今では「ロマ」と呼ばれます。 

     メリメが「カルメン」を書いた1845年の時代は、フランスでは、ナポレオンの支配が終わって、王政復古になった反動期の時代で、1832年にはパリで王政打倒を叫ぶ暴動が起こったものの失敗、その流れを組んで1848年には、二月革命が起きて共和派がオルレアン王朝を打倒しました。こうした政治情勢の中、メリメは「カルメン」を評論紙に連載し、恐らくは市民が「自由」を求めている空気を組み取って、恋愛小説にその重要さを重ねて書いたのではなかろうかと推測するのです。何といっても『自由(liberté)、  平等(Égalité) 、 友愛(Frater nité)』は、1789年のフランス大革命のとき掲げられた標語ですから。ただその後この標語は多くの市民に忘れ去られてしまい、ようやく上記の二月革命政府時に復活、憲法起草ではこの標語は共和国の原理とされたのです。現在ではフランス国旗の三色旗の中で、青は自由、白が平等、赤は博愛を表すと考えられています。

     「自由」を求める市民たちは、現代の今なお世界には多く存在し、それだけ抑圧を受けているあかしです。最近では、ミャンマーの市民、香港の市民、ウイグル民族、ロシアの市民、その他旧ソ連諸国、アフリカ諸国、南米諸国、一体何億人の人々が「自由」を求めているのでしょう。我々に出来ることは少ないかも知れませんが、私なぞせいぜい「カルメン」を良く観て「自由」の重要さを心に刻み、日本もいざ一朝有事の時があれば、声を高らかに上げようと思っています。

     総じてこれら二つの「カルメン」を観た結論としては、今から十年位前のステージでは、METの「カルメン」が歌手の陣容、歌手の歌、演技、それから舞台設備、合唱何れも非常に優れたものがあり、総合力ではミラノ・スカラ座は残念ながら一歩遅れを取っている感がしました。これはあくまで「カルメン」を比較しただけですから他のオペラを比較すれば、別の結論になるかも知れませんが。十年経ってその後どうなっているかは全く別問題です。

    【上演模様、感想】
  • 今日の国立劇場新制作『カルメン』は冒頭からカルメンシータが現れ歌う場面が、演出家アレックス・オリエの手によって古典的な「たばこ工場」でなく、何か訳の分からない舞台装置に囲まれた場面だったことは、やり過ぎ、歌の重々しさを損なうものと、大きな失望を禁じ得ませんでした。まるで、鉄骨足場に囲まれた工事現場の如し。舞台の中の舞台は、ロック演奏用のパーカッション等の楽器が置いてあるだけ、そこにカルメン一人が立って歌う場面は、意味不明の全くのお門違いの演出です。カルメン役のステファニー・ドゥストラック(以下Ouと略記)の冒頭の歌も決して褒められたものではありませんでした。非常に遅いテンポで、遅いというよりもおたおたして歌っている様子。あがっているのでしょうか?オケも合わせずらそう。歌い終わるなり大野さんはテンポを元に戻して速めた指揮をしていた。
  •  Ouの略歴を調べてみると、
  • Stephanie d'Oustrac (ステファニー・ドゥストラック)。フランスの女性オペラ歌手。1974年6月27日生まれ。メゾソプラノ。フランシス・プーランクとジャック・ドゥ・ラ・プレルの姪。リヨン国立高等音楽・舞踊学校で学び、1998年に声楽で一等賞で卒業。オペラ歌手になる前は女優を目指していた。

  •  というものでした。
  • 大野監督は、オリエ氏インタヴューの映像の中で、”有名なフランスのソプラノ歌手”といった様なことを言っていたので、パリを中心として大活躍しているのかと思ったのですが、そうしたことは、聞いたこともありません。あの程度の歌い振りでは、失礼ながら、大活躍は未だしでしょう。女優という位ですから容貌とスタイルは相当なものでしたが。さらに失望したことは、準主役とも言える重要な役、ドン・ホセ役が、コロナ禍でだいぶ前に来日出来なくなり、村上敏明氏に変更になったことは、周知の事実だったのですが、その村上さんが体調不良で急に歌えなくなり、代役の代役として、NNTTオペラ研修所出身の若手テノールが、歌うことになった旨の大野さんの説明が、舞台冒頭にあったことでした。村上公太さんと言うらしい。その後、ドン・ホセに会いに来たミカエラ役の砂川涼子さんが、歌い出しましたが、砂川さんは流石です、舞台慣れした貫禄で、その先にも後にもない位のいい歌いぶりでした。衛兵交替後登場したホセ役の歌を歌った村上公太さんの第一声は綺麗なテノールなのですが、如何せん小さい声なので、あの大ホール一杯に鳴り響きません。大舞台で歌った経験が少ない感じ。そうしているうちに、カルメンがホセに近づき花を投げつけるのでした。
  •  この花は、「キンゴウカン」の花で、本来の色は赤ではなく黄色で、花言葉は「秘密の愛」です。オリエ氏が、何故赤花を使ったかは不明?この花は、香りが強いので、たばこ塗れになって働く女工さん達が、仕事を終えるとこの花で香りを付けた水で沐浴するのです。今回の演出ではその場面は有りませんでしたが、物語では二重に重要な意味を持つ花なのです。また今回の配役の殆ど全員が現代の衣装、即ち衛兵は、ガードマンスタイル、ホセ他は、背広姿、ミカエラも同様現代風、カルメンは、赤い派手なドレスで白水玉模様がついている、唯一の例外は闘牛士のエスカミーリョ、伝統的な服を着ていました。エスカミーリョ役のアレクサンドル・ドゥハメルの最初の歌は、力強さは感じるのですが、安定感がなく声量は、出し切っていない感じ。だんだんと舞台に慣れてきたのか、最後の歌は大きな声が出てある程度上手でしたが。
  •  スニガ役の妻屋さんはいつもの低いいい声を響かせていました。でも世界の声と比較すると小じんまりしています。
  •  先の大野さんのインタヴューでは、”聴く人が、古典的視点から観ると、ちょっとびっくりする演出かも知れないが、①ソリスト②衣装③舞台設備④(合唱)を含む歌手を観て貰えば、満足するでしょう”といった趣旨の発言がありましたが、これは、十分効果が上がったかというと、甚だ疑問です。むしろ失敗では?①甚だ不十分②現代的
  • 衣装のオペラは、他にも時々ありますが、それが物語りを表現する上で十分機能しているならいいのですが、今回は?③建築現場の足場の異様さ、舞台中のロック舞台の無意味、奇をてらっているのでは?コストの節約にはなるかもしれませんが。④の部分は、唯一成功した分野と言えます。合唱が全体を通してうまく機能し、物語を盛り上げていた。それに追加するに大野オケの概ね立派な演奏、これらは以上の不成功分野を補っていたと思いますが、オケの時として大音響を張り上げる時、そうした分野と不釣り合いな位膨らみ過ぎ、空回りした場合も見られました。
  •  これまで多くのオペラ、勿論大野さん主宰のオペラも聴いてきていますが、今回の様な記録を書かざるを得ないのは初めてです。非常に残念です。日本を代表するオペラ劇場のオペラです。今後二回目、三回目と舞台が進むにつれて、見違える様なオペラになることを、切に祈る次第です。