都響プロムナードコンサートNO.408
【日時】2024.9.23.(月・休) 14:00〜
【会場】サントリーホール
【管弦楽】東京都交響楽団
【指揮】藤岡幸夫
〈Profile〉
4歳でピアノ、10歳でチェロをはじめる。文京区立誠之小学校[1]、慶應義塾中等部、慶應義塾高等学校、慶應義塾大学文学部(美学美術史学専攻)卒業。英国王立ノーザン音楽大学(RNCM)指揮科卒業。日本フィルハーモニー交響楽団の指揮研究員を経て渡英する。RNCMでは奨学金特待生に選ばれ、1992年には本来EC諸国出身の若手指揮者に贈られるサー・チャールズ・グローヴズ記念奨学賞を特例で受賞した。同年にマンチェスターで開催されたルトスワフスキ・フェスティヴァルでは作曲者の前で「管弦楽のための協奏曲」を指揮、英『ガーディアン』紙に「計り知れなく将来を約束された指揮者」と絶賛される。1993年、BBCフィルハーモニックの定期演奏会に代役でデビュー。大成功を収め、同楽団には藤岡のためにそれまではなかった副指揮者のポストが新設された[2]。
1994年、ロンドンの夏の風物詩「プロムス」に同オケを指揮しデビューし、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団、ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団、ハレ管弦楽団、トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団、ノルウェー放送管弦楽団、メルボルン交響楽団、クイーンズランド交響楽団、ニュージーランド交響楽団他数々の海外オーケストラと共演した。
マンチェスター室内管弦楽団首席指揮者(1995年 - 2000年)、日本フィルハーモニー交響楽団指揮者(1995年 - 2002年)を歴任。2000年から関西フィルハーモニー管弦楽団正指揮者に就任、2007年から首席指揮者を務める。音楽監督のオーギュスタン・デュメイ、桂冠名誉指揮者だった故飯守泰次郎とともに同楽団の看板であり、定期演奏会で斬新なプログラムに挑戦する一方で、「Meet the classic」シリーズや関西各地での演奏会など、クラシック音楽の普及に力点を置いた演奏会をこなしており、同楽団を指揮する回数は年間40を超える。
【独奏】山下愛陽(ギター)
〈Profile〉
1997年生まれ。ベルリン芸術大学ギター科学士及び修士課程、さらにニュルンベルク音楽大学ギター科修士課程を修了、現在同大学国家演奏家資格過程に在籍。幼少よりギタリストの父·山下和仁、作曲家の母·藤家溪子のもとで音楽を学び、2015年に渡独後はT.ミュラー=ぺリング、C.ドメニコーニ、現在はビョルン・コレルに師事。7歳から「山下和仁ファミリークインテット」の一員として、また山下和仁とのデュオで国内および欧米アジア各地で公演を重ね、今はベルリンを拠点に世界各地でソリストとして、また室内楽の分野でも精力的な活動を展開している。第66回ARDミュンヘン国際音楽コンクールのセミファイナリスト、2019年ドイツギター賞、2021年イザローン国際ギターコンクール第2位など受賞多数。2016~19年までヤマハ音楽財団奨学生、2020~22年までローム音楽財団奨学生。2021年にソロアルバムをリリース。同年からD'Addarioアーティストに選ばれている。
【曲目】
①吉松隆『鳥たちの時代 Op. 25』(1986)
(曲について)
日本フィルハーモニー交響楽団の委嘱による「日本フィル・シリーズ」第31作として1985年夏より86年春にかけて作曲。現代音楽という混沌の森から飛び立ち新しい翼を模索する鳥たち、そして、日本フィルという鳥たちに寄せる頌歌。
この曲では、鳥たちのさえずりや歌の音型だけでなく、翼を広げる様や、羽毛の柔かさ、枝の上や地上での仕草、群れをなして空を飛翔する姿、など様々なものを音楽の形やオーケストレイションに応用することを考えていた。Moderato/Scherzo/Allegroの三つの楽章を持つ一種の交響曲でもあり、《朱鷺によせる哀歌》《チカプ》に続く「鳥の三部作」の完結篇でもある。
1. Sky「空が鳥たちに与えるもの」
空と雲と鳥たちとによせる雅歌。
2. Trees「樹が鳥たちに語ること」
通り過ぎてゆく異国の鳥たちのリズムの堆積法。
3. The Sun「太陽が鳥たちに贈るもの」
太陽に向かって飛翔する鳥たちの祝祭。
(吉松 隆)
②ロドリーゴ『アランフェス協奏曲』
(曲について)
20世紀スペインの作曲家ホアキン・ロドリーゴ(1901~99)は、幼時に視力を失ったが、早くから楽才を発揮、バレンシア音楽院で作曲とピアノを学び、1927年からはパリのエコール・ノルマルでポール・デュカス(1865~1935)に師事した。1936年のスペイン内戦勃発後しばらくドイツやフランスで過ごすが、1939年に帰国、以後マドリードを本拠に作曲活動を行った。
彼の作品中最もポピュラーな《アランフェス協奏曲》は、スペイン内戦時に着想され、1939年に完成されたギター協奏曲である。初演は1940年にバルセロナで行われ、続いてマドリード初演もなされたが、いずれも大成功で、ロドリーゴの名は世に広く知られることになった。初演のソロはスペインの名ギター奏者レヒーノ・サインス・デ・ラ・マーサ(1896~1981)で、ロドリーゴは作曲にあたって彼から多くの助言を得ている。
“アランフェス”とはスペイン中部マドリード州の南方の名所で、16世紀にフェリペ2世(1527~98/在位1556~98)が王宮の建設を命じ、18世紀から王家の離宮の所在地として栄えた。ロドリーゴはこの協奏曲で貴族性と民衆性とが融け合っていた18世紀スペイン宮廷を映し出したと述べている。スペイン内戦という祖国の危機の中にあって、スペインの古き良き時代へ思いを馳せながら作曲が進められたものだろう。明快な形式と親しみやすい楽想がギターの特性に結び付いた魅力的な作品だ。
第1楽章 アレグロ・コン・スピーリト ニ長調 序奏付きソナタ形式。序奏でギターがスペイン風の複合リズム(8分の6拍子の中に4分の3拍子の動きを挟む)で和音をかき鳴らし、主部の第1主題もこのリズム上にオーボエと第1ヴァイオリンによって明るく示される。
第2楽章 アダージョ ロ短調 幻想的な緩徐楽章で、イングリッシュホルンが歌い出す哀愁溢れる主要主題は様々な編曲でも有名。この旋律についてのちにロドリーゴは、アランフェスを訪れた際、初めての子を流産した女性に心痛めて書いたと述べたという。この主題が変奏的に回帰する間に2つのエピソードが挟まれ、途中劇的な盛り上がりも示すが、最後はまた静かな抒情のうちに消えていく。ロンド形式で、ギターと管弦楽の活発な掛け合いで明るく運ばれる。
【主催者言】
まずご注目いただきたいのが、若きギタリスト山下愛陽(やましたかなひ)の日本での協奏曲デビューです。卓越したテクニックと聴く者を魅了するオーラは、父・山下和と同時に、すでに一人の優れたギタリストとしてこれからの時代を担う存在です。《アランフェス》の前後は、まさに藤岡幸夫フェイヴァリッツ。盟友・吉松隆の若き日の傑作《鳥たちの時代》と、レスピーギの代表作《ローマの松》。どちらもオーケストラの色彩感を最大限に活かし、鳥や自然への畏敬を表現したスケールの大きな曲です。
③レスピーギ『交響詩《ローマの松》』
(曲について)
イタリアでは19世紀をとおして器楽のジャンルはオペラに押されてふるわない状態が続いていたが、20世紀前期には何人かのイタリアの作曲家たちが、器楽の復興をめざすようになった。彼らの中でも最も国際的に成功したのがオットリーノ・レスピーギ(1879~1936)だった。生地ボローニャの音楽院でイタリア器楽運動の先駆者ジュゼッペ・マルトゥッチ(1856~1909)に師事したこともあって、早くから器楽ジャンル、とりわけ管弦楽に関心を持つようになったレスピーギは、若い一時期ロシアでリムスキー=コルサコフから色彩豊かな管弦楽法を学んで確かな管弦楽書法を身につけるとともに、当時の印象派やリヒャルト・シュトラウスの音楽から影響を受けるなど、同時代のヨーロッパの様々な書法を吸収して、自らの音楽語法を多彩なものにしていった。
同時に、レスピーギはイタリアの伝統文化を尊重し、それを様々な形で作品のうちに反映させようとした(この傾向は同世代の多くのイタリア作曲家に共通して見られる)。特に1913年、サンタ・チェチーリア音楽院教授に就任してローマに移住したレスピーギは、ローマの風物や遺跡に惹かれ、しばしばそこに創作の霊感を求めるようになる。そうした彼のローマへの関心が、管弦楽作家としての巧みな腕前に結び付いた名作が、一般に“ローマ3部作”と呼ばれる3つの交響詩、すなわち《ローマの噴水》《ローマの松》《ローマの祭》である。
3作品の作曲年代にかなりの開きがあることが示しているように、当初から3部作として構想されたものではないが、いずれの作品も4つの部分からなるという構成面での同一性や、色彩感溢れる管弦楽法と迫真的な描写表現でもってローマの風物と歴史にまつわる絵画的かつ詩的なイメージを表した標題作品(その内容は出版譜に前文として載せられている)であるという点で、3作は共通しており、意図的に同じスタイルで書かれたことは間違いない。
《ローマの松》は3部作の中でも最も親しまれている名作。4つの松を題材にしているが、松そのものよりも、松が見てきた歴史や自然の情景がテーマとなっている。作曲は1923年から翌年で、《噴水》と《祭》の間に位置する第2作であり、前作《噴水》の詩的で幻想的な表現と、のちの《祭》に見られるリアルな具象的描写とが融合したような筆遣いが特徴的である。夜鴬の声の録音を用いるという画期的な方法を取り入れている点も注目されよう。
【演奏の模様】
①吉松隆『鳥たちの時代』
楽器編成:フルート3 (第2~3はピッコロとアルトフルート持替)、オーボエ3 (第3はイングリッシュホル ン持替)、クラリネット3(第3はバスクラリネット持替)、ファゴット3、ホルン4、トランペット3、 トロンボーン3、テューバ、グロッケンシュピール、鈴、タンブリン、カスタネット、ゴング、 テンプルベル、トライアングル、タムタム、大太鼓、チャイム、アンティークシンバル、ク ラヴェス、サスペンデッドシンバル、ヴィブラフォン、シロフォン、ピアノ(チェレスタ持替)、三管編成 弦楽五部14型(14-14-10-8-8)
全三楽章構成
ⅰ Sky
ⅱ Trees
ⅲ The Sun
吉松さんは現在も活躍を続けられている現役の作曲家です。鳥に関した作品も多く作曲しています。今回はその中でも以下の柳楽さん(ミュージックメッセージ代表)の言葉にある様に、相当感銘を与える良い作品でした。
実際聴いてみると、
ⅰ「空が鳥たちに与えるもの」は最初、Vc.中心のゆるい背景音にVn.→Va.やVc. →Vn. →Vaが掛け合い、これ等弦楽奏に鈴の音や鳥の声を模したFl.の音やさらには低音弦が重なって次第に盛り上がりVn.へと受け渡しました。その歩みを速めたりスピードダウンする様は、作曲者に言わせると「広い空」と「鳥」との交歓によりエネルギーと命が鳥たちに与えられ 最後は 弦楽のシャ―シャーと流れる中に各種撥音楽器の音が紛れ込んで生き生きとした空気が流れる青空の下といった幻想も浮かんで来るのでしょう、きっと。
ⅱ「木が鳥に語る事」では、管と木琴等の打楽器が速いテンポで入り組んで騒めき合う雰囲気や、終盤でのFl.と打楽器の掛け合い(テンポは同じく速い)で鳥の鳴き声が木々に応えている様子が伺い知れました。
ⅲ「太陽が鳥たちに送るもの」では弦楽器の速いトレモロと激しい打の交差する熱量の籠った演奏は太陽の暖かさ(或いは暑さ?)と鳥たちの飛奔する様子がイメージ出来る印象でした。
総じて、これ等の曲は耳に違和感なくスムーズに入って来る和声及び旋律(余り多くは無いですが)であって、想像していたよりもかなり心地の良いものでした。
それから感じた点は、先日のN響のブルックナーの8番の記録に書いた事に似た、現代音楽性即ちミニマル音楽の要素である「繰り返し繰り返しの音楽要素」が聴いた者の心を和らげ、心地良く感じさせる作用をこの作品も有するのではなかろうか?ということでした。
演奏が終わると、指揮の藤岡さんは、一階中頃の座席を指さし、拍手をしたのでそちらを見ると、何とこの曲の作曲者、吉松さんが観客席におられるではないですか。会場からは吉松さんを讃える拍手が大きく鳴り響きました。
(参考)
〔鳥たちの時代〕
この曲は、僕は吉松さんが書いた曲の中でも傑作中の傑作だと思ってます。若い頃の作品なんで非常に現代音楽っぽくて、もしかしたら一般受けはしにくいかもしれないけど、僕が最も大切にしている曲が「鳥たちの時代」です。この曲のCDは色々出てるんだけど、吉松さんはこの演奏が一番いいって言ってくれて。実は僕も今まで録音した吉松さんの作品の中で、自分自身一番気に入ってる演奏です。交響曲第3番は若さとか勢いとか、その時にしかできない情熱だとかがあるんだけど、トータルバランスで僕自身が一番よく出来たなと思ってるのが「鳥たちの時代」なんです。(柳楽 正人)
②ロドリーゴ『アランフェス協奏曲』
楽器編成:Flute(2.Picc.持替え有)Ob.(2.En-Hrn.持替え有) Cl.(2) Fg.(2) Trmp.(2) 独奏Gt. 二管編成弦楽五部8型
全三楽章構成
1.Allegro con spirito
2.Adagio
3.Allegro gentile
ギターのコンチェルトを聴く機会はこれまで余り有りませんでした。今回演奏するクラシックギタリストは、ギターの名手として長崎で一家を成す山下和仁氏の次女、愛陽さん。曲目はギター曲の中では名曲として世界的に知られている『アランフェス協奏曲』。これまで何かの機会やテレビ等で部分的に聴いた事が有る曲ですが、全曲オーケストラバックで演奏する本格的なものは初めてです。登場した山下さんは、随分お若く見えました。若いというよりもあどけなさの雰囲気が残る少女登壇といった処。
今回の山下さんの演奏を聴いて総じて言えば、山下さんのテクニックはかなり高水準でこれまでの精進振りと素晴らしい才能を感じる演奏でした。如何にも女性らしい柔和で優しさを湛えた演奏でした。藤岡・都響のバック演奏にも飲み込まれず、十分独奏の面影をはっきりさせた演奏でした。あれだけの指使いと撥する音色(おんしょく)の電光石火の如き切れ味は、山下家伝来のものなのでしょう、きっと。随分と長時間名演奏を聴いた気がしましたが、この曲を弾き終った後、彼女は万来の拍手と歓呼に応えて、ソロ・アンコール演奏を行ったのです。
《アンコール演奏曲》E.サインス.デ・ラ・マーサ『暁の鐘』
調べると、40年程前に亡くなったスペインのギター奏者で作曲家の作品の様です。山下さんは、演奏の伴奏音と旋律音の兼ね合いが非常に安定していて、よく聞くと(特に前半と終盤は)鐘の音の様に聞こえました。
(参考)
第1楽章 アレグロ・コン・スピーリト ニ長調 序奏付きソナタ形式。序奏でギターがスペイン風の複合リズム(8分の6拍子の中に4分の3拍子の動きを挟む)で和音をかき鳴らし、主部の第1主題もこのリズム上にオーボエと第1ヴァイオリンによって明るく示される。
第2楽章 アダージョ ロ短調 幻想的な緩徐楽章で、イングリッシュホルンが歌い出す哀愁溢れる主要主題は様々な編曲でも有名。この旋律についてのちにロドリーゴは、アランフェスを訪れた際、初めての子を流産した女性に心痛めて書いたと述べたという。この主題が変奏的に回帰する間に2つのエピソードが挟まれ、途中劇的な盛り上がりも示すが、最後はまた静かな叙情のうちに消えていく。
第3楽章 アレグロ・ジェンティーレ ニ長調 4分の2拍子と4分の3拍子の頻繁な交替が変化に満ちたリズムの動きを作り出す。ロンド形式で、ギターと管弦楽の活発な掛け合いで明るく運ばれる。
《20分の休憩》
③レスピーギ『交響詞《ローマの松》》』
楽器編成:フルート3(第3はピッコロ持替)、オーボエ2、イングリッシュホルン、クラリネット2、バスクラリネット、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、大太鼓、シンバル、トライアングル、グロッケンシュピール、タンブリン、タムタム、シンバル、ガラガラ、鳥の声(録音)、ハープ、ピアノ、オルガン、チェレスタ、弦楽5部、バンダ(トランペット4、トロンボーン2)
このレスピーギの「ローマ三部作」の中の一つは、第一曲からして、Vn.アンサンブル中心した煌びやかな雰囲気の調べを醸し出していました。全五曲とも、松に絡んだ副題が付いていますが、それらの松の立つ風景や人々の動きが良く表現されていました。特に最終第四曲では、様々な楽器他を使って、アッピア街道沿いの背の高い松の木々の間を古代のローマ軍団が行進する歴史的幻影を感じる演奏でした。En-Hrn.の古めかしい音も雰囲気を高めました。
バンダ(二階R席)に立つ4人のトランペット奏者と2人のトロンボーン奏者とが、舞台上の金管たちと呼応して、華々しくファンファーレを鳴らしました、その直前には、舞台裏左翼で、ヒョロヒョロと鳥の鳴き声も聞え(録音音声使用)街道の木々に飛び交う鳥たちの姿が目に浮かぶ様。
最後は、Timp.が強打され、シンバルが打ち叩かれ、一同団結した藤岡・都響は、相当に大きい全楽器全強奏の轟音を立てて終了しました。かなりの迫力でした。
(参考)
第1曲 ボルゲーゼ荘の松 ボルゲーゼ荘の庭園で、子ども達が輪になって踊ったり兵隊ごっこをしている賑やかな様子を、めくるめく色彩感と運動性に満ちた音楽でリアリスティックに描く。
第2曲 カタコンベの傍らの松 一転古代ローマにタイムスリップし、迫害されたキリスト教徒のカタコンベ(地下墓地)での集会を描く。低弦に導かれて悲嘆に満ちた歌が弱音のホルンに現れ、やがて遠くにグレゴリオ聖歌の「サンクトゥス」(場外のトランペット)が響く。続いて祈るような朗誦風の動機によって高揚、先の2つの歌とも重なって荘厳な盛り上がりを形作るが、最後は神秘的な静けさのうちに消えていく。
第3曲 ジャニコロの松 満月を背景に立つジャニコロ(ローマ西南部の丘)の松を描写した緩徐部分。ピアノの分散和音、クラリネットの夢想的な主題、オーボエの穏やかな主題などが夜の神秘を美しく描く。ピアノ、チェレスタ、ハープの醸し出す月光のような響きも魅惑的だ。最後に録音による夜鴬の声が聞こえてくる。
第4曲 アッピア街道の松 夜明けのアッピア街道に立つ松にちなむ古代ローマの幻想で、昇る太陽の輝きの中でローマ軍が凱旋してくる光景の描写。遠くから行進の足音(ティンパニ、ピアノ、コントラバスの連打)が近づいてきて、クラリネットが進軍の主題の動機を示す。イングリッシュホルンの古代風の旋律の後、進軍主題を中心に次第に音量を増して盛り上がり、最後は別動隊のブッキーナ(トランペットほかで代用可)も加わって輝かしく全曲を閉じる。