HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

マケラ・パリ管弦楽団『オルガン付き&幻想交響曲』at サントリーホールを聴く

【日時】2025.6.19.(木)19:00〜

【会場】サントリーホール

【管弦楽】パリ管弦楽団
【指揮】クラウス・マケラ(パリ管弦楽団音楽監督)
【曲目】

①サン=サーンス『交響曲第3番〈オルガン付〉』

(曲について)

    交響曲第3番 ハ短調 作品78, R. 176 は、カミーユ・サン=サーンスが1886年に作曲した交響曲。サン=サーンスの交響曲の中でも最も有名な作品であり、『オルガン付き』(avec orgue)の愛称で知られる。

作曲者:カミーユ・サン=サーンス
作品番号:作品78
作曲:1886年

    この作品の作曲について、サン=サーンスは「この曲には私が注ぎ込める全てを注ぎ込んだ」と述べ、彼自身の名人芸的なピアノの楽句や、華麗な管弦楽書法、教会のパイプオルガンの響きが盛り込まれている。初演や、翌1887年1月9日のパリ音楽院演奏協会によるパリ初演はどちらも成功を収め、サン=サーンスは「フランスのベートーヴェン」と称えられた。

 


②ベルリオーズ『幻想交響曲』

(曲について)

   幻想交響曲作品14(H.48)は、フランスの作曲家エクトルベルリオーズが1830年に作曲した最初の交響曲。原題は『ある芸術家の生涯の出来事、5部の幻想的交響曲』(Épisode de la vie d'un artiste, symphonie fantastique en cinq parties )。「恋に深く絶望しアヘンを吸った、豊かな想像力を備えたある芸術家」の物語を音楽で表現したもので、ベルリオーズの代表作であるのみならず、初期ロマン派音楽を代表する楽曲である。現在でもオーケストラの演奏会で頻繁に取り上げられる。

 

【演奏の模様】 

 今回の演奏会は、指揮者+人気曲+本場パリの管弦楽団が演奏するという売り切れ満員の人気演奏会となりました。

①サン=サーンス『交響曲第3番〈オルガン付〉』

〇楽器編成:三管編成

〈木管楽器〉ピッコロ 1(3番フルート持ち換え)、フルート 3、オーボエ 2、イングリッシュホルン 1、クラリネット 2、バスクラリネット、ファゴット 2、コントラファゴット。 

〈金管楽器〉ホルン 4 (1番・2番はナチュラルホルン、3番・4番はヴァルヴ付き)、トランペット 3 (第2楽章では3番トランペットにナチュラルトランペットが指定されている)、トロンボーン 3、チューバ 1。

〈打楽器〉ティンパニ(3個)、トライアングル、シンバル、バスドラム。
〈鍵盤楽器〉オルガン、ピアノ(奏者2人)。
〈弦楽器〉弦楽五部14型(14-14-12-12-7) 

 パイプオルガンは、P席の背後の高い処にあるのですが、そこの鍵盤を演奏するのではなく、ステージ上手奥に、遠隔操作できる鍵盤が置いてあって、そこで、オルガン奏者も指揮者を見ながら弾ける方式を取りました。

〇全二楽章構成

第1楽章(第1部)Adagio  Allegro  Moderato

(第2部)Poco  Adagio  

 第2楽章 (第1部)Allegro  Moderato  Prest

 (第2部)Maestoso - Allegro

 この曲の構成は二楽章構成ですが、以下に記した様に元々4楽章構成だったものを、2楽章構成に圧縮したとも看做せます。

 演奏時間は約35分(各楽章20分、15分)。この交響曲の最も顕著で独創的な特徴は、各所に織り込まれた、ピアノ(2手もしくは4手)およびオルガン、すなわち鍵盤楽器の巧妙な用法です。そのほか、この交響曲は通常の4楽章構造にしたがっているように見えるものの、通常の意味での第1と第2、第3と第4楽章はそれぞれ結合されており、2つの楽章に圧縮されていると看做せます。サン=サーンスはここで、伝統的なスタイルも踏まえつつ、新たな形の交響曲を意図していて(1875年の『ピアノ協奏曲第4番 ハ短調』(作品44)や、前年に初演された『ヴァイオリンソナタ第1番 ニ短調』(作品75)でも同様の構成が採られています)。

 また、この交響曲は循環主題技法の創造的な用法を示している。サン=サーンスはフランツ・リストと友人であり、初演直後に亡くなったリストにこの交響曲を献呈しているが、素材が楽曲全体を通じて進化してゆくというリストの主題変容の理論がこの交響曲には適用されているのです。

 

第1楽章のスタートを切ったのはVn.アンサンブルで、アンサンブルはクレッシェンドからすぐにデクレッシェンドしてうねりを見せ、Ob.の響きがアンサンブルに絡んで聞こえました。すぐにせわしい弦楽のチャカチャカチャカチャカというテーマ曲のアンサンブルが鳴り始まるのですが、その前触れの音を弦のPizzicato と共にEng.-Hrn.が短く立てました。このテーマ曲は波状的に多重の変化を伴って進みかなりの強奏まで至ります。その間合の手のFl.やOb.が鳴らされますが今回のFl.首席奏者の音はとてもいい音でした。

 この辺りで素晴らしいと思った箇処は第二部のPoco Adagio。オルガンが決して目立ちはしないのですが、脳天に響く音が伝わり、その間弦楽アンサンブルとFl.のソロ音を絡めたVn.アンサンブルの低音域奏は、そのテンポといい、調べといい、あたかも春の雪解け水で増量したセーヌが、穏やかに流れ下り、人々はその流れを目の当たりにしながら、愛を語り或いは連れだって川面を見ながら土手を散策している何とも平和な光景を夢想させるいい感触を、パリ仕込みのアンサンブルで聴くことが出来た箇処です。マケラはこの曲を譜面を時々見て安全運転していましたが、誘導するオケの調べは、リハで培った意向と団員の受容の結果らしい危なげないものでした。

 次の第2楽章は、<オルガン付き>と言うサブタイトル通りのパイプを通した、何物をも圧倒する地響きを立てた太い音、それを誘導したのは2Vn.⇒1Vn.のフガートにOb.の合いの手とFl.も加わったアンサンブルの掛け合いでした。その直前の弦楽奏の低音域旋律テーマのターラターララッラ、ターラターララッラという人懐こい調べを、相当な力を込めた弦楽奏でスタートした箇所も面白みを感じました。パリ管弦楽団の演奏は、オルガンの轟音に対峙して決して引けを取らないアンサンブルの強さを発揮して、両者の組み合わさった、将に混沌の極わまりもその拍力も、滅多に聴けない凄さを感じる演奏でした。

 

②ベルリオーズ『幻想交響曲』

〇楽器編成:二管編成 Fl.2(2番ピッコロ持ち替え)
Ob.2(2番コーラングレ持ち替え)Cl.2(1番E♭管持ち替え)Fg.4他オフィクレイド 2 

Hr.4 Trmp.2,(ピストン付き)コルネット 2
Trmb.3(アルト 1, テナー 2)
 Timp.4台(2人2台ずつ)他シンバル、大太鼓、小太鼓、鐘 2(C音と完全4度下のG音)Hrp.2

弦楽五部16型(16 -14-10-11- 8)

 

〇全五楽章構成

各楽章には、副題が付けられ、一説によるとベルリオーズの恋愛経験(失恋)が作曲に大きな影響(影)を及ぼしているといわれます。

 第1楽章「夢、情熱」(Rêveries, Passions)
    
 第2楽章「舞踏会」 (Un bal)

    
 第3楽章「野の風景」(Scène aux champs)
    
 第4楽章「断頭台への行進」(Marche au supplice)
    
 第5楽章「魔女の夜宴の夢」(Songe d'une nuit du Sabbat)

   確かにこれだけの無関係とも思える、離れた「テーマ」達を統一する軸は「愛憎」かな?と思わざるを得ない処が有ります。

 元々、第2楽章のVn.奏等の流麗な調べに、スマートな、洗練されたHrp.のポロンポロとと掛け合う美しい調べは、この曲の要めであることには変わり有りませんし、今回のマケラ・パリ管弦の演奏でも確認出来たところですが、それに加わうるに、第1楽章の低音弦のシックな美しいアンサンブルや、弦楽に掛け合う木管の美しい音質に魅了されました。矢張り伝統があるのでしょう、Fl.もOb.も又Fg.(の太い力強さ)も素晴らしく管が共鳴し鳴っていました。

 第3楽章は確かに,広々とした田園風景と言っても、プロヴァンスの灌木林でなく、牧草地に散々と草食む家畜(羊、山羊、牛etc.)を望める牧歌的風景を連想させる、いやそれ以上の幽玄の世界をイメージさせる曲の流れを、マケラは(この曲は暗譜で指揮していました)適宣木管等に指示を出し、或いは何も示さない時も含め、将に「野の風景」の雰囲気を現出させるのに成功していたと思います。

 ところが次の第4楽章の荒んだとも言える管弦楽発音はその副題「断頭台へ進む」によっても連想で来るのかも知れませんが、マケラ・パリ管弦の調べはそれ以上の荒んだ、遣る瀬無い調べの連続で、多分この副題がフランス大革命勃発(1789 年)以降の断頭台の露と消える政治家等が多くいた激変を、ベルリオーズが比較的若い時(1830年代か?)見聞きし、経験した自身の境遇(多分失恋)に重ね合わせて、この楽章の様な激しい音楽が出来たのかな?等と聞きながら考えていました。それにしても、ここでも木管、就中Fg.の発音には驚かされました。この様なおどろおどろしい音をあのユーモラスな楽器で立てることが出来たFg.首席奏者もきっと笛の名人に違いありません。聴いた事の無い荒々しい音でした。

 アッタカ的に進んだ最終楽章、Pizzicato奏や調べの最後音をキーを下げる様な発音や、これまた名人芸のCl.の変則テンポの調べ等々、穏やかではないけれども面白さ満載の遊び心一杯の楽章を、マケラ・パリ管弦は迫力一杯の演奏で最後まで走り抜けるのでした。

 以前聴いたパリ菅弦楽団の物凄く分厚いアンサンブルの記憶が残っていて、今回も同様な感じかな?と思って聴いたところむしろ第1楽章など抑制的に進行していたのは曲の違いかマケラの考えが反映されていたのか良く分からなかったのですが、同じ管弦楽団でも時間と空間が違えば、違った演奏で当然なのかも知れません。

 

    本演奏が終わると、会場は歓声と拍手の渦と化し、何回か退・登場をしたマケラは、勢い良く指揮台に上がり、アンコール演奏を始めました。21時はとうに過ぎていました。しかも二曲です。

《アンコール曲》

①ラヴェル『クープランの墓』よりリゴドン

 

②ビゼー/歌劇『カルメン』より前奏曲

 

②の軽快で明るい演奏が終わるや、ホール内の観客の多くは、スタンディング・オーヴェーションの拍手・喝采で、指揮者と演奏者を讃えました。

f:id:hukkats:20250619234302j:image

f:id:hukkats:20250619234235j:image

f:id:hukkats:20250619234417j:image