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東京吹奏楽団第69回定期演奏会 〜D.マスランカの世界〜

【日時】2022.9.11.(日) 14:00~
【会場】東京芸術劇場コンサートホール

【演奏】東京吹奏楽団 

【ゲスト出演】雲井サックス四重奏団

 東京吹奏楽団は、1963年 に東京藝術大学教授・山本正人を始めとする管・打楽器奏者が集まり創立。※結成当初からプロとして活動を始めた吹奏楽団としては東京初。
同年11月5日 - 第1回定期演奏会開催。
1993年 - 第3回日本吹奏楽アカデミ一賞(演奏部門)受賞。
2000年11月17日 - 第52回定期演奏会にて、アメリカの作曲家エリック・ウィテカーを招き、自作自演にて2曲の日本初演を行う。
2008年11月28日 - 第55回定期演奏会にて、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団首席トロンボーン奏者オラフ・オットをソリストに招く。

これまでの指揮者として、
山本正人 - 桂冠名誉指揮者
汐澤安彦 - 1983年から常任指揮者、2008年からは名誉指揮者、
小林恵子は、2016年から正指揮者。
この他、これまでに外山雄三、山田一雄、朝比奈隆など、多くの著名な指揮者が客演指揮している。

 

 

【第69回定期演奏会】

【指揮】松井 慶太 

  

 <Profile>

 1984年青森県八戸市生まれ。 3歳よりピアノ、16歳のときピアニストとしてポーランド国立クラクフ交響楽団と共演。 2007年、東京音楽大学指揮科卒業。 指揮を広上淳一、汐澤安彦、ピアノを故島田玲子、宮原節子、オーボエを安原理喜、音楽理論を久田典子に師事

 

 

【共演】雲井雅人サックス四重奏団

雲井代表、佐藤、西尾、林田

<雲井代表Profile>

 国立音楽大学を経てノースウェスタン大学大学院修了。第51回日本音楽コンクールおよび第39回ジュネーヴ国際音楽コンクールで入賞した。1984年東京文化会館小ホールでリサイタル・デビュー。2012年ハンガリー・ソルノク市立交響楽団、2013年「香港国際サクソフォン・シンポジウム」、2014年「シンガポール木管フェスティバル」などで協奏曲を演奏。2016年インディアナ大学にてオーティス・マーフィー教授のサバティカルリーブにともなう客員教授を務める。2017年アメリカ海軍ネイビー・バンドのサクソフォン・シンポジウムに招待されて演奏とマスタークラスを行う。同年、準・メルクル指揮、国立音楽大学オーケストラとドビュッシー「ラプソディー」を共演。2018年NASA(北アメリカサクソフォーン評議会)に雲カルとして招待され演奏とマスタークラスを行なう。2005年と2014年「サイトウキネン・フェスティバル in 松本」に参加。
ソロCDに「サクソフォーン・リサイタル」、「ドリーム・ネット」(バンドジャーナル誌特選盤)、「シンプル・ソングズ」(レコード芸術誌特選盤)、「アルト・サクソフォーンとピアノのためのクラシック名曲集」、「トーン・スタディーズ」(レコード芸術誌特選盤)、「ラクール:50のやさしく段階的な練習曲」、「リベレーション 我を解き放ち給え」などがある。雲カルCDに「ソングス・フォー・ザ・カミング・デイ」、「マウンテン・ロード」、「むかしの歌」、「レシテーション・ブック」、「チェンバー・シンフォニー」などがある。大室勇一、フレデリック・ヘムケの各氏に師事。
「雲井雅人サックス四重奏団」主宰。国立音楽大学教授、相愛大学客員教授、尚美学園大学講師。

作曲家:ディビッド・マスランカ

 

〈Profile〉

 アメリカ作曲家。1943年マサチューセッツ州ニューベッドフォード生まれ。ミシガン州立大学出身。1961年から1965年までオベリン大学音楽院でジョゼフ・ウッド英語Joseph R. Woodに作曲を学び、音楽の学士号を取得。これまでオーケストラ声楽室内楽吹奏楽など様々なジャンルを作曲。

(主な作品)

 ・Mountain Roads(サクソフォーン四重奏)

 ・子供の夢の庭(吹奏楽)

 ・交響曲第4番(吹奏楽)

【曲目】オール・マスランカ・プログラム

 

①『テスタメント』

 

②『サクソフォン四重奏曲と吹奏楽の為の協奏曲

 

③『交響曲第4番(1993)』

 

【演奏の模様】

ホールに入ってステージを見ると、譜面台と椅子が、随分沢山舞台所狭しとばかり並んでいました。指揮台を半円形状に取り囲んだ椅子が二重に並び、左手にはピアノが一台、奥には様々な打楽器群が。恐らく椅子には管楽器奏者が座るのでしょう。弦楽器は当然ないと思っていたら右手にコントラバス一挺が置いてある。奏者入場後確認したらやはりたった一人弦楽器奏者でした。左のオケだったらヴァイオリンパートの箇所にクラリネット奏者7~8人並び、指揮者の周りはFl.Ob.Hr.Tub.Trb.Trp.Fg.などなど通常のオケの金管・木管奏者の他にオケではあまり見られないユーフォニウムという小さなテューバ風の楽器奏者が二人います。則ちオケの弦楽器の部分にそれと同じか少し小さい規模で管楽器が入っているという楽器編成でした。

①テスタメント、

 先ず冒頭、米国人(クレッグ・ジョンストン)が登場し、何等かの詩を朗読しましたが、マイクもなしでは、大ホールにはクリアには届かず。プログラムノートによれば以下の様な内容であります。

When I consider the darkness that we carry,The pain we inflict-on those close to us ,and on those don’t even know,The death we bring through rage , ignorance and indifferenceI say “Please God help us to melt the rage into love into understanding and acceptance" ~(略)~

 この曲は9.11の同時多発テロに寄せて、マスランカが作曲したもので、大きく前半の激しい音楽と後半の穏やかな音楽に分けられました。冒頭金管アンサンブルに対して鐘をカ-ンカーンと叩く音が抹香くさくあの何千人何万人という罹災者への挽歌を支えます。背景音としてのパーカッション(鉄琴、木琴etc.)が猛烈に速く鉢を打ち動かし、ソロが鳴り、終盤ウィンドマシーンが鳴り、タラララッタタララッタと小鼓が速いリズムで打ち鳴らされます。前半の最終部で何回かピアノも目立った音を立てました。これまでのオーケストラでは体感したことのない宗教染みた不思議な響きが印象的でした。

 前半の激しい響きが静まり、後半はOb.のゆったりしたソロで流れ開始です。背景にはCl.が伴奏音を流し続ける。最終部は鐘の音が晩鐘の様にゆっくりと鳴り響き、穏やかな安寧感のある調べが続いて鉄琴の音も静かな音を立ててやがて消え入る様に終了でした。

②の曲は、多くのSax四重奏団の中では名の通った「雲井雅人四重奏団」が東京吹奏楽団をバックにオケで言えばコンチェルト風に演奏した曲です。三楽章構成。

②-1Slow

②-2 Moderate                                                       

②-3 Slow-Moderately Fast

 全体的にかなりけたたましい。金管轟音とせわしないシロフォン(木琴1鉄琴2)の速いテンポの音が駆け巡るケースが多かった曲でした。オケだったら弦の弱音アンサンブルで一時の熱気を冷やすことも出来ますが、金管アンサンブルで冷やす事はほとんどなかった様な気がします。また雲井SAX四重奏団が牽引して吹奏楽団を誘い込むケースもあれば、吹奏楽団に取り囲まれた状態で演奏するケースもありましたが、総じてSAX奏団の力が抜きん出ていたとまでは思われなかった。でも一楽章のSAXソロ音の響きはとても良かったです。また第二楽章で木琴女性奏者が高い音から低い方まで猛スピードの下降音を体全体を動かし鉢を目まぐるしく移動させて瞬間に弾き終わったのには驚きました。彼女は別の楽章で、鍵盤を見ないで指揮者の方を見て両手の鉢を打っていました。ピアニストが鍵盤を見ないで目をつむっても弾けるのと同じですね。

休憩の後は

③交響曲第4番です。この曲はマスランカの代表的曲と言えるでしょう。楽器は幾つか補充された模様です。将にこの曲が圧巻でした。本当に素晴らしいと思いました。先ず旋律が多くて堂々と進行し、各管楽器群は妙なる溶け具合でもって不純物の混じらない清浄な流れとなってホールを埋め尽くしました。冒頭何処からともなく聞こえるバンダのHr.のテーマ音がかなり切々と響きました。続く管からPf.へのテーマリレー、ここで初めてパイプオルガンの響きもはっきりと聞こえました。パイプオルガンはこれまでソロの演奏を聴いた事が何回もありますが、一台であらゆる楽器に類似した音を出せるのですね。「オルガン交響曲」なる物まであります。薗轟音たるやオーケストラをねじ伏す程の音量が出るのです。ところが今日の演奏では②でもオルガン奏者は高い所の演奏の椅子に座っている事は認識していましたがほとんどその音ははっきりと認識されなかった。それだけ管楽器群のけたたましい音が優越的だったのか若しくはマスランカがオルガンには小さい音だけを出すように楽譜に書いたのか分かりませんが、いずれにせよ‘オルガン大活躍’の真逆でした。上記のこの曲の最初の方で、オルガンの存在を再認識した訳です。楽器全体の音のバランスもいいし変化のタイミングとその安定した変化の態様もいい。静かに響かせる管楽器群のアンサンブルは、オケの弦楽アンサンブルの代わりを担ってもいる様子。それも成功していた。そう思える程違和感が有りませんでした。全管楽器が全奏でクレッセンド階段を登り切り、次いでパーカッションが合の手を入れるその阿うんの一致も見事に表現されている。演奏も勿論よいのでしょうが、この交響曲の構造・構成自体の素晴らしさがあってのことだと思いました。後半には不協的調べの響きが有ったりジャズぽい響きも有ったり、いかにも米国作曲家らしい❝人種のるつぼ❞的ごった煮があると思えばすぐに軌道修正して元の統一性を取り戻すマスランカの作曲手法には舌を巻きました。この演奏を聴く前は、演奏予定曲目に、「交響曲」と書いてあったので、‘弦楽器の無いシンフォニー等有り得ない!’‘管楽器と打楽器のシンフォニー等まともな曲である筈がない’等と否定的な考えを持って聴き始めた訳ですが、今日その認識は間違っていたと改めて、『交響曲4番』の大きな存在を知った次第です。

 尚予定演奏後、短い曲でしたが、アンコール演奏がありました。マスランカ作曲『フーサ』。中々しっとりとした曲で、Hr.やOb.それからPf.やPicc.も参画。特にPicc.演奏の低音(オケでは高音しか聞いたこと有りません)の不思議な響きにはびっくり、この曲は吹奏楽のコンテストやコンサートで結構演奏される曲の様です。

 最近、金管楽器の演奏を聴いたり見たりする機会が結構あって、今日の日本の代表格的吹奏楽団の演奏を聴き、矢張り音楽の世界も多様性に富むという自分なりの予想が的外れでなかったことが確信出来ました。こうした音楽の多様性は日本が音楽に関してはある程度正常な状態だと言えると思うのです。この多様性を戦争などで失わないことを祈ります。