『クールベと海展』は一昨日の6月13日(日)を持って予定通り終了してしまいました。最後にもう一度観に行こうかと思って、電話で訊いたら最終三日間はチケットがすぐに売れ切れてしまったそうです。会期の延長は無いのですか?と訊いたら、各県の美術館でも展示の予定があるので延長は出来ず、契約通り予定の会期で終わりますとのことでした。「予定の会期」と言っても、緊急事態宣言中は臨時休館したりで結局、4月10日~6月13日間の1ヶ月位しか公開されませんでした。
でも都内のほとんどの美術館が休館中であることを考えれば、美術ファンにとってはパナソニックの主宰者は、コロナとの戦いに良く善戦したと、きっと感謝することでしょう。
さて前回に引き続き、クールベに影響を与えた他の画家達の動物画を見ますと、
『夕暮れに池で休む牛たち』はレオン=ヴィクトール・デュプレ( 1816~1879)の作品です。
デュプレは19世紀フランス、バビルゾン派の巨匠で、フランス中西部、リモージュの生まれ、動物や農夫たちのいる落ち着いたのどかな田園風景を好み、暖かな色彩で描きました。夕暮れ時の光が暖かい雰囲気をもたらしています。
次の『羊飼いと羊の群れの風景』はジュゼッペ・パリッツイが描きました。
パリで活躍したイタリア南部出身のパリッツイは、トロワイヨン(前回の『クールベと海・展』観賞詳報Ⅱ-①<クールベに影響を与えた動物画家>参照)に師事、動物画を学びました。師匠達と同様、フォンテーヌブローの森に足繫く通い、この絵が示すように、放牧動物の牧歌的雰囲気を嫌い、自然の荒々しさを乗り越えて生きる動物たちの力強さをたびたび描いています。牧童の動きから、山羊たちは険しい岩山を登っていることが分かります。クールベがサロンに出展した動物画を見て影響を受けた可能性がある。
以前にも触れたカミーユ・コローは、その風景画にたびたび動物たちを登場させて、生き生きとした風景画を作り上げました。
上記のヴィル=ダグレーはパリ郊外の町で、コローの父がこの地に別荘を購入、コローはその一室をアトリエとして使っていました。絵の左手にある建物がそれで、そこに通じる道沿いにそれとなく動物を配し、アクセントを付けています。
コローの詩情溢れる風景画は、即物的な風景を描いたというよりは、サロンには、「歴史的風景画」の様式を踏襲しテーマ性を重視した作品を出品し、アカデミックな表現を受け継ぎながら自然主義的要素を強調しました。その後の印象派の画家達にも大きな影響を与えました。それが良く分かる作品が次の『少年と山羊』です。残念ながら今回の展覧会には出品されませんでしたが、日本国内で保有する絵画です。
1847年のサロン展に出品されたこの作品は、木々や樹葉の重なりの間から見える遠景には、白雲が広がり同系の色使いで青空と凪いでいる海が表され、安定したバックの前景には、葉冠に裸体の少年という神話的世界を想起させる人物が山羊と戯れているという「歴史的風景画」の伝統を踏まえた作品です。
最後にもう一人のバルビゾン派の重要人物、ジャン=フランソア・ミレーの作品を一つ上げます。『垣根に沿って草を食む羊』、この作品も国内所蔵ですが、今回はこの展覧会には来ておりません。
画面奥に日の光があるため、画面右側には影が出来て暗い調子なのに対し左半分で草を食む羊たちは明るい表現で光の対照性を効果的に利用しています。ミレーもカラヴァッチョとは異なりますが、光と影をキャンバスに見事な表現で描いた画家の一人なのです。話はそれますが、以前ロンドンにあるNational Gallery of Londonを訪れた時、真っ先に見に行ったのが、ミレーの『唐蓑』でした。これ程光と影を巧みに描いた作品はそうは多くないと思いました。
それにしても上記のミレーの絵には、右サイドの垣根と高木の後ろに人物らしきものが描かれていますが、これは一体何なのでしょう?帽子を被っている様です。羊飼い?それとも動物たちを見ながら絵を描いているミレー本人?謎です。