この展覧会のタイトルには“クールベと海”と謳われており、海の絵を大きなセールスポイントとしている訳ですが、これまで述べて来た様にクールベの絵にはその他多くの優れた分野があり、それらを展示の初めからスタートさせたため、海の絵は一番最後の展示ブースに飾るという結果になっていました。ここでやっと主たる展示目的の『海』に到達しました。先ずは、今回の展示法の常套手段として、クールベ以前の海について展示、解説が為されます。
18世紀以前においては、海そのものに(画家達の)関心が寄せられることはなく、それ以前の聖書や文学に記述された ‘ノアの洪水’ や ‘世界終末’ ‘船の難破’に対する恐怖を伴う畏怖の念から、絵画の対象とすることは宗教画以外では稀でありました。しかし 18世紀のフランスの画家クロード=ジョセフ・ヴェルネ(1714~1789)は、「畏怖」から生ずる高揚感を「崇高」という概念で前向きに捉え、荒れた海や嵐の海を見事にキャンバスに表現しました。
また当時英国ではウィリアム・ギルピンの提唱した「ピクチャレスク」に賛同する画家たちが、国内(後にはグランドツアーと称して大陸の国外)の絵になる風景を求めてツアーをすることが流行しました。英国で最初の本格的風景画家といわれるリチャード・ウィルソン(1714~1782)は、伝統的なイタリア絵画やオランダ絵画を学び、代表的な絵となる風景画として、アヴェルヌス湖(伊)、ドーバー海峡(英)などを書いていますが、今回の展覧会では『キケロの別荘』が展示されています。
一方前述のギルピンは『風景6種』として、ピクチャレスクの代表的風景画(ギルピンのデッサンをサミュエル・アルケンが版画化)を1799年に刊行し、大きな影響を与えました。