HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

第89回東京音楽コンクール本選Ⅰ『弦楽部門』拝聴

▼第19回東京音楽コンクール 弦楽部門本選▼

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【日時】8月27日(金) 16:00開演(18:35終演予定/19:15表彰式開始予定)

【会場】東京文化会館大ホール

【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

【指揮】

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角田綱亮

【出場者(出場順)、演奏曲目】

①西田 翔(チェロ) NISHIDA Sho, Cello

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A.ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 ロ短調 Op.104

 

②福田麻子(ヴァイオリン) FUKUDA Asako, Violin

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P.I.チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.35

 

③下川 朗(コントラバス) SHIMOKAWA Rou, Contrabass

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S.クーセヴィツキー:コントラバス協奏曲 嬰ヘ短調 Op.3

 

④橘和美優(ヴァイオリン) KITSUWA Miyu, Violin

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C.サン=サーンス:ヴァイオリン協奏曲第3番 ロ短調 Op.61

 

【感想】

 本選のプログラムが発表され見て驚いたことは、ヴァイオリン奏者2名とそれにチェロ奏者1名、コントラバス奏者1名が入っていたことです。確かに弦楽部門にはすべての弦楽器が入るのでしょう。しかし異なった楽器たちを横並びに比較して、1位2位3位と順位をつけることが果たして合理的なものなのかなと思ったのです。弦楽器といっても楽器毎に大きな特徴、違いがあり、例えば今回のコントラバス男性奏者は、腕まくりして大きな楽器と対峙しまるで格闘しているが如きでした。ヴァイオリン奏者がみせる華麗な舞いの様な動きとは真逆です。肉体労働とも言える程の力仕事でした。チェロ奏者も似たようなものです。チェロは奏者が座ってこそいますが、楽器を良く鳴らすためには、相当筋力を要するとお見受けしました。そうしたことに対し二人の大型楽器奏者はよく奮闘していたと思います。

 しかしチェロ、コントラバスはどうしても低音域の音が中心となり、高音を華やかに振りまき散らすヴァイオリンと比べると、地味にならざるを得ません。勿論その地味さ渋さが何とも言えない味わいになることもありますが、どうしても、見栄え、聴き映えはヴァイオリンに一歩譲らざるを得ません。同じトラック競争をするのにハンディを背負っての走りの様なものなのです。

 それに比しヴァイオリン奏者2名は、軽々と楽器を操り、むしろ曲その物と格闘していました。この二人の曲目は違いこそすれ、素人目にもその演奏は比較出来るものです。②のチャイコフスキーの曲は名曲中の名曲ですが、奏者はほぼ完璧に弾きこなしていました。④の曲目は、サンサーンスの大変美しいコンチェルトでこれまた見事な位立派な演奏でした。これ等のヴァイオリンの演奏を①③の低音弦の演奏と客観的に比較出来るのでしょうか?演奏技術の高い低いを見ればいいと言ったって、あの重いチェロ、コントラバスを、これまた重い弓で、太くて重たい弦を鳴り響かせる技術はおのずから、ヴァイオリンとは大きく異なっている筈です。

 同じ哺乳類であっても、海性の鯨と陸性のリスを比較してどちらが優勢かといっている様なもの。あれこれ探索しても事のつまり自分の好みを言っていることになってしまう。自分の結論、総論的なものとしては、真の順位は定まらないし、定めようとしないことだと思います。コンクールだから優劣を競うのが根本と謂われればその通りですが、例えば、春賞、夏賞、秋賞、冬賞、いや冬だとまずいかな?そうだ、花の名前を付けて桜賞、桃華賞、撫子賞、椿賞といった結論を決めるコンクールが一つ位あってもいいと思うのですが?的外れで論外な意見かな?

 さて各論的に言いますと、

先ず①の西田さんはこれまでの様々なチェロ奏者の演奏を思い出して比較しても引けを取らないのではと思わす程の演奏でした。低音はずっしりと、高音はヴィオラかヴァイオリンかと聴きまごう程軽やかに、響かせていました。フルート等の管とのソロの掛け合いも良く息があっていたし、微妙な音回しから強く弾く箇所の演奏は頼もしくも有り、まだまだ若い奏者(確か高校生でしたね)ですし、チェロ奏者として、将来間違いなく楽しみな逸材だと思いました。時々オケに飲み込まれる箇所も散見されましたけれど。 

 ③の下川さんは、、コントラバスという通常のオケでは縁の下の力持ちの楽器を、今日ほど華々しく注目させた功績は大です。こうしたことはそう多くは無いと思います。この楽器をヴァイオリンの様に華麗に弾きこなすには、相当の体力、腕力が必要だと思います。後半は流石に疲れたのか、オケに飲まれる時も有りました。

 ②の福田さんは各楽章に散りばめられた高度なテクニックを要する箇所もほぼ完璧にこなし、チャイコフスキのこの名曲を、完全制覇したと言っても過言でないでしょう。  この曲は確か福田さんの所属する東京音大で教鞭をとられる、神尾麻衣子さんがチャイコフスキーコンクールで覇者となった時に、素晴らしい演奏ぶりを見せた曲ですね。福田さんも将来挑戦してみては如何が? 

 ④の橘和さんの弾いたサンサーンスのコンチェルトは、そうしょっちゅうお目にかかる曲ではありません。それにしてもサンサーンスもすごい天才ですね。この曲の演奏を聴いてそれが分かる程、素晴らしい橘和さんの演奏でした。演奏がダイナミックで大きい。伸び伸びした天衣無縫な弓使いから繰り出される旋律は、迫力の中に繊細さも兼ね備え、この若い学徒の将来たるや洋々としたものを感じさせるものでした。 曲全体としては、チャイコフスキーのコンチェルトのような、様々なテクニックを要するものではないかも知れませんが、聴かせ処、見せ場をサンサーンスはよく心得て作曲しており、奏者はそれを忠実に再現していました。何回も繰り返される素敵な主題は、聴く者の心を、これでもかこれでもかとくすぐります。曲に酔うとはこうしたものなのでしょうか?酩酊した目と耳は、うっとりと奏者を見つめるだけでした。

 さて演奏会が終わると駆け足で会場を離れ(自宅のある横浜まで遠いので)帰途に就いたのでした。従って19時頃からの表彰式は見なかったのですが、ここまで書いてふと、もう順位は決まった筈だなと思い、文化会館のH.P.を観ましたがそれらしい記載は見かけませんでした。まー其れはどうでもいいやと思い、今日は若い人の素晴らしい活躍を見て、日本の弦楽器レヴェルは相当高度なものを維持出来ているなと安心したのでした。