前回<クールベ以前の海の絵>に関して記しましたが、今回はその続きです。
18世紀の英国において、海を絵画に取り入れる切っ掛けとなった「ピクチャレスク」運動を推奨したギルピンの銅版画『風景6種』は、前回掲載した絵を見れば気が付くことですが、山々に囲まれた水辺の ❛絵になる風景❜を描いたものです。しかし何れも水面は穏やかな静寂さを保っています。これは海を描いたものではなく、川でもなく英国北西部の「湖水地方」の湖を描いたものだからなのです。ギルピンが描いたのは1798年 、今から220年ほど前ですが、今でもその静寂な雰囲気はほとんど変わっていません。10年ほど前の湖水地方で「グラスミア湖」の写真を撮ったものがありましたので、次に掲げます。
近くには英国の有名な詩人ワーズワースが暮らした家が現存し、「Dove Cottage」として人気スポットの一つとなっています。
あれは確か10代の頃だったですか、英語の教科書にワーズワースの詩が載っていて、それを読むと水仙の花が風に揺らいでいる風景が目に浮かぶ様で、それ以来湖水地方は行ってみたい憧れの地となっていました。
「水仙」 ウィリアム・ワーズワース
「The Daffodils」
William Wordsworth
I wander'd lonely as a cloud
That floats on high o'er vales and hills,
When all at once I saw a crowd,
A host of golden daffodils,
Beside the lake, beneath the trees
Fluttering and dancing in the breeze.
Continuous as the stars that shine
And twinkle on the milky way,
They stretched in never-ending line
Along the margin of a bay:
Ten thousand saw I at a glance
Tossing their heads in sprightly dance.
The waves beside them danced, but they
Out-did the sparkling waves in glee:
A poet could not be but gay In such a jocund company!
I gazed - and gazed - but little thought
What wealth the show to me had brought.
For oft, when on my couch I lie
In vacant or in pensive mood,
They flash upon that inward eye
Which is the bliss of solitude;
And then my heart with pleasure fills
And dances with the daffodils.
本題に戻りますと、ワーズワースは20世紀始めには、湖水地方に戻っていたので、丁度ギルピンが書いた銅板画の風景を実際に見ていたことでしょう。
一方、ターナーは、19世紀前半頃英国南海岸を旅し、描いた水彩画を元にエッチング集を出版しました。そこには静穏な水辺もあれば荒々しい海の景色も含まれており、ピクチャレスクを求めて各地を訪れる画家達のガイドブック的役割も果たしました。