表記のコンサートは割りと気に入っている近場のホールで開催されたもので、ソプラノ歌手の鵜木さんもピアノ伴奏の中川さんも、これまで相当の活躍をされてきた音楽家です。ちらし記載の曲目をみても良く知られた名曲ばかりなので、コロナ禍中の安息を求めて、聴きに行くことにしました。
すべての人が鑑賞できる新シリーズとして年2回開催するコンサートです。著名なプロの音楽家によるクオリティの高い本格的な生のコンサートを、どなたでも気軽に楽しくご鑑賞いただけます。記念すべき第1回目は、オペラ歌手として、コンサートやTVなどで幅広くご活躍する鵜木絵里さんをお迎えします。鵜木さんが魔法のように操る歌の魅力をお楽しみください。(主催者H.P.)
【日時】2021.8.22(日)14:00~
【会場】大和市文化創造拠点シリュウス・サブホール
【出演】鵜木絵里(Sp)中川顕一(Pf)
【Profile】
東京都出身。東京藝術大学卒業。同大学大学院オペラ科修了。二期会オペラスタジオ42期修了。修了時に優秀賞受賞。‘99年より一年間イタリア政府給費生としてミラノ市立音楽学校に留学し研鑚を積む。現在まで「魔笛」のパパゲーナ、「カルメン」のミカエラ、「ラ・ボエーム」のムゼッタ、「ヘンゼルとグレーテル」のグレーテル、「天国と地獄」のユリディス、「 DAN YEAR2000 」における團伊玖磨作曲オペラ「ちゃんちき」の仔ぎつねのぼう役など多数出演。2001年佐渡裕指揮、宮本亜門演出のミュージカル「キャンディード」ではヒロイン役クネゴンデに出演。同年「ホフマン物語」の機械人形オランピア役で二期会本公演デビューを飾る。また02年秋には「日中国交正常化 30 周年」を記念して北京 保利劇場にて團伊玖磨の「ちゃんちき」に出演。新国立劇場には03年シーズン「アラベッラ」のフィアカーミッリ役で登場。04年チャールズ・アベル指揮、宮本亜門演出のミュージカル「キャンディード」再演に際して再びヒロイン役クネゴンデを演じ東京、大阪、名古屋など約12公演を務める。神奈川県民ホール開館30周年記念『愛の白夜』(一柳慧作曲・世界初演)ダニエル少年役で出演(同公演は09年に再演)、05年末年始にはBSフジテレビ主催、東京国際フォーラム「ブロードウェイガラコンサート」に於いて「オペラ座の怪人」クリスティーヌ役を歌うなど幅広く活躍。2006年には二期会本公演宮本亜門演出オペラ「コジ・ファン・トゥッテ」(2006年度文化庁舞台芸術大賞を受賞)のデスピーナ役に出演。09年新国立劇場『魔笛』パパゲーナに出演、09年12月、ヤナーチェク「ブロウチェク氏の旅行」(東京交響楽団:チェコ語上演)でも好評を博している。また、日生劇場「アリスのクラシックコンサート」シリーズの主役アリス役を11年間連続して務め、親⼦向けコンサートにおいても定評がある。イタリア・オルヴィエート国際コンクール第2位受賞。同劇場にあるテアトロ・マンチネッリ劇場において「ファルスタッフ」のナンネッタ役に出演。TV「題名のない音楽会21」に多数出演。NHKFM名曲リサイタル出演や佐渡裕指揮、大阪城ホール「一万人の第九」ではソプラノソリストを務めるなど活躍の幅を広げている。2019年6月日生劇場『ヘンゼルとグレーテル』グレーテル役に出演予定。
桐朋学園芸術短期大学、桐朋学園大学非常勤講師。二期会スペイン音楽研究会会員。二期会会員。
桐朋学園大学音楽学部でピアノと指揮を学び、卒業後、アントワープ音楽院ピアノ科首席修了。1997年ガウデアムス国際現代音楽コンクール第3位。ソロ、室内楽、指揮で活躍する他、国内外の様々な音楽祭に出演。NHK-FMなどに度々出演、新曲初演多数。ピアニスト、指揮者としても活躍。ダンスや朗読など他分野とのコラボレーションも活発他、ピアノ演奏とトークのアナリーゼは好評を博す。指揮者として、東京室内歌劇場、東京フィル、広響、仙台フィル他と共演。お茶の水女子大学、桐朋学園大学非常勤講師。
【曲目】
<Ⅰ.有名曲>
①エメリッヒ・カールマン喜歌劇『チャールダーシュの女王』より「ハイヤ ハイヤ、山こそわが心の故郷」
②シューベルト『アヴェ・マリア』
③大中寅二『椰子の実』
④ムソルグスキー『展覧会の絵』より「キエフの大門」(ピアノ・ソロ)
<Ⅱみんなが知っている童謡>
⑤團伊玖磨『おつかいありさん』
⑥團伊玖磨『やぎさんゆうびん』
⑦芥川也寸志『小鳥の歌』
⑧宇野誠一郎『アイアイ』
⑨スコット・ジョブリン『ジ・エンターテイナー』
<Ⅲ.音楽×絵本でさらに楽しく>
⑩谷川俊一郎/元永定正『もこもこもこ』
⑪かがくい ひろし『だるまさんが』
⑫タイガー立石『とらのゆめ』
⑬ロルフ・ラヴランド『ユーレイズミーアップ』
⑭Leigh Harline『星に願いを』
<アンコール>アメージング・グレース
【感想】
当初発表されていた曲目は順に、②、⑭、⑬、③、⑤のみだったのですが会場で配られたプログラムでは随分補充され、しかもⅠ~Ⅲに分類されていました。これは標題では「みんなの音楽会」と題されていましたが、「みんな」とはAllという意味でなく、「よい子のみんな」の意味だということではないかな?と頭をよぎりました。これはコンサート会場に入って確信に変わりました。最前列には、乳児を乳母車若しくは抱っこした若い父母が陣取り、赤ちゃんをあやしています。また傾斜階段席には、幼子多分保育園か幼稚園の児童たち、を連れた親御さんが多く着席していました。自分も含めた単独の客は数えるほどしかいません。これは少し期待していたものとはかなり異なるコンサートだと気が付いたので、すぐに心構えを新状況にチューニングし直し、開演を待ちました。
入場した鵜木さんは思っていたより小柄ですが、元気そう。ピアニストの中川さんも迫力がありそう。一礼をすると、①の曲にすぐ取り掛かりました。ピアノ伴奏はたちまち大きな音を力を込めて弾き始めましたが張り切りすぎている感じ音がバンバン会場に鳴り響きました。これはホール天井が鉄骨むき出しの筒抜け構造の様に見受けられたのでそのせいもあるかも知れません。すぐにかん高い大きい声でソプラノが続きます。高音が耳にキーンと響く時もあり、かなり硬質な声質です。発音があいまいで言葉が聞き取れない時もありました。でも手ぶり身振りで感情を移入して懸命に歌っていました。会場の赤ちゃん、幼児の「みんな」は以外と静かにしている児が多く時々ぐずってもすぐにおとなしくなります。最初の曲を歌った後、鵜木さんはマイクを握りトークしながら進めました。
②、③は大好きな曲なこともあり、空調が良く効いているし、若干眠気をもよおしました。
④はピアノ独奏で、中川さんはマイクを通して、❝この曲はムソルグスキーの建築士の友人がなくなり、彼が「キエフの大門」建設のためのコンペに応募した時のデザイン絵で、建築士の回顧展覧会でこの絵を見たムソルグスキーが作曲した組曲の最後を飾る曲です❞といった趣旨の説明をしました。この曲も中川さんは、力を入れすぎでは?と思えるほどバンバン力奏していました。
また鵜木さんのトークでは、今日は手話の方も2名入っており、また骨伝導のイアホーンの貸し出しもやり、「バリアーフリーのコンサート」を心掛けていることでした。
Ⅱは良く知られた童謡たち。小さな児たちは、乳児はお母さんが拍子を合わせて赤ちゃんをポンポンたたき、幼児の中には歌に合わせて体を揺すったりピョンピョンしたりする児もいました。少し泣き声がしても不思議と全然気になりません。
鵜木さんはⅠの演奏の時よりも声が童謡に合わせた音量で歌い、手ぶり身振りを交え、子供たちみんなに手拍子足拍子を一緒に求めるなど、歌、動作がまるで「歌のお姉さん」そのものにピッタリの様子でした。
Ⅲでは舞台正面の大きなスクリーンに絵本の絵を映し出し、鵜木さんが読み語りをし、中川さんは絵に合わせたピアノ曲を弾くというスタイルで進められました。 例えば、⑩ではサティの曲、⑪ではカバレフスキーの道化師、⑫ではドビュシーの夢を演奏、特に⑪はだるまさんの変化の映像を見て、声を出して喜んでいる幼児(三歳くらいかな?)もいました。
⑬、⑭になると、鵜木さんも中川さんも喉、手がこなれてきた来たのか力を入れて演奏する箇所もありましたが、前半の演奏より随分と奇麗で落ち着いてきた演奏に思えました。なお、⑬は15年前のトリノ冬季オリンピック金メダリストの荒川選手が踊り滑った曲だとの説明が有りました。
最後のアンコール「アメージング・グレース」が歌われました。中々素晴らしいものでした・
総じて今日の演奏会は思いがけず「乳幼児のためのリトミックコンサート」に近いものに初めて触れることが出来、大いに勉強になりました。「リトミック教室」は各地に各種あって、通っている幼児も沢山いると思いますが、今日の様な、舞台演奏のコンサートで聴いたり参加したりする機会は、そうは多くないと思います。これは情操教育の観点からだけでなく、音楽に近親感を持つ子供たち、しかも舞台を見ることを厭わない子供たちを育成する観点からも、非常に大きなしかも地道な努力のいる演奏活動だと思いました。何せ小鳥でさえ、最初に見た動くものは、自分の親だと頭に刷り込まれてしまうらしいですから。
終演後、その街にあるとんかつ屋に寄って、絶品のかつ丼を食そうかとも思ったのですが、コロナ感染が酷い状況の昨今なので、自粛して家に直帰しました.。