HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

『クールベと海・展』鑑賞詳報Ⅴ-④<クールベの海Ⅳ>…最 終

 

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    『波』山寺後藤美術館所蔵

『波』は、縦横1mは優に超す大作で、1874年クールベがスイスに亡命中の作品です。以前エトルタ他で見た海の記憶をもとに描いており、1869年の一連の『波』の連作と比べると、かなり穏やかな波であり、空一杯に広がった雲は、夕日を浴びて茜色に染まり、全体としても緊迫感の薄れた海を表現しています。都市生活のストレス、特にパリから亡命せざるを得なかった苦労からやっと解放された、ホッとした気持ちが現れている様です。

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『水平線上のスコール』東京富士美術館所蔵

   上掲の作品は、クールベが一時滞在した故郷オルナンで、過去の記憶をもとに描いたもので、彼は亡命後しばしば海の風景画を再創造しています、これらのテーマは鑑賞者たちに非常に人気が高く、すぐに予約・販売出来るクールベにとっては貴重な収入源だったのでした。何せ1971年のパリコンミューン反乱に参加したクールベは、現在でもパリ・バンドーム広場に立つ円柱を、破損した罪、弁償を言い渡され、破産・亡命を余儀なくされたのでした。

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 この円柱は、ナポレオン1世が自らの戦勝を祈念して建てたもので、その後破壊、再建を繰返されて現在ある姿になっているものです。

 次の作品『海』(美術館ギャルリー・ミレー所蔵)は クールベの最晩年(1875年頃)に描かれたもので、他の亡命中の作品同様、過去の記憶、スケッチを元に描いています。

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『海』美術館ギャルリー・ミレー所蔵

 その海の地味な落ち着いた色合いといい、空の雲のふくよかさといい抽象画に近い表現で描かれており、ここでも彼独特のパレットナイフによる見事な技巧が駆使されています。

 次の二作品はともにスイスレマン湖畔の『シヨン城』を描いたものです。

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『シヨン城』美術館ギャルリ・ミレー所蔵

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『シヨン城』個人所蔵

 この城は、中世に建てられたもので政治犯の牢獄として名を馳せ、英国のバイロンが政治犯ボニヴァールを讃えた「シヨン城の囚人」という詩を詠んだことでも有名です。クールベは反乱に参加した後、反乱が鎮圧されると、莫大な弁償金を抱えてしまい、その返済のためせっせと亡命地のスイスに於いても絵を描き続けざるをえませんでした。ほとんどが人気のある「海」に因んだ作品でしたが、この絵の様に、自らの立場を象徴するかような、しかも絶景で有名なポイントの作品を描いている最中のクールベの心中や如何ばかりと、想像するに難くありません。