HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

ショパン『ピアノ協奏曲第1番、第2番』コンサート/ショパンフェスティバル in 表参道③

ショパン音楽祭最終日(5/29)は、コンチェルトの1番と2番が同時に聴けて、しかも会場は大ホールではないので、オーケストラは入れなく弦楽六重奏付きで演奏するという、めったに聴けない演奏会なので、万難を排して聴きに行きました。

【日時】2021.5.29.14:00~

    2021.5.29.16:00~

【会場】カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ」

【演奏】①五十嵐薫子(協奏曲第1番)14h~

    ②伊藤 順一(協奏曲第2番)16h~

【共演】弦楽六重奏団

    執行恒宏(Vn1)      村井俊朗(Vn2)        渡邊信一郎(Va1) 

    生野正樹(Va2)     小川和久(Vc)         市川哲郎(Cb)

【編曲】小林仁(オケ弦楽五部➡弦楽六重奏版)

【Profile】

①五十嵐 薫子 Kaoruko Igarashi

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日本音楽コンクール第3位および三宅賞、ピティナピアノコンペティション特級銅賞他数々のコンクールで優勝・入賞。2017年桐朋学園大学を首席で卒業。日本各地で演奏活動を行う他ソリストとして東京都交響楽団、日本フィルハーモニー、東京フィルハーモニー、東京シティフィル等と共演。これまでに今泉紀子、山田富士子、村上弦一郎、横山幸雄、岡本美智子の各氏に師事。

 

②伊藤 順一 Junichi Ito

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東京藝術大学附属高校並びに同大学を経て、パリ・エコールノルマル音楽院へ留学しアンリ・バルダ氏のもと、コンサーティスト高等ディプロムを満場一致の首席で修了。その後パリ国立高等音楽院、リヨン国立高等音楽院で研鑽を積む。第4回日本ショパンピアノコンクール2019第1位。またヨーロッパ各地のコンクールでも1 位を受賞し各オーケストラと共演。 

【演奏の模様】

①コンチェルト1番

は、これまで何回も何回も数え切れないほど、聴いてきました。録音でも、生演奏ででも。しかし大ホールで大オーケストラをバックに弾くピアニストは、時々可愛そうになることがあります。クライマックスに達すると、管弦打の咆哮のなかでピアノの音はかき消され、ピアニストがハンマーの如く、腕を振り下ろしているのは見えても音はせず、弾いている本人には、自分のピアノの音が一番大きく聞こえるので、このことに気が付かず汗だくになっている。最近は、コンチェルト演奏の時は、管弦の規模を縮小するケースも見掛けますが、それでも管弦に打ち勝つことは、簡単ではない様です。Pfが聞こえない時がある。                                      今回は、そういう心配は無い代わりに逆に、弦楽アンサンブルが弱くなければ良いがとの一抹の懸念は有りました。

 実際演奏が始まってみるとそんな事は全然なくて、ピアノはコロコロ、バンバン、弦楽は、キュキュキュキュギーコ と互いに音を競い合っているが如しでした。リサイタルや室内楽、オペラならいざ知らず、低い舞台から数mの至近距離で弦楽アンサンブル付きのコンチェルトを聴いたのは初めてです。ショパンがパリの仲間たちに囲まれ弾いた時の雰囲気もこんなものだったのでしょうか?いやあの時はピアノが違う、プレイエルでしょう。今のピアノ程大きい音は出なかったのでは?

Shigeru Kawaiは音に丸味があり大きな音でも安定的に出る様です。(演奏中何回か、弾き終わった直後終音が消えた後で、弦が一本共鳴している様な、キーンという金属異音が聞こえましたけれど。)

   さて五十嵐さんの1番の演奏は、女流ピアニストにしては胆力のある、腕力のある聴きごたえのある演奏でした。一楽章の結構長い冒頭イントロの、弦アンサンブルがややゴツゴツした感じ。Pfが微妙に繊細に演奏される箇所もあるのですが、たった6台の弦の音の影に隠れてしまった箇所も散見された。これって弦の位置がピアノを遮ってしまったためでしょうか?いやそんなことない、オケだってピアノに近い位置に弦がいますし。響板の前にはいませんけれど。                          また第二楽章のPf がテーマを、分散和音、和音で繰り返すところの響きが、やや透明感に欠けていた。時々ブーニンのコンクール本選の録音を聴くのですが、ここは心に滲み込む様な音を立てていました。水琴窟様の澄んだ音も立てていました。

 それから気が付いたのは弦の出だしの1Vnのメロディって、ここはこんなにいい曲だったのかと思わせるものでした。オケではVn の音の集合ですからソロでしか分からない点もあるのですね。

 第三楽章のPfの勢いのある力強い演奏には脱帽、こういうショパンも有りだなと思いました。

 何回聴いても1番のコンチェルトは、やはりショパンの技術的にも心理的にも最高のものを鍵盤上に構築しようとした工夫が感じられる曲です。

 演奏を終わって何回か挨拶に出て来た五十嵐さんは、いきなりピアノに向かい勢いよくアンコール曲を弾き始めました。ショパンのマズルカです。ヤッホー!今回はテーマソングのマズルカを聴き足りない感があったので、思いがけず聴くことが出来てうれしかった。勢いよくしかも力を漲らせて、しかしショパンらしさを失わずに弾き切りました。マズルカOp.33-2でした。まだお若くて勢いのあるピアニストです。今後の発展を期待します。 

②コンチェルト2番は、1番と比べると鑑賞することが少ない曲です。1番だったら曲の隅々まで耳で覚えているのですが、2番はそうはいきません。           2番の演奏開始の前に同ステージでは、「日本ショパン協会賞」の授賞式が、関係者出席のもと行われました。それも見たので若干記しますと、出席者は、受賞者二名(伊藤 順一、藤田真央) 協会役員(海老彰子会長、植田克己副会長)在日ポーランド代表。                 海老会長の挨拶の中で、❝伊藤さんはパリエコールノルマル音楽院に留学中に演奏して、その時たまたま審査員を務めたことがあったこと、藤田さんは今大いに活躍されているピアニストで、今後もショパンをたくさん弾いて下さい。❞ といった趣旨のことを話されました。真央君は、今はモーツアルトを多く弾いていること、ショパンコンクールへのエントリーを逃したこと、等を受賞挨拶していましたが、ショパンを弾くことにはためらいがある様です。残念!才能豊かなのに。いろいろ挑戦するのは若いうちですよ。 

 さてその後で伊藤さんの演奏が始まりました。第一楽章冒頭から弦楽とピアノがフル稼働、伊藤さんはしっかりとしたタッチで弾き、にぎにぎしさもある華麗な舞といったはなやかさを感じる演奏でした。弦楽には管が入っていないので、オケの時とは違った印象もありましたが、Vn、Va,、Vc、Cb それぞれ一生懸命、弓を振るって力を込めていました。オケと違って、聴衆の面前にさらされ視線を直かに感じていることもあるためか、必死にならざるを得ないのかも知りません。Vaを一つにしてVcを二台にした方が低音弦がずっしりと響いてPfの音をさらにしっかりと受け止められたかも知れない 。第1Vnの音が時々金属的響きが強い時が有りました。

 第二楽章の冒頭は奇麗なアンサンブルでした。続いて伊藤さんがゆったりとしたテンポで弾き始め、比較的単純な調べながらトリルなど修飾音をまじえて、高音部への跳躍音などダイナミックな動きでも透明なPfの音を保ち、しかも力強さは失わず、中々素晴らしい演奏です。この箇所のメロディは、こんなに素敵なものとはこれまで感じたことがない位心に浸みるものでした。さすが、日本のショパンコンクール第1位のピアニストだけのことはあります。

 第三楽章のPfの歯切れの良い舞踊的リズムの調べが流れると、すぐに弦楽アンサンブルが受け答え、それを繰り返してPfのソロの箇所に至ると弦は伴奏に徹し、それを何回か繰り返します。Vnは弓で弦をたたく様な仕草さで音を出すとろともあり、ますますピアノも弦も力が入ってきて、最後はPfの左右のユニゾンの三連符の下降音の連続と上昇音の連続で、伊藤さんは一気呵成に曲を締めくくりました。ああ、しんど、聴く方も手に汗握る思い。Pf を支えた弦楽アンサンブルも見事な力演でした。

 大きな拍手が鳴り響き、何回か挨拶を重ねた後、伊藤さんは、ピアノに向かいアンコール曲を弾きました。これぞとショパンという調べが響き渡り、途中から弦楽が入りました。『華麗なる大円舞曲』。Pfも弦も熱が入り、力のこもった演奏でした。引き続いてメドレー的に別の曲が鳴り出し、弦もピッツィカートを織り交ぜるなど、皆さん曲に酔ったが如く体をくねらせ、力を込めて弾いています。『アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ』後半を弾き終わった時は聴衆も奏者も一種興奮状態、拍手は鳴りやまず、ホールは熱気にあふれました。拍手に引き出されたピアニストは再度ピアノに向かい二曲目のアンコールをまたアンコール演奏、弾きだしました。オペラに例えると、新世紀3大テノールの一人と目されているファン・ディエゴ・フローレスが、ハイCが連続で歌われる難曲のアリアを軽々と歌いこなし、観客の熱狂的アンコールに応えて再度見事に歌い上げるようなものです。

 ショパン音楽祭最終日を飾るに相応しいフィナーレでした。