【日時】2022.1.9.(日)14:00~
【会場】サントリーホール
【管弦楽】東京交響楽団
【指揮】秋山和慶
【独奏】小山実稚恵(Pf)
【曲目】
①J. シュトラウスⅡ:ワルツ『春の声』 Op. 410
②ショパン:ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 Op. 11
③ドヴォルザーク:交響曲第9番 ホ短調 Op. 95 「新世界より」
【独奏者Profile】
宮城県仙台市に生まれ、岩手県盛岡市で育つ。東京芸術大学卒、同大学院修了。6歳からピアノを始める。吉田見知子、田村宏に師事。海外への留学経験が一切なかったが、国際音楽コンクール世界連盟に登録したチャイコフスキー国際コンクールピアノ部門で第1位空位の第3位、その後ショパン国際ピアノコンクールで第4位を受賞した。
コンチェルトのレパートリーは60曲にも及び、国内外のオーケストラや著名指揮者とも数多く共演を重ねている。レパートリーは主に古典から近代までで、ラフマニノフやスクリャービンを得意とする。国際コンクールの審査員としては、仙台国際音楽コンクール、第10回チャイコフスキー国際コンクール(1994年)、ロン=ティボー国際コンクール(2004年)、第16回ショパン国際ピアノコンクール(2010年)、ミュンヘン国際音楽コンクール(2014年)に参加している。
【演奏の模様】
松の内も開けた1月9日(日)少し遅いですが、東京交響楽団演奏するNew Year Concert を聴いて来ました。二管編成弦楽五部は10型、指揮は秋山さん、ピアノ独奏は小山さん。
秋山さんは、昨年大晦日のジベルスタコンサートを聴いたばかりです。手堅い指揮者です。
今日の①の最初の曲は、タイトルに ”春” の語を使っているくらいですから、いかにも春の訪れを感じさせる新春の曲です。ウィーンフィルのニューイアーコンサートでもこれまで何回も演奏され、特にカラヤン指揮の時にキャサリン・バトルが歌ったことは、語り草になっています。もともと歌曲なのですね。
❝~Der Frühling in holder Pracht erwacht, ah alle Pein zu End mag sein,alles Leid, entflohn ist es weit!Schmerz wird milder, frohe Bilder, Glaub an Glück kehrt zuruck;
Sonnenschein, ah dringt nun ein,ah, alles lacht, ach, ach, erwacht! ❞
「~春がかわいらしく華やかに目覚め、あらゆる苦悩は消えて欲しいし、すべての悲しみは 遠くへ逃げ去って貰いたい 。 痛みは和らぎ、幸福の信念が喜ばしい姿で戻って来る。日の光が入って来て、皆微笑み、あー、あー、皆、目を覚まします。(hukkats訳)」
この曲を聴くと、暖かい日差しが、街はずれの小川に積もった雪を溶かし始め、チョロチョロとした流れが、顕わになって膨らみ始めたねこ柳の芽を川面に写し、小鳥がその枝を飛び跳ねている田舎風景をいつも連想します。秋山東響は、この曲を明るさ一杯、力一杯表現していました。出来ればさらにウィーン風ワルツの3拍子リズムを明確にして欲しい気もしましたが。
次の演奏の小山さんは、事実上初めて聴きました。テレビなどでは時々拝見しますが、派手さはなく堅実なピアニストだと昔から敬意の念を抱いていて、一度その演奏会を聴いてみたいと思っていました。しかし他の既にチケットを買った演奏会と、日程が重なっていたり、聴きたい曲の演奏が入っていなかったりしてそのままになり、何十年も経ってしまいました。将に光陰矢のごとしですね。あれは確か昨年6月でしたか、サントリーホール主催の音楽祭で、堤さんのチェロ伴奏を小山さんが務めた時、初めて聴きましたが、伴奏と言ってもブラームスの曲ですから、ピアノがかなり全面に出る個所があって、小山さんが見事に弾いているのを見て、リサイタルがあれば、聴きに行こうとその時も思いました。でも丁度した機会がなくて、実現しなかった。一度聴きに行きたいと何十年も思っていてまだ実現していない(日本の)音楽家は、他にも何人もいて、クラッシックではないですが、歌手の加藤登紀子、中島みゆき、石川さゆり、ピアノの山下洋輔、野島稔、小林仁、大塚直哉、田崎悦子、田中希代子、神谷郁代、田部京子、海老彰子、フジコ・ヘミング、ヴァイオリンの海野義雄、江藤俊哉、五嶋みどり、久保陽子、黒沼ユリ子、堀米ゆず子などなど。もう鬼籍に入ってしまった方もいるかも知れません。中村紘子さんの演奏も聴きたいと思っていたら急逝されてしまいました。チケットを取ったけれど、中止になったケースもあります。聴くチャンスは絶対逃さない様心掛けないと、一生聴けなくなってしまいます。
さて小山さんの②のショパン演奏ですが、さすが、ショパンコンクールで4位入賞の実力者、この曲はその後何十回、何百回となく演奏されてきたのでしょうから、全体的に堂々楽々と演奏していました。
一楽章の終盤のオケの全奏箇所もオケに負けない強さが有り、力一杯弾いていました。 二楽章はゆったりと始まる美しいメロディ。小山さんのピアノは女性らしい、やさしさと慈愛に満ちた主題演奏は ❝春の夜や心に染み入る鶯の声❞ の如きいい演奏でした。最後の右手高音はとても綺麗でしたし、次の変奏は相当パワフルに指を振り落としpの箇所でもppの箇所でさえ、一楽章同様打鍵に強さを感じました。終盤はかなり修飾音で着飾った音で弾いていました。 最終楽章、非常に勢いよくリズミカルな調べ。やや音が絡まって聞こえた箇所が有りました。「ピョコタン、ピョコタン、ピョコタン、ピョコタン・・・」と下降した後の繰返し部分でも同じ様な事が。三回目の繰返しの時はスムーズに耳に入って来ました。この箇所は、アルゲリッチの切れの良い思い切りのいい演奏が好きなので、その音を思い浮かべながら聴いていました。でも小山さんはコンスタントに安定したリズムで最後までオケに負けず、押切った力演を見せて呉れました。むしろオーケストラを引っ張って行った感じ。指揮者も小山さんの弾き易いように任せていた感がありました。
尚、鳴りやまぬ拍手に答え、ソロアンコール演奏がありました。
ショパン『ノックターン第2番変ホ長調Op.9-2』。良く知られた名曲で、これまた名演でした。
休憩後は、③ドボルジャークの有名な『新世界』です。管編成が三管的に補充された模様(Picc.Ehr.Tb.)その他シンバル、トライアングルも。この曲はアメリカからのオファーを受け入れたドヴォルジャークが、アメリカに渡り、新大陸の新鮮さに魅了されて作曲したもので、歴史に残る名曲となりました。さすがにいい曲でドヴォルジャークの天才性が各処に垣間見られます。 低音弦からHr⇒Ft+Ob+Fgへと受け継がれた後、急に弦楽アンサンブルとTimpの衝撃的調べが鳴り響き、次いでClがFtの演奏を支えFt他の管の演奏へと続きます。Timp.は弦アンサンブルでも管弦の全奏でも大活躍、存在感が大きかった。秋山さんはもう数え切れない程この曲を演奏しているのでしょう。そのパートパートへの指示は的確この上ない位、東響も信頼しきって音を出している様子でした。又東響は各パートに相当の名手が揃っている様に拝察しました。首席のソロ的演奏は見事なものでした。 第二楽章ではイングリッシュホルンの哀愁を帯びた低い良い響きが楽章を通じて特徴あるものとなっていました。こうした処にこの楽器を登場させる処がドヴォルジャークの凄いところ。EHr.の最後はCl.が引き継ぎ締めるところも独創的。終盤のしめやかな弦楽アンサンブルは葬儀の場面でしょうか。楽章最後を弱い弦楽の響きの後締めたCbの音は印象的だった。 第三楽章ではトライアングルが小さくても大きな役割を果たしていました。Timpの活躍も見もの、聴き処でOb.+Cl.による主題変奏の後のTimp.が、ダダーンと打ち鳴らす処は迫力がありました。 最終楽章はアッタカ的にすぐ演奏に入り、少しの序奏の後すぐにHr.による有名なメロディが鳴り響きます。ここでもTimp.が相の手を入れ、全弦のアンサンブルへと引き継がれ、ここは非常に澄み切った弦の音が見事でした。特に低音弦の響きが良い。Vn奏者はみな大きく体を揺らし熱演、Timp.の相の手は相変わらず効いていました。この楽章のシンバルの音、時々鳴り響く金管の主題奏、全奏によるかなりの迫力ある楽章でした。秋山さんには派手な動きはなく、最初から最後までコンスタントに、しかし抑え処は抑え、オケの持ち味を良く引き出していたと思います。この様な迫力ある交響曲を聴き終わった直後は、どういう訳かいつも自分の気持ちが嬉しくなって頬が緩みます。多分表情も笑ったようになるのではなかろうか。うれしさ、笑いを引き出す音楽演奏って、凄いことですね。聴きに来て良かった。
大きな拍手の後、指揮者は各パートを次々と紹介、何回か袖と舞台を往復した後、オケはどこからともなくいきなり演奏し出しました。『ラデツキー行進曲』。聴衆もこの曲には皆演奏者として拍手で参加出来るので、会場の人々は大喜び、まさにNEW YEARの雰囲気を満喫して帰宅したのでした。