【日時】2022.8.5.(金)19:00~
【会場】ミューザ川崎シンフォニーホール
【管弦楽】大阪フィルハーモニー交響楽団
【指揮】尾高忠明(大阪フィル音楽監督)
【独奏】イリヤ・ラシュコフスキー (ピアノ)
〈Profile〉
1984年、シベリアのイルクーツク生まれ。5才で音楽をはじめ、8才でイルクーツク室内楽団と演奏。1993年から2000年にかけて、ノヴォシビルスク音楽学校でM. S. レベンソン(М. С. Лебензон)について学ぶ。2000年から2009年にはドイツのハノーファー音楽演劇大学でウラジミール・クライネフに師事したのち、フランスのエコール・ノルマル音楽院にてマリアン・リビツキ、ミシェル・メルレ、ドミニク・ルイスに師事し修了。幼少時より国際音楽コンクールで頭角を現し、メジャーからマイナーまでの幅広い国際コンクールに果敢に挑戦し優勝若しくは優秀な成績を収めた。
【曲目】
①ラフマニノフ『ピアノ協奏曲第2番 』
②エルガー『交響曲第1番』
【曲について】
①ラフマニノフ『ピアノ協奏曲第2番 』
作曲時期は、1900年秋から1901年4月[1]。第2楽章と第3楽章が1900年12月2日に初演された後、全曲初演は1901年11月9日(ユリウス暦 10月27日)に、ソリストに再び作曲者を、指揮者には従兄アレクサンドル・ジロティを迎えて行われた。その屈指の美しさによって、協奏曲作家としての名声を打ち立てたラフマニノフの出世作である。発表以来、あらゆる時代を通じて常に最も人気のあるピアノ協奏曲のひとつであり、ロシアのロマン派音楽を代表する曲の一つに数えられている。
多くのラフマニノフのピアノ曲と同じく、ピアノの難曲として知られ、きわめて高度な演奏技巧が要求される。たとえば第一楽章冒頭の和音の連打部分において、ピアニストは一度に10度の間隔に手を広げることが要求されており、手の小さいピアニストの場合はこの和音塊をアルペッジョにして弾くことが通例となっている。 三楽章構成 。
②エルガー『交響曲第1番』
エドワード・エルガーが1907年から1908年にかけて作曲した交響曲。曲は、初演を指揮したハンス・リヒターに献呈された。
初演は1908年12月3日に、イギリスの都市マンチェスターにあるフリートレードホールで行われた。指揮はハンス・リヒター、演奏はハレ管弦楽団によるものであった。リヒターはこの作品を「当代最高の交響曲」と評したが、一部では構成に否定的だったり、主題の繰り返しがしつこいと指摘する向きもあった。いずれにせよ、初演は大変な反響を呼び、初演から1年で百回あまりも再演された。今日でも、イギリスやアメリカでは頻繁に演奏される。四楽章構成。
【楽器編成】
①二管編成弦楽五部12型(12-12-8-8)Hp.2
②の曲の演奏では、①時に加えて管弦の増強があり、結構な大編成となりました。
フルート3(3番フルートはピッコロ持ち替え)、オーボエ3、イングリッシュホルン、クラリネット2、サキソフォン1、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、チューバ、ティンパニ、小太鼓、大太鼓、シンバル、ハープ2、弦楽五部14型(14-14-12-10-8)
【演奏会の模様】
今年のフェスタサマーミューザも終盤に差し掛かりました。最も明後日 8/7(日)は、もう立秋ですから夏祭りはあと少しです。このところの猛暑も急転、一雨で随分涼しくなりました。今日の演奏会は尾高さん指揮の大阪フイルです。例によって演奏前のプレトークが今日もあるというので、50分前にホールに入ったら、館内放送でトークは10分遅れるとのこと。18:30分になって指揮者の尾高さんが舞台に現れ、語り出しました。尾高さんが東京藝大を出た後、ウィーン国立音大に留学した頃のエピソードや、英国で指揮活動している頃のロイヤルアルバートホールでの思い出話をした後、ここ十年来大フィルとは関係があって、大阪のマンション暮らしで感じた東京人とは異なった大阪人の気質に関しての話もしていました。初めて聴けば随分面白い話ですがほとんど、これまでどこかの演奏会のトークで聴いた事のある話がほとんどなので退屈しました。
①ラフマニノフ『ピアノ協奏曲第2番 』
第一楽章 Moderato,
第二楽章 Adagio sostenuto
第三楽章 Allegro scherzando
これを弾いたイリヤ・ラシュコフスキー(以下IRと略記)は四日前のフェスタ・サマー・ミューザで聴いたばかりでした。ただその時はソロ演奏でなく、小川典子さんとのDUO(or連弾)だったので、二人の力強さは感じても、純粋に一人のピアニストとしてのイメージは掴みにくかったのです。今日はラフマニノフの有名なコンチェルトを弾くという事だったので、どの様な演奏をするのか、興味を持って聴いていました。
冒頭鐘の音を想起させる調べでスタート、Pf.の音に続き弦楽アンサンブルが入ります。Va.の斉奏⇒Pf.の綺麗な調べ⇒再度Va.アンサン⇒Pf.ソロと遷移し、Pf.はCl.やCb.とも掛け合います。予想していたより、以外とIRのピアノ演奏は、おしとやかでした(冒頭からガンガン叩きまくるのかと想像していた)。前回のピアノDUOの時は、IRは左手の二台目のピアノに隠れて、演奏の様子(指、手、腕使い、体etc.)はほとんど見えませんでした(小川さんは良く見える位置でした)。今回は鍵盤が良く見える座席だったので、IRが気持ち良さそうに、結構体を横に揺すりながら弾いていたのも以外でした。まーこの楽章は余りピアノが目立たない様にオケと相対する箇所かと思われますが、相当な高テクニックを要する箇所でもあり、IRが一抹の不安も感じさせず難なく弾いていたのは、前回も記しましたが相当な技量を有している証しです。
兎に角ラフマニノフの旋律は、随所にピアノの達人のみが作曲可能と思われる独特な甘美な調べをはめ込んでいて、例えば第二楽章終盤での弦楽アンサンブルの美しい響きをPf.は分散和音でフォロー、Vn.やVa.のハーモニー特に高音ハーモニーはとても美しいと感じました。Pf.のカデンツァも出て来ましたが、他の作曲家のコンチェルトの様な大規模な華やかなものではなく、結構短く小締んまりしたカデンツァがほとんどでした。 第二楽章最後の箇処ではIRは左右の手の跳躍音も丹念に弾いて、静かに心の籠った終了の仕方をしていました。
次楽章はアタッカではないと思いますがそれに近い様(さま)で、尾高さんは割りと性急に指揮し出し、弦楽、特にVa.のアンサンブルや低音弦が鳴り出して、Cb.はpizzicatoをはじいて、Pf.は一時休止している。Pf.は弾き出すとクリサンド的な下降音や速くて強打鍵のカデンツァ的演奏も繰り出しました。ここは終楽章だけあって、Pf.もオーケストラも急速な大展開、即ちテンポを一気に早めたり強奏による大音響の発出を何回か繰り返しました。PfのIRはここぞとばかり、先日見せた強靱な手・腕・指から振り落とされる打鍵でもって、オケの大音に負けない轟音を立て、特に高音のPf.の打鍵はオケに負けず大ホールに響いていた。かと思いきや最終部でもPf.はソロ的に、ゆったりした美しいメロディも奏で、フィナーレになると全楽器は一斉に持てる力を全開としてTimp.が最後のテンポを誘導して雪崩れる様に終演を迎えました。全体的にIRの持ち前の強靱な打鍵は、オケに埋没しないクリアなピアノの音を際立たせていたのですが、さすがにこの終演のオケの轟音下の時だけは、Pf.音はかき消されて聞こえませんでした。
聴き終わって感じたことは、IRのコンチェルト演奏は7割方、想像していた通りの演奏だったという事でした。でも単に力づくで押しまくるタイプではなく、以外と抒情性の表現も優れたピアニストだと知りました。
尚この後IRによるソロアンコールが演奏されました。
<ソリスト・アンコール曲>
スクリャービン『12のエチュード』よりOp.8-12(悲愴)
力強い演奏でしかもどこかショパン的香りも漂わせる聴いていて、もっと聞きたくなる演奏でした。大きな拍手が続きました。
《20分の休憩》
後半の②のエルガーの交響曲は、尾高さんのプレトークにもあったのですが、最初とっつきにくいのは聴く人だけでなく演奏者もそうであって、ところが慣れて来るといい曲だとその良さが分かって来るそうですが、まさにその通りだと思いました。
第一楽章 Andante. Nobilmente e semplice - Allegro
第二楽章 Allegro molto
第三楽章 Adagio - Molto espressivo e sostenuto
第四楽章 Lento - Allegro - Grandioso
第一楽章は、聴いていて冒頭から管弦楽のアンサンブルが何か今一つしっくり来ない、言葉は悪いですが垢抜けしない感じがして、これまで聴き慣れた東京の各種オーケストラとは異なる響きだな、それが大阪の響きなのかな?と一瞬思いました。でも第一楽章の終盤辺りからそれは誤った受け止め方だと分かってきたのです。章が進むにつれて、各パートのアンサンブルも良くチューニングされ、相当な高合致となり、弦楽アンサンブルと管・打との一体性も最初のころとはまったくと言ってよい程の異なった見違える音に研ぎ澄まされてきたのです。これは尾高さんの誘導が上手いからなのか?そうか最初はまだ本調子が出ていなかったのか、弾いているうちにいつもの調子を取り戻し、素晴らしく音をアンサンブルとしての一体性に纏めて来たのかと分かって来たのでした。そこから最終楽章まで、大フィルのオーケストラは安定した力量を発揮しました。
具体的には、例えば第一楽章でのCb.から低音弦の演奏が続く箇所でVa.の弱音がやや透明感に欠け、Cb.は8艇の規模の割には弦楽でのズッシリ感がやや希薄。ただVa.の音が次第に強まり、他弦と管アンサンブルも入って来てフルスイングになると大音のアンサンブルには迫力が出ていました。また続く中盤にかけて、1Vn.のソロやHr.のソロ、Ob.ソロ等短いけれど腕の見せ所がありましたが、何れもそれ程素晴らしい音とは言えなかった。一方、後半でTrp.やFg.の後の緩やかな弦楽のアンサンブルはとても良いと思いました。低音弦もまたTrb.やFag.もずっしりと響いて来るようになったし、最後の辺りの管と対を成す弦楽(特にVn.の)アンサンブルはとても綺麗に聴こえました。
第二楽章は美しく心地良い旋律の箇所が頻繁に出て来て、これまで知っているエルガーの響きを感じることが出来ました。特に二楽章中盤の弦楽アンサンブルは◎(二重丸)を付けたくなるくらい良かった。
次楽章も最終章も不足感よりは満足感の多い演奏でした。具体的には気が付いた詳細は色々ありますが、時間の関係も有り(翌日の予定が、ミューザ夏祭りに行く他にも幾つかあってタイトなので)、この辺りで記録するのを止めます。
尚、予定の曲の演奏でかなり時間がとられ遅くなっていたのでもう終わりかな?と思って席を立とうとしたら、尾高さんはおもむろに指揮台に昇り、アンコール曲を演奏し出しました。アンコール曲は、エルガー『行進曲<威風堂々>第1番』でした。
思わず心の中で❝いよッ!出ました、大統領!!❞と叫んでいました。これを聴いたからには満たされた気持ちで、帰ってから熟睡出来るでしょう。(実際には長時間記録を書いていたので随分夜が更けて睡眠時間が不足しますが)。