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『広瀬悦子(Pf)と東京交響楽団メンバー(弦楽五重奏)』演奏会

〇横浜みなとみらいホール出張公演(横浜18区コンサート 第Ⅱ期)
『広瀬悦子(Pf)と東京交響楽団メンバー(弦楽五重奏)』演奏会

【日時】2022.4.26.15:00~                          【会場】さくらプラザ(横浜戸塚区民文化会館内)                        

【出演】〇広瀬悦子(Pf.)

   

【Profile】                                                                               3歳より才能教育研究会にてピアノを始め、6歳でモーツァルトのピアノ協奏曲第26番「戴冠式」を演奏、87、88年に同研究会より、一ヶ月間アメリカ演奏旅行に派遣された。1992年、モスクワ青少年ショパン国際ピアノコンクール優勝、日本および台湾にて10数回 のリサイタルを開催。94年、パリ・エコールノルマル音楽院入学。95年、16歳で第46回 ヴィオッティ国際コンクール3位(1位なし)入賞。1996年、同音楽院・最高課程 を首席卒業後、パリ国立高等音楽院入学。第52回ジュネーブ国際コンクール特別賞受賞。97年、第46回ミュンヘン国際コンクール3位(1位なし)入賞。 1999年、パリ国立高等音楽院を審査員全員一致の首席で卒業し、併せてダニエル・マーニュ賞受賞。

   

 〇弦楽五重奏団(東響メンバー)                                                      水谷晃[コンマス]Vn/鈴木浩司Vn /多井千洋Va/蟹江慶行Vc/渡邉淳子Cb

   

【曲目】                                    ①吉松隆『アトム・ハーツ・クラブ組曲 第1番』                 ②モーツァルト『アダージョとフーガ K.546 * 』(*=弦楽五重奏版)
③ベートーヴェン『ピアノ協奏曲第4番 ト長調 Op.58』 (ピアノと弦楽五重奏版)

【演奏の模様】

「横浜みなとみらいホール」は、コロナ感染が広がり始めた昨年1月から、今年10月まで約二年に渡って、ホールの耐震補強工事などにより、ズート休館中ですが、その間近場の音楽ホールを借りて「横浜みなとみらいホール出張公演」別名「横浜18区コンサート」、と称して音楽会を開催して来ました。❛18区❜というのは、横浜市内には行政区が18区あり、それぞれの区が中規模ホールを持っていることから、各区ホールを巡回して開催し、市民の音楽に触れる機会を均等にしようとする試みです。主として若手による生きのいいコンサートを中心に設定している様です。今回からは「横浜18区コンサート」の第二弾として、4月から8月にかけて、4回のコンサートが予定されています。今日はその第一陣を切って、ピアニストと弦楽五重奏団が共演する音楽会でした。アフタヌーンコンサートということで、午後の少し早い時間帯の演奏会でしたが、午前中に病院で定期検診を受けたので、その帰りに寄り道して演奏を聴きました。

 

①吉松隆『アトム・ハーツ・クラブ組曲 第1番』 

 最近オーケストラ演奏会でも吉松さんの曲は時々演奏される様で、聴いた事があります。交響曲だったかな?人気があるのですね。今回の曲はショスタコーヴィッチの弦楽四重奏曲とともにプログレッシヴ・ロックを弦楽四重奏で演奏することに力を入れているモルゴーア・カルテットからの「1970年代プログレ風に」という依頼で作曲された曲です。吉松さんによると「ビートルーズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』にエマーソン・レイク・アンドパーマーの『タルカス』とイエスの『こわれもの』とピンク・フロイドの『原子心母』を加え、鉄腕アトムの10万馬力でシェイクした曲」であり、正式名称は「Dr. Tarkus's Atom Hearts Club Suite」だといいいます。曲は4楽章構成で、演奏時間は約10分。2000年には弦楽合奏に編曲した『アトム・ハーツ・クラブ組曲第1番』作品70bが出版されました。

この曲は4つの部分から成ります。

①-1 ジャジャジャ、ジャジャジャジャジャと速いリズムで途中リズムを変えながら繰り返される弦楽アンサン、繊細な音ではなく粗い丈夫そうな音色、何回か繰り返されました。

①-2 続いて低音弦中心のアンサンでスタート、急に1Vnが優雅にメロディックな旋律を奏で、やや静まった感のあるリズムで1Vnが牽引し、Vaが続きました。

①-3 低音弦(VcとCb)のピッツィに続いて高音弦もピッツィに入り、次にVaが奏でる短い旋律には不協的というか無調的というか、普通に言うと違和感のある音が混じりますが、この曲の特徴的な曲想の一部なのでしょう。program noteには「けだるい」と説明があり、最初から底流に続いているピッツィがその雰囲気を助長、最後は弦を大きく弾じき終了です。

①-4 最初の①-1のリズムとは異なった強い調子の調べで、1Vnが主導して次第にかなり激しいアンサンブルとなりヴィヴラートも強く一斉に弓を上げて終焉です。

聴いた感想は、力強い、面白い、斬新等の言葉が出ますが同時に、雑踏、無骨、粗野の語も浮かびました。

 

②モーツァルト『アダージョとフーガ K.546 * 』(*=弦楽五重奏版) 

 この曲は1788年ウィーンで作曲されました。1783年に書いたハ短調フーガK.426を弦楽合奏用に編曲して、その前奏曲としてアダージョをつけ加えたものであることが自作目録に記されています。 作曲の動機は不明ですが、同年に初版をホフマイスターから出版しているので、彼の発案を受けて「すぐにでもお金になる」仕事として書き上げたのかも知れないと謂われます。                                   弦楽四重奏としても演奏されますが、一部でチェロとコントラバスが分けて書かれている処があり、弦楽合奏のための編曲だろうともいわれています。今日はコントラバスが入った弦楽合奏(五重奏)版として演奏されました。

聴いた感想は、もしこの曲を何ら予備知識なしに初めて聴いたとしたら、かなり注意深く細部を聴き洩らさない様にしないと、モーツアルトの曲だとは分からないかも知れません。モーツァルトらしさが余り無い暗い地味な曲です。 前半はベートーヴェンを想起する人もいるかも知れない。後半のフーガを聴くとバッハの影響が大きいですね。

 演奏は、やや粗削りの音で先鋭化されていな調べが耳に残りました。特に高音弦が。終盤ではモーツアルトを感じる旋律の箇所もありました。

            

③ベートーヴェン『ピアノ協奏曲第4番 ト長調 Op.58』 (ピアノと弦楽五重奏版)

 この曲は好きな曲の一つで、ピアノとオーケストラトの共演は何回も聴きに行きましたし、家でも他の曲の合間に挟んでこの曲の録音を聴いて楽しんでいます。今回は、ピアノと弦楽五重奏(室内合奏団)との共演、初めて聴きました。広瀬さんのピアノ演奏も初めてです。海外を中心に活躍されてきた方の様です。

 冒頭、ピアノがチラッと聞かせるあのテーマ旋律の一つ、引き続く室内合奏団のアンサンブルは①、②の曲の演奏とは違って清明、洗練されたもの。ところがピアノの演奏が本格的に始まると、何か音が❛ゴワン、ゴワン❜と塊になって耳に届き切れ味の良いいつもの調べとはかなり違って聴こえるのです。広瀬さんの指使いに特に難は見当たらないし、ちゃんと旋律をなぞっていますし、これは一体何だろうと一瞬考えてしまいました。ピアノはステージの奥に配置され、その前に合奏団がいます。こうした組合せではこれは普通のことなのでしょう。何年か前に表参道でのショパン演奏を聴いた時、やはり同じ配置、コンチェルト一番、二番を弾いていましたから。合奏団の音がピアノの音を遮っているためということではないでしょう。それでは何か、次に気が付いたことは、ステージの周りを眺めたら、このホールの構造がステージ部分の壁が奥に狭くピアノの近くの両壁と天上が狭い空間を形造っていることでした。

さくらプラザホール

 ピアノから出た音がこの空間で何回も反射し、座席方面に出て来る時間が遅くて、その間に干渉し合ってしまっているのではなかろうかと考えたのです。残響ですね。何かモワーンと聞こえて来る歯切れの良くない音は、最初から第一楽章の中頃まで続きました。弦楽アンサンブルの低音弦も高音弦も、いい音を出して弾いています。Pfもソロ的箇所では綺麗な音を立てているのが聞こえました。特にカデンツァ部分は、とてもいい感じのPf演奏です。弦楽部門も力が入って来ている。当初やや気がかりだったことは、弦楽五部のアンサンブルが、ピアノ演奏に負けてしまうのではなかろか、ということでした。オーケストラ演奏の時でさえ、ピアニストによってはオケを引っ張る位の力強い演奏音を立てる人もいる位ですから。しかしこれはまったくの杞憂でした。たった五人の弦演奏者ですが、ピアノに負けるどころか遜色ない大きな音を立てている箇所もありました。これは決して廣瀬さんの演奏が弱いものだということでは有りませんむしろその逆でした。中盤から次第に広瀬さんは調子を上げて来たのか、カデンツア部も長い時間力強いタッチで、素晴らしい変化級をストレートも交え、聴衆をきりきり舞いさせる快投の如く弾いていました。随分長く弾いていた感じがしましたが、何かそうした版があるのでしょうか?カデンツア後の演奏もとても良かった。最初に感じた違和感はまったく無くなっていました。ということは、立ち上がりの広瀬さんの演奏が原因だった可能性もあります。どんなな名手、どんなヴィルトゥーソでも最初は乗らない時が往々としてあるものです。これは経験からそうした例は多く見て来たので言えることです。広瀬さんは、一楽章を終えるころには、エンジン全開といったところです。最後のフレーズは力一杯打鍵してキラキラする美しい旋律を響かせていたし、特に高音がとても綺麗でした。弦楽アンサンブルもピアノと交互に音をやり取りし、ピアノの爆音とも言える大きな音に負けず大奮闘していました。

 第二楽章は、弦楽の強いボーイングでスタート、Pfはしめやかな調べをゆっくり、しっとりと演奏し始めました。広瀬さんは、顔を少し上向きに上げて、遠くを見つめる様な姿勢で、弾いています。感情を込めていることが分かります。弦楽もアンサンブルが乱れ一つ感じられません。その間に立てられるVcの旋律に寄り添うピアノ、最後はPfが滔々とした流れで、非常にゆっくりしたテンポと小さな音で演奏を終えます。

 第三楽章、軽快な軽騎兵をイメージ出来る弦楽の調べで開始、Pfもテーマをかなり速いテンポでそれを追いかけ交互に掛け合う調べは繰返しで強奏されました。ここでは初めて弦楽がPfに対してやや弱いかなという感じを持ちました。続いて脱兎の如くPfは走り出し、ここでは弦楽が置いてきぼりにされるのではと心配な程のスピードでしたが、弦は何とか追いすがりました。

 終盤のピアノカデンツァは高音がとても綺麗に出ていましたし、広瀬さんは力一杯弾いても弾き足りないと見える程エネルギーを感じる女流ピアニストでした。それに合わせた弦楽五重奏団も立派!立派!

 

 今日は広瀬さんの素晴らしいという言葉一つでは表せない程の素晴らしい演奏でした。またそれを支えた弦楽奏団の力強いアンサンブルが相まってスピード感溢れるメリハリの十二分に効いた演奏でした。ブラヴォー!!これで必ずしもコンチェルト演奏にはオーケストラが必須であるという常識は必ずしもそうでもないということが明らかです。

 尚アンコール演奏があり、広瀬さんの話では、ベートーヴェンの弟子兼秘書でもあったフェルディナント・リース作曲の『夏の名残のバラ』という室内楽とピアノの曲でした。アイルランド民謡の「庭の千草」の原曲がもととなっているそうです。