HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

『クールベと海・展』観賞詳報Ⅰ-③<クールベの自然③>

 クールベのスイス国境に近い故郷の町オルナンから、岩山に入ると森や渓谷が多くありました。自然を描く題材としては事欠かず、またそうした風景を愛したクールベは多くの風景画を描いたことを前回まで例を挙げて記して来ました。次の絵は、クールベがオルナンの渓谷の風景と遠くアルプスを観た風景とを重ね合わせて1枚の絵にしたものと思われます。 

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 アルプスはフランス、イタリア両国境に近くしかも4千m級の高峰が連なっているので、太陽の日に照らされると明るく輝いて見えます。以下の写真は以前スイス旅行した時に、遠くに聳える冬の太陽に輝くアルプスの高峰の写真を撮ったものです。 

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  やはりアルプスは森や岩山や普通に高い山とは比較にならない程の輝きと品格を持っていますね。クールベはそのことは十分認識していたものと推定されますが、そのほとんどの風景画が故郷のオルナン関係の絵だったということは、如何に故郷を心の糧にしていたかの証です。次の絵は、以前オルセー美術館を観た時に撮った写真です(その時は‘Photo O.K.’でした)。

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「オルナンの埋葬」

 『オルナンの埋葬』(Un enterrement à Ornans)は、1849年~1850年にかけて制作されたもので、19世紀フランス絵画にとって大きな転換点となった作品の一つです。この作品は、1848年9月に画家の故郷オルナンで、彼の大おじが埋葬されたときの様子を描いたものです。普通の田舎の葬儀の様子を、生々しく写実主義的に扱っており、50人ほどの町の人々等関係者が登場、伝統的には英雄の場面や宗教的場面が描かれる時に使われる巨大な画面(約7m×3m)に描かれています。この中にクールベ自身がいるかもしれない。その大きな絵の前で暫し立ち尽くして見ていた記憶があります。サロン展に出品されたこの作品は、賛否こもごもの爆発的な反響を呼び、クールベはたちまち時の人となったのでした。

 また次の絵は、クールベのお得意とするオルナン近郊の風景画ですが、これも今回の展覧会には来ていません。

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『オルナン近くの岩場の風景』ウィーン美術アカデミー(大学)所蔵

 『オルナン近くの岩場の風景』では典型的な故郷の岩場の地層を絵具によって再構築しています。水たまりのある前景は画面の3/4を占める小高い岩山連なりによって背景から切り離されています。庇の如く張り出した岩の直下には小さな小屋が描かれ、人間の行為の唯一の結果がアクセントとなっています。絵の具の使い方は奔放で、分厚く塗った上をパレットナイフで擦りとって荒々しさを表現、また背景には、空と山と集落を横一線に揃えて前景とのコントラストを明確にし、絵画の構図全体のバランスが絶妙に表現されました。

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『森の小川』クールベ(ボストン美術館蔵)

 この「森の小川」も今回の展示には無い絵です。この絵も157×114mの大きな絵で、1862年に制作されました。これは同時代の風景画の先輩であるバルビゾン派のテオドール・ルソー(1812~1867)の絵に触発されたとも謂われます。

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『森の中の池』テオドール・ルソー(ボストン美術館蔵)

 クールベはルソーが用いたのと同じ色彩を使っており、また両者の類似性は、森の中で池や川として描かれる水と言うテーマにも見られます。しかしあとはクールベ独自の特徴を発揮、パレットナイフに依る荒々しい絵具使い、右下方には鹿を配置して、見る者の視点をその鹿からさらに右後方に僅かに見える二頭の小鹿へと惹きつけ、また高くそびえる木々の比較的細い幹が、下方の小川へと視線を誘い、この大画面の絵を観た時のバランス感覚を抜群のものとしています。