表記の音楽祭は昨年5月に開催されるはずだったものが、コロナ禍の影響で中止になり、今年も緊急事態宣言中なので、どうなるか注視していましたが、予定通り催行されることになりました。主に日本ショパンコンクール入賞者などの若手ピアニストが出演します。音楽祭の概要は以下の通りです
【日時】2021年5月24日(月)~5月29日(土) 【会場】カワイ表参道サロン「パウゼ」
【演奏会種類】 (Ⅰ)ランチタイムコンサート 12:00~
(Ⅱ)ピアノリサイタル/室内楽コンサート 18:30~
【主催者発表】ショパンの真髄ともいえる「マズルカ」はショパンが生きた時代を経て大きな契機となり、多くの作曲家によって書かれました。予想をはるかに超えた広がりをもつ色とりどりのマズルカを青葉薫る表参道でお楽しみください。
【主催者】日本ショパン協会
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今日(5/25)フェスティバル第二日目のピアノリサイタルを聴いて来ました。
【日時】2021.5.25.18:30~
【テーマ】~色香 マズルカで辿る 色とりどりの世界~
【演奏者】西尾 真実
【演奏曲目等詳細】
ショパンの曲だけでなく、ボロディン、スクリャービンの曲も演奏する様なので、テーマとどう関係付けるのか興味を持ちました。
マズルカを簡単におさらいすると、
ショパンはポーランド各地の舞曲の要素を統合し、「マズルカ」として、芸術作品として昇華させた。 第1拍は付点リズムが多く、第2もしくは第3拍にアクセントが置かれる。この基本のリズムとテンポの踊りを「マズル(Mazur)」と呼び、より速いテンポの「オベレク(Oberek)」、ゆっくりとしたテンポの「クヤヴィヤック(Kujawiak)」など、地方により多様な名称のものがある。これらは伝統的には別種の舞曲として認識されるが、ショパンはそれらをピアノ曲の中で並置させて、一曲のマズルカとしてまとめた。
【演奏の模様】
プログラムの予定曲にはボロディン、スクリャービンがショパンの曲の前に並び、ボロディンの①‐3にはマズルカがあり、またスクリャービンでは②、③はマズルカです。しかし④、⑤ではマズルカとどのような関係があるのか、よく耳を澄まして聴こうと思いました。それとボロディンの①には、第4曲として、もう一つマズルカがある筈なのですが、それは今回は入っていません。何故なのでしょうか?一方、肝心のショパンの曲には、ノックターンやポロネーズが入っており、これはマズルカとどういう関係になるのかな?などと余計なことをいろいろ考えてしまいながら聴きに行きました。
《ボロディン》
①小組曲より
①-1 尼僧院にて
最初は僧院の鐘の音を想起させる様なメロディでかなりゆっくりした厳かな響きの調べでしたが、すぐに激しいとも言えるffの強いリズムの流れに変わり、最後まで(と言っても5分程でしたけれど)、尼僧院のイメージからは、ほど遠いものでした。マズルカと関連あるとも思われませんでした。
①-2間奏曲
リズムが、四連符の最初の音に付点があるような特徴あるやや舞曲っぽいリズムで、何回もテーマを繰り返していました。2分程の短い曲。通常「間奏曲」は、その前後より短いので、名付けたのでしょうが。終盤は、かなり
強奏していました。
①-3マズルカ
如何にもマズルカ風のリズミカルな曲だろうなと思っていたら、そうではなく最初から強い調子で弾き始めたのです。力演とも言える程。軽やかさはかげに隠れ、強打の影にリズムは隠れてしまっている。これがボロディンのマズルカかと不思議な気がしました。
《スクリャービン》
②マズルカホ短調Op.25-3
九つのマズルカから成ります。と言っても全部合わせても三分程の短い曲でした。何処からどこまで1曲なのか、初めて聴いたので、不明確な処もありました。高音が、キーとやや耳障りな時がありました。
③マズルカ嬰ヘ長調Op.40-2
二分位の非常に短い曲でした。
④二つの詩曲Op.32
6分程の比較的長い曲。バーンバーンと両手の有りたけの力を込めて鍵盤を叩いていました。西尾さんは、最初から姿勢良く、指と手と腕の力は相当強いと見えて、余り体を動かさずに大きな音を出していました。でも強中弱有りでなく、最初から最後まで轟音とも言える程の音を一貫して出していた。失礼ですが、うるさいと思う程。あれだけ鍵盤を強打し続ければ、弾く人はスカッとするでしょうね、きっと。聴いている方は教官が湧きませんが。終盤の高音にいい音が出ていました。
⑤エチュード嬰ハ短調Op.42-5
これはかなりボロディンらしさの出ている演奏かと思います。速いパッセッジが多く、テクニック的にも高度な技巧を要します。西尾さんは相当技量を磨いて来たものと思われる見事な演奏でした。でも音の強さ、曲の力強さは十分感じても、音色の微妙な明暗、強弱、旋律のメリハリは余り感じられませんでした。お若い方にこう言うのも何なのですが、❛枯れ木も山の賑わい、枯山水の美的な処❜はスクリャービンの曲には有りませんか?
今日聴いたスクリャービンの曲は、近代的響きを少し感じることは出来ました。
いよいよ《ショパン》です。
⑥ノックターンロ短調Op.9-3
良く聞き慣れたメロディがピアノから迸り出て来ました。やはりショパンの曲はいいですね。洗練されていてお洒落な感覚に満ちている。中盤になると西尾さんは、かなり激しく指を動かし力を込めていました。冒頭は如何にも眠る前の穏やかな月夜の感じですが、ここになると、ショパンは俄然目が冴えてらんらんと輝き、眠れない夜の感がします。終盤で又最初の調べが戻りましたが、西尾さんは前半とはやや異なった弾き方をしていた様に思います。強弱のメリハリをかなりつけていた。それにしても軽妙な速いパッセージの処はもっとコロコロと玉を転がす様に表現すれば、もっともっとショパンを感じることが出来たと思います。音造り、表現にさらに磨きがかかれば素晴らしいピアニストになると思いました。
⑦三つのマズルカOp.59
このマズルカは、ショパンのマズルカの中でも傑作として知られています。
三つともそれぞれ三から二分の曲で合わせても九分程度。ここでも西尾さんはピアノに向き合って格闘するが如く熱演していたのですが、全体的に余りショパンの良さを感じませんでした。三つ目のマズルカなど、リズミカルさは出ていたのですが、音の大きさに邪魔されていたきらいがあります。全体的に力の籠った言い演奏なのですが、少し力みがあるのではないでしょうか。
⑧ポロネーズ変イ長調Op61「幻想」
これはもう西尾さんは大熱演でしたね。今日聴いた曲の中では、一番長い曲でしかも大曲とも言える様々な表現法が次々と繰り出される、ショパンのピアノ曲の中でも(コンチェルトは除きます)横綱級の曲です。それをほぼ完璧に弾きこなすのですから大したものです。演奏後大きな拍手が湧きました。
演奏が終わって何回かの挨拶後、マイクを手にした西尾さんは、聴衆に礼の言葉を述べるとともに、栃木県出身であること、栃木県の「栃木未来大使」に任命されたことなど話し、最後にアンコールとして、ボロディンの①の第四曲目のマズルカを弾きますと言ってピアノに向かいました。そうか4番目のマズルカはアンコールのためにとっておいたのかと腑に落ち、感心したのでした。
ショパンとも異なっているが、心地良い響きが心に伝わってきて、これぞボロディンのマズルカかと納得、古典的な香りさえ感じられる演奏でした。今日の演奏で一番良かったと思いました。さらに大きな拍手が湧きました。