イタリアのコロナ禍の被害は大きく、海外遠征コンサートはもとよりイタリア国内でも、観客を前にした音楽演奏は出来ない状態が続いているのか、ミラノ・スカラ座は、無観客による演奏会を配信で世界に発信する試みを続けています。昨年12月のオープニングは無観客のガラコンサートをU-tubeで配信しました。錚々たる歌手を揃えていました。今回は有料配信で、1月、2月、3月と以下の様にオペラを世界に届けると発表されました。
◎ミラノ・スカラ座より『シモン・ボッカネグラ』、『カルメン』、『ランスへの旅』をstreaming+」にて配信
今回、ミラノ・スカラ座から、3つの名作オペラを、2021年1月・2月・3月と続けて配信することが決定した。ラインナップは『シモン・ボッカネグラ』、『カルメン』、『ランスへの旅』。タイトルを聞いただけで胸が高鳴るオペラ通の方にも、気軽に楽しんでみたい舞台好きの方にも、イタリア・オペラの最高峰であるスカラ座の粋を味わうことができ、きっと満足できる3作品となっている。 問答無用の名手プラシド・ドミンゴが、海の男であり政治家、そして娘の父であるタイトルロールを演じる『シモン・ボッカネグラ』。40年前の初来日公演では、初めて本場のオペラを目の当たりにした人々を鳥肌モノの感動で射抜いた演目(改訂版の初演も240年前にスカラ座で行われた)。
『カルメン』ではヨナス・カウフマンとアーウィン・シュロットが、その魅力を存分に見せつける。数々の名アリアを美麗な出演陣で堪能する、激動の愛憎劇の結末は……。
そして、よくこれだけ揃えられた! と感嘆の声をあげたくなる歌手陣が出演する『ランスへの旅』。難易度が高いと言われる曲ばかりだが、これでもかとご機嫌に繰り広げられるロッシーニの愉悦は、思わずイタリア・オペラに陶酔してしまうだろう。本配信で3作品を自宅でゆっくりと楽しもう。
1月はヴェルディのオペラ『シモン・ボッカネラ』の配信です。 このオペラは1857年に完成、伊ヴェネツィアのフェニーチェ劇場で初演されましが、失敗に終わりました。しかし24年後にヴェルディは改訂版を完成、1881年3月、ミラノ・スカラ座で初演され、今度は大成功でした。ヴェルディは68歳となっていました。
今回このオペラが、スカラ座で以下の配役とスカラ座管弦楽団・合唱団の演奏で行われたものを有料配信されたので、その映像を見ました。(いつの演奏かは、e-プラスは通知せず。明記して欲しいものです。字幕があるかどうかも事前に連絡無し)
【配信日時】2021.1.15.(日本時間)0:00~
【配信方法】e-プラス有料STREEMING
【 会 場 】ミラノ・スカラ座
【 演 奏 】オーケストラ:スカラ座管弦楽団 合唱:同合唱団
【 指 揮 】ダニエル・バレンボエム
【 出 演 】
【登場人物】
- シモン・ボッカネグラ (バリトン) もとは後世でいう私椋船船長だが、平民派の後押しによりジェノヴァ共和国の初代総督になる。
- マリア・ボッカネグラ(ソプラノ) シモンの娘。本編ではアメーリア・グリマルディと名乗っている。
- ヤーコポ・フィエスコ (バス) もとジェノヴァ貴族でシモンの政敵。本編ではアンドレーア・グリマルディと名乗り、アメーリアを養育する。
- ガブリエーレ・アドルノ (テノール) 貴族派の幹部でアメーリア(マリア)の恋人。
- パオロ・アルビアーニ (バス) 平民派のもと金糸職工で、のちジェノヴァ共和国の廷臣。シモンの腹心の部下。
- ピエトロ (バリトン) 平民派。パオロとともに共和国の廷臣となる。
- 射手隊長(テノール)
- 侍女(メゾソプラノ)
このオペラは、イタリア、ジェノヴァを舞台とした全3幕のオペラですが、その前に第1場から第5場より成る結構長いプロローグが置かれています。各幕の概要はネット情報を引用して置きます。
【プロローグ】
サン・ロレンツォ教会の広場とフィエスコの館の前
平民派のパオロとピエトロは、私掠船船長のシモンをジェノヴァ総督に担ぎ出そうと相談する。呼び出されたシモンには政治的野心はなく、パオロたちの申し出を聞いて躊躇する。しかし、シモンの恋人であるマリアは政敵フィエスコの娘であり、マリアはフィエスコによって館に幽閉されていた。自分が総督になれば、フィエスコもマリアとの結婚を許すかもしれないと考えたシモンは、総督選挙への出馬を決意する。
館からうちひしがれた姿のフィエスコが現れる(アリア「哀れな父親の苦悩する心は」)。シモンはフィエスコの館を訪ね、和解とマリアとの結婚の許しを請う。フィエスコとシモンの二重唱。しかし、フィエスコはシモンとマリアの娘を自分によこせと迫る。娘が行方知れずであることをシモンが語ると、フィエスコは、自分の孫が戻るまで和解しないといって立ち去る。いつもは閉じられている館の扉が開いており、シモンはマリアに会いたい一心で館の中に入るが、そこで病死したマリアを見いだす。愕然として広場に出てくるシモンを、民衆が「シモン万歳!」と歓呼の声で迎える。
【第1幕】
第1場
プロローグから25年後。ジェノヴァ近郊のグリマルディ伯爵邸
アメーリアが登場(ロマンツァ「暁に星と海は微笑み」)。彼女のもとへ恋人のガブリエーレがやってくる。アメーリアとガブリエーレの二重唱。アメーリアはシモンとマリアの行方知れずになっていた娘で、グリマルディ家に拾われていた。このことを知らないフィエスコは、アンドレーアと名乗ってアメーリアを養育していた。シモンはジェノヴァ総督となり、腹心のパオロとアメーリアとの結婚話を進めるために、グリマルディ家を訪れようとしていた。これを知ったガブリエーレとアメーリアはすぐに結婚しようと愛を誓い合う。アンドレーアが現れ、アメーリアが孤児であることをガブリエーレに語るが、ガブリエーレはそれでもアメーリアを妻にしたいという。アメーリア、ガブリエーレ、アンドレーアの三重唱。
シモンの到着が告げられ、アンドレーアとガブリエーレはその場を去る。シモンはアメーリアに、パオロと結婚すれば、追放されたグリマルディの一族を赦免するという。アメーリアは、自分には心に決めた相手がいること、財産目当てのパオロとは結婚しないと拒絶し、そもそも自分はグリマルディ家の娘ではないと身の上を明かす。話を聞くうちに、シモンはアメーリアが自分の娘であることに気づく。二人は抱き合い、25年ぶりの再会を喜ぶ。シモンとアメーリアの二重唱。
娘の意を汲んだシモンはパオロとの結婚話を破談にする。しかし、この通告を受けたパオロは逆上してシモンを恨み、ピエトロと組んでアメーリアの略奪を企む。
第2場
ジェノヴァ共和国の議会場
議会でシモンがヴェネツィア共和国との和平の重要性を説いていると、突然外で争乱が起こる。民衆に追われたガブリエーレとフィエスコが議会場に駆け込んでくる。シモンは民衆を制止するが、ガブリエーレは、アメーリアが誘拐され、その首謀者こそシモンだと糾弾して斬りかかる。助け出されたアメーリアが2人の間に割って入り、黒幕が別にいることを告げる。貴族派と平民派は互いに罵り合うが、シモンは同胞同士のいさかいを止めるよう説く。シモンは騒動の原因となったガブリエーレとフィエスコを牢に入れると、パオロに対し、この部屋に卑劣な裏切り者がいること、自分はそれが誰なのか知っていること、パオロを証人としてそのならず者を呪え、と迫る。パオロは青ざめ、震えながら自分で自分を呪う。
【第2幕】
総督の部屋
シモンを深く恨んだパオロは、シモンの水差しに毒を盛る。さらに、捕らえられていたアンドレーアとガブリエーレを牢から出す条件として、2人にシモンの暗殺を持ちかける。フィエスコは拒絶して再び牢に戻されるがガブリエーレはシモンがアメーリアとお楽しみ中だとパオロから吹き込まれ、激怒する(アリア「わが心に炎が燃える」)。面会にやってきたアメーリアにガブリエーレは怒りをぶちまける。そこへシモンがやってきたため、ガブリエーレはバルコニーの物陰に隠れる。アメーリアはガブリエーレの赦免を嘆願し、シモンは寛大な措置を約束する。 疲れたシモンは水差しの水を飲み、眠気を催す。ガブリエーレがシモンを殺そうとして近づき、剣を抜く。戻ってきたアメーリアがそれを見つけて止める。シモンは目を覚まし、自分がアメーリアの父親であることを明かす。ガブリエーレはシモンに謝罪する(シモン、アメーリア、ガブリエーレによる三重唱「あなたは彼女の父上!」)。そのとき再び外で騒ぎが起こり、ガブリエーレはシモンのために、争乱を沈静化させようと出て行く。
【第3幕】
総督の部屋
争乱が鎮圧され、フィエスコが釈放される。反逆罪で捕らえられたパオロは、処刑場に引き立てられながら、シモンの体に毒が回っていることをフィエスコに告げる。遠く教会からアメーリアとガブリエーレの婚礼の合唱が総督の部屋まで響いてくる。 毒によって衰弱したシモンは、海を懐かしむ(モノローグ「慰めてくれ、海のそよ風よ!」)。フィエスコがシモンの前に現れる。シモンはフィエスコに、アメーリアこそが自分の娘であり、フィエスコの孫だと告げ、ついに二人は和解する。シモンとフィエスコの二重唱「わしは、神の御声に涙を流す」。そこへ結婚式を終えたアメーリアとガブリエーレが登場、シモンはフィエスコがアメーリアの祖父であることを明かす。シモン、フィエスコ、アメーリア、ガブリエーレによる四重唱「偉大なる神よ」。シモンは残された者たちの平和を祈り、ガブリエーレを次の総督に任命して息絶える。
【映像を観た感想】
プロローグの最初の辺りでは、ドミンゴの歌い振りに比し、パウロやフィエスコ役 のバリトン、バスがずっしりと声量も有り、圧倒していました。でもシモンがマリアの死体に気が付き叫び歌う箇所は声量も歌う雰囲気も驚きと悲しさ一杯表現できていました、それに続く女声合唱も緊迫さがよく出ていた。7場は省略ですか?
第1幕1場のアメーリアのアリアは曲も綺麗でソプラノが良く声が出て、幸先よい出だしでした。高い声も出ていました。
続いて恋人の遠く歌う声が聞こえて、喜び叫ぶアメ-リアの高く響く叫び歌も良し。近づいて歌う恋人ガブリエーレのテノール声はいいのですが、アメーリアの恋人役にしては若干不似合いに見えました。第一太り過ぎです。歌声は非常にいいのですが。
第5場でフィエスコのバスとガブリエーレのテノールが歌い交わす場面では、バスの声がいいですね。テノールは大変声質も良いのですが、まじかで比べられるとバスに軍配が上がります。バスは ‘あなたの声は清らかな魅力に満ちている’ と歌うテノールの歌詞そのものでした。
第7場でアメーリアが自分の生い立ちを歌うアリアは曲もいいし、ソプラノは見事な表現力で歌っていました。 父娘と判明した後の二重唱はソプラノがドミンゴを凌駕していました。ハープの音が心地良し。
シモンにフィエスコが ‛総督にしてやった恩は忘れたか’ と言うのはどういうことでしょう?選挙で選ばれたのではなかったですか?
第10場の争乱、混乱の場は合唱が盛り上げていました。
許婚者がシモンを殺そうとするのをアメーリアが間に入って止め、歌う歌がいいですね。
次に反乱の混乱した場面で、ドミンゴが ‛丘に咲くオリーブもむなしいではないか、兄弟殺し合いは止めよう’ とただすアリアは、これにアメーリアの歌声と合唱が加わりアメーリアの ‛和解を祖国への愛で呼び戻して’ と歌うところが説得力がありますね。同じメロディーでシモンも合唱も盛り上がっていました。
次に第2幕です。スタートから既に1時間半弱経っています。一体何時に終わるのだろう?明日はいつもの時間に起きれないかも知れません。
冒頭から、シモンを殺そうとするパオロの憎悪に満ちた歌い振りと、牢に繋がれているフィエスコの会話の歌は迫真がありました。次の第5場のガブリエルのアリアはいい歌で、嘆き叫ぶ様子がよく出ていましたが、若干上擦るところがあったと感じました。
第6場で青い服に着替えたアメリー7アがやって来て ’秘密を明かせない’ と歌い、それに対し ’打ち明けてくれ’ と懇願するガブリエーレに なかなか承諾しないアメーリア、この辺からは会話のやり取りを歌う謂わばレスタティーヴォ的歌のやり取りです。
第7場にシモンが登場、アメーリアは父に許婚者の許しを請いますが、シモンは ‛反乱党の連判状に名を連ねている’ と、すぐには許しを認めません。結局ガブリエーレが悔い改めるなら結婚を許すと軟化します。この辺はありふれたドラマの筋書きといった感じがしました。
そして第8場でついに毒入りの水を飲んでしまうシモン。‘苦い’と言っています。‘眠い’とも言って寝てしまう。パウロが入れた毒でした。
次の9場でガブリエーレがシモンを殺そうとしますが、アメーリアがシモンの娘だと分かったガブリエーレはすぐに冷静になってシモンに謝り、死を与えて下さいと歌い、アメーリアが歌う‛天国の母よ父に憐れみを’という懇願のアリア、またシモンとガブリエルとの三重唱は、互いにしっとりと反省と許容の雰囲気が出ていて、特にソプラノの歌声が光っていました。
いよいよ最後の第3幕です。
せわしない前奏曲に合わせて合唱は‛総督万歳’と歌います。捕縛されたパウロが、‛シモンに毒薬を飲ませた。俺より先に墓場に行くだろう’
と歌い叫びますが、遠くの結婚式の歌声が聞こえると、自分がアメーリアを誘拐したことを漏らしてしまう。アメーリアの祖父のフィエスコが断罪し驚き悲しむのでした。
毒は遅効性なのかまだ死にきれないシモンが大きな玉座に座り、海賊時代の海を思いだしながら歌うアリアはそれ程いい曲とは思えません。フィエスコが現れてシモンに語り掛ける歌はバスらしい迫力のある歌声でした。歌そのものはそれ程良い歌とは思えなかったですが。
第3場で、アメーリアがかって行不明となったマリアの子だと知ったフィエスコは
最後に敵であったシモンを許すのですが、如何せん毒が回って来たシモンはついに
アメーリアの花嫁姿を前に横たわるのでした。でも歌はまだしっかりと歌っています。 最後の力を振り絞り立ち上がったシモンは、ガブリエルを後継の総督にすると宣言し、崩れ落ち息絶えるのでした。最後の力を振り絞って立ち上がって死ぬのは同じヴェルディの『椿姫』のヴィオレッタもそうでしたね。
最後の場面でのドミンゴの詠唱は、少し力強さが出過ぎではないかと思われる程の迫真力がありました。死に瀕しているにしては、元気過ぎると思うのですが、別に瀕死自体を表現しなくともいいのかも知れません。
終了は2時半近くでした。
総じて、流石スカラ座の綺羅星の如き歌手陣皆見事な歌唱力でした。主役のドミンゴの歌を喰う場面もかなりありました。
ところで、東京においては緊急事態宣言後も、各種コンサートが行われている状況です。来週末は、新国劇で「トスカ」、再来週は、東京文化会館で「ラ・ボエーム」の予定もあり、以前からチケットを購入していましたが、相変わらずの感染状況なので、とても聴きに行けません。各会場に電話したら、チケット販売済みなので予定通りの座席配置で実施するという回答でした。