【日時】2023.3.28.(火)18:30~
【会場】東京文化会館
【管弦楽】東京春祭オーケストラ
(文末<参考>参照)
【指揮】リッカルド・ムーティ
【演目】ヴェルディ・歌劇『仮面舞踏会』全三幕 上演時間:約3時間(休憩1回含む)
【原語曲名】Un ballo in maschera
【原作】ウジェーヌ・スクリーブの戯曲「グスタフ3世 または 仮面舞踏会」
【台本】アントニオ・ソンマ
【初演】1859年2月17日、ローマ・アポロ劇場
【日本初演】1923年1月31日 東京・帝国劇場 カーピ歌劇団
【主な人物】
【キャスト】
①リッカルド アゼル・ザダ(テノール)
②アメーリア ジョイス・エル=コーリー(ソプラノ)
③レナート セルバン・ヴァシレ(バリトン)
④ウルリカ ユリア・マトーチュキナ(メゾソプラノ)
⑤オスカル ダミアナ・ミッツィ(ソプラノ)
左から ① ② ③ ④ ⑤
【粗筋(春音楽祭H.P.より)】
■第1幕
第1場 17世紀末、ボストン総督リッカルド邸の広間
リッカルドを称える将官、貴族、代議士たちの合唱。なかにはサムエル、トムら謀反を企てる一派の姿も。私室からリッカルドが登場、仮面舞踏会の招待者リストをチェックする。愛するアメーリアの名を見つけて胸の内を独白するが、彼女はリッカルドの腹心レナートの妻。すなわち報われぬ愛である。一同が去るとレナートが現われ、謀反の気配があると告げる。そこに占い師ウルリカの処罰を求めて判事が来るが、リッカルドの小姓オスカルは軽妙な弁護でウルリカの無罪を主張。リッカルドもそれに乗せられ、ウルリカを訪ねることを思いつく。大賛成のオスカルと一同、リッカルドの身を案ずるレナート、絶好の機会とほくそ笑むサムエルら謀反人――それぞれの思惑が交錯して、今夜三時に! と約束する。
第2場 占い師ウルリカの住処
ウルリカが不気味な呪文を唱えているところに、忍び足で入ってくるリッカルドたち。ウルリカは水兵シルヴァーノの運勢を占い、やがて褒美と士官の位を手にするだろうと予言。そこでリッカルドは金と士官への辞令をこっそりシルヴァーノのポケットに入れる。占いのお代を払おうとしたシルヴァーノが金と辞令に気づき、予言が当たった! と驚嘆する一同。そこへアメーリアが現われる。ウルリカは人払いして、彼女の恋の悩みを聞き、それをとり除くには「刑場に生える草を真夜中に摘み取らねばならない」と教える。盗み聞きしていたリッカルドは、自分もついて行こうと決意。アメーリアが去り、ウルリカが人々を引き入れ、リッカルドたちも混じる。リッカルドがウルリカに手相を見てもらうと、ウルリカはすぐ高貴な人物の手であることを見抜くが、同時に見て取った凶兆には口を閉ざす。リッカルドが臆することなく結果を問うと、「今日、最初に握手する友によって殺される」とのお告げ。一蹴するリッカルド。そこに事情を知らないレナートが遅れて到着し、リッカルドの手を握る。「彼が!」と戦慄する一同。しかしリッカルドは不吉な予言などものともしなかった。
■第2幕
真夜中、刑場のある丘
ウルリカの指示通り、刑場にやってきたアメーリア。道ならぬ思いに懊悩しているところへ、リッカルドが姿を現わし、切々と愛を口説く。アメーリアは振り切ろうとするものの、やはり思いを断ち切れず、二人は熱烈な言葉を交わす。そこへリッカルドを心配したレナートがやってきて、謀反人たちが迫っていることを告げる。リッカルドは決して女の顔を見ずに町まで送るようレナートに約束させ、その場を去る。残されたレナートたちの前にサムエルら謀反人一派が立ちはだかり、本命に逃げられたことを知った彼らは、腹いせにレナートに襲いかかろうとする。アメーリアは夫を助けようと、思わず止めに入るが、その顔を見て息をのむ一同。リッカルドと逢引きしていた女は、何と自分の妻だった! 痛恨の呻きをあげるレナートを、サムエルたちは嘲笑う。何事かを決意したレナートは「明朝、自宅に来い」と彼らに告げる。サムエルたちは承知して笑いながら去っていく。
■第3幕
第1場 レナートの書斎
剣を手にしたレナートは、妻アメーリアの不貞をなじり、死を迫る。アメーリアはせめてひと目、我が子に会いたいと乞い、部屋を辞す。レナートは総督リッカルドの肖像に向かって、激しい憎悪とともに復讐を誓う。約束通りサムエルとトムが姿を見せると、レナートは息子の命を担保に、自分も復讐の一味に加えてほしいと願い出る。誰がリッカルドの命を奪うか、という算段になり、使者オスカルの到来を告げに来たアメーリアを見て、彼女にくじを引かせることを思いつく。くじで選ばれたのは、レナートだった! 自分にその役が回ってきたことを喜ぶレナート、くじを引いた自分を責めるアメーリア。そこにオスカルが現われ、夜にリッカルド邸で催される仮面舞踏会への招待を告げる。リッカルドも出席すると聞いて、これは絶好の機会と、作戦を練るレナートたち、恐怖するアメーリア、何も知らずに呑気なオスカル――それぞれの思いが錯綜する。
第2場 リッカルドの書斎
アメーリアへの思いを断ち切るため、リッカルドはレナート夫妻を本国に帰すことを決意し、辞令に署名して胸元に仕舞う。華やかな舞踏会の音楽が奥から聞こえ、不吉な予感に襲われる。そこへオスカルが来て、見知らぬ女から預かった書きつけを渡す。それは「舞踏会に刺客が」という警告。しかしリッカルドは、最後に今一度アメーリアに会える、と舞踏会へ向かうのだった。
第3場 豪華な大広間、仮面舞踏会
大勢の客たちの合唱。サムエルたちと落ち合ったレナートは、リッカルドの姿を探す。オスカルを捉まえてリッカルドの仮装を尋ねると、オスカルは軽やかにはぐらかすが、ついにリッカルドの衣装を漏らしてしまう。アメーリアはリッカルドに忍び寄り、直ちに逃げるよう説得する。リッカルドはレナート夫妻を本国に帰すことに決めたことを告げ、今生の別れとばかり、最後の愛の二重唱を歌うが、時すでに遅し! いつの間にか背後にまわっていたレナートが、リッカルドを短剣で突き刺す。会場が騒然となる中、瀕死のリッカルドは、アメーリアの潔白と、レナート含むすべての者の無罪を宣し、胸元から辞令を出してレナートに与える。己の誤解を深く悔やむレナート、リッカルドの寛大な采配を称える一同。やがてリッカルドがこと切れると、「恐ろしい夜よ!」との叫びとともに幕が下りる。
【上演速報】
◉リッカルド役 アゼル・ザダ(テノール)
今日のタイトルロールは、外人歌手の中では残念ながら、いい歌唱とはお世辞にも言えない状態でした。声量はそれ程でなく声も伸びず、拍手も他の歌手たちの後塵を拝していました。ムーティが選んだ主役ですから、これが実力とは到底思えません。余程何かあったのでしょう。
◉アメーリア役 ジョイス・エル=コーリー(ソプラノ)は、快調に歌声を一杯はりあげていました。第一幕の最初のアリアこそまだ充分に力が出たとは言い難いですが、第二幕や第三幕では、充分大ホールに声を響かせていました。拍手も大きなもので、ブラボーの声もあちこちで掛かりました。
⑥アリア「私の最後の願い」(アメーリア)は、殺す前に息子に合わせて欲しいと切々と歌い、この日一番の出来ではなかったでしょうか。
◉レナート役 セルバン・ヴァシレ(バリトン)も一幕では、矢張り立ち上がりが充分ではありませんでしたが、妻(アメーリア)同様次第に実力を発揮、各幕のアリア、デュエットを迫力充分な歌声を大ホールに響かせ万雷の拍手をあひていました。
◉ウルリカ役 ユリア・マトーチュキナ(メゾ・ソプラノ)
彼女の歌い振りが、今日一番安定していたかも知れない。メッゾの魅力的な声で、さすがウルリカ役のプロフェッショナルと賞賛すべき、役柄ピッタリの歌唱でした。カーテンコールでも、大きな声援が飛んでいました。
◉オスカル役ダミアナ・ミッツィ(ソプラノ)は、その役柄は小姓ですから、若い秘書的存在です。かなりの奮闘をしたと思いますが外見の見掛けより歌声は、可憐(?)な若々しい歌声で、一種の清涼剤の働きをしていたと思います。ただ纏まったアリアが少ないので、第三幕の終盤の剽軽さも交えた軽快なアリアが一番纏まりが良かったので、歌い終わった最後に大きな拍手をしようと思っていたら、ムーティは、その時間を与えず、すぐにオーケストラに向かって音を立てたのでした。残念。
◉合唱は、女声43人、男声37人計80人だったでしょうか。女声も男声も一糸乱れぬコーラスでしたが、特に男声は時としてppで、時として大音量で分厚い歌声で、場面の背景となりまた盛り上げに一役買っていました。
◉ムーティ指揮『東京春祭オーケストラ』は流石トップ演奏者が集まったオケ、ヴェルディらしい重厚な響きをは堂々と奏し、やや不気味さの兆しを出すのにも成功していました。特に弦楽アンサンブルは、時々、日本の在来オケを凌駕していると思われるほどの豊饒な響きを出していて、これがムーテイ効果なのでしょうか?管楽器は、フルートとオーボエのソロ出番が多いとおもいましたが、フルートは決して素晴らしい音色とはいい難かった。歌声の合いの手をいれる、チェロのソロ音がいい調べを奏でていました。
総じて今回は期待した八割方満足出来る上演でした。またムーテイさん元気で日本のファンに素晴らしい音楽を届けて下さい。