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東京春音楽祭/ムーティ指揮・ヴェルディ『仮面舞踏会』(詳報)

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【日時】2023.3.28.(火)18:30~

【会場】東京文化会館

【管弦楽】東京春祭オーケストラ

(文末<参考>参照)

【指揮】リッカルド・ムーティ

【演目】ヴェルディ・歌劇『仮面舞踏会』全三幕 上演時間:約3時間(休憩1回含む) 

【原語曲名】Un ballo in maschera

【原作】ウジェーヌ・スクリーブの戯曲「グスタフ3世 または 仮面舞踏会

【台本】アントニオ・ソンマ

【初演】1859年2月17日、ローマ・アポロ劇場

【日本初演】1923年1月31日 東京・帝国劇場 カーピ歌劇団

 

【キャスト】

①リッカルド(テノール):アゼル・ザダ

<Profile>

バクー生まれ。アゼルバイジャン国立歌劇場のソリストとして2009年に声楽家デビュー。イタリアに移住後、オージモのオペラ・アカデミーに入学し、マグダ・オリヴェロ、ライナ・カバイヴァンスカ、レナータ・スコット、レナート・ブルゾン等のマスタークラスを受けた。コンクールで数え切れないほどの賞を受賞しており、ポルトフィーノ国際オペラ・コンクール、ヴェルディ国際声楽コンクール第1位等が挙げられる。

 

②アメーリア(ソプラノ):ジョイス・エル=コーリー

<Profile>

近年、コヴェント・ガーデンのロイヤル・オペラ・ハウスにヴィオレッタ役でデビューした際には、インディペンデント紙に「彼女のピアニッシモは絶妙で、コロラトゥーラは大胆不敵かつ非の打ちどころなく、その声音の表現力は心を鷲掴みにする」と評された。ベルカントのレパートリーに才能を発揮し、カルロ・リッツィ指揮ハレ管弦楽団との共演によるデビュー・ソロアルバム『エコー』をオペラ・ララからリリースしている。

 

③レナート(バリトン):セルバン・ヴァシレ

<Profile>

故郷ブカレストの国立音楽大学で学び、国立芸術大学の試験も受けている。その後、2007~09年にかけて、クリスティアン・バデア(指揮)、エドゥアルト・トゥマジャン(バリトン)、ネリー・ミリチオウ(ソプラノ)、ジョルジェ・クラスナル(バス)のマスタークラスを受講した。
数多くの賞を受賞しており、スポレート(イタリア)、マエストリ・アルテイ・リリチェ(ルーマニア)、アスリコ(イタリア)、第1回「サリチェ・ドーロ」(イタリア)第2位等が挙げられる。

 

④ウルリカ(メゾ・ソプラノ):ユリア・マトーチュキナ

<Profile>

ロシア出身のメゾ・ソプラノ歌手。2022/23年シーズンは、とくに一連の重要な再出演とデビューを飾る年である。再出演では、メトロポリタン歌劇場で《ドン・カルロ》エボリ公女、ロサンゼルス・オペラで《仮面舞踏会》ウルリカ、ベルリン・ドイツ・オペラで《アイーダ》アムネリスと《ローエングリン》オルトルート、チューリッヒ歌劇場で《イル・トロヴァトーレ》アズチェーナ、ローマ歌劇場とボルティモア交響楽団、オランダ国立オペラ(演奏会形式)でヴェルディ《レクイエム》等がある。デビューでは、今回の東京・春・音楽祭をはじめ、ロイヤル・オペラ・ハウスで《ドン・カルロ》エボリ公女、バイエルン国立歌劇場で《仮面舞踏会》ウルリカを演じる。

 

⑤オスカル(ソプラノ):ダミアナ・ミッツィ

<Profile>

イタリア出身のソプラノ歌手。8歳でピアノの勉強を始めた。マリア・グラツィア・パーニ指導のもと、モノーポリのニーノ・ロータ音楽院を優秀な成績で卒業、アメリア・フェッレとマリエッラ・デヴィーアに師事した。
ナターレ・デ・カロリス、マヌエラ・カスター、ステーファノ・ジャンニーニ、ドメニコ・コラヤンニ、アルフォンソ・アントニオッツィ、ダニエラ・バルチェローナのマスタークラスに参加、アルベルト・ゼッダによるペーザロのロッシーニ・アカデミーにも参加した。

左から ① ② ③ ④ ⑤

 

○サムエル(バス・バリトン):山下浩司
○トム(バス・バリトン):畠山 茂
○シルヴァーノ(バリトン):大西宇宙

○判事(テノール):志田雄二
○アメーリアの召使い(テノール):塚田堂琉

【合唱】東京オペラシンガーズ

 

 

【粗筋】

第1幕
第1場 17世紀末、ボストン総督リッカルド邸の広間
 リッカルドを称える将官、貴族、代議士たちの合唱。なかにはサムエル、トムら謀反を企てる一派の姿も。私室からリッカルドが登場、仮面舞踏会の招待者リストをチェックする。愛するアメーリアの名を見つけて胸の内を独白するが、彼女はリッカルドの腹心レナートの妻。すなわち報われぬ愛である。一同が去るとレナートが現われ、謀反の気配があると告げる。そこに占い師ウルリカの処罰を求めて判事が来るが、リッカルドの小姓オスカルは軽妙な弁護でウルリカの無罪を主張。リッカルドもそれに乗せられ、ウルリカを訪ねることを思いつく。大賛成のオスカルと一同、リッカルドの身を案ずるレナート、絶好の機会とほくそ笑むサムエルら謀反人――それぞれの思惑が交錯して、今夜三時に! と約束する。

第2場 占い師ウルリカの住処
 ウルリカが不気味な呪文を唱えているところに、忍び足で入ってくるリッカルドたち。ウルリカは水兵シルヴァーノの運勢を占い、やがて褒美と士官の位を手にするだろうと予言。そこでリッカルドは金と士官への辞令をこっそりシルヴァーノのポケットに入れる。占いのお代を払おうとしたシルヴァーノが金と辞令に気づき、予言が当たった! と驚嘆する一同。そこへアメーリアが現われる。ウルリカは人払いして、彼女の恋の悩みを聞き、それをとり除くには「刑場に生える草を真夜中に摘み取らねばならない」と教える。盗み聞きしていたリッカルドは、自分もついて行こうと決意。アメーリアが去り、ウルリカが人々を引き入れ、リッカルドたちも混じる。リッカルドがウルリカに手相を見てもらうと、ウルリカはすぐ高貴な人物の手であることを見抜くが、同時に見て取った凶兆には口を閉ざす。リッカルドが臆することなく結果を問うと、「今日、最初に握手する友によって殺される」とのお告げ。一蹴するリッカルド。そこに事情を知らないレナートが遅れて到着し、リッカルドの手を握る。「彼が!」と戦慄する一同。しかしリッカルドは不吉な予言などものともしなかった。

第2幕
真夜中、刑場のある丘
 ウルリカの指示通り、刑場にやってきたアメーリア。道ならぬ思いに懊悩しているところへ、リッカルドが姿を現わし、切々と愛を口説く。アメーリアは振り切ろうとするものの、やはり思いを断ち切れず、二人は熱烈な言葉を交わす。そこへリッカルドを心配したレナートがやってきて、謀反人たちが迫っていることを告げる。リッカルドは決して女の顔を見ずに町まで送るようレナートに約束させ、その場を去る。残されたレナートたちの前にサムエルら謀反人一派が立ちはだかり、本命に逃げられたことを知った彼らは、腹いせにレナートに襲いかかろうとする。アメーリアは夫を助けようと、思わず止めに入るが、その顔を見て息をのむ一同。リッカルドと逢引きしていた女は、何と自分の妻だった! 痛恨の呻きをあげるレナートを、サムエルたちは嘲笑う。何事かを決意したレナートは「明朝、自宅に来い」と彼らに告げる。サムエルたちは承知して笑いながら去っていく。

第3幕
第1場 レナートの書斎
 剣を手にしたレナートは、妻アメーリアの不貞をなじり、死を迫る。アメーリアはせめてひと目、我が子に会いたいと乞い、部屋を辞す。レナートは総督リッカルドの肖像に向かって、激しい憎悪とともに復讐を誓う。約束通りサムエルとトムが姿を見せると、レナートは息子の命を担保に、自分も復讐の一味に加えてほしいと願い出る。誰がリッカルドの命を奪うか、という算段になり、使者オスカルの到来を告げに来たアメーリアを見て、彼女にくじを引かせることを思いつく。くじで選ばれたのは、レナートだった! 自分にその役が回ってきたことを喜ぶレナート、くじを引いた自分を責めるアメーリア。そこにオスカルが現われ、夜にリッカルド邸で催される仮面舞踏会への招待を告げる。リッカルドも出席すると聞いて、これは絶好の機会と、作戦を練るレナートたち、恐怖するアメーリア、何も知らずに呑気なオスカル――それぞれの思いが錯綜する。

第2場 リッカルドの書斎
 アメーリアへの思いを断ち切るため、リッカルドはレナート夫妻を本国に帰すことを決意し、辞令に署名して胸元に仕舞う。華やかな舞踏会の音楽が奥から聞こえ、不吉な予感に襲われる。そこへオスカルが来て、見知らぬ女から預かった書きつけを渡す。それは「舞踏会に刺客が」という警告。しかしリッカルドは、最後に今一度アメーリアに会える、と舞踏会へ向かうのだった。

第3場 豪華な大広間、仮面舞踏会
 大勢の客たちの合唱。サムエルたちと落ち合ったレナートは、リッカルドの姿を探す。オスカルを捉まえてリッカルドの仮装を尋ねると、オスカルは軽やかにはぐらかすが、ついにリッカルドの衣装を漏らしてしまう。アメーリアはリッカルドに忍び寄り、直ちに逃げるよう説得する。リッカルドはレナート夫妻を本国に帰すことに決めたことを告げ、今生の別れとばかり、最後の愛の二重唱を歌うが、時すでに遅し! いつの間にか背後にまわっていたレナートが、リッカルドを短剣で突き刺す。会場が騒然となる中、瀕死のリッカルドは、アメーリアの潔白と、レナート含むすべての者の無罪を宣し、胸元から辞令を出してレナートに与える。己の誤解を深く悔やむレナート、リッカルドの寛大な采配を称える一同。やがてリッカルドがこと切れると、「恐ろしい夜よ!」との叫びとともに幕が下りる。

【構成】

全3幕6場

  • 前奏曲
  • 第1幕第1場 ボストン総督リッカルドの接見用大広間、朝
  • 第1幕第2場 郊外にあるウルリカの家、深夜
  • 第2幕 ボストン郊外の死刑台のある荒地
  • 第3幕第1場 レナート邸の書斎
  • 第3幕第2場リッカルドの書斎
  • 第3幕第3場 仮面舞踏会が開かれている大広間

 

【上演の模様】

ネットにあった主要登場人物の「相関図」が良く出来ているので参照引用しました。

 

 このオペラの聴き処は沢山あるのですが、有名な箇所を中心に今回のキャストの歌い振りを見て行きたいと思います。

前奏曲

 ヴェルディらしい重厚な響きをトップ演奏者が集まったオケは堂々と奏し、やや不気味さの兆しを出すのにも成功していた。

 

第1幕

1場

幕が開き前奏曲に続く男声合唱がオケ演奏を引き継ぎ、ゆっくりとしたテンポで、平和の安らぎを渋い歌声で讃え、祈り、歌いました。男声37人、女声43人の陣容。

【UFFICIALI e GENTILUOMINI】 

❝Posa in pace, a' bei sogni ristora, Riccardo, il tuo nobile cor.A te scudo su questa dimora Sta d'un vergine mondo l'amor.
Posa in pace,ecc.❞

【士官たち 紳士たち】
(平和に安らぎ 甘い夢のうちに甦らせたまえ おおリッカルド様、貴殿の気高い心を
貴殿をこの館は守っている けがれなきこの世界の愛によって平和に安らぎ…) 

 と、男声が美しいメロディを奏でます。しかしここに平和のかく乱要因が入り、リッカルドに恨みを擁する一団によって男声合唱で憎しみ、復讐、不幸な者の墓、などを歌いました。この二つの明暗がオペラ全体を通して彩って行くのです。

小姓オスカル役のダミアナ・ミッツィが総督のリッカルドの登場を宣言、彼女はソプラノですが、若い少女ではなく中年に近い熟女の風貌で、声もメゾに近い幅のある歌声、高音域で高らかに宣言をしていました。ミッツィはまだ本領を発揮していない感じでした。

登場したリッカルドが小姓の差し出した舞踏会の招待状を見て、密かに愛するレナートへの恋心を歌います。

①ロマンツァ「恍惚とした喜びの中で」(リッカルド)

❝ L'anima mia In lei rapita ogni grandezza oblia! La rivedrà nell'estasi
Raggiante di pallore,E qui sonar d'amore La sua parola udrà, sonar d'amore.
O dolce notte, scendere Tu puoi gemmata a festa:Ah, ma la mia stella è questa,Che il ciel non ha! quest'è mia stella!❞ 

(私の魂は 彼女に奪われ あらゆる栄光を忘れてしまった!また会えるとは エクスタシーの中で 蒼白く輝くエクスタシーの そしてあの愛の響きが 彼女の言葉から聞かれるのだ、愛の響きが おお甘美な夜に 降りてくるのだ あなたは 祝祭の宝石に飾られて ああ、だがこれは私の星 天さえも持っていない!私のただひとつの星なのだ!)

ここは本来、テノールの美しさを堪能できる箇所なのですが、今日のタイトルロールは、外人歌手の中では残念ながら、いい歌唱とはお世辞にも言えない状態でした。声量はそれ程でなく声も伸びず、拍手も他の歌手たちの後塵を拝していました。ムーティが選んだ主役ですから、これが実力とは到底思えません。余程何かあったのでしょう。

 

②アリア「希望と喜びに満ちて」(レナート)

❝ Alla vita che t'arride Di speranze e gaudio piena,D'altre mille e mille vite Il destino s'incatena!Te perduto, ov'è la patria Col suo splendido avvenir?E sarà dovunque, sempre Chiuso il varco alle ferite,Perché scudo del tuo petto È del popolo l'affetto?Dell'amor più desto è l'odio Le sue ittime a colpir.Te perduto, ecc.

( あなたに微笑んでいる人生には 希望と喜びに満ちた人生には 他の何千何万もの人生がかかっているのです 運命の鎖に連なって!もし閣下がいなくなっては この国はどうなります その輝かしき未来は?いつでも、どこでも 危害から逃れられるものなのでしょうか たとえあなたの胸を守っているとしても 民の敬愛が?愛よりもずっと 憎しみは警戒すべきもの その犠牲者を深く傷つけるのですから もし閣下がいなくなっては…)

ここでは、リッカルドの部下レナートがリッカルドへの思いを切々と歌う箇所なのですが、レナート役 セルバン・ヴァシレ(バリトン)も矢張り立ち上がりのせいなのか、歌い始めが充分ではありませんでした。でもかなりいい歌唱をしていたと思います。期待が持てまそうです。

 この物語は1792年スウェーデン国王が暗殺された事件を題材にしているそうです。初演当時イタリアの政情から発生した厳しい検閲の為、オペラの舞台を欧州でなく米国(ボストン)に変更して、公演許可がでたという。道理で非常に違和感のあるボストン総督が出てくる訳です。ボストンの「仮面舞踏会」など聞いた事も有りません。従って、場面をイタリア、就中ヴェネチアに読み替えて考えて行くと頷けます。

次に第2場の伏線として、判事が登場、占い師ウルカリが悪しき予言をしているのは違法で、追放処分に値するとリッカルド総督に訴えるのですが、小姓のオスカルは彼嬢の占いは当るし無罪にして下さいと提言が分かれたので、総督は占い師の処に足を運び真偽を見ることにするのでした。

 

2場

③アリア「地獄の王よ」(ウルリカ)

❝ Re dell'abisso, affrettati,Precipita per l'etra,Senza librar la folgore
Il tetto mio penetra.Omai tre volte l'upupa Dall'alto sospirò;La salamandra ignivora Tre volte sibilò,E delle tombe il gemito Tre volte a me parlò.❞

(地獄の王よ とく来たれ 大気を抜けて 稲妻を発することなく わが屋根を貫いて参れ ヤツガシラは三度啼く 高みより溜息をつく サラマンドラは火を噴いて 三度呻くのだそして墓からはうめき声が三度私に語りかける)

第2場の不気味な洞窟の場面に変わり、ウルリカ役 ユリア・マトーチュキナ(メゾ・ソプラノ)が歌います。

 出番が少ないウルカリですが、ここでは彼女の歌い振りが、今日一番安定していたかも知れない。メッゾの魅力的な声で、さすがウルリカ役のスペシャリストと賞賛すべき、役柄ピッタリの歌唱でした。カーテンコールでも、大きな声援が飛んでいました。

 

第2幕

前幕前場で占い師ウルカリの元を訪ずれたアメーリアは心の不安を訴えたのです。占い師は秘薬を知っている、それは不気味な場所に深夜行って薬草を摘みそれを飲むことだと教えられ、一人で実行に移すアメーリア、しかし占い師の所で立ち聞きしたリッカルドが後を付いて来たのでした。

④アリア「あの草を摘みとって」(アメーリア)

AMELIA Ecco l'orrido campo ove s'accoppia Al delitto la morte!Ecco là le colonne –La pianta è là, verdeggia al piè.S'inoltri.Ah! mi si aggela il core!
Sino il rumor de' passi miei, qui tutto M'empie di raccapriccio e di terrore!
E se perir dovessi? Perire! Ebben, quando la sorte mia,Il mio dover tal è, s'adempia, e sia.(Fa per avviarsi.)Ma dall'arido stelo divulsa Come avrò di mia mano quell'erba,E che dentro la mente convulse Quell'eterea sembianza morrà,Che ti resta, perduto l'amor –Che ti resta, mio povero cor!Oh! chi piange, qual forza m'arretra,M'attraversa la squallida via?Su, coraggio – e tu fatti di pietra,Non tradirmi, dal pianto ristà:O finisci di battere e uor,
T'annienta, mio povero cor! (Suona mezzanotte.)Mezzanotte! – Ah! che veggio?
Una testa di sotterra si leva – e sospira!Ha negli occhi il baleno dell'ira
E m'affissa e terribile sta!(Cade in ginocchio.)Deh! mi reggi, m'aita, o ignor,Miserere d'un povero cor!❞

(【アメーリア】ここは恐ろしい野原に結びつけられているのです。 罪が死と!刑場の柱があそこに立っている -あの草はあそこね 緑色をしてその下にある 行きましょう ああ!私の心は凍えてしまう!自分の足音まで、ここのあらゆるものは 私を一杯に満たします 恐れや怯えで!私は死んでしまった方がいいのかしら?死ぬ!もしもそうなることが私の運命ならば そうすることが必要なら そうなるがいいわ (彼女は歩き始めようとする)でも 乾いた茎から得られるのね 私が自分の手で摘んだ草の茎から この痺れている心の中にある あの気高いお姿を忘れ去ることのできる薬が そしてお前に残るのは 失われた愛 -お前のために残るのはそれだけよ 私の哀れな心よ!ああ!嘆く者よ どんな力がお前を引き留めるの
この恐ろしい小道を歩くのを止めようとするの?勇気よ - お前は石となって 私を裏切らないで 涙を止めて それとも鼓動を止めて死んでしまいましょうか
お前はこなごなに砕けるのよ、私の哀れな心臓よ!(真夜中の鐘が鳴る)真夜中だわ! - ああ!私は何を見ているの?しゃれこうべが地下から浮かび上がって - ため息を!その目には怒りのきらめきが 私を見つめている 恐ろしいわ!(彼女はひざまずく)ああ!私をお支えください 私をお助けください おお神よこの哀れな心に憐れみを!)

 と、ここでアメリアはアリアを歌ったのです。

アメーリア役のジョイス・エル=コーリー(ソプラノ)は、第一幕の最初のアリアこそまだ充分に力が出たとは言い難いですが、第二幕のこのアリア以降は第三楽章でも、持てる力を十分発揮していると思われる声を響かせていました。拍手も大きなもので、ブラボーの声もあちこちで掛かりました。

そしてその後姿を現したリカルドと二人で、愛の駆け引きの押しつ引きつのやり取りを二重唱で歌うのでした。

⑤二重唱「ああ、何と心地よいときめきが」(リッカルド&アメーリア)

RICCARDO(fuori di sé) M'ami, m'ami! oh sia distrutto Il rimorso,l'amicizia Nel mio seno: estinto tutto,Tutto sia fuorché l'amor!
Oh, qual soave brivido L'acceso petto irrora! Ah, ch'io t'ascolti ancora
Rispondermi così!Astro di queste tenebre A cui consacro il core:
Irradiami d'amore E più non sorga il dì❞

(【リッカルド(独白)】私を愛し、私を愛する!ああ壊れて行くのだ 自責の念も 友情も私の胸の中で すべてが消え去って行く すべてが この愛の他は!ああ、何という甘いときめきだ この胸の上に注がれるのは!ああ、私にもう一度聞かせてくれ 再びその言葉を!この暗闇に輝く星よ私が心を捧げた星よ愛の光で照らしてくれ もう太陽は昇って来ずともよいのだ)

 

AMELIA Ahi, sul funereo letto Ov'io sognava spegnerlo,Gigante torna in petto L'amor che mi ferì!Ché non m'è dato in seno A lui versar quest'anima?
O nella morte almeno Addormentarmi qui?❞

 (【アメーリア】ああ、死の床で私はこの夢を消し去ろうと願っていました でも胸の中でどんどん大きくなって行きます 私を傷つけるこの愛は!なぜ私は注ぎ込むことができないのでしょう あの方に私の魂を?できないのならば 死の中で 眠ることはできないのでしょうか?)

ここは愛の陶酔の極致ともいうべき情熱的な二重唱をアメーリア役ジョイスは益々上り調子のソプラノで、タイトルロールリッカルド役のアゼル・ザダも、それまでの不調を払しょくする気概が感じられる歌唱でした。会場は二人にこれまで以上の喝采と歓声を投げかけていました。

 

第3幕

この場面は仮面舞踏会の幕です。矢張り仮面舞踏会と言ったら、何と言ってもイタリアが本場。ヴェネチアのみならずミラノ等他の都市国家でも行われていました。米国ボストンで行われていたかは、寡聞にして知りません。

⑥アリア「私の最後の願い」(アメーリア)

では、夫によって殺されると覚悟した彼女は、殺される前に息子に合わせて欲しいと切々と歌うのでした。この日一番の出来ではなかったでしょうか。これには観衆もグッときて会場内はヤンヤの轟音の渦が巻き起こりました。

⑦アリア「おまえこそ心を汚すもの」(レナート)リッカルドへの怒りと妻への思いを歌い綴るバリトンの名アリアの場面をレナート役のヴァシレは見事にそのうっぷんを爆発させるが如き感情を込めた詠唱でまたもや大きな拍手を呼び込んでいました。

これに対してレナートの凶刃に倒れた瀕死のリッカルドが、最後のアリアを歌います。

⑧ロマンツァ「もしも、私が永遠に」(リッカルド)では、アメリアへの愛を諦める決心した切々とした思いを歌うのですした。しかしリッカルド役のアゼル・ザダはここでは、瀕死の重傷の歌ですから、声も途絶え気に息も絶え絶えに歌うのでなく、普通の美しいテノールの声をしっかりと出して歌っていたのには、違和感を抱きました。この最後の歌い振りからすると、彼は今日だけが不調の日でなく、いつもこの調子の歌手、即ちまだ世界的に耐えられるレヴェルに達していない歌手なのでは?という一抹の疑念が湧いて来てしまうのです。

 でも最後は、皆さんの今日の演奏に最善を尽くされ聴衆を楽しませて呉れたことに対する大歓声と拍手がいつまでも鳴り響く大ホールでした。


 それにしても、この物語は、単なる不倫というより、そこまで至らぬ不倫騒動です。リッカルドの言葉に何回も出て来るように、疚しいことはしていない、あくまで純潔なプラトニック・ラブであると。でも夫レナートとしては妻の気持ちもすべて自分に向けて欲しいと思っての逆上・凶行、それが普通なのでしょうか?この話をうちの上さんにしたら、❝私なんか、学生の頃<材木屋>と呼ばれていたけど、今では木(気)はぜーんぶ燃え尽きちゃって残り灰ばかりよ❞ ですって。へいへいサイですか。

 

総じて今回は期待した八割方満足出来る上演でした。またムーテイさん元気で日本のファンに素晴らしい音楽を届けて下さい。

 

<参考>

東京春祭オーケストラ