この映画は9月から上映していることは知っていましたが、これまで見ていませんでした。何かとやることが多いことと、若干の躊躇の気持ちも有ったものですから。ドキュメンタリー映画なので、脚本家や監督の考えに染まった映像を見てパヴァロッティのゆがんだイメージを持ってはいけないという気持ちがあったからです。 むしろMETライビングビューの映画でパヴァロッティ出演のオペラでも見た方が、純粋な音楽としての楽しみと評価が可能と思っていましたが、上記映画の上映終了まであと一週間も無くなってきて、やはり見ておこうと考え、急遽今日(10/17土)映画館に出掛けました。ただコロナ感染がいっこうに衰えていないので、映画館に行ってみて若し観客が多くて混雑する様だったら、あきらめようと考えました。上映館は渋谷ル・シネマです。渋谷に行ってみて、これではコロナも一向に衰える筈がないと一目で分かったのは、何せびっくりする程多くの若者たちが闊歩し、お喋りしながら、大声で笑いながら、嬌声を上げながら、通りをぞろぞろ続いて居ることです。
あるビルの前では人だかりで何か見ている。この状況はコロナ以前の昨年のスクランブル交差点で目一杯の人々が交錯通過する状況以上の混雑ぶりです。しかも皆本当に何事も無い様な表情で、完全に全然平気な様子なのです。感染していても、皆若いので症状が出ない人が多いからなのでしょうか?こういった状況下では、この先何か月も、いや何年もコロナと付き合いざるを得ないでしょう。ほとんどの人が感染して免疫を持つか、安全なワクチンが出来るまでは。駅から映画館まで速足で進み、チケット売り場で訊いたら全然混んでいないとの事。うら寒い雨の日で、上映終了に近づいているからなのでしょう、きっと。コンサートを聴きに行ってこれまでコロナ対応で研ぎ澄まされた?勘を働かせ、脇に人が来ないと推測される席の当日券を買いました。入場して上映開始まで前の列8席は連続空席、隣は6席連続空席、最後部なので後ろは無しでした。ルシネマ2の座席数は130弱ですが、上映開始前に観客数を数えたら30人に満たなかったのが、上映時間ギリギリに次々と客が入って来て、最後に数えると48人入っていました。約1/3でしょうか、でも自分の周りは不思議と誰もおらず、ポッカリ穴が開いた様な空間となっていました。Lucky!
さて映画の概要は以下の通りです。
【監督】ロン・ハワード
【内容】
神の声を持つと称されるイタリアのオペラ歌手、ルチアーノ・パヴロッティの生涯を収めたドキュメンタリー。故ダイアナ妃との交流やボランティア活動、家族とのプライベート映像からその人間性に迫る。「ラ・ボエーム」「トスカ」などのパフォーマンスや、3大テノール共演で「トゥーランドット」の名曲を披露した伝説のステージ、U2のボノなど23人におこなったインタビューも収録。
【キャスト】
ルチアーノ・パヴァロッティ、
アドゥア・ヴェロー二(前妻)
ニコレッタ・マントヴァーニ(現妻)
ロレンツァ(パヴァロティの子)
ジュリアーナ( 同上 )
クリスティーナ( 同上 )
アンジェラ・ゲオルギー
ホセ・カレーラス、
プラシド・ドミンゴ
ヴィットリア・グリゴーロ
ズービン・メーター
アンドレア・グリミネッリ
ラン・ラン
マデリン・レニー
ボノ 他ポップス、ロック界の歌手
【パヴァロッティ歌唱楽曲】
プッチーニ「ラ・ボエーム」
ドニゼッティ「連隊の娘」
ヴェルディ「リゴレット」
レオンカヴァルロ「道化師」
プッチーニ「マノン・レスコー」
ディ・カプア「オ・ソレ・ミオ」
プッチーニ「トゥーランドット」
ドニゼッティ「愛の妙薬」
プッチーニ「トスカ」ほか
【感想】
パヴァロティの歌声は、将に「天の衣は縫う事無し」最盛期の朗々と響く観客席を燦然と輝かす歌声は、将に太陽光線、よく宗教画に描かれる神の御光とも言えます。的を射たタイトルです。終盤に観客が、“最盛期と比べると歌声が劣る”といったことを言うのですが、それに対しドミンゴが、“歌には歌う歌手のそれまでの全ての経験、経歴、喜び、悲しみが含蓄されている、劣る云々でなく、その辺りを聞き取って欲しい”と言った趣旨の事を語る言葉には、重みがありました。歌が衰えても、益々味が出ますね。
それにしても何十年も連れ添った糟糠の妻を捨てて新しい女性との生活を始めたのは、少し年齢的に無理があったのでしょう。短い年数で亡くなってしまった。死ぬ前に落胆させ悲しませる人々を多く作ってしまったと思います。父親と数年しか一緒におれなかった後妻の幼子、前妻の関係者、多くのまじめなファンたち、経験なクリスチャンたち。『愛』と言う言葉をパヴァロティは真に理解していたのでしょうか?私なぞ何十年も連れ添った糟糠の妻を捨てること等絶対に出来ません。まー「人生いろいろ、男もいろいろ、女だっていろいろ、咲き乱れるの」かも知れませんけれどねー。
それから面白かったのは、野外コンサートで、チャールズ皇太子と一緒に聴きに来ていたダイアナ妃にパヴァロティが「マノンの歌(オペラ、マノンレスコーより)」を奉げると、ダイアナ妃は感激してそれ以降大ファンとなったという事です。
以後パヴァロッティは慈善活動やチャリティコンサートに力を入れ始め、戦争後のサライボの復興にも協力したそうです。
“英雄色のみを好むにあらず” ですね。
冒頭に出て来るアマゾン川の奥深くのコンサートホールでのコンサートや、ローマのカラカラ大浴場での野外コンサート、人民大会堂でのコンサートなど様々な場所でのレアもの映像と音楽が聴けたのも、大変興味深いものでした。