HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

『久し振りの音楽会、メーリ の歌』に酔う

 東京文化会館で、フランチェスコ・メーリのリサイタルを聴いて来ました。

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 コロナ感染の恐れから音楽会に行くのは、ずーと自粛していましたが、ここ数日目に見えて、新規感染者数が減って来て、感染リスクは小さくなったと言えそうです(勿論警戒は怠れませんけれど)。ホントに久し振りのコンサートでした。昨年12月の庄司さんのコンサート以来かな?

 メーリは今やイタリアを代表するテノール歌手の一人と言って良いでしょう。各国の歌劇場で実績を積み重ねてきました。文化会館H.P.で紹介されている経歴を次に転載します。

1980年イタリア・ジェノヴァ生まれ。17歳より声楽を始め、エンリコ・カルーソー国際声楽コンクール、リッカルド・ザンドナーイ国際声楽コンクールなどで入賞。
2002年スポレートのドゥエ・モンディ音楽祭において、『マクベス』、『小荘厳ミサ』、プッチーニ『グローリア・ミサ』でデビュー。わずか23歳で、ムーティ指揮『カルメル会修道女の対話』に出演し、ミラノ・スカラ座デビュー。続けて、『オテッロ』、『ドン・ジョヴァンニ』、『マリア・ストゥアルダ』等に出演。これまでに、スカラ座では、18もの異なる作品に出演した。最近では、ロンドン、ジェノヴァ、ウィーンで『シモン・ボッカネグラ』、ミラノ・スカラ座『椿姫』、『エルナーニ』、フェニーチェ歌劇場『アイーダ』、ムーティ指揮シカゴ交響楽団ヴェルディ『レクイエム』等に出演。スカラ座の2019-20シーズン・オープニングとなった『トスカ』(カヴァラドッシ役)は日本を含む世界各国で放送され絶賛を博した。

   スカラ座の2020-21のオープニングは、コロナ禍により無観客ガラ・コンサート(2020.12.7.)になりました。世界に無料配信(U-tube)されたのでそれを鑑賞したのです。

 そこでは世界の錚々たる歌手たちが、次々に歌声をスカラ座に響かせました。21.番目にFrancesco Meli が登場し、G. Verdi – “Ma se m’è forza perderti” from Un ballo in maschera (ヴェルディ『仮面舞踏会』から❝たとえ失なっても❞)を歌っていました。

 一方、昨年2020.6.4.にイタリア・ピアチェンツアのPalazzo Farnese,(ファルネーゼ宮)の特設会場で.行われたメーリのヴェルディ・ガラコンサート(ピアノ伴奏Davide Cavalli)が開催され、ライヴ配信されたものを、U-tubeで観ました。ヴェルディ『ドン・カルロ』の「❝lo l'ho perduta・・・ ❞」のソロから始まり、またルカ・サルシ(Luca Salsi)との二重唱他『運命の力』『仮面舞踏会』『オテロ』からのアリアをピアノ伴奏で歌うのを聴きました。比較的くせの無い素直な伸びのある安定した歌い振りでした。息も長く続き息継ぎも上手、経験の為せる技かなと思われました。デュエットもアウンの一致というか息の良く合った歌声を響かせていました。それにしても、伴奏ピアノがYAMAHAだったことには少し驚きましたが。

 メーリの来日演奏は、2018年6月にバーリ歌劇場来日公演の際『イル・トロヴァトーレ』のマンリーコ役を歌い好評を博しましたが、今回の来日では、先月1月23日に新国劇オペラパレスでの『トスカ』のカヴァラドッシ役を演じました。昨年そのチケットを購入していて、聴くのを楽しみにしていたのですが、残念ながらその時期になるとコロナ感染が拡大し、緊急事態宣言も発せられた状況だったので、聴きに行くのをあきらめて自粛しました。その後のメーリ公演は地方各地でリサイタルをやって、東京に戻り、2/13の文化会館でのリサイタルを開いた訳です。

 今回のプログラムは以下の通りです。

 

【日時】:2021年2月13日(土)15:00~

【会場】:東京文化会館小ホール

出演:テノール:フランチェスコ・メーリ
   ピアノ :浅野菜生子(当初予定のダヴィデ・カヴァッリは来日不可で変更)

【曲目】:

   ①ロッシーニ:「音楽の夜会」より「約束」

   ②ドニゼッティ:ああ、思い出しておくれ、美しいイレーネ

   ③ベッリーニ:お行き、幸せなバラよ

   ④ルイージ・マイオ:アルケミケランジョレスカ【世界初演】

   ~ミケランジェロの 火、風、地、水の詩によせて~

a肉は地となり(詩篇197、215、110)

b私は水となり(詩篇231)

cどれほどの木や風が(詩篇57)

d火はすべての害となるだろう(詩篇122)

   ⑤トスティ:最後の歌/理想の人/君なんかもう愛していない/魅惑/夢

   ⑥マスネ:オペラ『マノン』より「目を閉じれば」(夢の歌)

   ⑦ヴェルディ:オペラ『ルイザ・ミラー』より「ああ!自分の目を信じずにいられた 

          ら~穏やかな夜には」

   ⑧ジョルダーノ:オペラ『フェドーラ』より「愛さずにはいられぬこの想い」

   ⑨プッチーニ:オペラ『トスカ』より「星は光りぬ」 

 

【演奏の模様】

  予定の曲目は2/11のびわ湖ホールでのリサイタルの曲と同じみたいですが、良く錬ったものと見えて、前半部の前半四半部は古典イタリア歌曲、後半四半部は、現代イタリア歌曲、休憩後の後半はオペラからのアリアと、それぞれ楽しめる構成になっています。

 最初の①の歌を歌い出したその声は、小ホールを満たすには、十分過ぎる程の声量で、扇状に広がった650程の満入り座席の正面を向いていた顔を時々右、左にも向けて歌う気遣いもしていました。ドラマティックな声です。

②を歌い出すとさらに声に張りと伸びが出て、狭い会場に力強い歌声が響きました。若干コロラテューラが不明瞭かな?低音の輝きが鈍る時もありました。全体的にロマンティックな歌詞のニュアンスは感じ取れません。

①や②の様な歌声で愛を訴えられたら女性は逃げてしまうかも知れない? でも、聴衆の反応は大きくて盛んに拍手をしていました。

③になるとややリリコな歌い方も交えイタリア歌曲の神髄を表現して歌い終わると、ここで初めて退場、前半部の半分が終わりました。 愛の歌曲ですから、もっと叙情的な感じがあっても良いのでは?

 再登場したメーリは、今度は、現代イタリア歌曲を歌いました。

 ④の曲は、ミケランジェロの詩にメーリの友人であるルイージ・マイオが作曲したもので、地、水、気、火に関する4部作から成る歌曲の前3曲は世界初演だそうです(火に関する第4曲は、スカラ座で2017年に初演済みとのこと)。

 聴いた感じは通常の現代曲とも異なる古風な色彩も保持する不思議な感じの歌でしたが、メーリは何れも力一杯、大声で歌い通しました。

⑤のトスティは19世紀末にロンドンで活躍したイタリアの作曲家です。5曲の中では、三つ目の「君なんかもう愛していない」が最高の出来だと思いました。この曲を何回も何回も歌い慣れているのか、高い声も歌のテンポも最適化されている感があって、冒頭からいいと思いました。最後の部分は、高い裏声の様な声で長ーく引っ張り消え入る様に歌い終わりました。思わず力一杯大きな拍手を長くして手が痛くなる程。

 <二十分の休憩>

後半はすべてオペラからのアリアです。

⑥「マノン」は有名なプッチーニの「マノン・レスコー」ではなく、それ以前にマスネが作曲したオペラで、何れも原本は、アベ・プレヴオーの小説に基づいています。デュマ・フュスの「椿姫」でも、主人公が読む小説です。

 最初に長くピアノの独奏が有り、そのうちにメーリが登場、歌い出しましたが、それを聞いても、歌詞にある❛森、隠れ家、木陰、小川、小鳥、❜などのイメージは浮かびませんでした。最後の歌詞の様に意図的にその様に歌ったのでしょうか?何故なら❝マノンがいない❞から。
 ピアノの音は非常に綺麗で、抒情的で、歌う様に弾いていました。さすが伴奏のプロフェッショナルですね。

やはり圧巻は、本曲の最終曲⑨、トスカ「星は光りぬ」でしょう。 

この曲は余りにも有名で多くの名歌手が歌っています。つい比較してしまうのですが、パヴァロティなんか楽々と自然に声を出していた様な気がします。対するメーリーは、歌の職人(マイスタージンガー)が口と喉と体で、歌声を作りあげて出している感じ。それが何とも言えず良い雰囲気を醸し出しているのですから不思議なものです。歌い終わると聴衆は、湧きに沸いていました(勿論声援無しですが)。

 

 最後にアンコールがありました。それが、一曲目、二曲目、三曲目と何曲歌っても何回も舞台に現れ、次々とアンコールしたのです。聴衆は、熱狂に熱狂の渦で、声こそブラヴォーと叫ぶことは出来ないですが、書いたプラカードを広げる人、両手を大きく上に上げて拍手する人、手を振る人皆興奮していました。最後の頃になると皆、スタンディングオーヴェーション(満場総立ち)になりました。結局、アンコール曲は十曲を数え、コンサートの予定曲より多かったのです。こんなことは滅多にありません。私の経験からすると、昔、文化会館だったかどこだったか記憶が俄かには戻りませんが、カティア・レッチャレッリのリサイタルを聴きに行った時、本曲よりアンコール曲を多く歌って観客(特に男性ファン)が舞台下まで押し寄せた記憶があります。ミレッラ・フレーニの時もアンコール曲は多かったのですが、本曲数を超えることはありませんでした。これはすごいサービス精神ですね。一昨年聴いたグリゴーロのアンコールやその前のネトレプコのアンコールの時は少なくて、その辺の不満(?)について書いた記憶があります。要するに、聴衆はこれでもかこれでもかと多くの歌を歌う歌手を求めている。それ程、歌を聴きたいと思っている貪欲な存在なのです、と。

 何回もアンコール曲を歌ってくれるので、心の中では 「椿姫!椿姫!」「アルフレッド!アルフレッド」とリクウェストを叫んでいましたが、最後の最後にそれを歌ってくれたのです。やはり日本人には「椿姫」が特別な存在だとオペラの本場イタリアでも思われているのでしょうね。もう言う事無しでした。

【アンコール曲目】

Ⅰデ・クルティス:忘れな草

Ⅱトスティ:暁は光から闇をへだて

Ⅲドニゼッティ:オペラ『愛の妙薬』より「人知れぬ涙」

Ⅳレオンカヴァッロ:マッティナータ (朝の歌)

Ⅴトスティ:かわいい口元

Ⅵレハール:喜歌劇『ほほえみの国』より「君はわが心のすべて」

Ⅶカルディッロ:カタリ・カタリ(つれない心)

Ⅷディ・カプア:オー・ソレ・ミオ

Ⅸプッチーニ:オペラ『トスカ』より「妙なる調和」

ヴェルディ:オペラ『椿姫』より「燃える心を」

 メーリーの歌は決して派手さのある名人芸ではないですが、堅実でしかも自分の型を完成に近づけています。聴いて安心感のある歌手でした。先だってのある会場にメーリを聴きに行った人が、”登壇したのは大学教授然とした風貌の優雅な雰囲気の歌い手”といった趣旨のことを書いていましたが、将にその様な感じ、妙を得た表現です。歌い方を音楽大学で若者に教えれば、様々な歌のノウハウを教授で出来そうな歌手だと思いました。