HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

『月仙をめとった男』②

 今日(5/25土)はウィーンフィル来日公演のチケットの一般発売日でした。先月4/27(土)の先行発売日は、帯状疱疹が発症した日で、慌てて休日診療所に駆け込んで行った時だったので、購入することは失念したのです(もうかれこれ一ヶ月近く経つのですね。今日現在も赤痣の様な跡は消えず、まだ痛みが残っています)。今日の発売時間AM10時前には一時間も前からスマホ複数台、i-Pad 、デスクトップパソコンを起動、スタンバイさせて背水の陣で臨んだのでしたが、結果はみじめにも完敗でした。それまで繋がっていたサントリーホールの購入サイトが、時間になった途端動かなくなり、「アクセス超過」のエラーが出て、数分後につながったと思ったら、「全席完売」の表示になっていました。瞬間蒸発したチケットたち。先行販売で多くは無くなって、今回は残り少なかったのかも知れません。これから夏から秋にかけての来日海外オケなどのチケット発売が目白押しです。いくつかはすでにゲットできたものも有りますが、今後果たしてどうなることやら?

 

『月仙をめとった男』②

 

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 子美は嫦娥を娶ってから、急に家が豊かになり、屋敷や廊下が街路に長く並びたつほどになった。嫦娥はふざけるのが上手で、ある時、美人画の巻物をみつけ、子美に「僕は君のような美人は天下にまたとないと思 っているんだが、ただ飛燕(漢代の宮女で、燕のごとく身軽で美しかった)と楊貴妃とだけは会ったことがないんでね」と言われると、笑いながら、

「会いたいとお思いなら、ぞうさもないわ」 と言って、しばらく巻物をとって、しげしげ と見ていたが、やがて、走って奥の部屋へはい り、鏡の前で化粧すると、飛燕が風に舞うまねをやり、それが終ると、楊貴妃が酔いを帯びているさまをやって見せた。身のたけや肥りぐあいなど、その時々に変えてみせ、姿といい、感じといい、画中の人そっくりであった。ちょう どそのまねの最中に、下女が外からはいって来 て、誰だかわからず、仲間にたずねて、さらによくよく注意して見て、やっとわかって笑っ たのだった。子美が喜んで言った。

「僕は一人の美人をつかんだのに、昔からの美人がそろって寝間にいる」

 ある夜、熟睡している時に、数人の者が戸を こじあけてはいって来た。たいまつが急に壁をあかるくしたので、女はあわててとび起き、驚いて、「賊がはいりました」と叫んだ。子美がやっと目をさまし、声を立てようとすると、一人 が白刃を頭につきつけたので、恐しくて気息も できない。他の一人が嫦娥をうばって背中にか つぎ、ときの声をあげて去っていった。子美が やっと叫んで、家の者たちを呼び集めた。部屋 の珍しい品は何ひとつなくなっていない。嫦娥のみが、連れ去られたのでした(李氏朝鮮の国では、「ポッサム」という言葉がありました)。子美 は悲しみの余り、しょげかえって考える力もな ければ、生きた心地もしなかった。

 官に追っ手を願い出たが、何の消息もない。 ぐずぐずして三四年たった。子美は時々として 常に心安まらない思いであったので、試験を受け にいくという口実で京師へ上った。在京するこ と二年ばかり、子美は占ってもらったり、たず ね歩いたり、ありとあらゆる手をつくしたのだった。

 たまたま姚巷を通っていると、一人の女にあ った。顔はよごれ衣服はやぶれ、まるで乞食の ような賤しさであったが、足をとめてうかがうと何と 顚当である。驚いて、 「お前、どうしてこんなにやつれたの?」と問いただすと女が答えた。

「お別れして南に移りましてから、老母に死なれ、私は悪人にかどわかされて金持に売られ、 ぶたれたり、はずかしめられたり、飲物・食物 にもことかき、そりゃ言葉では言えないほどですの」  子美は涙をながして、お金で買いもどせるかどうかを尋ねた。

「そりゃむずかしいわ。と てもたくさん出さなきゃな らないでしょう。できない ことですわ」

「実を言うと、僕、近頃は なかなか金持ちなんだよ。 惜しむらくは旅先で、旅費 に限りがあるんだが、荷物 や馬を売りとばしてもかま わないよ。もっとたくさん 要求されるなら、家に帰っ てこしらえて来るんだ」

二人は明日、西城の外の 梅のしげみの下で会うこと を約束し、かつ女は子美に独りで来てくれるように、人をつれて来ないようにとたのみ、子美は承知した。

次の朝、行ってみると、女は先に来ていた。

上衣も裏裾もはなやかで、昨日とは大がちがいである。驚いてたずねると、

「あなたの心をためしてみただけよ。昔のお気持のままで良かった。どうぞ私の宅まで来て下 さいまし。ちゃんとお礼をしなくちゃいけませ んもの」

北へ少し行ったところに女の家があった。女 は酒肴を出して、ともに語りあった。子美が一緒に家に帰ってくれとたのむと、女は、 「私には俗なかかりあいが多くて、あなたにつ いてはいけません。嫦娥さんの消息は私、よく きいているんですのよ」

子美はせきこんでその場所をたずねた。

「 行方ははっきりしませんし、私も深くは知る ことができないのですけれど、西山に片目の老人の尼さんがいますから、おたずねになれば、 きっと分かるわ」

 その夜は顚当の家に泊まってしまった。夜が 明けて、道を教えてもらうと、子美はその場所 へ出かけた。古寺があり、四囲の垣はすっかり くずれ、竹林のなかに半間の茅屋があって、そ の中で老尼は法衣のほころびをつくろってい た。客が来ても老尼はみだりに礼をしない。子美が丁寧に挨拶すると、はじめて頭をあげて応答した。子美は姓名をしらせ、女をたずねていることを告げた。

「八十歳の盲目の年寄で、しかも世間とは交わりのない者に、何処においでなのか、佳人の消息など分かるはずもありませぬ」 老尼はそう答えたが、子美は腰をひくくし、 しきりとたずねるのであった。

「実際に知りませんのじゃ。二三人親戚の者が 明晩たずねて来ますで、あるいは娘どもなら知 っている者もあるやもしれません。明晩、来 られるがよろしかろう」

 そこで子美は一度帰って、翌日にふたたびやって来た。老尼が外出していて、破れ戸がしま っていた。ずいぶん長い間待っているうちに、 日暮れ時になり、やがて明月が高くのぼりはじ めた。夜鳴鳥が啼いている。恐しくなったが、別 に行くところもないので、あたりをぶらぶらし ていると、遙かに二三人の女が外からはいって 来るのが見えた。

何と、その中の一人が嫦娥 であった。子美は嬉しさの余り、とび起きていって、やにわにその袖をつかまえた。嫦娥が言っ た。

「乱暴な方、私をひどくびっくりさせて!う らめしいのは顚当さんのおしゃべりね。おかげ で人が情の執念にまつわりつかれるのだわ」

 子美は女をひっぱって坐らせると、手をとっ てねんごろにし、次々に自分の艱難を訴えてい るうちに、つい悲しくなって涙してしまった。女が言った。

「本当を言いますと、私は罪をうけてこの世に 島流しになった本物の嫦娥(不老長寿の美を盗んで月から下って来た伝説中の人物)です。俗世界に浮き沈みしていましたが、期限が満ちましたので帰る時が来ました。賊 にさらわれたことにすれば、あなたも望みが絶って諦めると思ったの。老尼様も月の西王母様の御殿を守っ ている人で、私がはじめとがめられた時、お世話を受けました。ひまがありますと何時もお見舞いにあがるの。もし、あなたが私を放し てくださるなら、私のかわりに顚当さんに来て いただくようにして差し上げるわ」

 子美は不承知で、首をたれて涙をおとすので した。女は遠くをかえりみて、 「みなさん、いらっしゃったのね」と叫んだ。

 子美がその方あたりを見てから、ふっと振り返えると、嫦娥はもうい なくなっていた。子美は声をたてて泣きさけび、もう 生きる気持もなくなってしまい、帯をといて首をくくったのでした。

 恍惚として魂がすでに身体をぬけ出したのを 感じた。悲しくも、魂は行き場を失っている。する と突然、嫦娥のやって来るのが見えた、嫦娥は 子美を押さえてかかえていた。子美の霊は地を離 れ、寺の中へはいっていった。嫦娥は樹の枝の 死体を手に取りながら叫んだ。

「お馬鹿さん! 嫦娥は此処にいるのに・・・」  

突然、子美は夢からさめたような気持になった。そしたら生き返っていた。し ばらくして気がしずまると、嫦娥が、 「顚当は下賤よ! 私を苦しめたり、あなたを 殺したり、私、ゆるしておけないわ」

と 怒った。

      〜続く〜