『入梅(にゅうばい)』はあくまで暦上の雑節こと。所謂『梅雨入り』を意味しません。歴書によれば、『入梅』は、旧暦使用の頃には五月節芒種 (ぼうしゅ)に入って最初の壬 (みずのえ)の日を入梅としていました。 現行の新暦では、太陽の視黄経が80度に達した日をもって入梅とし、おおよそ太陽暦の6月11日ごろにあたりますが、今年は今日6月10日です。
これに対し、「梅雨(つゆ)の入り」は純粋に気象予報の分野の用語で、今年の関東地方の梅雨入りは、気象庁の予報では、「関東甲信越地方では記録的に遅い、つゆ入り」だそうです。
今日も昨日夜から雨が降っていますが、湿度が高いと人間の感覚も晴れの日とは異なって来るようです。
精神的に何となく鬱陶しく感じ、憂鬱になる時も有りますが、次の例文の様に、人間の嗅覚は湿度に因って強くなるという事も有ります。
❝五月(新暦だと六月です)の長雨のころ、上の御局の小戸の簾に、斎信の中将の寄り給えへりし香は、まことにをかしうもありしかな。その物の香ともおぼえず、おほ かた雨にもしめりて、えんなるけしきの、めづらしげなきことなれど、いかで かいはではあらん。またの日まで、御簾にしみかへりたりしを、わかき人など の世にしらず思へる、ことわりなりや。(枕草紙202段、岩波文庫)❞
このことは、現代でも庭草の香りが、雨の日に強く薫ることからも明らかです。
この草の香りに関しても枕草子では第223段で次の様に述べています。
❝五月ばかりなどに山里にありく、いとをかし。草葉も水もいとあをく見えわたりたるに、上はつれなくて草生ひ茂りたるを、ながながとただざま に行けば、下はえならざりける水の、ふかくはあらねど、人などのあゆむには しりあがりたる、いとをかし。 左右にある垣にある、ものの枝などの、車の屋形などにさし入るを、いそぎ てとらへて折らんとするほどに、ふと過ぎてはづれたるこそ、いとくちをしけれ。蓬の車に押しひしがれたりけるが、輪の廻りたるに、近ううちかかりたるもをかし。
そう言えば先日テレビの料理番組で、この時期の蓬は香りが強いので、餅と一緒につき、蓬餅を造るといい香りがするというのを見ました。今度うちの上さんに、造ってみない?と言ってみようかな?