HUKKATS hyoro Roc

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オペラ『修道女アンジェリカ&子供と魔法』ダブルビル二日目鑑賞


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《二演目ダブルビル上演》
🔘ジャコモ・プッチーニ『修道女アンジェリカ<新制作> 』Suor Angelica / Giacomo Puccini
全1幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉


🔘モーリス・ラヴェル『子どもと魔法<新制作>』
 L'Enfant et les Sortilèges / Maurice Ravel
全2部〈フランス語上演/日本語及び英語字幕付〉

 

〈令和5年度(第78回)文化庁芸術祭オープニング・オペラ〉
【公演期間】2023年10月1日[日]~10月9日[月・祝]
【予定上演時間】約2時間25分

(『修道女アンジェリカ』65分  休憩35分 『子どもと魔法』45分)

【Introduction(主催者)】

《プッチーニの描く奇蹟とラヴェルのファンタジー~~母子の愛のダブルビル》

 ダブルビル(2本立て)シリーズの第3弾として、プッチーニ『修道女アンジェリカ』とラヴェルの『子どもと魔法』をカップリングして上演します。『修道女アンジェリカ』は、プッチーニ晩年の「三部作」の二作目で、ラストシーンの混声合唱を除き登場人物すべてが女声だけで演じられ、宗教的、叙情的な空気に満ちた作品です。約50分の中に、修道女たちの穏やかな情景、アンジェリカと叔母である公爵夫人の緊迫したやり取りと悲嘆へのドラマティックな展開、そして神秘的な奇蹟のシーンが、プッチーニならではの雄弁な管弦楽で展開します。

 ラヴェルの『子どもと魔法』は、作曲家自身が「ファンタジー・リリック」と呼んだ、オペラとバレエの要素を融合させて作曲された作品。子ども目線で展開する趣向も楽しく、子どもはもちろん、大人のための寓話としても楽しむことのできる舞台作品です。ラヴェル独特の近代的な和声やリズム、華麗な管弦楽も魅力です。
 演出に国内きっての実力派オペラ演出家の粟國淳、指揮には近代作品も得意とする沼尻竜典が『フィレンツェの悲劇/ジャンニ・スキッキ』に続いて登場。ダブルビルならではのコントラストが楽しみです。アンジェリカには、トスカなどドラマティックな役柄でスター街道を駆け上がるキアーラ・イゾットンが、21年『トスカ』以来の出演となります。『子どもと魔法』子ども役には同役を特に得意とするクロエ・ブリオが登場します。

【公演日程】
2023年10月1日(日)14:00

2023年10月4日(水)19:00

2023年10月7日(土)14:00   

2023年10月9日(月・祝)14:00

 

《Staff&Cast》
【演 出】粟國 淳
【美 術】横田あつみ
【衣 裳】増田恵美
【照 明】大島祐夫
【振 付】伊藤範子
【舞台監督】髙橋尚史

【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
【指揮】沼尻竜典
【合 唱】新国立劇場合唱団
【児童合唱】世田谷ジュニア合唱団
【合唱指揮】三澤洋史


【キャスト】
🔘修道女アンジェリカ
〈アンジェリカ〉キアーラ・イゾットン
〈公爵夫人〉齊藤純子
〈修道院長〉塩崎めぐみ
〈修道女長〉郷家暁子
〈修練女長〉小林由佳
〈ジェノヴィエッファ〉中村真紀
〈オスミーナ〉伊藤 晴
〈ドルチーナ〉今野沙知恵
〈看護係修道女〉鈴木涼子
〈托鉢係修道女1〉前川依子
〈托鉢係修道女2〉岩本麻里
〈修練女〉和田しほり
〈労働修道女1〉福留なぎさ
〈労働修道女2〉小酒部晶子

🔘子どもと魔法
【子ども】クロエ・ブリオ
【お母さん】齊藤純子
【肘掛椅子/木】田中大揮
【安楽椅子/羊飼いの娘/ふくろう/こうもり】盛田麻央
【柱時計/雄猫】河野鉄平
【中国茶碗/とんぼ】十合翔子
【火/お姫様/夜鳴き鶯】三宅理恵
【羊飼いの少年/牝猫/りす】杉山由紀
【ティーポット】濱松孝行
【小さな老人/雨蛙】青地英幸
【合唱指揮】三澤洋
【合 唱】新国立劇場合唱団
【児童合唱】世田谷ジュニア合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

 

【Storyものがたり】
🔘修道女アンジェリカ

 夕暮れの修道院。礼拝を終え修道女たちは、アンジェリカは面会を待ち続けているのだと噂する。ついに面会の夫人が訪れる。アンジェリカの叔母の公爵夫人である。夫人はアンジェリカの妹の結婚のため、両親の遺産を放棄し妹へ与えるようにと遺産整理の手続きに来たのだ。アンジェリカは未婚の母であり、そのために7年前、子どもと引き離され修道院へ入れられていた。妹の結婚を喜び、わが子の様子をおずおずと尋ねるアンジェリカに、公爵夫人が子どもは2年前に亡くなったと伝える。悲嘆にくれるアンジェリカ。深夜、アンジェリカはひっそりと薬草を煎じて毒薬を作り、息子のもとへ旅立とうと毒をあおるが、すぐに自殺の大罪を犯しては天国へ行けないことに気づき絶望する。罪を悔い、聖母マリアに祈りを捧げるアンジェリカに奇蹟が起こり、天使の合唱の中、アンジェリカは息子に導かれ息を引き取る。


🔘子どもと魔法

 宿題がいやで文句だらけの男の子。お母さんは怒って、味気ないパンと苦いお茶をおやつに置いていく。男の子はポットやカップを割ったり、リスや猫をいじめたり、暖炉をかき回してやかんを引っくり返したり、壁に落書きしたり、時計を壊したり本を破いたりと暴れ放題。すると椅子が動いて「乱暴な子はまっぴら」とダンスを始める。時計も怒るし、ポットもカップも脅かすし、「悪い子を焼き殺そう」と火まで追いかけてくる。壁紙から落書きの羊飼い、破れた本からおとぎ話のお姫様、そして教科書から算数の問題を出す妙なおじいさんまで登場。男の子が庭に逃げ出すと、寄り掛かった木が「お前がつけた傷だ」とうめくのでびっくり。トンボやこうもり、カエルと、いじめられた生き物たちも次々に集まる。男の子が思わず「ママ」と叫ぶと、生き物たちが仕返ししようと飛びかかって大騒ぎに。怪我してしまったリスを男の子が手当てすると、生き物たちは子どもの優しいところに気づいて、気を失った男の子を助けて家まで運んで「ママ」と声をかけ、「坊やはいい子になった」と言って消えていく。月明かりのもと、目を覚ました男の子が「ママ」と呼びかける。

 

【上演の模様】

🔘修道女アンジェリカ

 オーケストラが鐘の音を繰り返し繰り返し鳴らし、舞台には、修道院の断面を表すのか、左右に衝立状の大きい柱が二セットづつ建っていて、階段やその下には、小さな広場、また階段の上にも、平らな地面状の空間が何段かに渡り左右に広がり、多くの修道女が往き来したり、話し合ったり、作業したしていました。皆白い被りと服装をしていて、どの歌手が、どの修道女なのか区別がつきません。特にアンジェリカが、どこにいるのかは、その後アリアを歌うまでは、見分けは付かない。女声合唱団の歌声がバックコーラスで響いて、修道院の雰囲気を一層引き立てていました。

 修道院長が一人と、二人の修道女長が最初何か修道女達に説教するか、指示するか歌を歌いましたが、どれが塩崎さんで、どれが郷家さんで、また小林さんがどれなのかも顔がハッキリしなくて、分かりませんでした。彼女たちの出演したオペラを沢山見て、顔の特徴を知っている人は、分かったのでしょうが。そうしているうちに修道女は二十数人も壇上に集合し、女声合唱の歌声を上げるのでした。誰かが、アンジェリカに会いに来るらしい。誰だろうか?そうした中、アンジェリカ役のキアーラ・イゾットンが登場、ここに来て七年間も待った・・・と歌ったのですが、立ち上がりだからなのかどうか?噂程の(NNTTが「スター街道を駆け上がる」と宣伝する程の)歌唱力は感じられませんでした。むしろ第一声は、声力も纏まりも無く、❝どこがスター街道なの?❞と訊きたいくらいでした。

 そして修道院のアンジェリカを訪問したのは、彼女の伯母の公爵夫人という事で、アンジェリカの出自も高い身分であったろうと推測されます。アンジェリカは罪を償うために修道院に入れられたという事は、何等かのスキャンダル・事件が発生したことが原因だと推測されます。公爵夫人役は、予定した外人歌手が来日せず、代役として日本人の斎藤純子さんが歌いました。ところが斎藤さんは第一声から、思っていたよりも随分と堂々と、立派な歌い振りで、最初はむしろアンジェリカを食って、どちらが主役か分からない程でした。

 しかし場面も進み、アンジェリカと公爵夫人の会話(歌の掛け合い)の中で、屋敷に残して来た(預けて来た)一人息子が死んでしまったことが判明、ビビアンが驚き、嘆き、悲しむ箇所あたりになると、特にアンジェリカの歌は、実感がこもっていて、将にソプラノは伸びやかな歌声を、張り上げる様に変貌して行きました。その「泣く子を偲んで」どころでない激しく慟哭する歌こそ、このオペラの聞かせ処、見せ所になっているのも当然かなと思うのです。修道院に入れられた原因は、何かと様々な推測がなされています様に、子供をアンジェリカが生んだことに起因しているように思われます、

 『母も無く』というアンジェリカのアリアは次の様です。

 

    『母もなく』

プッチーニ作曲:オペラ「修道女アンジェリカ」より:アンジェリカのアリア

~G.Puccini:Opera Suor Angelica": Aria di Angelica~

 

Senza mamma.
母親を知らずに、
o bimbo, tu sei morto!
ああ、坊や、お前は死んでしまったのね!
Le tue labbra.
お前のあのくちびるは
senza i baci miei,
私の口づけもなく
scoloriron
血の色を失ったのね。
fredde, fredde!
冷たく、冷たく!
E chiudesti,
そしてその美しい瞳を
bimbo, gli occhi belli!
閉じてしまったのね。
Non potendo carezzarmi,
私に触れる事も出来ないまま
le manine componesti in croce!
その可愛い手を十字に組んでしまった!
E tu sei morto
お前は母親が
senza sapere
どれほどあなたを愛していたかを
quanto t'amava
知ることも無く、
questa tua mamma!
死んでしまった!
Ora che sei un angelo del cielo.
でも今、お前は聖なる天使、
ora tu puoi vederla la tua mamma!
今はお前の母親を見ることが出来るでしょう!
tu puoi scendere giu pel firmamento お前は星空を通って降りて来ることが出来るのよ。
ed aleggiare intorno a me....
そして、私の周りを飛び回ることも...
ti sento...
お前を感じるわ...
Sei qui... sei qui...
お前はここよ... ここにいるわ...
mi baci...
私に口づけしている...
m'accarezzi
私を愛撫しているわ...!
dimmi quando in ciel potro vederti quando potro baciarti!...
? 教えてちょうだい。いつお前に会えるの?
いつお前に口づけ出来るの?
Oh! Dolce fine di ogni mio dolore !
ああ! 私の全ての苦悩の優しい終焉よ!
Quando in cielo conte potro salire?... いつお前と天に昇ることが出来るの?
Quando potro morire?
いつ死ぬことが出来るの?
Dillo alla mamma, creatura bella,
言っておくれ、 可愛い幼な子よ、
con un leggeroscintillar di stella... parlami, amore, amore!...
星の優しい輝きとともに...
言っておくれ、 愛しい、愛しい坊や!

 矢張り子を思う母親の気持ちは、古今・東西・人種に依らず、いずこも同じなのでしょう。(最近の子供虐待の心理が分からない)そうでなければ、子供を育てませんよ。ホモサピエンスは絶滅してしまうでしょう。

 息子に会うのが一縷の望みで修道女生活を七年も堪えていたのでしょうから、死にたくもなりますよ、アンジェリカは。でもキリスト教では、自殺は大罪なのですね。地獄に落ちます。あの世で、子に会えると思って服毒したのでしょうが、一般人なら大罪と知らず自らの命を絶つ者も出て来るでしょう。しかしアンジェリカはキリストに一番近い奉仕者(神のしもべ)なのですから、大罪の事は十二分認識していたと思います。その辺りがこのオペラを聴いて、変だなと思いました。このアリアなどイゾットンの歌い振りは、尻上がりに調子が出た感じです。聴きごたえのある歌でした。

 

🔘子供と魔法(1925年完成)

(置と登場人物のコスチュームがとてもユーモラスでカラフルなメルヘンチックな物語でした。漫画チックと言ってもいいでしょう。恐らく、主人公の子供は夢を見ていたのでしょう。「くるみ割り人形」のクララの様に。登場人物どころか身近な動物のみならず、生活器具までもが命を与えられ、彼らは子供に対しこれまでの扱いに不平不満をぶつけるのでした。

開幕】新国立劇場オペラの新シーズン プッチーニとラヴェルの新制作「修道女アンジェリカ/子どもと魔法」 静から動、暗から明、の鮮やかな転換に感嘆 –  美術展ナビ

考え様によってはこれは、大人に対しての警告でもあるかも知れない。この子供が気が付かなかったような犠牲者、被害者が、大人の場合だってあるでしょう、きっと。自分では気が付かないだけで。

 子供が、最後は取り囲まれて報復される箇所は、少し台本作者のやり過ぎの気もしないではないです。リンチは許されないし、子供がかわいそうですから。怪我までしてしまいましたね。でも最後は皆な子供が実は優しかったのだと見て取れて、ハッピーエンドになっていたので安堵しました。

 それにしてもラヴェルは又何という個性的な作品を作ったのでしょう。

 ラヴェルは1911年、36歳の時、オペラ『スペインの時』を初演したのですが、不評に終わり、晩年は病気がちな体となり、オペラ『ジャンヌダルク』を目指したものの書き進めず、挫折して死に至る病の進行が有りました。『魔法と子供』は曲も優しくて綺麗なラヴェルの別の一面を発揮出来ている秀作だと思います。