HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

NNTTオペラ/ヴェルディ『ファルスタッフ』第二日目鑑賞

この世はすべて冗談!
人生を笑い飛ばすヴェルディ最晩年の傑作喜劇

【主催者言】

オペラの巨人ヴェルディがシェイクスピアの『ウィンザーの陽気な女房たち』『ヘンリー四世』をもとに、人生最後に手がけた喜劇『ファルスタッフ』。強欲ながら愛すべき老騎士ファルスタッフを中心に、快活で機知あふれる女性陣や若いカップルらが繰り広げる、無類の楽しさと人生哲学にあふれた傑作です。音楽的にも先進的で、第1幕の九重唱やソリスト10人と合唱によるフィナーレのフーガなど、緻密な技法で練り上げられた、わくわくするような音楽がいっぱいです。特にファルスタッフが口火を切るフィナーレの大フーガ「この世はすべて冗談だ」は、ガラコンサート等でも今やすっかり定番となった、お開きにぴったりのナンバーです。
ジョナサン・ミラーの演出は、17世紀オランダ絵画に描かれた民衆の日常を踏まえ、深い人間洞察が感じられる名舞台です。緻密な構図、静謐な色遣いの舞台はフェルメールの風俗画から飛び出したよう。人々が繰り広げる小気味よい喜劇は、まさに大人のための人間賛歌そのものです。
タイトルロールにはロッシーニなどで大人気の名バリトン、ニコラ・アライモが待望の新国立劇場初登場。アリーチェには比類ないテクニックと表現力で欧州各地の劇場で成功を重ねているソプラノ、ロベルタ・マンテーニャ、クイックリー夫人にはロッシーニを中心に欧米の歌劇場で活躍し、バロック、古楽でも評価の高いマリアンナ・ピッツォラートが出演。フォードにはメキシコ出身の新星ホルヘ・エスピーノが出演します。ページ夫人メグには脇園彩が登場、わくわくするような最高のアンサンブルに期待が集まります。指揮にはベルカント・オペラを中心に手腕が高く評価されるコッラード・ロヴァーリスが登場します。

【日時】2023.2.12.(日)14:00~ (二日目)

【会場】NNTTオペラパレス

【上演時間】

全3幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉

 約2時間35分(第1・2幕80分 休憩25分 第3幕50分

 

【出演】

 

〇ファルスタッフ:ニコラ・アライモ(バリトン)

<Profile>
パレルモ出身。トラーパニのステファノコンクールに優勝後、ロッシーニ・アカデミーに参加。ラヴェンナ音楽祭『イル・トロヴァトーレ』ルーナ伯爵でデビューし、パレルモ・マッシモ劇場、ミラノ・スカラ座、フィレンツェ歌劇場などに出演を重ねる。ロッシーニ・オペラ・フェスティバルには2010年以来、『チェネレントラ』『セビリアの理髪師』『ギヨーム・テル』『新聞』『イタリアのトルコ人』などに出演。ローマ歌劇場、パレルモ・マッシモ劇場、スカラ座、モンテカルロ歌劇場、メトロポリタン歌劇場、ザルツブルク音楽祭などで『椿姫』ジェルモン、『ファルスタッフ』タイトルロール、『セビリアの理髪師』バルトロ、『ルチア』エンリーコ、『愛の妙薬』ベルコーレ、『ドン・パスクワーレ』タイトルロール、『オテロ』イアーゴなどで活躍。リッカルド・ムーティとの共演は特に多く、ザルツブルク音楽祭、ローマ歌劇場『オテロ』、スカラ座、ローマ歌劇場『モイーズとファラオン』、ウィーン国立歌劇場、シャンゼリゼ劇場『ドン・パスクワーレ』などがある。最近の出演に、ザルツブルク音楽祭、フィレンツェ歌劇場、ウィーン国立歌劇場『アドリアーナ・ルクヴルール』ミショネ、オランダ国立オペラ、ボローニャ歌劇場、ウィーン国立歌劇場『チェネレントラ』ダンディーニ、パレルモ・マッシモ劇場、フェニーチェ歌劇場、フィレンツェ歌劇場『ファルスタッフ』、ウィーン国立歌劇場『ドン・パスクワーレ』、ザルツブルク音楽祭、フィレンツェ歌劇場『セビリアの理髪師』フィガロ、今後の予定に、パリ・オペラ座『運命の力』、パレルモ・マッシモ劇場『椿姫』ジェルモン、モンテカルロ歌劇場『セビリアの理髪師』などがある。新国立劇場初登場。

〇フォード:ホルヘ・エスピーノ(バリトン)

<Profile>

メキシコシティ生まれ。生地の国立音楽院で学んだ後、フィラデルフィアのアカデミー・オブ・ヴォーカル・アーツで学ぶ。2018年グラーツ・マイスタージンガーコンクールで2位を獲得、19年にはカーディフ国際声楽コンクールの参加者に選ばれたほか、ユルマラ(フィンランド)、ニューヨーク、フィラデルフィア、グラインドボーン、メキシコシティのコンクールでも入賞もしくはファイナリストなった。メキシコでは『西部の娘』シッド、『愛の妙薬』ベルコーレ、『ラ・ボエーム』マルチェッロなどで出演したほか、コルティナで『フィガロの結婚』アルマヴィーヴァ伯爵、サンタフェで『金鶏』アフロン王子、ライン・ドイツ・オペラ(デュッセルドルフ)で『魔笛』パパゲーノなどを演じている。ライン・ドイツ・オペラのオペラスタジオを経て19/20シーズンから同劇場専属歌手となり、『セビリアの理髪師』フィガロ、『清教徒』リッカルド、『ロメオとジュリエット』パリス、『子どもと魔法』時計と猫などに出演。22/23シーズンはライン・ドイツ・オペラで『愛の妙薬』ベルコーレ、『ドン・パスクワーレ』マラテスタ、『蝶々夫人』ヤマドリなどに出演予定。新国立劇場初登場。

 

〇フォード夫人アリーチェ:ロベルタ・マンテーニャ(ソプラノ)

<Profile>

1988年パレルモ生まれ。8歳からマッシモ劇場の舞台に児童合唱の一員として立つ。パレルモのベッリーニ音楽院を卒業。2015年にバーリの音楽院でオペラ研修に参加。同時にローマのサンタ・チェチーリア音楽院でディミトラ・テオドッシュウとレナータ・スコットのもとで学ぶ。ローマ歌劇場の若手アーティストプログラム「Fabbrica」に参加。16年、トレヴィーソ歌劇場で『ノルマ』タイトルロールにデビュー。17年にはローマ歌劇場に『マリア・ストゥアルダ』タイトルロールでデビューし、同劇場の『カルメン』ミカエラ(カラカラ浴場公演)、『群盗』アマーリアに出演。同年、ナポリ・サンカルロ歌劇場のドバイ公演で『フィガロの結婚』伯爵夫人に出演。最近では、ジュネーヴ歌劇場『海賊』イモージェネ、パレルモ・マッシモ劇場『ファルスタッフ』アリーチェ、フェニーチェ歌劇場『ロベルト・デヴェリュー』、パルマ王立歌劇場、フェニーチェ歌劇場、ライプツィヒ歌劇場、ローマ歌劇場『イル・トロヴァトーレ』レオノーラ、フェニーチェ歌劇場、マラガ歌劇場、テアトロ・レアル『アイーダ』タイトルロール、ローマ歌劇場『ルイザ・ミラー』タイトルロール、パルマ王立歌劇場『シモン・ボッカネグラ』マリアなどに出演している。新国立劇場初登場。

〇クイックリ―夫人:マリアンナ・ピッツォラート(メゾソプラノ)

<Profile>

イタリア生まれ。ロッシーニのスペシャリストとして活躍し、ペーザロ・ロッシーニ・フェスティバルに2003年に『ランスへの旅』でデビュー以来、『タンクレディ』『アルジェのイタリア女』『セビリアの理髪師』『エルミオーネ』『チェネレントラ』など数多く出演している。さらに、メトロポリタン歌劇場、パリ・オペラ座、チューリヒ歌劇場、テアトロ・レアル、ボローニャ歌劇場、ワロン歌劇場などにも出演している。カヴァッリ、モンテヴェルディ、ヴィヴァルディ、ヘンデルなどのバロック作品も多く手掛け、ザルツブルク音楽祭、ミラノ・スカラ座、バルセロナ・リセウ大劇場に加えて多くのバロックの音楽祭に出演している。モーツァルト、ドニゼッティ、ヴェルディ、プッチーニなどのオペラのレパートリーのほか、宗教曲を中心としてコンサートのソリストとしても活躍し、ムーティ、ジェルメッティ、パッパーノ、ガッティ、ビシュコフ、ゼッタらと共演、録音も数多い。新国立劇場初登場。

〇ページ夫人メグ:脇園 彩(メゾソプラノ)

〇ナンネッタ:三宅理恵(ソプラノ)

〇フェントン:村上公太(テノール)

〇医師カイウス:青地英幸
〇バルドルフォ:糸賀修平
〇ピストーラ:久保田真澄

 

 

【演出】ジョナサン・ミラー

<Prfile>

ロンドン生まれ。医学博士、作家、テレビプロデューサー、演劇・オペラの演出など幅広い分野で国際的に活躍。演劇演出家として、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの『ヴェニスの商人』『じゃじゃ馬馴らし』や、1988年から90年まで芸術監督を務めたオールド・ヴィック劇場での『リア王』、80年からBBCが制作したシェイクスピアシリーズなど、シェイクスピア作品の演出で高い評価を得る。オペラ演出は74年のアレクサンダー・ゲアーの『Arden Must Die』イギリス初演に始まり、その後もイングリッシュ・ナショナル・オペラなどで『ミカド』『リゴレット』『ねじの回転』『ばらの騎士』『カルメン』などを演出し大成功を収める。ミラノ・スカラ座、メトロポリタン歌劇場、ベルリン州立歌劇場、ウィーン国立歌劇場、英国ロイヤルオペラ、ザルツブルク音楽祭など世界各地で活躍した。新国立劇場では『ファルスタッフ』『ばらの騎士』を演出。2019年11月逝去。

【管弦楽】東京交響楽団

【指揮】コッラード・ロヴァーリス

<Profile>

ベルガモ生まれ。フィラデルフィア・オペラ音楽監督、アートスフィア音楽祭管弦楽団音楽監督。ヴェローナの室内管弦楽団"I Virtuosi Italiani"首席指揮者。ベルカントやヴェリズモ・オペラで特に評価される。ミラノ音楽院で学び、ミラノ・スカラ座副合唱指揮者を務めた後、フィレンツェ歌劇場、ロッシーニ・オペラ・フェスティバルに招かれ、スカラ座、フェニーチェ歌劇場、ローマ歌劇場、ボローニャ歌劇場、リヨン歌劇場、モンテカルロ歌劇場、ローザンヌ歌劇場、ケルン歌劇場、フランクフルト歌劇場などに登場。1999年、フィラデルフィア・オペラ『フィガロの結婚』でアメリカ・デビュー。カナディアン・オペラ・カンパニー『アンナ・ボレーナ』『ロベルト・デヴェリュー』、サンタフェ・オペラ『シモン・ボッカネグラ』『愛の妙薬』『ドン・パスクワーレ』『ルチア』『アルジェのイタリア女』などを指揮。フィラデルフィア・オペラではケヴィン・プッツ作曲『Elizabeth Cree』世界初演、ジョージ・ベンジャミン『リトゥン・オン・スキン』も絶賛された。最近では、フィラデルフィア・オペラ『リゴレット』『オテロ』、ベルリン・ドイツ・オペラ『セミラーミデ』、セビリア・マエストランサ劇場『フィガロの結婚』などを指揮している。新国立劇場では2019年『ドン・パスクワーレ』を指揮した。


【合唱】新国立劇場合唱団
【合唱指揮】三澤洋史
【美術・衣裳】イザベラ・バイウォーター
【照明】ペーター・ペッチニック
【再演演出】三浦安浩
【舞台監督】髙橋尚史

 

 

【粗筋】

第1幕/太鼓腹が自慢の好色な老騎士ファルスタッフは、ページ夫人メグとフォード夫人アリーチェが自分に気があると勘違いし、彼女たちへ恋文を書く。手紙を受け取ったメグとアリーチェは、身の程知らずな内容の上、全く同じ文面であることに呆れ顔。クイックリー夫人ら女性陣で懲らしめようと画策する。一方フォードも、妻アリーチェ宛にファルスタッフが恋文を書いたと従者からの情報を受け、ファルスタッフをやりこめようと意気込む。

第2幕/クイックリー夫人が、アリーチェとの逢引きの時間をファルスタッフに伝えて、計画がスタート。フォードは偽名を使い「アリーチェを誘惑してほしい」とファルスタッフに頼む。ファルスタッフは「アリ―チェと会う予定だからお安いご用」と語り、フォードは驚愕する。迎えた逢引きのとき、ファルスタッフがアリーチェを口説いていると、筋書き通りメグが来て、彼は慌てて逃げる。そのとき、妻の浮気相手を捕らえようとフォードらが乗り込んでくる。彼がつい立ての向こうを確認すると、そこには娘のナンネッタとフェントンが。2人の結婚を認めないフォードは怒り心頭。洗濯籠の中に身を潜めていたファルスタッフは、女性陣のシナリオ通り籠ごと川に投げ落とされる。

第3幕/散々な目に遭っても懲りないファルスタッフは、再びアリーチェと会う約束をする。今回の場所は真夜中のウィンザー公園。精霊がさまようと言われる場所だ。約束の時間にファルスタッフとアリーチェが会うと、助けを求めるメグの声が響く。精霊があらわれたと怖がるファルスタッフは目をつぶって横たわる。実はフォードらが妖精を演じているのだが、すっかり怯えたファルスタッフは、これまでのことを謝る。また、女性陣の計らいで、フォードもナンネッタとフェントンの結婚を認める。ファルスタッフは「この世はすべて冗談」と語って大団円となる。

 

【上演の模様】

《第一幕》

第1場

場面は(元)騎士ファルスタッフ(以下Fと略記)の定宿化しているガーター亭。騎士とその従者二人との饗宴の後、医師カイウスが現れ、以前に酔いつぶれた時、従者のどちらかがポケットから金を盗んだと息まきますが、二人は取り合わず、Fも素知らぬ顔、医師を追い返します。ここでF役のニコラ・アライモの第一声は声量があり強いバリトンですが、ホールに発散しない少し籠りがちの声質、凄く素晴らしいとは思えぬ初印象です。

酒に酔っているのか素面なのか宿の勘定を払って空財布になったFは詐欺まがいの手で従者たちと金策を考え歌って聞かせます。街で見かけた金持ちのフォード夫人アリーチェとページ夫人メグに恋文を送るという色恋沙汰詐欺。女性が色目を使ったといったことを歌うのです。

①❝おお恋人よ!星のまなざし!白鳥のうなじ!それに唇は!花だ ほほ笑む花だ 名はアリーチェ そしてある日 俺が彼女の家の近所を通りがかると微笑んだんだ 恋の予感が燃え上がった.。俺の心の中にあの女神は集光鏡で光を投げかけたんだ
(うぬぼれた仕草で)俺に、俺にだぞ、この脇腹に、巨大な胸に 男らしいこの足に
丈夫で真っすぐで均整のとれたこの胴体に そして彼女の思いは輝いて 俺のところまで届いた。まるでこう言っている様に「私はサー・ジョン・ファルスタッフ様のものよ」と❞ 

上記赤の部分をF役のアライモは女声をまねたかったのか裏声で歌いました。下手でした。滑稽さも出ていなかった。 Fは二人の従者に夫人への恋文を託そうとしたものの拒否されてしまい、二人を部屋から追い出しました。従者の拒否の理由が凝っています、「名誉によって禁じられている」とは!Fは追い出した後、憤懣やるかたなく、最後に長いアリアを歌いました。アライモの歌はそれなりに強弱をつけて感情込めて歌っているのですが、何か耳障りがそれ程でもない。原因をずっと考えていましたが、後で(二幕の最後辺りで)気が付いたのですが、アライモは歌の出だしを一瞬力を込めた強拍を付けて歌い、歌の途中でも度々怒鳴り声の様な強拍を付けて歌うためではないか?という事でした。(先日聴いたカレーラスもそうした強拍を付けますが、そう度々では有りません。)それで聴きづらい声になっているのでは?この長いアリアを、プリンターフェル(東京春音楽祭に来日します)の映像で聴くと自然な感じで素晴らしい。勿論変化のある歌い振りですが。それでも全体的には、ここまでのアライモのバリトンは先ず先ずの出来と見ました。

 第2場

ここは金持ちのフォード邸近辺、フォード夫人のアリーチェとページ夫人メグを中心にファルスタッフから恋文(恋の申しでと逢引きの要請)が届いたことを話題として歌い、そこにアリーチェとフォードの子ナンネッタも加わり、その手紙を読みながら歌う、四人による重唱が始まりました。

②四重唱 ❝“Fulgida Alice! amor t’offro.~<中略>Ah! Ah! Ah! Ah! Ah! Ah! Ah! Ah!(光り輝くアリーチェあなたに愛を捧げます。~<略>アハハアハハ)❞の箇所は、女性群の登場とあたかも歌い合戦の様。ただ皆、可笑しさ滑稽さに堪えながらやや不真面目に歌う箇所なのですが、最初の歌唱の場面だからなのか外人女性歌手陣は、思ったほどの声量も安定も少なく、小締んまりと歌っていました。それに対しナンネッタ役の三宅さんのソプラノがここでは一番印象深い程の存在感を示しました。4人は手紙内容を了解した振りをして、ファルスタッフに仕返しを仕組むのです。返し文の伝達役はクイックリー夫人、彼女の歌は次の二幕でもここでも本格的な

第1幕の九重唱は全体的な統一感が今一つしっくり聞こえませんでした。

《第二幕》

第2幕第1場のモノローグ③❝È sogno? o realtà?(夢かまことか)❞の箇所を歌ったフォード役のエスピーノは、少し硬い声質かな?しっかりした怒りを込めた歌い振りですが、期待していた割りにはそれ程でもない気がしました。

場面は変わりフォード家、言伝て役のクイックリー夫人が奥様達(アリーチェとメグ)に、「Fが騙されてやって来るので、仕返し計画の準備を」と急がせ、アリーチェがリュートを演奏しているとそこにFが登場、④ ❝ Quand’ero paggio del Duca di Norfolk(私は昔は痩せていた)❞ と歌いました。この歌は、アリーチェ役のマンティーニャとの二重唱ですが、この辺りからFの歌は、抑制された、如何にも恋心を出す様な声で歌い、かえってそれ以前のがなり立てる様な歌い方と違って良かった。アライモは大声量で声を轟かす歌よりも、弱く発声を抑え気味に歌った箇所の方が、(他のところでも)はるかにいい感じで歌っていました

尚、この幕で特筆すべきは伝言役のクィックリー夫人役ピッツオラートの活躍です。太った体から低めの心地良い声質を響かせ、本格的なメゾソプラノの魅力を十分発揮していました。これに対しページ夫人役の脇園さんは今日は本調子でないのかな?以前聴いた時の様なはつらつとした感は受けなかったのですが・・・。

《第三幕》

ガーター亭

足をお湯に漬けて温まっている。酒をあおりながら⑤ ❝Ehi! Taverniere(おい亭主)❞と早口でなく随分ゆっくりと歌うのですが、これは酔っているからなのでしょうかFは、怒り心頭といった感じで歌いました。

一計をクイックリ夫人から聞いたアリーチェとナンネッタ(白いレースのガウンを羽織った妖精姿)が登場して、修道士姿のフェントンが現れます。 Fも登場、アリーチェの言葉通り、Fは逢引きしようとした途端、メグが「悪魔がやってくる」と叫び、妖精女王に扮したナンネッタが ⑥❝Sul fil d’un soffio etesio(夏の爽やかなそよ風の中を) ❞ と歌い始めるのです。三宅さんは声も透き通っていて長く息も続きここでも存在感を強め、若いフェントン(村上さん)のテノールも美声で、二人の恋人は続く二重唱でも気を吐きました。出来ればもう少し声量が欲しいかな?

⑦❝Dal labbro il canto estasiato vola(喜びの歌は愛しい人の唇から出でて)❞と恋の歌を綺麗に歌い上げます。(後半はナンネッタ役の三宅んさんの歌声を交えた二重唱)

仮面を取るとそれは娘ではなく、Fの従者バルドルフでした。

アリーチェの宣言した緑服の妖精と修道士の結婚は仮面を取ると、これこそナンネッタとフェントンの仮装であり、フォードも結婚を認めざるを得なくなったのです。

終幕間際の⑧全員による、伝統の早口言葉によるフーガ的多声部合唱が響き、F一人の囁きを挟んで、管弦が切れ味良いフィナーレを高らかに鳴らしました。

最後の「すべてこの世は冗談」というFの言葉は、少し皮肉と言うか投げやりに聞こえます。

フィナーレのフーガ(10人+合唱)は、フーガのタイミングとリズム感が一貫しておらず、これはオーケストラの音の響きとも関係があるのかも知れない。息が合っていませんでした。

   NNTT H.P.より

 

   尚、この演目のオペラは、2021年7月に二期会の上演を見たことがあるので、その時の記録を参考まで文末に再掲しました。(この時はロラン・ペリー演出、歌手陣は二期会なので今回とは勿論異なる内容ですが。 

 

 

 

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2021-07-17 HUKKATS Roc.(再掲)

 

二期会オペラ/『ファルスタッフ』全三幕

 当オペラのチケットは、かなり以前に初日分は購入していたのですが、公演当日の昨日7月16日(金)昼過ぎに、主催者のチケット会社から突然電話が入り、急に中止になったとのことでした。理由は出演者にPCR検査陽性者が出たとのこと。コロナ禍の昨今、いつかはそういうこもあるかな、とは想ってはいましたが、いざ現実となると複雑な気持です。罹患された歌手の方は、本当にお気の毒です。呼吸器を楽器とする職業ですから、コロナには、日頃人一倍注意されていた筈です。最近の東京の新規感染者数は、増加の一歩をたどり、その内半数以上は、感染経路不明というのですから、もうこれは、自己責任では防げません。大分以前にも書きました様に、感染経路不明の原因を科学的に統計的に探究することがなされず、単に、マスク着用、三密防止、会話自粛、飲食店酒類提供自粛、営業時間短縮など従前からの防止策を訴えるだけでは、感染減少はのぞめない段階に至っているのです。テレビのコロナ関係の番組を見ても、コメンテーターも医者も誰もが、明確に指摘しようとしない事は、第1波、第2波、第3波、第4波の感染者数の変化グラフで、緊急事態宣言などにより、各ピークから減少に転じて底を打って、宣言などが解除されるとまたじわじわとカーブは、増加に転じて来る、その繰り返しなのですが、底のミニマム点を、曲線で結ぶと一貫した増大曲線になる事です。これは何を意味するかと言うと、基本的に上記の対策によっては、防げていない感染要因が、第1波の時からそのまま見逃されていて、宣言時の既存の対策によつては、これ以上減らないデッドラインが、次第に上がって来ている事を示します。これが今後も続くと、宣言をしようが何をしようが、感染者数は膨大になって、減らない事態が生ずるのではなかろうかと危惧します。一体どうなってしまうのでしょう?何処かに癌病巣がある筈だけれど、探すのは非常に難しいので、そのままに放置し、対処療法だけしている様なものです。切り札と言われていたワクチン接種が、ここに来て足踏み状態の感もありますし、また何処だったか、最近何十人ものクラスタが発生して、その内8人が、ワクチン接種を二回済ませた人だったというニュースもありました。

 何れにせよオペラ出演者がPCR陽性ということは、一緒に練習を重ねて来た全員が濃厚接触者になるでしょうから、少なくともダブルキャストの第一グループは検査結果が陰性の人であっても、暫くは待機状態になるでしょう。7月18日(日)も出れないでしょうね。

 そういう訳で今回のオペラは、今日、7月17日(土)第ニ日が事実上の初日となりました。プログラムの概要は以下の通りです。

【日時】2021.7.17(土)14:00~

【会場】東京文化会館大ホール

【原作】ウィリアム・シェイクスピア『ウィンザーの陽気な女房たち』
【台本】アッリーゴ・ボーイト
【作曲】ジュゼッペ・ヴェルディ

【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

【指揮】レオナルド・シーニ

【合唱】二期会合唱団

【合唱指揮】佐藤宏
【演出・衣裳】ロラン・ペリー

【舞台監督】幸泉浩司

【出演】7/17(土)・19(月)
ファルスタッフ:黒田博(Br)
フォード:小森輝彦(Br)
フェントン:山本耕平(T)
カイウス:澤原降水(T)
バルドルフォ:下村将太(T) 

ピストーラ:狩野賢一(Bs) 

アリーチェ:大山亜紀子(Sp)
ナンネッタ:全詠玉(Sp)
クイックリー:塩崎めぐみ(Mez)  

メグ:金澤桃子(Mez)

店の主人:木原

掃除婦:望月

召使:小松、重松、山本

それぞれの配役の関係は次の通りです。

ファルスタッフ(テノール):太った騎士                              フォード(バリトン):裕福な男性
アリーチェ(ソプラノ):その妻
ナンネッタ(ソプラノ):その娘                                  メグ・ペイジ(メゾソプラノ)
クィックリー夫人(メゾソプラノ)                                  フェントン(テノール):ナンネッタの恋人
ドクター・カイウス(テノール):ナンネッタへの求婚者                          バルドルフォ(テノール):ファルスタッフの従者
ピストラ(バス):ファルスタッフの従者

【粗筋】(H.P.より) 

 裕福な夫人アリーチェとメグは、金に困った老騎士ファルスタッフからラブレターを受け取る。ふたりが互いのラブレターを見せ合うと、なんと宛名以外は全く同じ文章。あまりに失礼なファルスタッフにあきれ果て、ふたりは一致団結して彼に仕返しをすることに。
アリーチェからの夫の不在中に誘いを受け、ファルスタッフはいそいそと彼女の家へと逢引に出かける。そこへメグが登場し、アリーチェの夫フォードが戻ってくると告げたため、ファルスタッフは絶体絶命。慌てて洗濯籠に隠れたところを召使いに籠ごと川に投げ捨てられてしまう。
ずぶ濡れの、やけ酒をあおるファルスタッフ。そこへ再びアリーチェから逢引のお誘いが。性懲りもなく喜び勇んで真夜中の公園へと向かうと、アリーチェとフォードの娘ナンネッタが妖精に変装して現れ、ファルスタッフをパニックに陥れる。一方、フォードはこのどさくさに乗じて娘のナンネッタを医師と結婚させてしまおうとしていたのだが、それを察知した妻アリーチェの機転で、ナンネッタと恋人フェントンとの結婚をしぶしぶ承諾する。ファルスタッフも自分が騙されたのだと気付き「この世は全て冗談」と歌って大団円となる。

 この歌劇は 、18世紀初頭に生まれたオペラブッファの流れをくむ喜劇で、ヴェルディが最晩年の1890年代に作曲した最後のオペラです。ヴェルディの喜劇オペラは非常に希少で、このオペラは全三幕(各2場)から成り、1893年ミラノ・スカラ座で初演されました。

 粗筋にある様に、主人公ファルスタッフ(以下ではFと略記)の見境い無い色恋ドタバタ劇を中心としていますが、若い娘ナンネッタとその恋人フェントンの恋愛も絡ませています。

【上演の模様】

《第1幕》

場面は、 英国ウィンザーにある居酒屋ガーター亭、主人公のFは酒が大好きで、居酒屋に入り浸っているのです。このウィンザーは、原作となったシェクスピアの『ウィンザーの陽気な女房たち』にある設定場所なのです。

 舞台設定を見ると、如何にもオーソドックスなパブレストランといった感じです。店主が、酒を出すカウンターと酒棚は、英国パブ風を若干取り入れているかも知れない。

居酒屋で呑んでいたFの第一声を聴くと、黒田さんは、声量はあるものの何か上ずって歌っている感じでした。また後半の舞台設定は、左右対称に昇降階段を配したフォード邸を模した家屋風のセットで、夫人たち及びナンネッタ達の、行動、歌唱が、一望に見える様にしたのは、すぐれた演出です。冒頭4人の夫人によるFからの手紙を見せ合ってFの企てを読み取る①四重唱 ❝“Fulgida Alice! amor t’offro... Ah! Ah! Ah! Ah! Ah! Ah! Ah! Ah!(光り輝くアリーチェ~ハハハハ)❞の箇所は、夫人たちが快活かつ明晰な分析を行う様子が生き生きと伝わって来ましたが、皆さん大ホールにしては声が小さいので、余り聴き映えがしませんでした。 

 

《第2幕》

再びガーター亭、 先ず手紙に対する嘘の応答をクイックリー夫人から聞いたFが喜び、有頂天に浮かれ歌う②アリア ❝Alice e mia(アリーチェは俺のもの)❞を黒田さんは、バリトンとは言え、ずっしりと良く響く声ではなく、声量はあるのでしょうが、何かややズレている様な、上ずっている様な歌い方でした。クィックリー夫人役の塩崎めぐみさんは、恐らく相当なキャリアの持ち主なのでしょう。ソロは安定した詠唱とかなりホールに通る声で、嘘の伝言をFに伝えていました。ここまででは、本物感があり、一番点を稼いでいたのではないかな? 

そこに登場したアリーチェの夫(フォード)が偽名(フォンタナ)を使って、Fからアリーチェに対する恋心を聞き出し、またアリーチェにそれを伝えて欲しというFの要請を「あいびきは手配済だ」とだますのでした。妻に対して疑心暗鬼となって歌うフォンタナの ③❝È sogno? o realtà?(夢かまことか)❞ をフォード役の小森さんは、まずまずの出来で歌いあげました。それにしても小森さんのメイクは、サザエさんのお父さん張りのカツラをつけ、怒り狂う場面でも、何か憎めないキャラクターを感じます。それが最後は、娘の結婚を認めるやさしさにつながっていくのでしょうか。

 場面は変わりフォード家、言伝て役のクイックリー夫人が奥様達(アリーチェとメグ)に、「Fが騙されてやって来るので、仕返し計画の準備を」と急がせ、アリーチェがリュートを演奏しているとそこにFが登場、④ ❝ Quand’ero paggio del Duca di Norfolk(私は昔は痩せていた)❞ と歌いました。この歌は、アリーチェ役の大山さんとの二重唱ですが、

この辺りからFの歌は、抑制された、如何にも恋心を出す様な声で歌い、かえってそれ以前のがなり立てる様な歌い方と違って、上手に聞こえて来ました。大山さんは、ヴィブラートをかなりつけた上手な歌唱なのですが、先にも書いた様に、大ホール向けとしては、やや物足りない気がしました?まさにアリーチェに肉弾で迫ろうとするF、そこにクイックリー夫人が急ぎ「メグが来ると」伝えると、慌ててFは大きな洗濯物入れの箱(籠?)に隠されます。やって来たメグは「フォードが怒ってやって来る」と話す間もなく到着したフォード達はFを探し出すため家探しをしたのですが、発見されたのはFならぬ、自分の若い娘、ナンネッタと恋人フェントンの愛の戯れの姿でした。

 籠の中のFはアリーチェの召し使達により、皆の見守る中、テムズ川に投げ込まれてしまいます。 

《第3幕》

場面はガーター亭に戻ります。ずぶ濡れになったFが衣服を乾かし、足をお湯に漬けて温まっている。酒をあおりながら⑤ ❝Ehi! Taverniere(おい亭主)❞と早口でなく随分ゆっくりと歌うのですが、これは酔っているからなのでしょうか黒田さんは、怒り心頭といった感じで歌いました。

 再度登場したクイックリー夫人の、こんなことになってアリーチェは後悔している、ウィンザー公園の樫の木の下で逢引きします という言葉に、またまたFは騙されてしまうのです。クィックリー夫人の「すぐにだまされるのだから」という独り言と、一瞬ふんとした態度のFが、瞬間で、偽話にのってくる場面も笑いを誘う場面でした。疑うことが少ないFは元々善良な人間なのかも知れない。それとも見境いの無い恋狂い、女狂い?    説明が抜けましたが、第1幕から、あちこち面白い場面があり、Fの従者のドタバタした動き、Fが居酒屋を自分の家の様の如く、ぬるま湯に漬かったが如く、だらけきった様子でくつろいでいるFの姿自体が、漫画チックで面白さがあります。Fの衣服、太りきった姿かたちも、伝統的なこのオペラのFと変わらず、ヴェルディの初演も、かくの如きかと思わす喜劇役者の外見でした。

 一方フォードも、女房達のFを懲らしめようとする策謀に相乗りしたのでしたが、同時に愛娘のナンネッタを医師のカイウスと結婚させようと二重の計略を立てるのです。当時も医師は結婚相手として魅力的な職業だったのでしょうか?しかしこれを知ったクイックリー夫人たちは一計を立てるのでした。

 3幕後半、場面は変わって逢引予定のウィンザー公園、暗い夜のしじまに、外灯が幾つか灯っており、次第に雲(霧?)を表現するドライアイスの蒸気が漂う不気味な情景になるのです。この辺りの情景作りも、映像を使ったり、鏡面反射を使ったりして上手く表現していたと思います。

 若いフェントンがテノールの美声で、⑥ ❝Dal labbro il canto estasiato vola(喜びの歌は愛しい人の唇から出でて)❞ と恋の歌を綺麗に歌い上げます。(後半はナンネッタの歌声も交えた二重唱になり)、山本さんは、朗々と歌い、(ソプラノの歌も)なかなかのものでした。

 山本さんは今回初めて聴いた歌手ですが、安定性のあるテノールですね。声量がもっとあれば言うことないですが。対する全さんも初めてです。今日は若い二人はピッタリの雰囲気を出していました。

 前後しますが、一計をクイックリ夫人から聞いたアリーチェとナンネッタ(白いレースのガウンを羽織った妖精姿)が登場して、修道士姿のフェントンが現れます。 Fも登場、アリーチェの言葉通り、Fは逢引きしようとした途端、メグが「悪魔がやってくる」と叫び、妖精女王に扮したナンネッタが ⑦❝Sul fil d’un soffio etesio(夏の爽やかなそよ風の中を) ❞ と歌い始めるのです。                        このソプラノアリアは、これまでのヴェルディの多くの悲劇オペラには見られない、無垢の澄んだ見事なアリアです。高音を長く引き伸ばす箇所も全さんはきちんと歌いました    。

また3幕のこの場面では、配役の仮装をどの様に演出するかも注目点の一つでしたが、Fの角の生えた被り物は、狩をする猟師を模したものなのでしょうか?

悪魔登場のかけ声に、恐れをなし怖くて、地面に伏せるFを、皆寄ってたかってなぶり者にして、仕返しをするのですが、さすがに3婦人は、軽く叩く様子で、残酷場面にしなかったのも、良い演出でした。

 フォードが娘をカイウスに結婚させる企みの最後として、指名した妖精が仮面を取るとそれは娘ではなく、Fの従者バルドルフォだったのです。一方アリーチェの宣言した緑服の妖精と修道士の結婚は仮面を取ると、これこそナンネッタとフェントンの仮装であり、フォードも結婚を認めざるを得なくなって、この恋人同士は目出度く結ばれたのでした。

 終幕間際の⑧全員による、伝統の早口言葉によるフーガ的多声部合唱が響き、F一人の囁きを挟んで、管弦が切れ味良いフィナーレを高らかに鳴らしました。

最後の「すべてこの世は冗談」というFの言葉は、ヴェルディ自信の人生体験の総決算だったのかも知れません。最後にファルスタッフの「すべてこの世は冗談」という言葉に、ヴェルディの言いたかった事が凝縮されていると思いました。

プロモート・ヴィデオを前もって見ましたが、「誰もが主役になり得るオペラ」と話したキャストがいました。確かに『ma ride ben chi ride la risata final.』です。最後に一番笑ったキャスト、それは一体誰だったのでしょう?